落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
個人的に怒りの日『Shade And Darkness』。私的には決戦BGMといえばこれなんです。空色デイズもいいんじゃないですかねぇ。。
緋の閃光が世界を埋め尽くしていく。
それは金と鬩ぎ合い、しかし強さを増してその交響を奏でていた。絶死の境地を超え、真の姿を顕した緋天は驚くべきもの。確かに強度は上がっている。黄金の破壊を完全に破壊した以上それは間違いない。けれど誰が信じるだろう。そこまで行っても、キンジ単体ならば然程変わっていないということを。
「……王とは孤独だ。王は王であるが故に己より下の存在しか認められない。同格がいるとすれば、それは自身を浸食する癌細胞。私たちは唯一無二の孤高であるからこそ、部下を率い、覇道を進めるが――やはりお前にはそれが当てはまらないようだ」
苦笑し、
「認めよう、私は侮っていた。お前たちの絆をな。なんだろうなぁ、この気持ちは。涙すら流しそうだ。私もまた、臣下たちとの繋がりを持っている。それが劣っているとは思わないが……言葉にできんよ。私が持っていないものであることは確かだからな」
だからこそ――、
「私はお前を打ち倒し、それすらも我がものとしよう。私という世界の中で揺蕩いその意思を私にくべてくれ。呑み込み、味わい尽させてくれ。ハ、ハハ……ハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハ!! おぉ快なり! これほど心躍る瞬間はない。なんでも実感できるぞ、私は今生きている!」
絶叫と共に曹操は先ほどと同規模の一撃を連続して繰り出していた。常人ならば余波に触れただけで存在が消し飛ぶであろう極光。ここにきてその繰り出す度その威力は増していく。蒼一が発生させた水飛沫を蒸発させ、問答無用に空間すらも塵殺し、その虚空にさらに破壊が充満するのだ。
「ランスロット――」
双剣に白熱した。生み出されるのは刀の形をした太陽だ。超々高熱を宿し、何もかもを融解させる太陽の聖剣。その恐ろしさは手加減した状態だがかつて味わったのだから。しかしそれでも黄金の連撃に対しては足りない。
だから重ねた。
「――白雪ィ!」
太陽の炎熱が九つの首の竜となる。周囲で蜷局を巻く八頭の炎竜、そしてキンジ自身が最後の頭として熱を纏い、
「ぶち抜けぇ!」
八つ首が解き放たれる。それ自体が意思を持つように蠢き、曹操の斬撃を喰らいに行く。燃やし、焦がし、熔かし、砕いていく。そして残った最後の咢。緋刀が一度納刀され、腰だめの構えは抜刀術。陽熱を有する龍の爪牙。
解き放たれる。
「煌めき星花火――!」
眼前の黄金が纏めて塵と化した。
抜き放たれた超熱の大割断。彼女の斬撃を真っ二つしただけには飽きたらず、
「ッ!」
曹操の肩を浅く斬り裂いた。
それはこの戦いでキンジが付けた初めての傷だ。薄皮一枚という極々軽傷だが傷で、成果というにはあまりにも弱弱しい。けれどその弱さを力を変える女の子をキンジは知っている。
「出番だぜ、理子!」
「グゥッーー!」
浅かったはずの傷が広がった。薄皮一枚どころではなく、骨にまで届く深い裂傷に。鮮血が舞い、頬や体に降り注ぐ。
「……血」
頬に掛かった血を見て曹操は目を見開いた。こんなにも多くの己の血を見たのは一体何時ぶりか。京都で頭突きを喰らい流血したがあれは頬から一筋垂れたという程度のもの。こんな量のそれは久しぶり、いいや、生まれて初めてだ。
「あぁ……なんと甘美な。これが痛みか。初めてだよ、こんな傷を付けられたのは――」
「だったらもっと……」
「――」
大怪盗の魔の手は終わっていなかった。曹操が痛みを認識し、受け入れた。けれどそれは必然的に精神的な隙を生んだ。
だからこそ奪われる。ほんの一瞬、刹那にも満たぬ時間のみだが、曹操から全ての感覚が消失する。その間にキンジの周囲に展開されたのは緋色の剣弾だ。数すれば百近い刃が創り出され、ノータイムで射出された。
「喰らってろォ!」
「きひっ……!」
それを曹操は避けなかった。寧ろ腕を広げながら雨霰と緋刃を受け入れる。全身に突き刺さり、切り刻まれ、少なくない流血を生んだ。金の衣服も赤く染まるが、それすらも彼女は恍惚の笑みを浮かべていた。
『――刻まれたのは数多の挫折』
