落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第6曲「その……兄様……?」

 ルーブル美術館。

 どれだけ美術に興味がない人間だとしても、その名前くらいは絶対に聞いたことはある名前だ。かつて実際にフランスの王族が住んでいた宮殿を改造し、数多くの世界遺産を収容しながら、建物自体も世界遺産というまさしく美術の宮殿だ。

 

「……すっげぇな」

 

 地下鉄から出て少しあるけばそこはもう名高きルーブル美術館。それは俺が知っている美術館とは一線を画していたものだった。俺の中の美術館といえばビルの中に入っているものかちょっとそれっぽく装飾した建物くらいのものだった。基本的に美術品とかには興味がないから、そもそも関わる機会がなかった。

 そんな俺ですら外見を見ただけで圧倒される。

 積み重ねられた年月とそこに重ねられた人々の敬意。一目見ただけでそれが理解できる。中心の広場をコの字型に囲む宮殿から望む空も周囲に高い建物が全くないから本当に綺麗だ。

 

「どうだ遠山。世界の美の宝庫を直に見た気分は。ま、まだ外装だけだがな」

 

「いや、それだけでも十分すげぇよ。うーむ、香港で見た蚩尤天も凄かったけどこっちもすげーな」

 

「そのすげーのを貴方思い切り滅茶苦茶にしてたけどね。アジア人からすれば蚩尤天の方が価値があるのよ」

 

 そのあたりは置いておこう。事ある度に人が壊した高い物を弄りのネタにするのやめてほしい。俺のせいじゃないからね。大体蒼一のせい。

 

「それにほら、蚩尤天とか二条城にしたって壊しまくったの曹操だし? 寧ろ俺が相手したことによって被害が減ったということも微妙なレベルで存在しているはず……」

 

「そんな微レ存はないわ」

 

 断言するな。 

 

「ともかく、今日はこのルーブル美術館見学して、ちゃんとレポート書かないといけないんだ。とりあえずここのことちゃんと書いとけば最低限の単位はもらえるはずだ。つっても、俺は土地勘無いし美術にも詳しくないから本当についていくだけなんだが。そのあたりジャンヌ頼むぞ」

 

「あぁ、任せてくれ。私は何度か来ているしな。夾竹桃も何度か来ているだろう?」

 

「まぁね」

 

 ということは俺と中空知が初めてか。

 今日は普通に制服姿の中空知は落ち着かなさそうに俯いている。最初のマスクや帽子はちょっと怪しいから没収したのだが余計にコミュニケーションが取りにくい。元々コミュニケーション取れていたかといわれればそうでもないけれど。

 人だかりの中を中庭の中心にあるガラスピラミッドに向かいながら再び周囲を見回す。

 

「おっ」

 

 人ごみの中に覚えのある気配がある。

 メーヤとロナルドだ。少し離れた位置から俺たちのことを見守ってくれているのだろう。今回欧州圏で代表戦士との戦いも勿論重要だが、同時にジャンヌたちの補修も重要だ。特にジャンヌと夾竹桃は司法取引で生徒をやってるのだから落とすと留置所行きなんてこともあるかもしれない。 

 というわけで俺たちはひとまずノルマを達成するための美術館の見学に赴き、メーヤとロナルドは影ながら護衛してくれることになったのだ。

 同時に、俺たちが眷属側に対する餌でもある。

 実は此処に来たのは単位の為でもあるが、同時早朝にメーヤにお告げがあったらしい。武運を司る天使とかいうのから、ルーブル美術館で何かあるとか。天使のお告げ云々は詳しくないが、白雪が良くやってる予知と似たような物なのだろう。

 戦闘になった場合非戦闘員の中空知の身を最優先で俺たちが離脱して、その間にメーヤとロナルドが時間稼ぎ、中空知の安全を確保したら参戦、という形だ。今はまだ十時くらいだが、昼過ぎまで見学したら中空知は夾竹桃に任せることにもなっていた。

 少なくともできることなら今日は何もなければいい。

 いくら連中だって世界遺産だらけのここで戦うこともないだろう。

 

「行くぞ、遠山。ピックアップしているが、ゆっくりしていては到底見切れないからな」

 

「うーん確かに広いけど、見舞われないほどか? 案外行けるだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「広すぎるわァー!」

 

