落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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気づけば150話。
まぁ番外編が70話くらいあるから実質220くらい?



第6拳『レッツパーリィ!』

 

 

「曹魏軍将が一、徐晃公明」

 

 その名乗りを聞いたのは俺と白雪がいい加減なんとか立ち直ってさぁ歩き出そうと意思を固めたのと同時だった。いつの間にか――あるいはずっと前から他の人間が姿を消していることに気付き、驚愕するのと同時に道の先に通せんぼするかのごとくに真正面に立つその男は俺たちに名乗りを上げていた。

 軽薄そうな男だった。

 安っぽい露店に売っていそうな安っぽいアロハシャツにハーフパンツ。脚元に至ってはビーチサンダルだ。香港ではなくハワイの観光客と言われたほうが納得するだろう。髪もまた安っぽく金色に染められ、サングラスもそこら辺のお土産で売っているようなチープ感丸出しの一品だった。

 身体自体はそこそこに鍛えられているようにも見えるが、一見すれば今時の若者という風にしか見えない。

 

「……」

 

「……」

 

 空気は張りつめる。俺も白雪も油断していたわけではない。寧ろ周囲への警戒は十分にしていたはずにも関わらず、周囲の人間の消失に今更ながらにようやく気付き、これまでずっと立っていたと言わんばかりに俺たちを待ち受けていた徐晃にも気づけなかった。

 つまり既に向こうの術中にはまっている可能性が高い。

 故にどう動くか迷い、

 

「おい、テメェら」

 

 向こうから声を掛けてきた。

 

「……」

 

「なんだなんだぁ? 人が名乗ったらならちゃんと名乗り返せ常識だろうがあぁん? 人の名前を聞くときは自分からっていう言葉通りに名乗ったんだからお前らもちゃんと名乗りやがれ、それが礼儀ってもんだろう」

 

「……那須蒼一」

 

「星伽白雪だよ」

 

「さっきも言ったが徐晃公明だ。はじめましてだ」

 

「え、お、おう。はじめまして?」

 

「よ、よろしくお願いします……?」

 

「おぉう、よろしくな」

 

 なんかすごい言動がチンピラ臭いと思ったら礼儀正しい。なんとなく張りつめかけていた空気は霧散してしまった。

 

「徐晃……つまり、お前は曹操の配下ってことだよな」

 

「あぁ、今そう名乗っただろうが。人の話はちゃんと聞いておかないと失礼だぞ」

 

「……それで、一体なんの用だ? 京都の時の司馬懿見たいな使者がお前ってことか」

 

「それは違う。おめーらとの決戦の日時や場所は俺たちじゃなくて、審判の役を担った奴が別途でお前らに接触するだろう。俺が来たのはただの顔合わせだ。この前鉢合わせた時、俺と文若はこっちに留守番だったからな。その分の歓迎パーティーだ。まぁ、文若は正面から顔合わせられるようなキャラじゃねーんだが」

 

 ぶんじゃく、ブンジャク――つまりは荀彧文若か。

 

「その言い方だと非戦闘系か? というか、それって髪の色緑で眼鏡のロリ? 後お前らあと一体何人いるか教えてほしいんだが。いい加減そろそろ新キャラ投入も止めてくれ。相対にも追いつかないぜ」

 

「あぁ? あぁ、そりゃ仲徳だな、程昱仲徳。文若とは別だ。あと安心しろよ。俺これで打ち止めだぜ。この前の時いたのと合わせて曹魏軍合わせて王も含めて十人だ」

 

 曹操、張遼、夏侯淵、夏候惇、司馬懿、曹仁、楽進、仲徳、徐晃、荀彧――曹魏十人。それに猴も加えれば十一人か。数だけで見ればこちらの不利。バスカービルは俺、レキ、キンジ、アリア、白雪、理子、ワトソン、ランスロットで八人だ。最もこちらは全員戦闘可能で向こうは少なくとも二人は非戦闘系のようだからどっこいどっこいという所だろう。

 勿論、数で勝負が決まるものでもない。

 

「……」

 

 白雪とアイコンタクトを取りつつ、徐晃を観察する。見た感じ武器を持っているようには見えないが暗器術を収めていたらいきなり大砲とか持ち出しても驚けない。

 