口から発生する祈りに余裕はなく、しかし歓喜に満ちていた。
『戦うのは疲れる。傷つくのは苦しい。傷つけるのもつらい。
何もかも捨て去って怠惰に身を落とせばどれだけ楽だろう。
しかしできない。戦も傷も痛みも何もかも、全てに意味はある』
あぁ、今ならば私には解らぬなその想い。これだけの悦楽、忌避するにはあまりにも勿体ない。この力、どうやら私との相性がいいようだ。存分に使ってやろう。
『この身こそが修羅である――総て我が糧となり!』
傷を全て力に変える。夏候惇が使っていた時とその性質は変わらない。単純にその増幅率が上がるだけだ。その果てに放たれる斬撃は最早表現するのも馬鹿らしい。結局それを形容するとしたら破壊の一言で終わってしまうのだから。振るわれた時に生まれる衝撃が軌道上のものを壊していくという極めて単純な現象だ。だからこそそれはあまりにも陳腐で、あまりにも究極だった。極の一。まず間違いなく単純な破壊力に於いては曹操を超えるもの存在しないだろう。
それでもキンジはひるまない。
「俺は一人じゃない……!」
究極の破壊に究極の絆を。
可能な限りに概念を重ね掛けして、弱体化させ、削り、叩き斬る。
強度が上がっているとは既に何度も受けてきたのだ。解りやすいだけでに、友の力を借りれば難しいことではなかった。
「しつこいんだよ!」
「だろうな」
「――!」
破壊を砕いた上に、さらなる破壊が。斬撃が追加されたわけではない。長剣そのものが投擲されたのだ。ふざけんなと叫びたかった。飛翔する宝剣が内包する威力はこれまでの斬撃よりも大きい。まるで倍々ゲーム。天井知らずに程がある。もしも放っておけば、いつか星すらも砕いてしまいかねない。
その為にもここで止め無ければならない。だが、既に剣は放たれている。今のままでは避けるのも弾くのも間に合わない。
「ワト、ソン……!」
「――っづ、あ、ぁ!」
思考が加速したとしても体は別だ。伝達神経や反射神経を強化し、筋線維が断絶していく音を聞きながら体を無理矢理捩じってなんとか回避し、
「っつはぁ!」
世界が戻り、顔の真横を通過していった。
「避けたか!」
「った、りまえだろ……!」
言い返しながらも襲い掛かる頭痛に顔を歪ませながらキンジは前に出る。斬撃を放ちあっているだけでは話にならない。ほぼ零距離で、相手が反応でいない一撃を叩き込むしかない。
「いい加減終わらそうぜ!」
「よかろう!」
疾走するキンジを迎え撃つように曹操もまた前に。その間に剣が旋回し主の手に帰って来た。恐らくは回収した結果の身を導き出したのだろう。互いの距離は一足飛びに近づき、
「おおおおお!」
「はあああああ!」
刀身がぶつかり合う。
「き、きひっ! きひひひひっ! あぁ困ったな。上手く笑えんよ。こんなにも笑ったのは初めてだ。痛みも楽しみは言うまでもなく、これほどまでに力を振り絞ったことも、こんなに疲れたことも!」
限界はそう遠くない。一度存在が完全に消滅しかけたキンジは言うまでもなく、曹操もまたアクセル全開でブレーキが壊れたような状態だ。いくら彼女でも限界がある。実際にその身体には少なくない疲労が襲い、血と共に汗も流れ息も乱れだしていた。
しかし剣撃の音は止まらない。
「愛しい時間がすぐに過ぎてしまうというのは本当らしいなぁ。今私はこの最高の時間を永遠に味わいたいよ。無理だと解っていても、この先、これ以上心躍る瞬間はないと信じられるから!」
「そんなわけあるかよ……ッ」
愉悦に濡れる曹操の言葉にキンジは真っ向から否定しに行った。
「こんなもん、俺は全然楽しくねぇよ。俺の生にはいらない」
「私には必要だ。倒すべき敵も、力を振るえる相手もな」
「俺を斃して、その先どうするつもりだ」
「変わらんな。この時を忘れず、新世界へと流れ出しその果てへと行軍しよう。孫の気持ちがよく解った。血と戦、なるほどこれは病み付きになる。どうやら私は、この先これだけを追い求めそうだ」
「っざけんなァー!」
そんなもの――認められるわけがない。
「お前は……ここで絶対にぶっ倒す!」
「やってみろ。フ、フフ、フハハハハハハハハハハハーー!」
「笑ってんじゃねェーーッッ!」
