落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
今までだったら山場に入っていてもおかしくない。
20話以内に収まることを願いましょう(
「ふー、よしちょっと休憩だ」
「あっはい」
煙幕弾で逃げ出して、十分くらい走り続けてから備え付けのベンチに腰掛ける。壁に絵画が飾られた小部屋で周囲に敵の気配はない。この美術館がそれこそRPGのダンジョンマップみたいだから、逃げるのもそれほど難しくなかった。一先ずすぐに見つかる心配はないと思う。最もカツェの結界の中ということには変わりないのだから油断はできない
「あ、ロン。飴舐めるか? チョコレートもあるけど」
「なんでそんなものを」
「いや普通にポケットに入ってた」
両替してきた金がお札しかなかったので、朝此処に来る前に崩しておいたのだ。飴とかチョコバーとか。日本のより大分甘いが、大体の味は変わらない。物によっては日本にもあるメーカーだったし。
「随分と、余裕デスね」
「こういう時焦っても仕方ない。どんな時でも余裕と芸風とネタを忘れちゃいけないのはこの一年近くで学んだことだ」
「後ろ二つは要らないと思いマス……」
しかし正直な所だし、寧ろ後ろ二つが重要だ。余裕を失っても、後ろ二つを失わなかったら余裕は勝手に生まれる。
とりあえず今は休憩。それにジャンヌたちへの連絡だ。ポケットからスマホを取り出しジャンヌたちにメッセージを打つ。案の定というべきか思い切り電波は圏外だが、キリコによって魔改造されたこのスマホだったらある程度の距離内だったら連絡は可能だ。とりあえず美術館の中に入れば繋がると思う。
繋がらない時は――足で探そう。
「とりあえず今は休憩。昼飯まだだったんだよ。小腹が空いてたんだ。ついでに連中の話も聞かせてくれ」
「……私自身、詳細な情報はないのデスが」
嘆息しながら前置きし、語り始める。
「『妖刕』『魔剱』『聖銃』。眷属に雇われた三人組デスが、経歴等は一切不明です。術式に関しても判明しているのはあまりありまセン。ですが、三人が三人とも確かに固有技能を持っていて苦戦させられているのが現状デス。『妖刕』は白兵能力が高く、『聖銃』はあの光弾の能力が不明瞭、そして『魔剱』は――」
「異能霧散か」
「ハイ」
『妖刕』とちょっと戦った感じ、確かに強かった。橘花絶牢を用いた鷹捲を食らわしたがダメージは多分なかっただろう。『聖銃』はやたらアウトローな見た目の神父ぽいのだったが、あの『魔剱』の少女。
彼女は拙い。
仮に色金以上の対異能スキルホルダーだとする場合、非常に拙い。
「『
「?」
「当たった場合……服や装備が全て消し飛ぶようで」
「なんだと」
なんだその素晴らし……もとい、破廉恥なスキル。非常にけしからん。
「……いや、つまり武装解除か? 服も装備も消されて術式も霧散。喰らったらもう戦えなくなる?」
「えぇ、そうデス。『
「まじかよ……ってあれ、俺服着たままだぞ。いや全然いいんだけど。露出癖はないぞ。蒼一じゃあるまいし」
「『拳士最強』殿は露出趣味でしたか……」
いやどうだっただろう。とりあえずどMだったのは確かだったが、露出癖までもあっただろうか。
微妙な所である。
まぁいいや。
「……そう言われればそうデスね。今までなら完全武装解除となるはずデスが……何かしましたか?」
「何もしてない、と思うがな」
どうやら色金よりも完全に上というわけではないらしい。
少なくとも服は残ってるし、銃や緋刀が使えなくなっている様子もない。俺に関しては特に上げるべき問題はなかった。
「よく解らんな。ま、先にジャンヌたちと合流するのが先か。ちなみに聞いておくけど、この結界から抜けられるか?」
「結界を破ること自体は難しくないデス。ですが」
「破ったらそれはそれで問題か」
それで撤退してくれればいいが、もしかしたらそのまま戦闘続行ということもあり得る。
「私のスキルに途中介入した相手を強制的に弾きだすものがあるんですが……それも『
