落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第18拳「アニメとかゲームの最終回ぽくて」

 

 

 三階に上がって待ち構えていたのは夏候惇と夏侯淵兄弟だった。夏候惇は壁に背中を預け、夏侯淵は廊下の真ん中で仁王立ちである。キンジたちが現れたと同時に夏侯淵は人差し指を思い切り突き付け、

 

「『魔弾姫君』! 私が相手よ!」

 

「おや名指し」

 

「はっ、ここでアンタとの決着を付けてやるわ!」

 

 叫ぶ夏侯淵にレキは肩をすくめながら前に出る。

 

「そちらの方は?」

 

「俺? まぁ誰でもいいけど……やっぱ俺もそこの巫女さんと決着付けたいかな」

 

「だと思いました」

 

 指名されたのは言うまでもなく白雪。

 元よりこの組み合わせは予想できた。京都の前哨戦において白雪と夏候惇は引き分け、レキと夏侯淵は一勝一敗での引き分けだ。四人が四人ともそれで終れるような性分ではない。勝利そのものに執着はなくても己の王の為の勝利は望んでいるのだから。

 

「構いませんが、キンジさんたちは通していいですね?」

 

「好きにしなさい。というか、私たちだってそのつもりだから。というか行ってくれないと始められないし」

 

「じゃあ、キンちゃん様。お先にどうぞ」

 

「……あぁ。任せた」

 

「任されました。キンちゃん様も頑張ってね」

 

「お前も頑張れ。レキもな」

 

「言われなくても」

 

 パシン、と前に出ていた二人と手を鳴らしながらキンジが通り過ぎる。

 

「負けたら笑ってやるわ」

 

「こっちのセリフだよ」

 

「くふくふ、仲いいなぁ」

 

「全くですね」

 

 アリアも理子も同じように手を鳴らして廊下の先へと消えた。残されたレキたちはそれを見送る。

 

「それじゃあ、始めますか」

 

 意外にも最初に動いたのは夏候惇だった。壁から離れ、夏侯淵と並び、右手で左手を押さえ、

 

「っ――」

 

 左目の眼球を抉り出した。

 息を呑んだ白雪やレキ、溢れる血や激痛にも一切構わずに、取り出した眼球をそのまま口へと運び――呑み込んだ。

 

「……父の精、母の血、棄つるべからざるなりってね。まぁ、俺は両親の顔なんて知らないけど。というか気分最悪だわー。うっげ」

 

 茶化すような口ぶりだが、それに突っ込むような真似はレキたちでもできなかった。眼球を呑み込んだ瞬間に明らかに彼が発する覇気が跳ね上がったからだ。

 夏候惇元譲、盲夏候。

 戦に於いて片目を失い、しかしそれでも膝をつかずに戦い続けた英雄。例え血の繋がりはなくとも、今代の覇王に認められた将の一人だ。その名を襲名した以上、彼とて初代に劣ることはない。

 

「ま、やりすぎとか言わないでくれよ。俺だってこの期に及んで全力を出さないわけにはいかないからな」

 

「……それは間違いないですね」

 

 頷いたのはレキだった。

 

「貴方だけではなく、今戦っている、戦おうとしている方々は皆同じでしょう。負けるつもりはなく、手を抜くつもりもなく、もったいぶるつもりなく、故、最初から全力全開です」

 

 言い切った瞬間にはレキの姿は変わっていた。

 髪は肩まで伸び、髪と瞳は瑠璃色に。肌蹴させたセーラー服から胸の刺突傷が露わになる。頬や服の下の至る所に瑠璃の直線的なラインが走る。ホルスターから抜き放った二挺拳銃にもまたその色は伝播していった。

 色金宿、瑠璃神之道理。

 

「言っておきますが、先日の猴さんとの一戦では碌に力を発揮できずに終わってしまいましたからね。蒼一さんとの絆の力、侮ってもらったら即座に終わりますよ」

 

 実際、猴との戦いのときレキはその力の八割も使っていなかった。蒼一とのコンビネーションに最も必要だった意思伝達はどんな状況であろうと可能だし、馬鹿げた火力もPADによるところが大きい。流石に室内戦闘故に変形機構を持つ『ハルコンネン・Ⅲ』と武偵弾を詰め込んだガンベルトだけという装備だが、だからこそ瑠璃神之道理の力は発揮される。

