落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
藍幇城、通称『蚩尤天』
地上六階、地下二階の巨大な建築物。それが最新の科学技術や魔導によって支えられることで数百年以上も存在し続けている。外装はともかく中身に関しては常に改造を繰り返しているので、自家発電や海水浄化も可能であり、食料に関しても常に数百人が一年も生活していられるほどの貯蓄がある。実際その白の維持に常時藍幇構成員が百人以上が滞在していた。加えて言えば無法者のアジトでなければ国宝や世界遺産になっていてもおかしくない。
そこが俺たち『バスカービル』と曹魏の決戦が行われる場所だった。
十二月二十四日の二十四時、つまりはクリスマスイブの終わりと共に戦火は開かれる。
戦闘行為の細かいことにはそっちに到着してから説明があるとのこと。少なくとも最初に教えられたことは戦闘の日時と場所だけだった。
そこまで難しいルールではないらしいが。
そんな話を我らが妹ちゃんに電話で話してみた。
『曹操さんも脳筋なんですかね』
「お前流石に失礼じゃね」
『敬う必要とかないですからなねぇ。兄さんだってそうでしょう?』
「否定はしない」
『否定なんかさせませんよ。ま、実際のところ曹操さんの場合は脳筋というか王道というべきでしょうか。あの人がそれ以外の選択肢を取れることはないでしょうし』
「王道、王道ね。俺みたいのからすれば程遠い概念だなぁ、邪道進みまくってる自覚あるし。別に嫌いじゃねーんだけど」
『彼女の場合はそういう好みの問題ではないと思いますが……そのあたりは本人か静幻さんにでも聞いてください。仲間に入ろうとしたんですよね、それからどうしました?』
「とりあえず保留。そいや静幻とお前面識あったのか?」
『かなり昔ですか少し戦ったことありますよ。私がイ・ウーに入ってそれほど時間が経っていない時の頃でしたかね。聞いた話では随分と温厚な優男な感じですが、その時は凄い細マッチョで好戦的と言わないでも結構積極的に戦ってました。兄さんと同じ、拳士だったはずです』
「ほほう。それは大いに興味がある話だな」
『八極拳……というかマジカルが付くレベルのキチガイ拳法の使い手でしたので気を付けてくださいねー。兄さん以外が接近戦したら多分きついですよ? 技術で言えばランスロットさんでようやく互角でしょうか。今はどうにも言えないですが』
「それは中々だが……確かに病気なんからしい。あのシャーロックと互角とか言う話はどうよ」
『私と少し戦った後に教授と静幻さんが戦いましたよ。どちらも未来予知レベルで戦える人だったので七日七晩戦い続けて最終的に教授が勝利しましたが』
「まじかー。うわそれはちょっと戦ってみたいかもだなぁ。俺クラスの拳士とかマジいないし。アリアがちょっと戦った楽進とかどーなんだろうなぁ。徐晃はそのあたり低かったんだが」
『兄さんの低いとか超当てにならないんですが……とにかく油断したら駄目ですよ? とりあえず藍幇城とか何が待ち構えてるとか解ったものじゃないんですから、曹操さんはともかく静幻や藍幇の人たちが何考えてるかなんて解らないんですからホイホイ付いて行ったら駄目ですよ?』
「えっ」
『えっ』
「……」
『……』
「……」
『……聞いてもいいですかお兄ちゃん?』
「できれば止めてほしいな妹ちゃん」
『兄離れは済ましたので聞きますが電話中にBGMで聞こえてきているうるさい風音とか汽笛の音ってなんですか? 一体全体なにに乗ってどこでどこへ向かってるんです?』
「えっとね――敵の本拠地で敵のクルーズ使って敵の案内で向かってる」
『だとなん』
●
「つーか兄離れ済ましとか寂しいこというなよ。お兄ちゃん切ないぜ」
『いやぁできないとも思ってましたけど案外できるもんですねぇ、私って依存体質というかヤンデレの化があるというか案外猴さんと変わらないんじゃないですか? 相手が兄さんからあかりちゃんに移ったというか――マジ最近あかりちゃんかわいすぎてときめいてが志乃ちゃんとシンパシー感じるんですがどうしましょう……』
「帰ったら家族会議だ……!」