 予想を超える広さと展示品の多さに思わず絶叫する日本人がそこにはいた。

 というか、俺だった。

 

「やかましい」

 

 頭をジャンヌに小突かれるが、結構周りも騒々しいので気兼ねすることはなかった。

 それくらいに、広いのだ。広い上に展示品が矢鱈目ったらあって、どれもかなり貴重そうだからジャンヌの話半分に色々あっち行ったりこっち行ったりしてたらやたら時間が掛かって、その上でさらに気疲れが酷い。

 体力の少ない中空知も大分参っているようだ。

 

「は、はひぃ……」

 

 当たり前というべきか人も多い。ついでに美術品の前だとスリが危ないから警戒してさらに疲れる。雅に美術鑑賞のつもりだったけれど、そう簡単には行かなかったのである。

 

「うろちょろし過ぎよ。もうちょっと考えて動きなさい」

 

 火を付けていない煙管を加えながら呆れたように夾竹桃は言う。正論なので言い返せないが、しかしそのうろちょろしていた俺に何も言わなかったのもコイツである。

 

「えっと、後何見ればいいんだっけ……?」

 

「ニケは今見ただろ? ならあとはモナ・リザとミロのヴィーナスだな。三つも見ればレポートにも十分、と言っていたのはお前だろ。ほれ、さっさと行くぞ」

 

「おーう」

 

 やたらまた豪華な廊下を四人で歩いていく。しかし色々な国籍がいるから東洋人四人はそんなに目立たない。俺たち四人組も大概目立つと思っていたけれど周りが豪華なのと、人がいすぎるせいで思いのほか目立つことはない。

 

「しかし……何がすごいのか全然解らんな。なんかすごいのは解るけど。うんすげーよ、超すげーよ。説明できないけど」

 

「それ解ってないだろう。余り頭悪いこというな、というか勉強してこんか」

 

「する暇あったと思うのか?」

 

「暇はあるものではない、作るものだ」

 

「いいセリフだけども……!」

 

 しかし釈然としない。

 

「はあ……ちょっとトイレ」

 

「場所解るか?」

 

「適当に探す」

 

「真っ直ぐ行けばモナリザがいるから先に行っているぞ」

 

「友達感覚かよ」

 

 突っ込みつつ、周りの案内板を確認しながら三人にから離れていく。今しがた見たばかりのニケの彫像は階段とホールみたいな所で、各ジャンルの展示物への行けるようになっている。ちょこちょこ日本語が存在する案内板を読み取って、トイレに行き用を足す。周囲にはやっぱり人が多い。

 

「どうデスか? 実際に芸術を見るのは」

 

「学がないのはこういう時辛いな。偏差値三十八の馬鹿高校生には理解し難いぜ」

 

 本当にこういう時自分の浅学さを思い知らされる。Rランク武偵になるならやっぱこういうのも勉強しておいた方がいいんだろうなぁ。

 

「お前はどうだ、ロナルド」

 

「正直、私にも解りまセン」

 

 苦笑しながらいつの間にか隣にいたのは青っぽいカソック姿のロナルドだ。

 

「メーヤはどうした?」

 

「先に向かったジャンヌたちの方に。ついでに言えば今のところは何の問題も無いようですね。メーヤの信託は信頼できるので、何かはあるはずですが」

 

「……今のところ変な感じはないがな」

 

「私もデス。なので、私とメーヤが警戒していマスので、遠山卿たちは存分に見識を深めてくだサイ」

 

「悪いな。俺たちもちゃんと見学しないといけないからさ」

 

「遠山卿はRランクも懸かっているのでショウ? 私もできること限りのサポートはしマス」

 

「さんきゅー」

 

 なんというか。

 なんというか。

 

「平和だ……!」

 

 いや戦時下だけれども。

 けれどこう、気を抜いたら誰かのネタにされてしまいそうな警戒も必要とせず会話できるというのは本当に貴重である。そのあたり身内同士の遠慮がなさ過ぎる。

 

「あの、遠山卿? またなんでそんなに涙を……? いくら何でも流石にそこまで号泣されると目立ってるんですが……」

 

「あ、あぁ悪いな。すぐ止まるから。そうだロナルド、やっぱ普通に俺たちと一緒に来ないか? うんそうだ、そうしよう、そのほうがいいよ。ははは、さぁ行こう」

 