「気にするなって」
ネガティブ発言し始めたロンの頭を少し乱暴に撫でまわす。男のくせにやたら髪がやたら柔らかい。
「そんなこと言いだしたら俺だってできることは全然ないんだ。お前がいなかったら最初の時点でカツェに捕まってお終いだったさ。プロフェッショナルなんだろ? 素人の俺に力を貸してくれ。俺はできないことばっかだからな」
「――はい」
乱暴な手に揺らされながら、小さな少年は小さく笑う。
コイツだって、まだ幼い少年なのだ。例え凄腕の異端審問官でも、プロの魔女狩りであろうと、十歳そこそこの子供であるというのは変わらない。
だったら年上である俺がちょっとは気張らないといけないのだ。
「さて、今だに連絡はないんだ――」
「兄様」
「あぁ」
台詞の途中でいきなりロンに呼ばれたが、驚くことなく頷く。何故割り込んで来たのかも解っていたから。
「……一人、か」
足音。
視界の悪い入り組んだ展示場だから、音や気配にはこれでも気を使っていた。言葉の途中に足音が聞こえてきたのだ。床は大理石だから、足音は結構響く。少なくとも『代表戦士』クラスだったら足音を立てることなく歩けるはずだ。つまりこの音の主が素人かそれとも慢心したカツェたちかということだ。
前者はともかく、後半は――まぁあり得そうだ。
めちゃんこ舐められたし。カツェに関して見た限り単純にアホな感じっぽいが、『妖刕』達は普通に俺のことを見下していた。ここ最近過大評価ばっかだったから、逆に新鮮である。まぁ慢心される分には問題ない。
いずれにせよまずはこの足音の主だ。
「……」
まずは息を顰め、ベンチから壁際に移動する。
選択肢としては奇襲か迎撃か放置だ。
こっちから先に攻撃するか、近くを通りすぎるのにタイミングを合わせるか、息を顰めてやり過ごすかだ。とりあえずこの三つのはずだ。どれにするにしても足音の主が問題だ。仮に味方の誰かだった場合放置するのは拙い。多分放置は難しくない。小部屋の四方には通路があるから、隅にでも縮こまっていればやり過ごせる。
「……」
「……任せマス」
ロンに視線を向けるが、答えは簡潔だった。簡単すぎてちょっと困る。頼りにしてくれるのはいいが頭脳労働に自信はないのだこれが。最も、実のところ今ここでじっとして耳を澄ますだけで足音の主が誰なのか判別する方法は無くは無くもないのだが、使用は躊躇われる。負担が洒落にならないから。
「あー……」
頭を捻る。
捻って、どうするか――決める。
「よし、いつでも動けるようにしてろよ」
「ハイ」
言いながら拳銃を構える。足音が通路の壁越しに同じ位置に来るまで待つ。
来た。
そして構えて、
「――すぅ」
引き金を引く。
足音がする通路と腕を並行に向けて放った緋色の弾丸が真っ直ぐ飛び、隣の通路への出口に辿り着いた所で第二射が追い付き跳弾させる。第二射はどこかの壁にめり込んで、もう一発は通路の外へ。第三射第四射は同じ軌道で、少しだけ速い速度で第一射に追いつきもう一度跳弾。第四射もまたどこかに跳び去り、第一射はまた弾かれて――足音の主の足元に着弾した。
「きゃっ!?」
●
「――味方だ」
「……デス、か」
「あ、待て」
「?」
味方という判断に足を踏み出したロンを止める。
味方は味方だが、しかし迂闊に顔を合わせることができない味方だったのだ。
誰か、なんて言うまでもない。
「あー、中空知?」
「……はい、遠山さんですね」
「あぁ。悪い、一応外したけど大丈夫か? あと怪我とか」
「はい、問題ないです」
中空知美咲。
懸念されいてた非戦闘員。
こんなにも早く見つかったのは僥倖だ。
問題がないわけでもないが。
「あーっと、こうやって壁挟んでりゃ大丈夫か? できるなら大丈夫なとこギリギリまで来てほしいんだけど」
「解りました」
幾らか足が進んだ気配があって――三歩分くらいで終わった。
うーむ。
「ちょっと悪い」
断りを入れながら小部屋の外を覗きこむ。
「ひゃ、ひゃんですか……!?」
「……うーむ」