「それで徐晃よ。歓迎パーティーとか開いてくれるらしいけど、演目は一体なんだ?できればうまい中国料理とか教えてくれるとテンション上がるんだけどよ」

 

「それならこの先の道を真っ直ぐ行って右に曲がってそこから二つ道超えて左に行ったところに日本人向けの大衆料理屋があるぜ。俺のおすすめは福建省風の肉のうま煮ぶっかけ飯、あー……日本語で言うと餡かけ炒飯だ」

 

「お、おう」

 

 軽口のつもりだったのに凄い丁寧に教えてくれたという。

 その餡かけ炒飯とやらも頼んでみよう。

 終ったらの話だが。

 

「んじゃ、そっちの巫女も俺らの情報回し終わったみたいだし」

 

「……そりゃ気づくよね」

 

 苦笑しながらポケットの中でチャットを使って全員に情報を回して白雪が苦笑する。一応俺が会話して意識を逸らしていたつもりだったが、そこまでは甘くないらしい。

 徐晃は鼻で笑いつつも両手を広げ、

 

「それじゃあ歓迎パーティーだ――推して参って死合おうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、うまい。おい仲達、もっと持って来いおかわりだ」

 

 香港九龍地区のとある甘味処のオープンテラスにて曹操は甘味に舌鼓を打っていた。周囲に一般人は一人も存在しない。九龍地区全域が彼女の部下である荀彧によって封鎖されている。空間・結界操作師である荀彧ならば街一つを完全に無人にし、また周辺に何の違和感も出さないことも可能なのだ。

 

「さて、そろそろ歓迎パーティーが始まった頃か……キンジたちも楽しんでくれるといいのだがね」

 

「しかし曹操様。猴殿がまたもや勝手に出陣なさったようですが構わないのですか?」

 

 空へと呟いた声に反応したは曹操の向かいの席にいる緑髪と眼鏡の少女――程昱だ。見た目の年齢としては曹操と同じくらいか少し上程度。緩くカールし肩まである髪を弄りながら彼女は己の主に問いかける。彼女の前のさらには小皿の上に胡麻団子。

 

「別に放っておけばいい。あれが言っても聞かないのは今更だし、よくこの前の接触から持ったと感心するレベルだから。それよりも今回の歓迎の布陣はどうなっている?」

 

「はい。港区にいるようすの巫女と瑠璃の守護者は公明が先ほど接触しました。同時、ICCビル百十八階に子考が侵入……したのですが、緋々の姫と守護者は一回のロビーにいたようで、下で待機していた文遠たちと交戦中のようです。……どうやら随分と派手に歓迎(・・)していますね。少々後片付けが面倒になるかと。街の中央部で瑠璃の姫と怪盗が猴殿と遭遇しましたが……これに関してはどうにも見えにくいですね、彼女が見えないのはいつもの事ですが」

 

 まるで今にも見ているような物言いだった。別に何かしらの機械の類でリアルタイムで観戦しているというわけではない。しかしそれにも関わらず程昱はこの九龍地区で発生している戦闘のほとんどを把握していた。

 

「構わん。どうせ我々がするものでもないしな。静幻はどうしている?」

 

「歓迎パーティーを観戦中のようでね。恐らく一段落してから彼らに接触するのではないでしょうか」

 

「キンジたちの力を直で見ねば気が済まんか」

 

「恐らくは」

 

 二人の少女は頷き、

 

「仲達ー、おかわりまだかー」

 

「早くしなさいゴミムシ」

 

「おいコラ貴様らァー!」

 

 店の名から怒声と共に司馬懿が現れた。なぜかエプロンに三角巾という小学校の調理実習スタイルである。今更言うまでもなく現在のこの街には一般人は存在しない。飲食店の従業員も当然いない。だからこそ曹操と程昱の食べていたものは彼が作っていたということだが、

 

「僕の仕事は菓子を作ることではないぞ! 一つや二つならばともかく一体これで何度目だ! 貴様らの腹はブラックホールか何かか、ちょっとは自嘲せんかこの戯け!」

 

