落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。
「おおゆうしゃよ、させんされてしまうとはなさけない!」
部屋に帰って出迎えたのはそんなふざけたことを言う蒼一だったのでとりあえずドロップキックを叩き込むが当然のように避けられた。
「かはは、おかえり絆の勇者様よぉ」
「なぜもう知っている……!」
「いやもう関係者全員にチャットで回ってる」
「貴様らァ!」
怒りのあまり『
完全に蒼に染まった目と髪。猴との戦いの後からは黒も抜けて完全な蒼の色に変わっていた。最もそれは俺も似たようなもので、俺自身の髪や瞳も純度の高い緋色となっている。まぁそんなことは今更のことだし、今現状コイツに問いかけるべきは、
「なんでそんな恰好してるんだ」
部屋着の着流し、だけではなくて。その上から何故か同じ色合いのエプロンを掛けていた。全身真っ青過ぎて目に悪い。
「なんでって、お前この手を見ろよ。料理だよ、料理。クッキング。やはり今時の男なら料理くらいできなきゃな」
言われてみれば手の中に米の塊が乗っている。やたら手の平にも潰れた米粒がへばり付いている確かに料理していたようだが何故そのまま俺のことを迎えに来たのか。
気持ち悪い。
「煽りに来たんだが……それはどうでもいい。いやしかし料理ってのは大変だな、中々上手くいかねぇ。見てくれ」
勝手に話を進めた蒼一は手の中の米を三角の形に握って――形を整えられずに握りつぶした。
「難しい……」
「そういう問題じゃねぇ!」
いやコイツの不器用さは良く知っているが、しかしこれは酷い。もうちょっとどうにかならないのか。
「うるせぇ! こちとら手の中に米収めるのにだって何時間も必要だったんだぞ! ここまで来ただけでもすげぇ進歩なんだぜ!?」
「知るかぁ!」
理不尽にキレられたのでキレかえしたら乱闘が開始する。玄関で五分ほど殴り合いを演じ、あちこちに潰れた米飛び散り、掃除が大変になるのでそれだけは壁や床に落ちる前に拾い上げたりしていたら、
「うるさいわよこのバカ二人! さっさと来なさい!」
「何やってるんですか早く来てください」
「はい」
「はい」
嫁には弱い男二人がそこにいた。
●
「ふぅん、フランスねぇ」
リビングにはいつも通りの面子、つまりは俺、アリア、蒼一、レキ、遙歌、白雪、理子、ワトソン、ランスロットがいた。曹魏との橋渡し、アジア圏の観察の為に中国に残った静幻を除いたバスカービルだ。やはりいつも通りに椅子に腰かけたり、床に直すわりだったり、ソファに座ったり、立ったままだったり思い思いの位置に。
当然ながらフランス行きを話す。俺が行くということはリーダーが抜けるわけで話さないわけがない。そしてこういう時に一番最初に口を開くのはワトソンだ。
「まぁこれまでの行いを省みても不思議じゃあないね。二つ名なんて今更なくらいだし、『師団』の長がEランクというのも締まりがないとは前から思っていたことだ。Rランクというのは少し驚いたけれど順当と言っても差支えない」
「というか私、静幻、曹操殿、そして現役のRランクのジーサード殿が推薦したのだからな。これでRランクにならなかったら事件だ」
「つかその面子が俺のこっぱずかしい二つ名作ったんだよな? 嫌がらせか?」
「とんでもない! キンジ様を表わす字に、これ以上なく相応しいと思ったが故に!」
「あぁ、うんお前はそうだよな……」
ランスロットはいつも通りだが、多分他の三人は解ってやってるのは間違いない。そのあたり次あったら問い詰めよう。
「でもRランクかぁ、なったら武偵高で始めてだよね?」
「武偵高どころか世界初だろう。元からそういう風に、言い方は悪いが、調整されたジーサードを例外にすれば世界最年少だね」
「つまりキー君は歴史に名を……もう残してるけど武勇伝がまた増えたね!」
「ぬぅ……私もRランク目指しましょうかねぇ。あぁでも変に有名になってあかりちゃんと過ごす時間が減ったら嫌ですし……」
「好き勝手言ってくれるなお前らは」
いつものことなのだが。
「それで」