一応実は怪我してるとかを心配したが、服に幾らかの汚れがあるが怪我をした感じはない。
とりあえず一安心。
「何故覗いたのですか」
「いや一応な」
「あの、兄様これは?」
「悪い、ちょっとこのままでキープだ」
「は、はぁ……」
かなり納得のいかない様子だが、顔合わせていてはまともに会話できないのだ。今は何があったのか知ることを優先したい。
「中空知、巻き込んで悪いが何があったのか教えてくれ。緊急事態だ」
「解っています。簡単にですが説明を」
流石というか中空知の説明は解りやすかった。
俺と別れた直後に『妖刕』たちに襲われて戦闘になり、ジャンヌが倒されて逃走したがそこでバラバラに。要約するとこんな感じだし、大体予想通りだ。一人だった中空知を回収できたのも僥倖だ。あと心配なのは、無力化されたらしいジャンヌだが、そっちは多分メーヤが一緒らしい。夾竹桃はまぁ死にそうにないだろうし。
「……連絡はまだなし、か。よっぽど余裕がないか、連絡自体もできないか……後者だといいんだけどな」
全員合流さえしてしまえば、もうトンズラこいてもいいのだ。
「中空知、他の皆の場所解るか? どうにかして合流したいんだけど……」
「解ります」
「そうだよなぁ、いくら何でもそんな簡単にはいかないよ――解るの!?」
「ノリツッコミ……!」
そうノリッツコミ。普段突っ込みの俺のノリッツコミなんてのは実に貴重だ、ってそうじゃない。ダブルノリツッコミしてる場合じゃない。
「え、解るのか?」
「はい。私のスキル、お忘れですか?」
「中空知の、スキル――」
中空知美咲のスキル。
――音。
「音響捜査か!?」
「はい、
音響捜査。音とはつまり空気の振動なわけで、その振動が物体に接した時一定の反射振動を生む。それを専用の機械なんかで読み取って、周囲の地形を判別するわけだ。災害救助の隊員なんかは舌打ちなんかである程度似たようなことができるらしいが――彼女の場合レベルが違う。自分の聴力だけで無線やインカム越しの銃撃戦の中の音でも、極めて精緻なオペーレーティングができるのだ。
それにしたって――この馬鹿広い美術館を完全に把握できるというのは予想外過ぎる。
「だから遠山さんのいる所まで歩いて来たんです。最もついたと思ったら飛んできたのは銃弾で下が」
「あー、悪い、ついな」
「あんな曲芸撃ちをついでやらないでください」
いやこっちは敵か味方か解らなかったし。一応外したし。
敵だった場合は壁ごと吹き飛ばす予定だったが。
「近くに誰かいるか解るか?」
「そこまでは。遠山さんは音が変わっているのですぐ解りましたが、音の主が誰なのはか解りかねます」
「俺って変わってるのか」
「はい」
はっきりとした返答が染み渡る。
隣でロンも頷いてるし。
「んじゃあ中空知、一番近い奴の場所まで案内してくれ。戦闘になるかもしれないから要注意で頼む」
「解りました。……遠山さん、昨日言ったことですが」
「昨日言っただろ」
「……」
見捨てる気は断じてない。
そんなことをしてしまえば遠山キンジは遠山キンジではいられない、なんてことは昨日既に終わった話だ。
「行くぞ、中空知、ロン。まずはジャンヌたちとの合流、可能ならここから撤退。戦闘はなるべく回避だ」
此処にいる二人は言うまでもなく、どこかにいるもう三人だって同じだ。
この美術館を把握しきっている中空知。
魔女狩りのプロであるロン。
この二人がいるのならば不安になることはない。
確かな想いを以て足を踏み出し――
「し、っしししま、よろぉしく、ねがい、ま……っお」
「……先ほどの非常に明晰な発音のお方は何処に?」
「やっぱダメかもしれないな」
キンちゃん様をどこぞのシスコン番長みたくしたい。
落ち拳キャラでアルカナ判断みたいなのを意味もなくやってみたい。
実際キンちゃん様のスキルはまさしくワイルドみたいだなーと思いました。
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