 言うまでもなく――ただ姿が変わる程度の話ではない。

 そして外見の変化の話をするのならば星伽白雪が最も顕著だった。

 

「――解――」

 

 呟きと共に髪飾りを解く。本来禁忌とされていたその封印はこの一年で何度も解かれていた。それだけの戦いを彼女は潜り抜けてきたのだから。それ故に超能力のグレードは世界トップクラス。その上で時間的なことを言えば彼女は遠山キンジと誰よりも長くいた。受ける影響はある意味でアリアをも超えている。

 だからこそ、

 

「――緋炎変生・星華繚乱」

 

 流れる黒髪とイロカネアヤメの刀身が燃え上がった、否それどころではなく、髪や刃そのものが炎で構成されたのだ。周囲に燃え移ることはないが、発せられる熱は尋常ではない。炎化はそれだけにとどまらず、肉体の各所や巫女服にも及んでいる。大体全身の三割程度だ。

 煌めく灼熱の星光。

 星の輝きを愛するの少女の祈りだ。

 

「……未完成だけどね、今のところこれが私の全力全開というやつだよ」

 

「それで未完成とか君どこ目指してるの?」

 

「キンちゃん様の三歩後ろ」

 

「ブレないなぁ」

 

「全く……良いわねアンタたち。かっこいい新フォームあって。私そういうのないのよ? 羨ましいったらありゃしないわ」

 

「ここで何か新しい力に目覚めてはどうです?」

 

「無茶言うな」

 

 吐き捨てて、ニヤリと口端を歪めた。

 

「だからこそ――私は私なりに戦うわ。始めましょう、『臆進往(オクスルモススミユコウ)』夏侯淵妙才」

 

「『総我糧也(スベテワガカテトナリ)』夏候惇元譲」

 

「『魔弾姫君(スナイプリンセス)レキ」

 

「星火の巫女、星伽白雪」

 

 四人がそれぞれ名乗りを終えたのと同時、

 

「さぁ――死骸を晒しなさい」

 

 レキと白雪の全方位から弾丸が襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今更だけどこの城広すぎないかしら!?」

 

「そりゃあ元々海賊の本拠地なんだから攻め込まれるのも想定して造りが滅茶苦茶になってるのも当たり前だよ。燃えるよねこういうの、アニメとかゲームの最終回ぽくて」

 

「今実際そういうシチュエーションだけどな!」

 

 残った三人が四階へと上がる階段を走っていく。アリアが叫んだ通り、この城は尋常ではなく巨大で、その理由もまた理子が言った通りだ。仮にも無法者たちの本拠地だ。今のように戦闘行為の舞台になったことも少なくないだろうし、侵入者対策があるのも当然といえよう。

 

「というか、ねぇアリア。次どっち残る?」

 

「は? 何言ってるの。そんなのアンタの方に決まってるじゃない。アンタの言う通りのアニメぽい展開だとしたらサブヒロインから消えていくのは常識でしょ」

 

「え、もしかして自分のこと常識あると思ってた? なにそれ笑える」

 

「……」

 

「……」

 

 器用に階段を駆け上がりながら蹴りを入れたりチョップする二人だった。

 

「仲いいなほんとに」

 

「笑ってるんじゃないわよ」

 

「というかだねキー君。次にこの自称メインヒロインな寸胴が落ちても、理子みたいなナイスバディのボインボインが足止めになっても一々止まったらだめだよ?」

 

「よしまずコイツ殺そう」

 

「きゃーキーくんたすけておそわれるー」

 

「カザアナー!」

 

 最早鳴き声である。

 

「くふっ――」

 

 叫んだアリアを笑い飛ばしながら、その勢いで何気なく視線を上にあげた瞬間だった。

 

「あ」

 

 拳を振りかざしながら振ってく楽進と目があった。

 

「――アリアッ」

 

「!?」

 

 即座に動いたのは理子の髪だった。彼女の特別としての超能力(ステルス)十人十髪(ヘアーバリエーション)』。髪の中に潜り込ませていたナイフが楽進の拳とアリアに頭部に割り込むのに文字通り間一髪で間に合った。下へ受け流し、それも楽進も逆らうことはなく、

 

「あちゃー失敗失敗」

 

「だから言っただろうがおめぇ」

 

 上から新たな声があった。階段の最上部にキンジたちを見下ろす徐晃だ。不満げにタバコを咥えている。

 

「ちゃんと正面から名乗って、それから始めるのが相対ってもんだろうが」

 