刃を重ね、弾かれ合う僅かな隙にキンジが剣弾を生み出し射出した。数を重ねたものではない。斬滅と焦熱を重ね掛けた考えられる強度で最も高いもの。例え曹操でも余波程度で打ち砕けるものではない。同時に思考加速を行いながら、緋色の二刀を振るう。単純に、武器が二本で、腕が二本な以上は同時に防げはしない。どれか一つだろうと直撃すれば被害は甚大だ。
「ハッ――舐めるなァッ!」
理屈で言えば、どれか一つは漏らしていた。常人ならばそうだろう。しかし彼女はそうでない。たぐいまれなる王であり、その身には一騎当千の将の武威が込められている。
対応した。
右剣は緋刃を砕いた上で緋刀に激突。姿勢が微かに崩れたが問題はない。左剣の方は危なげなく、当然のように延長したバタフライナイフに刃を合わせ、
――空ぶった。
「――――!」
驚愕は抑えるのは当然だとしても、空ぶったという結果だけはどうしようもない。それが何故そうなったのか。原因は明白だ。元よりその刃はキンジが彼自身の意思で、色金の気より創造した一刀だ。色金合金であることやキンジが長期間持ち続けたこともあってか作られる強度は極めて高い。それはこれまでの戦闘が証明している。
だからこそその隙を突かれた。延長させた一刀ではなく、バタフライナイフとして使われることを。
右剣も左剣も、振りぬいてしまった。直前に無理を通したが故に、
「緋桜乱舞ィ――!」
桜吹雪を纏う刃を防ぐことはできなかった。
「……!」
胸の中央に突き刺さり、衝撃がぶちまけられる。キンジの代表格的必殺技。それが完全に直撃し、膨大な量の血が曹操の口から吐きだされる。
曹操の身体が崩れ落ち、
「これで――!」
「私の勝ちだ」
――全ての損傷が回復した。
「――」
詠唱の気配もなく。一切の予備動作や伏線を張られずに唐突に発動した蘇生。
曹仁子考。その能力『我法背不許』。倒れてから身体を無理矢理動かす力は、王に宿った今では一度受けた絶大なダメージから回復するというものだった。
「終わりだよ」
回復と共に姿勢もアジャストされていた。後は簡単だ。奥義を放った直後、しかもそれが完全に意味を為さずに相手は回復した。動揺しないわけがなく、隙が生まれて当然。
長剣を握り直し振るう。最後の動きはそれまでの様な絶対的な破壊はなく、最後に相応しい静寂を込め、必要最低限。それが、この最高の時間を味あわせてくれた勇者への礼だと思ったから。
そして振り払われ、
――勝手に抜かれていた二挺拳銃が火を噴き、弾き返した。
「――な、に」
今度こそ彼女は驚愕する。
二挺拳銃が勝手に動いていたのはいい。アリアや理子の力は所謂念動力の延長だ。キンジの意思に従い引き金を引こうが今更驚くことでもない。威力を押さえたのは自分なのだから弾かれるのも不思議ではなかった。
驚くべきはその行動に移ったことそのものだ。
実際に相対したワトソンから能力の情報を受け取っていたかもしれない。それでもあんなピンポイントな対応はできないはず。直観だとしても無理がある。
ならばどうして。一体何がキンジにここまで完璧な対応をさせたのか。
答えは、彼の背後に。
「ッ、静幻、お前か……!」
遠山キンジと心を繋げ、その覇道に魂を懸けたのはアリアたちだけではない。時間にすれば浅く、ついさっきのことだけれど、彼の軍師確かにキンジを己の王と認めていた。
だからこそ、その未来予知にも等しい超思考能力。シャーロック・ホームズの
「緋刀・錵最終奥義――」
そしてキンジは緋刀を振りかぶる。両手で確かに柄を握りしめ、緋色の色金の波動をありったけ纏わせながら。その剣を握るのはキンジだけではなかった。曹操と体格の変わらない、緋色の髪の少女が寄り添いながら少年に手を添えた。かつて孤独の名を背負い、けれど確かな繋がりを得た少女。二人の愛の絆こそが遠山キンジの力の源だ。
「――」
それを目にし、曹操は心から思う。
「美しい……」
掛け値なしの礼賛は世界に解け、
「『緋刀祈願』――ッッ!!」
緋天の大斬撃を受け入れた。
「俺たちの――勝ちだあああああああ!!」
「……あぁ、お前たちの――勝利だよ」
はい終わりませんでしたー。
ホントは3500くらいづつに小分けしようかと思ったし、なんか蒼一VS猴はこれ以上に永くなりそうだったから斬りました。次こそVS曹魏編終る。絶対。ほんとほんと。
ともあれ最終奥義に関してはヒットウキガンと読みましょう。ヒトウより語呂がいいので。
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