『とりあえずそれは置いておいておいて。それで。我が兄のことは馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど思っていましたけど、我がチームながら馬鹿ばかりの馬鹿しかいないと思っていましたけど、しかし愚かではないでしょう? キンジさんやワトソンさんもいますし。何考えがるんですよね?』
言われてそのキンジたちを見る。
静幻に用意されたクルーズには俺たち全員が武装込みで全て持ち込まれている。レキのハルコンネン・Ⅱあたりは大丈夫か心配だったがPADも含めて全て運んでくれている。正直至れり尽くせりすぎて怖いくらいだ。
遙歌の言う通り耳には潮の風の音が響き、海の匂いも鼻に付く。独特だがそんなに嫌いではない。太陽はほとんど沈みかけているので海は暗いが街の明かりが届いているし、船自体にも照明があるのだが。
それでもってキンジたちといえば。
「キンジ様オレンジはいかがでしょうか」
「おう、悪いな」
「では――お口をお開けください」
アリアと白雪が海へとランスロットを蹴落とした。
「死ね」
「地獄へ落ちろ」
「君ら殺意高いなー」
「――キンジ様ぁああああああああああああああああああああああああ!!」
「おおクルーズ船に泳いで追いかけてきてる。でもなんでバタフライ」
「一応アレが一番速い泳法ですからね、まぁランスロット郷の身体能力故でしょうが」
「……超いつも通り」
『声だけですけどすっごい目に浮かびます』
甲板の後ろの方でのお約束コントだ。恐ろしいのは普通に馴染んでいる静幻なのだが。順応が早すぎる。あとランスロット怖い。あの騎士はカッコいい時とふざけている時の差が激しすぎる。
『レキさんは一緒じゃないんですか?』
「艦首で風浴びてるよ。昔は電波で風風言ってたけど普通に風に当たるのも好きみたいだしなぁ」
『はぁ……。じゃあ兄さんは何を?』
「あ? 妹ちゃんと会話してんじゃねーか」
『……』
「どうした?」
『いえ、なんでもないです』
「そうか? なんかあったら言ってくれよ」
珍しく反応が曖昧だった。それを怪訝に思いつつも騒いでいるキンジたちや夜の海を見渡す。連中は何時のようにアホ丸出しというかテンション高い。これから敵の本拠地に行くというのに気楽なものだ。
まぁだからといって俺だって特別緊張しているわけでもないが。
このあたり俺たちは本当にメンタルが強い。
面子自体は恐ろしく滅茶苦茶なのだが。
特別、異常、過負荷、言葉使いという括り以外にも名探偵やら巫女やら怪盗やらやら医者やら円卓の騎士やら正義の味方とか共通点がないにもほどがある。最も結構諸々の称号に当てはまらない奴らばかりなのだが。というか常々思っているが問題がない奴がいない。
直観やテンション任せとか自ら不貞を働きに行ったり身内にだだ甘だったり外道手段大好きだったり謎の忠義マニアだったり。全員ご先祖様に土下座しないと拙い。まぁこのあたり大分前から自覚していたことだが。ワトソンやランスロットだってそれは同じだと思う。どっちも一族没落としてるし。
本当に。
変な奴らばかり集まった。
「ゼハァー! ゼハァー!」
「だ、大丈夫かランスロット!」
「む、無論ですともキンジ様! この忠義の騎士ランスロット、キンジ様のお声があれば百人力というものです!」
「いやいやお前すっげぇ震えてるぜ!? いくら暖かいっても真冬の夜の海とか凍えるだろ!」
「いいえ大丈夫ですとも! はっ、いけませんキンジ様、今の私にお触れになっては服がぬれてしまいます――脱ぎましょう、一緒に!」
「One more」
「寧ろもう百回」
「ぐあー!」
「ら、ランスロットぉー!」
「こ、この人でなしぃ! 風邪ひいて直すのは僕だぞ!?」
「あと三回は落とされるのに賭けよう」
「では私は五回で」
「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ・ハアアアアアアアアアアアイィィィイイイイイイイルウウウウウウウウウウウウキィィンンジィイイイイイイイイーーーーーー!」
『うわっ!? なんですかの地獄から響く様な怨恨を込めた絶叫はっ?』
「地獄から響いた怨恨が籠った叫びじゃねーの」
『つまり――いつも通りですか』
「おめーちょっと皆ことどう思ってるか真剣に話し合おう」
『いやん』
「くそう可愛いな!」
あざとい芸を身につけやがって!
他人との距離がよく解っていないけれど寂しがりやりな俺の妹はどこへ行った!
お兄ちゃんは寂しいぞ!
