落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第14拳「総てを賭けよう《オール・イン》!」

 

 覇王の料理についてのコメントは控えさせてもらおう。

 残念ながら俺はグルメでもないのであの魔法如き料理を表現する技能を持ち合わせていない。

 なので夕食シーンは全て割愛しよう。

 蚩尤天四階大広間。

 エントランスとなる最初の広間よりは小さいがそれでも数十人規模が宴会をできるような広さで、赤メインの装飾はやっぱり豪華という他ない。

 夕食もここで行われ――今この場にほぼ全員が集まっていた。

 『バスカービル』八人と曹魏九人に加え静幻。

 猴はおらず、荀彧は人前にでることはないらしいのでいないがそれでもほとんど勢ぞろいだ。全員がそれぞれ藍幇の使用人がくれた――一人一人何十万円という!――チャイナドレスやアオザイの姿で、巨大な円卓を囲んでいた。右半分に俺たち、左半分に曹操たちという風に分けられている。食事の間は驚くべき覇王の料理の味に舌鼓を打ちつつ、比較的和やかに進んでいた食事ではあった、全てが終わった後――司馬懿が口を開いた。

 

「では――我らの戦いが終わった後についての交渉をしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わった後、だと」

 

「あぁ、そうだよ遠山。明日の夜の戦闘の話より先にこちらをしておこう。その為に一日速くお前たちを呼び寄せたのだからな。戦についての話は我らが王よりこの後に説明があるからな」

 

「……なんで先に戦い終わった後の話なんだ?」

 

「ふむ、ではまずそれについて説明しよう。そうだな、せっかくだからお前が考えてみろ。その程度の知恵くらいはあるだろう? ワトソン、ランスロットお前たちは解っているだろうが口を挟むなよ」

 

「ま、これくらいは自分で考えてくれないとね」

 

「……いいでしょう」

 

 ワトソンが肩をすくめながら頷き、ランスロットが目を伏せながらも同意した。

 正直こっちは全然わからないのだが。

 さっさと殴り合いの算段を聞かせてほしい。

 

「……」

 

 キンジは顎に手を当てて数秒考え、

 

戦役の後(・・・・)の為か」

 

「その通り。百点満点の答えだ」

 

 答えに指を鳴らしながら口端を歪ませた。見た目十歳児にあるまじき邪悪な笑みである。

 

「そもそもこのFEW、極東戦役、その開戦式たる『宣戦会議』。これらが行われている理由は何かわかるか?」

 

「曾お爺様の遺産と乱れた世界情勢じゃないの?」

 

「それはあくまで今回(・・)の話だホームズ。お前の曽祖父は確かに引き金ではあるがな、今僕がしているのはあくまでも外枠……ルールそのものについての話だ」

 

 ルール。

 ということはつまりこの現状のことだろう。 

 『師団』と『眷属』に別れるとか雑兵は無しとか暗殺裏切り推奨とか、『宣戦会議』の時にジャンヌが言っていたアレだ。これまで既に師団として俺らはワトソン、ランスロット、ヒルダ、それにジーサードたち人工天才と戦ってきている。ランスロットを除けば全て奇襲の類だったがそれでもこれらの戦いは極東戦役のルールの中で行われていた。

 

「第一項、いつ何時、誰が誰に挑発する事も許される。戦いは決闘に準ずるものとするが、不意打ち、闇討ち、密偵、奇術の使用、侮辱は許される。

 第二項、際限無き殺戮を避けるため、決闘に値せぬ雑兵の戦用を禁じる。これは第1項より優先する。

 第三項、戦いは主に『師団(ディーン)』と『眷属(グレナダ)』の双方の連盟に別れて行う。この往古の盟名は歴代の烈士達を敬う上、永代改めぬものとする。

 この三つだ。さぁ諸君。この三つ、たった三つの掟について何か違和感はないか?」

 

「違和感……?」

 

「そうだ。これが意外に盲点なのだがな、お前のような星伽の巫女や我々のような訪れる戦役の参加することを前提としていたものには解りにくいのだが、なんだか解るか?」

 