「そのあたり僕は気にしませんからねぇ。というか公明さんのその律義さはまじめすぎてキモイです」

 

「んだとこらぁ! 俺に文句があるのならルーズリーフに箇条書きで書いて提出しやがれ! 治すように頑張るからよぉ!」

 

「あ、もういいです」

 

「なんだこいつら……いきなり現れてコント始めやがった」

 

「いや、貴方達も大概ですが」

 

 軽口を叩いている間にもキンジたちは動いていた。

 キンジは真っ直ぐに駆け上がり、理子は楽進へと拳銃を連発し、アリアは脚部や腰のスラスターを吹かしながら徐晃へと特攻。緋色を纏った二刀小太刀。それをそのまま徐晃へと叩き込む。

 

「うおっ」

 

「っ……!」

 

 通らない。

 咄嗟に翳したという程度の動きであるにも関わらず、二刀が触れている腕に傷を与えていない。白雪や蒼一から聞いていた通りでたらめな防御性だった。それでも、その上でアリアは動きを止めなかった。放出する緋色を加速させる。

 

「ぬ」

 

 生まれたのは即席の目くらましだ。徐晃の視界を緋色の奔流で埋め尽くし、

 

「キンジ!」

 

「――!」

 

 それをキンジが駆け抜ける。緋色の壁が晴れ、キンジが振り返るよりも早く、

 

「行きなさい!」

 

「行け!」

 

「……あぁっ解ってるよ!」

 

 叫び、彼もまたそれに応えて走り去っていた。

 それに二人の少女は笑みを浮かべ、

 

「おっと」

 

 アリアは徐晃の蹴りを避けながら階段を跳び下がる。下に楽進、上に徐晃とアリアと理子が挟まれる形だ。高低差のアドバンテージは差引零という所だろう。飛行能力のあるアリアでもこの室内では意味をなさない。

 

「ふぅー……なんだかんだアンタと一緒か」

 

「くふくふ、不満か?」

 

「えぇ不満よ――名探偵と大怪盗。敵になるのがいるかしら?」

 

「くふっ、どうしたって敵わないのは一人いるけどな」

 

「違いないわね」

 

 背中合わせで笑う少女二人。この二人の一族は争い続ける宿敵だと言って誰が信じるだろう。アリアたちだってそれを忘れたわけではない。ただそれでも、それもあるというだけだ。

 大好きな親友で、信じられる仲間で、競い合う強敵で、同じ男の子を好きになった女の子同士というだけ。

 難しいことは何もない。

 大好きで、大好きなものも同じならば――背中を預けるには十分だ。

 

「あはは。いい感じだけどねお二人さん。僕たちだって敵わないのは世界一人だけとか思ってるですよ? まぁ僕と公明さんじゃあそっちほど仲良くないかもだけど」

 

「おいおい俺たち同じ飯の釜を食う仲間じゃねぇか。もう家族みたいなもんだと常々俺は思ってるぜ」

 

「……こういう所がやりにくいんですよねぇ」

 

 苦笑する少女に真面目な顔の青年である。

 そうして四人は拳を、ナイフを、拳銃を、小太刀を構え、

 

「『緋弾(スカーレット)』神崎・H・アリア」

 

「『弄言遣い』峰理子』

 

「『己敗北不赦(オノガハイボクヲユルサヌ)』徐晃公明」

 

「『唯前進歩(タダマエヘススミユク)』楽進文謙」

 

 激突の開始と共に――階段部が粉砕される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――戦友たちに背中を押された遠山キンジは辿り着く。

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

 乱れる息を整え、汗を拭う。六階の、空中庭園へと続く最後の扉。そこを超えれば覇王へと至る。既に躊躇はない。腹は既に括っているのだから。

 だからこそ、

 

「……退いてもらうぜ(・・・・・・・)静幻(・・)

 

 扉の前に立つ諸葛静幻へと言い放った。

 

「――えぇ」

 

 彼は変わらずに貼り付けるような笑みを浮かべたまま頷き、

 

「退かしてください、退かせるものならば。貴方が、真に新世界を担うのにふさわしいのならば」

 

 ゆっくりと――その拳を握りしめた。

 

 




ここまでアリアと理子が仲いい緋弾二次もそうないだろう(確信

あと白雪に「爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之」とか言わせたくなった。やってることは変わらねぇ(
ようやく次回からガチ戦闘

しかしこの静幻さん美味しすぎる

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