……順調に妹離れが滞っている兄の姿がそこにはあった。
『まぁ、何にしてなんでもいいでしょう。何がどうなっても私は兄さんの味方ですからね。兄から離れはしても兄と切れはしていませんから。それが兄さんの選択だというのならば私は構いません。お好きにどうぞ? いつでも大好きですから』
「……意味深なこと言うなぁ」
『可愛い妹のなんですから意味がないわけないじゃないですか』
ごもっとも。
『とにかく、ここから私が兄さんたちの行動を止めるとか大変なのでやりませんが仮にも敵の本拠地……敵? あれ、藍幇って無所属では?』
「曹操の出身が香港藍幇らしいぞ」
『へー、それは初耳ですね。ならば余計に気を付けてください。油断はsないように……というか決戦開始って明日の夜ですけどその間どうするんですか』
「飯でも食って準備したり観光じゃね? 多分案内してくれそう」
『修学旅行ですか!?』
「修学旅行だよ!」
少なくとも名目上は。
徐晃とか張遼ならなんだかんだ文句いいながらも色々案内してくれそうだし。
『はぁ……、まぁいいです。何はともあれがんばっ――あかりちゃんに呼ばれたので切ります』
「帰ったら家族会議だぞ……!」
●
藍幇城は香港の西側にある。というかまったく隠れもせずに普通に存在していた。日本との文化の差を思い知らされる。流石は六階建ての巨大な建築物というべきか夜の中でも圧巻だ。照明が足りなくて全体を照らしていなくても俺たちならば十分に全体を把握できる。
数百年と歴史を感じさせるが――
「洗濯物とか炊き出しの煙とか、あと普通に止まってる釣り用ボートとかとかどうにかならんのか……つかアヒルボートもあるし」
「普通に暮らしている人もいますからねぇ。ちなみにアヒルボートは私のです」
「えぇ……」
緊張感の欠片もなかった。船を止めて城に降り立てば十数人の使用人が押しかけて荷物等も運んでくれた。それぞれの寝室に運んでくれるらしいが、重要なものなので運搬にはランスロットが付くことになった。
その上で俺たちは香港藍幇の本拠地へと入城した。
城の正門らしき巨大な門から入ってすぐは巨大な大広間だった。高さ的に二階分ぶち抜いて大きく作られているのだろう。足元は真っ赤な絨毯で、壁には絢爛な装飾、あちらこちらにはいかにも高そうな骨董品や絵画が並んでいた。金額にしてどれだけの価値があるのか想像もつかない。
けれど、
「――きひっ。ようこそ、『バスカービル』の諸君。『蚩尤天』へ」
全てがどうでもよくなるほどに強烈な存在がそこにはいた。
「久しい、というほどでもないか。我々の『歓迎会』は楽しんでもらえたならば幸いだ。ちょっとした余興と顔合わせだったのだがね。猴は手ひどくやられたらしいというのには驚いたが、さすがと言っておくべきか」
百人くらいは軽く収まるような巨大な空間が恐ろしく狭く感じる。一見して他に誰もいないというのに、曹操一人の存在感が全てを圧迫しているのだ。相変わらずの威圧感だ。ただ立って、話しているだけというのにその在り方は強烈過ぎる。
今更俺たちが引くことはないとしても、緊張が走るのは否めない。
「きひきひ。あそこまで消耗したのを見るのは久しぶりで、守護者と姫君と同時に相手取りたくなったが……それは私の役目ではないので控えるとしよう。ともあれ、そう身構えることはない。我らの決着にはふさわしい時と場所と定めがある。前二つは決まっているし、規定のほうは今から決めるのだがね」
「……」
「どうしたキンジ。何か言うことはないか?」
「……なら、とりあえず一つ聞きたい」
「なんだね?」
「――お前の恰好は何だ」
それは――俺たちの総意だったであろう。多分誰もが最初に突っ込みたかったけれど、曹操の覇気で躊躇われていただけだ。それくらいに彼女の姿はおかしかった。豪奢な金色のチャイナドレスに黒の太ももの辺りが膨らんだチャイナパンツ。金髪は前に遭遇した時と同じで腰まで流されていた。
そこまではいい。
問題は服の上に掛けられているもの。
首下から膝あたりまで身体の全身を覆う広い布、腰や首に回った細長い紐、色はこれまた金色だった。
なんというか。
どこからどうみてもそれは日本でも、というかおそらく世界のどこで似たようなものがあるであろう――、
「エプロンだが。どうかしたか?」
「――何故そんなものを付けているんだお前は」
「きひっ」
感情を押し殺したキンジの言葉に曹操が笑った。凄惨な、ゾッとするような笑み。それこそ死ねとでも言ってくれればいいような笑みで彼女は笑っていた。
「宿敵が態々来たのだ、ならばそれを迎えるのは礼儀というもの。武によるもてなしは既に済んだ。ならば文、音楽と舞とそして料理にて歓迎させてもらうというだけだ。安心しろ、毒を盛るなど拍子抜けなことはしない」
「いや、俺は何でお前が付けているのかを聞きたくてだな……」
「曹魏で料理が一番得意なのは私だからな」
「まじかよ……」
「きひっ――」
そして、覇王は。
というかなんかもうシリアスかと思ったらすごいギャグ空間だったことに今更俺たちは気づいて冷や汗を流しつつもそっちには気づかないで。
「三代目中華の覇王の料理味わうといい――カカカ」
「お前日本大好きだろ!」
覇王様がネタキャラになるのは今回だけだ(
少なくとも
なんか決戦を一対一の相対戦にしようかと思ったけど連戦乱戦ありの総力戦でもいいんじゃねという電波が来た。脳みそのリソースが足りない。
そんなもん知るかと思っているのならば諸君には背中を押す選択肢がある(ビクンビクン
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