 名指しされた白雪が眉を顰める。

 答えを知っているらしきランスロットとワトソンは黙り続け、キンジたちも考えている。

 一応俺も考えてみよう。

 第一項。

 これはまぁ別に別段なにかおかしいことではないはずだ。戦役だし、戦争や決闘がメインだとしてもこれがないと自分の力を出し切れないはずだ。

 第二候。

 これはうちにとってはありがたいとしかいいようがないが藍幇のような大所帯には不利だろう。少なくとも師団の中核を為す『バスカービル』や『イ・ウー残党』にはそもそも雑兵という概念は存在していない。誰もが一騎当千であり、一癖も二癖もあるような奴らばかりだ。それに関しては半分くらいはかつて敵だったのだからよく解っている。曹魏やサードたち人工天才勢も俺たちと同じ少数精鋭だった。ワトソンの『リバディー・メイソン』や静幻の藍幇、それにメーヤのバチカン、カツェの『アーネンエルベ』、さらに米国は大量の構成員を保有しているはずだ。

 勿論それらがそのまんまにぶつかり合えば大量の死傷者が出る。

 それを避ける為というのならば二項は納得できる。

 それで第三項。

 『眷属』と『師団』に世界を二分する条項――、

 

 

「――どうして(・・・・)『眷属』と《・・・・・》『師団』(・・・・)なんてものがある(・・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……? どういうことよキンジ、そんなの今更――ぁ」

 

「そうだ、よく一度誇りや矜持を排して効率だけで考えてみろ。馬鹿馬鹿しいだろう。そんな枠組み。単純に世界規模で戦闘を行い、旧支配者の地位を奪うのならばそんな勢力分割は必要ない。戦闘をスムーズに行うため? はっ、無所属や保留が許されていた無意味に等しいではないか。究極的に師団と眷属が一つづつあっても別の勢力が全て無所属を表明すればすぐに瓦解してしまう。実際数度そういうのがあったらしいしな。今回に関しても師団は結束が固いが僕たちは基本的にスタンドプレーだ」

 

「現在眷属内での同盟は今回の仲介役の為に我々と藍幇が。少し前まで紫電の魔女とランスロット卿、『リバティー・メイソン』が一時協力、とこれだけでした。少なくとも現在において眷属内での同盟は表明されていません」

 

 事務的に眼鏡に手を当てながら緑の髪の少女がそんなことを言ったが、彼女がおそらく程昱らしかった。最初にかいつまんで聞いた時は情報収集がメインの軍師だとか。

 

「と、このように今回だって碌に『眷属』は一勢力として纏まっていない。だが、それでも『枠組はある。比較的魔に近くルールという概念に縛られない者が多い『眷属』でもだ。戦争をスムーズにしようとするのならばこんなのは必要ない。ならばどうしてこんなものがあると思う?」

 

「仲間になったほうが足引っ張りやすいからじゃないのー? 味方になっておけば手の内も解りやすいしさぁ。全部終わった後に自分以外の勢力引きずり落として自分がいっちばんー! って感じ」

 

「それは些か過負荷(マイナス)な考えに過ぎるな。だが、間違いでもない」

 

「へ?」

 

「つまり――戦役において最も重要なことは全部が終わった後っていうことだな?」

 

「そうだ」

 

「おいおいおいちょっと待てよショタ軍師と馬鹿よぉ。お前らだけで勝手に納得してるんじゃねぇよ。ちゃんと説明してくんね?」

 

「蒼一さん蒼一さん。馬鹿がばれますよ」

 

「ははは、安心しろ――もう知っている」

 

「貴様ァ!」

 

「黙ってろ馬鹿、話が進まねぇ。あとで解らない所は教えてやるから。それで、だ」

 

「あぁ、どうやらもう解ったらしいので答えを先に言おう。畢竟、『師団』と『眷属』による勢力分割は戦いを滞らせるためのものだ」

 

「……はぁ?」

 

 意味が――解らない。

 戦いを滞らせる、なんて。そんなことをしてどうなるというのか。せっかくチームを作って協力しながら敵対しているというのに。確かに、戦争行為が滞るのは事実かもしれないが。

 

「いいか? 前提としてこの戦役において最も重要なのはどのように勝つのかでも、どのように負けるのかでもない。どのように終わらせるのか、だ。戦役の目的は瓦解した旧体勢を組み直すためだからな。だからこそ、人員のトレード、裏切り背反が推奨されている」

 

 つまり、と司馬懿は前置きをし、

 