けれどアリアだけはいつもと変わって、最近買ったばかりの本格的なエスプレッソマシンで淹れた珈琲を口にしてから静かに問いかけてくる。
「受けるの?」
「そりゃあまぁな。校長があそこまで言ってくれたんだ。これで受けなきゃ男じゃねぇ」
校長は毅然と俺のことを応援してくれると言ったが、それにしたって生徒にRランクを抱えることの負担は計り知れない。それにも関わらず俺のことを認めてくれて、背中まで押してくれた。皆の絆を受け取った時と同じだ。
「……」
けれどアリアは何故か露骨に顔を顰めていた。
「そういうことを聞きたいわけじゃないんだけどね……」
「? どういうことだ?」
「あぁいいのよ、気にしないで。期間はどれくらいかしら?」
「修学旅行として行ったのなら二、三日だろうけど……」
「欧州の戦役に参戦しようとするのならばそうはいかないでしょう」
俺の言葉をランスロットが引き継いだ。
「現状、向こうでは『師団』の方が圧倒的に不利です。長であるキンジ様や最大戦力であるバスカービルや主要面子が日本に固まっている、『眷属』の中でも大きな力を持つ『魔女旅団』が根を張っている、さらには謎の傭兵が力を貸している、ということが大きいです」
上げられた三つの要素。
最初の二つは前から知っていたこと。
しかし三つ目は初耳で、
「傭兵……?」
「えぇ。出身や所属も不明の者たちが『魔女連隊』、それにイ・ウー主戦派に組しているようで。『魔剱』と『妖刕』――そして『
「強いのか?」
「そう聞いております。無論、今のキンジ様が敗北するとは思えませんが……なにやら毛色が変わった能力を持っているようでその分かなり戦果を挙げられているとか。仮に遭遇した場合お気を付けください」
「イ・ウー主戦派か、強いのだとやっぱセーラとかかな? あとで遙歌たちと情報まとめておくよ」
「あまり関わり薄いから後回しにしていましたからね、良い機会です。ジャンヌさんや夾竹桃さんも集めて解ってること全部洗いだしましょうか。大丈夫です、大体のスキルは見取ってますから、スキル封印して使えなくても詳細には問題ないでしょう」
「この万能系妹の頼もしさよ……」
頼もしすぎて駄目になりそうでいけない。ジーサードの一件からスキルを封印した遙歌だが、それにしたって地力が凄すぎてSランクに恥じない能力がある。そもそも曹操やら蒼一やらとステゴロできる辺りで封印になっていない。
おまけに未だに人生で全力を振り絞ったことがないというのだからおっかない話だ。
そんな時が来たら宇宙終わりそう。
「にしても問題のジャンヌは? まだ連絡取ってないの? いくらあのうっかり策士だとしても今回のことは知ってるはずでしょう」
「の、はずだろうが。考えてみれば新年辺りあんま顔合わせてなかったからなぁ。多分修学旅行駄目だったこと気にしてんだろ。いや原因の夾竹桃なんか普通に顔見せてたけどさぁ」
「きょーちゃん図太いからねー」
あの毒使いのふてぶてしさは武偵高の中でも随一だ。本人曰く無粋じゃないからいいとからしいのだが。
「とにかく今夜にでもチャットで師団会議の必要があるね。トオヤマが欧州に渡るのなら、向こうにいるメーヤやパトラたちの協力は必須だ。件の傭兵たちやイ・ウーの面子についても戦闘の機会が多い彼女たちに聞くべきだ」
「そりゃそうだな」
とりあえずコンステラシオンの面子と会わないことには始まらないが、ジャンヌや夾竹桃はともかく、中空知は完全に一般人なのだ。可能な限り巻き込むのは避けたい。ただでさえ臆病で、直接戦闘力もないのだから、下手に戦闘に巻き込まれたら大変なことになる。
「フランス……えっと、多分美術館巡りが主な課題だね。間違いなくルーブル美術館は行くことになるはず。課題は『閉所における重要物を如何に傷つけず守りながら戦うか』とかそんな感じだったよ」
「ルーブル美術館……っていうとモナリザとかあるあれか。確かすげぇ広いんだよな」
「生徒会にもフランス行った子がいたらその子が言ってたけど、二三日じゃ到底回りきれないって。碌に回りきれずに終わっちゃったくらいだって」