「あ、あの遠山卿……?」

 

「遠山なんて他人行儀な呼び方するなよ、気軽にキンジでもお兄ちゃんでもお兄様でも兄上でも好きなように呼んでくれ」

 

「昨日勘違いって言ってませんでしたか」

 

「昨日は昨日、今日は今日だ!」

 

「で、では、その……兄様……?」

 

「――」

 

 

・正性男:『弟っていいな!』

 

・GGG:『あぁ!? なんだよ糞兄貴!? お兄ちゃんとか呼んでほしいのかあぁ!? そういうことだったらもっと早く先に言えよオラァ!』

 

 

 なんかうるさいツンデレ弟がいたが気にしない。

 

「――それでいいぜっ」

 

「では私のこともロンと呼んでください」

 

「おぉ、これからもよろしくなロン」

 

「はい。……って、その確かに私が幼いことは事実デスがそんな風に頭を撫でられるのは少し、恥ずかしいデス……」

 

「気にするな」

 

 ロンの頭をグリグリしながら順路を進んでいく。分散してるのも一緒にするのもリスクはどっちもあるのだ。どうせなら楽しいほうがいい。あと俺の精神的にも。

 

「モナリザはどっちだ? えーっと」

 

「こ、こっちですよ。で、あ、兄様、手をどけてくだサイっ」

 

「ははは」

 

 心を癒されつつ人ごみの中をロンに先導されながらモナリザの下へ。やはり広くてそこそこ距離があるらしく順路も長い。通路の両脇には俺の身の丈もあるような絵画が幾つもある。

 やっぱり良さはよく解らない。

 

「できることなら食べ歩きしたいな。フランス料理美味いんだろ?」

 

「兄様が考えているようなコース料理は流石に高いデスよ? 普通のカフェの方がおススメデス。あとは露店で売っているようなバケットもデスが」

 

「あー昨日パン食ったらすげー堅かったんだよな。びっくりしたぜ」

 

「でショウね、逆に日本のパンを食べたときは驚きまシタ」

 

 パン一つでも文化差って大きい。でも味はこっちの方が美味しいと思うけど。

 

「っと、この部屋デスね。スリ被害が多いので気を付けてくだサイ」

 

「おうよ」

 

 それこそスられたら日本に帰ってどんだけ弄られるか想像もしたくない。モナリザが飾られているはずだが、人ごみで見えないし、見渡す限りではジャンヌたちもメーヤもいない。モナリザというと名前はルーブル美術館に展示されているものでも特に有名だろうし、観光客も集中している。日本人もちらほら。

 

「私はここで待っていマス。兄様はどうぞ見てきてくだサイ。前の方に行かないと見えまセンので」

 

「解った。んじゃ行ってくるよ」

 

 人ごみの中を縫うようにかき分けていく。スリと周りの人に気を払い、世界で一番有名な絵画を見に行く。よくミステリー映画とかドキュメンタリーとかでモナリザの謎について語っているのを偶に見る。あのあたりに付いてもちょっと興味があるし。昨日覚えたばかりのすいません(パルドン)を連呼しつつ、絵の前まで進む。 

 そしてそれはすぐに表れた。

 

「……おお」

 

 境界線の違う背景。ゆったりとした女性服。重ねられた両手。スレンダーな体系に艶やかな黒髪の上に乗った可愛らしい三角帽子。それに、逆十字の眼帯。

 

「――ん?」

 

 なんかこう、俺が知っていたモナリザと違った。それも、テレビ越しで見るのと直で見る差異とかそんなレベルじゃなくて、構成しているパーツが違う。

 けれど何故か見覚えがある。

 

「ケケッ」

 

 絵の中の少女が笑う。

 それはどう考えてもモナリザなんかじゃなかった。絵は微笑んでいるけれど、声を上げて笑ったりするわけがない。いつの間にか、気づいた時には周囲から人の気配は消失し、ただその笑い声だけが響く。

 

「モナリザだと思った? 残念、カツェちゃんでした!」

 

 




「モナリザだと思った? 残念、カツェちゃんでした!」

キンジ「」(真顔


なんで私は主人公にショタ攻略させてるんだろう(

ルーブル実際行ったけど一年前のことでぶっちゃけ順路が記憶にないので適当。

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