「あくまで戦役の一戦闘として見るのならば、僕らの戦いも終った後にどのようにパワーバランスが動くかということになる。……このあたり僕としては悩みどころなのだがな。知っているか? これまで行われ数々の戦闘行為による死者は驚くほど少ない。殺してしまえば利益にならないからだ。まぁ当然零ではないが。もっとぶっちゃければな、ある程度劣勢になった方は巻き返すかよりも如何に被害を押さえてるかにシフトするのがこの戦役だ、っとこれは普通の戦争も同じか」

 

「三行で頼む」

 

「戦争処理が一番大事」

 

「一行かよ!」

 

 まぁ、解りやすいが。別にそこまで難しい話ではなかったし。

 そういうのを考えるのは俺の役目ではない。

 それになにより、

 

「この戦いをちょっと天秤が傾いた程度で終らせていいのか?」

 

「――無論」

 

 俺の言葉に応えたのは司馬懿ではなく――曹操だった。

 司馬懿の話を目を伏せながら聞き流し、椅子に頬杖をついているだけだったが、ここにきてようやく目を開けて言葉を発したのだ。

 金色の瞳が輝く。

 

「終わらせるわけがない。寧ろ、この戦こそが此度の戦役の勝敗を決定付けたと後の世の歴史家たちに言わせるつもりだ」

 

「……はっ、そりゃいいね」

 

「その上で聞こう、キンジ。『バスカービル』、そして師団の長よ」

 

 黄金の覇気。それは獣のように暴虐でありながら確固たる意志を持って全てがキンジへと注がれる。ずっと同じだ、曹操は俺を、俺たちを見ておらずにひたすらキンジだけ見ている。あの猴と同じように。ゾッとするような一途さ。傍から見ているだけでも、俺はともかく(・・・・・)意識を確りと保っていないと呑まれてしまいそうになるはずで、キンジからは曹操が実際の何倍にも大きく見えているのに間違いない。

 

「なんだ」

 

 それでも尚――キンジは真正面から受け止めた。

 黄金に緋色を以て覇王と真っ向から対峙している。

 

「きひっ。貴様は何を賭ける? 我らの一戦に、新世界の王を決める我らの決闘に。断言しよう、この戦が如何が今回の戦役の行く末を決定する。少なくとも強さ(・・)における勝負ならば我らが最高峰(ハイエンド)だ。それを踏まえて、曹魏とバスカービル我らの戦に何を賭する?」

 

「お前は決まっているのか?」

 

「無論」

 

「あぁ、だったら答えは同じだろうさ」

 

 緋色は鋭さを宿し。

 金色は愉悦を載せ。

 二人は告げる。

 

 

「――総てを賭けよう(オール・イン)!」

 

 

「神速の槍を、傷つき狂う剣を、震え進む弓を、止まらぬ歩みを、砕けぬ不敗を、忍び潜む刃を、衒い弄ぶ書を、陽に揺らぐ雲を、育み囲う城を」

 

「緋弾の姫を、星火の巫女を、変幻自在の怪盗を、猛毒の百薬を、最後の円卓の騎士を」

 

「万能の王を」

 

「狂い咲く桜吹雪を」

 

「曹操孟徳の総てを賭けよう」

 

「遠山キンジの総てを賭けよう」

 

 キンジは曹操を睨み。

 曹操はキンジへ哂う。

 

「よい、では我らの戦についてを私自ら言おう。聞け」

 

「聞こう」

 

「――総力戦だ。誰もでもいいこの蚩尤天を舞台に戦う我らの中で最後に立っていた者が所属する勢力が勝者だ。制限はない。殺せとは言わん。殺すなと言わん。時間など気にするな。場など気にするな。己の全てを出し切れ、一心不乱の戦を、全身全霊を以て、その魂を証明しろ。よいな?」

 

「――上等だぜ」

 

「きひ、きひきひきひきひ――ではこれにて今宵の幕を引こうか。お前の覇道、私に見せてくれ」

 

「ハッ、あぁいいさ見せてやるよ。――俺だっていい加減腹の括り時だからな」

 

 

 

 

 

 




真面目な交渉書こうと思ったら全然やれなかったぜ!(
解せぬ
戦役に関しては適当に独自解釈。まぁ戯言程度に受け取ってもらえば。
なんだかんだで色々突っ込んでるなぁと思う。
途中レキと蒼一抜けてるのは抜いた。

諸々の事情にて(とあるスレに嵌っちまったぜべイべ……)遅延中。まぁ総力戦とか組み合わせ考えるの糞大変ね!


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