「いや広さもあるけどトオヤマ、君の場合気を付けるべきことはまだあるぞ」
「あ?」
「京都の時は日本政府や武偵高がもみ消しをしてくれたが、ルーブルや他の美術館世界遺産を崩壊させたら一大事だよ」
「……おぉ」
それは確かに切実な話だ。
俺たちもインフレにインフレを重ねて随分酷いことになってきて、周囲への被害も大きくなる。実際京都とか俺たち世界遺産吹き飛ばしたし、香港でも国宝級の城やら都市一つ壊滅させているのだ。世界遺産が大量にあるパリで似たようなことをしたら、
「一生タダ働き……?」
「残念ながら冗談じゃ済まされないなぁ」
過負荷モードにもなって理子が笑うが本当に笑えない。
それはマジで御免蒙る。
「ん、んーでもやっぱいろいろ面倒なぁ。よく考えれば俺って完全アウェイなとこで戦ったことないし、向こうのホームグラウンドっていうとやっぱきついよな」
例外を上げるのならばイ・ウーの原潜だったがあれはちょっと特殊すぎる。それこそ例外中の例外だ。よく言われることだがホームやアウェイの違いは大きい。実際に俺がこれまでホームで戦ってきた以上、相手はアウェイだったわけだし。
「いえ、キンジ様の精神は場所によってどうこうなるものではないと思われますが。問題は、我らが王を一人で異国の地に向かわせてしまうことです」
「……ま、そりゃ仕方ないだろ」
今回の一件は形式的には俺がコンステラシオンへの出張ということになる。別に珍しいことでもなく、寧ろプロの武偵ならばよくあることだ。だから、俺だけがフランスに行くというのは不思議なことじゃないし、いつもいつも雁首揃えて全員で移動するのもどうかという話だろう。
「しかし……ぬ、ぬぬ……やはりここは校長に直談判して忠義の荷物持ちでも……!」
「おい馬鹿止めろ」
ランスロットなら真面目にやりかねないので困る。
こういう奴なので仕方ないが。
「実際問題、俺がいなくなったからどうこうなるお前らじゃないだろう? アリアが、白雪が、理子が、ワトソンが、ランスロットが、遙歌がいるんだ。他の仲間たちだってな。だったら俺は安心して俺の居場所を任せられるんだ」
「……ま、当然よね」
「はい、家を守るのは女の役目です!」
「くふっ、相変わらず口がうまいなぁ」
「やれやれ、それに乗せられる僕たちも僕たちだけど」
「オールハイル・キンジ……!」
「まぁあかりちゃんがいるんですからね」
「いやお前らなに俺ら忘れて感動のシーンやってんの?」
●
「おいおい酷いぜそれでも勇者かよ主人公さんよぉ? 俺たちがせっせと夕飯の握り飯作ってるのにいい話してるわけ?」
「まったく本当に酷いですねぇ。いやもっとも蒼一さんはお握り一つも作れていませんが。キンジさんが酷いというのは否定しませんが」
「お前らが俺らの話ぶっちして米握ってるからだろうが……!」
ブリーフィングに碌に参加せずに机でお握りを作る蒼一とレキ。というか蒼一は結局ずっと米潰してるだけで、レキはやたら機械的に全く同じ大きさと形のを作り出していた。二十個近くあるが、まさかあれは
「今日の晩御飯の分……」
「ははは、気にするな気にするな。食べられる食べられる。メイビー。んで、俺らが話に参加しないって? 何言ってんだよキンジよぉ」
「あ?」
「お前はもう決めたんだろう? それともあれか? やっぱりおっかないから皆でお手てつないで一緒がいいとか言ってほしかったのか?」
「……そんなわけないだろ」
「あぁ――だろうな」
蒼一は苦笑を浮かべてから、濡れタオルで手のひらを拭く。それから頬杖をついて、動かない。レキと二人だけで机についたまま此方を眺めているだけ。
まるで――境界線を引くように。
「がんばれよ、勇者様」
一応言っておきますが水銀の魔女はカツェにあらず。
ほぼオリキャラです。
うみねことかひぐらし色が強くなる。
あと次いで能力は八命陣。
アリスベル側にオリキャラ出るわけですが、どうせまた勢いだろ……とか思った人は挙手。
その通りだ!!!!(
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