 部下として有るまじき口の利き方だがそれに頓着する曹操ではない。気にするのは程昱の方だった。

 

「おいゴミムシ。曹操様への口の利き方を気を付けろと言えばなんど解るんですか。さっさと甘味を持って来て自殺したらどうですか」

 

「なんだと貴様。もう一回言ってみろ。そのふざけた口に包丁を叩き付けてやろうなんて野蛮なことは言わん。貴様の言うこと全てに完璧な反論をして完全に言い負かしてやろうではないか」

 

「うわちょっと近づかないでください。汚らわしい糞ショタめ。これだから男は」

 

「その言い分だと貴様は全生命の半分を敵に回したぞ」

 

「もとより全生命の半分は私の敵です」

 

「お前の敵はバスカービルだろう……!」

 

「きひきひ。今日も我が部下たちは平常運転だな――他の者たちもまたそうであろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨霰と銃弾が降り注ぐ。

 ICCビルの一階の喫茶店。何処のホテルにもあるような、しかし格調だけは高い喫茶店だ。普段ならばこの高級ホテルを訪れた客たちで賑わっている場所だったがしかし今では間違いなく戦場であった。

 

「あーっ、くそ! どうにか突破しねぇとなぁ!」

 

「もうちょっと辛抱でしょうが! 愚痴吐く前に撃ちなさい!」

 

「言ってみただけだっつうの!」

 

 椅子や机を積み重ねた即席のバリケードの裏からキンジとアリアは銃弾をばらまきながら吐き捨てる。狙いは大雑把だが対象は明確だ。十数分前までは防弾性の硬質プラスチックの防弾ガラスが店内を護っていたが、

 

「歓迎歓迎大歓迎ですよー」

 

「やれやれ趣味じゃあないんだけどなぁ」

 

「あーだる。派手にやればいいってもんじゃないけどなぁ」

 

 楽進、張遼、夏候惇の三人が軍用ジープから突撃銃やら機関銃やらの連射によって無残に砕け散ってしまった。流石にそれだけの火力を受けては長くは持たず、キンジたちが即席バリケードを組み終わったのと同時にガラスが粉砕されていた。

 

「くそう、さっさと撤収していれば……!」

 

「まさか一般人全員除外してるとは思わなかったわね……」

 

 まずそもそもキンジとアリアは最初に時点でこの喫茶店に普通にお茶を飲みに来ていた。キンジたちが滞在するフロアにはそれこそバーすらもあるが、ワトソンが張り切ってフロア全体にトラップを仕掛け始めたので一階にて時間を潰そうと思ったのである。などと思って喫茶店に来て、ウェイターを待っていたが、来ず。とりあえず雑談をしながら時間を潰し、しかしいくらなんでも遅いなぁと思ったところで、ガラスの前でジープの荷台部分で両手に銃を構える連中と目が合ったのであろう。

 

『レッツパーリィ!』

 

 そんな頭悪い楽進の掛け声と共に連射である。見た限り突撃銃二と重機関銃四の絨毯射撃で、キンジもアリアも慌てふためきつつも周囲にいる――と思っていた――一般人を逃がすために時間を稼ごうとしてバリケードを組み応戦し始めた。しかしいくら何でも悲鳴の一つも上がらないのはおかしいということに思い当たり、そこでようやく一般人が姿を消していることに気付いたのであった。 

 幸いあの連中はそれほど銃の扱いは得意ではないらしく、狙いは適当で今のところは危ない弾丸は喰らっていない。即席バリケードが地味に活用されているようだ。

 得意ではないというか、性分的に気にくわないらしい。

 

「……おっと。弾切れか。これから銃は面倒だね」

 

 苦笑気味に張遼が呟きながら機関銃を道端に投げ捨て、ジープに積まれていた別の銃を手に取る。今度は右手は突撃銃で左手は拳銃だった。

 

「あ、おいこら張遼お前! 銃の悪口言うなよ! 銃はすげぇんだぞ! 特にベレッタとか凄いぜ!? このM92FSとかサイコー! こんな銃を使えて戦える俺は果報者だなぁ! あー、すげぇ、超カッコー! これ握ってるだけで俺強くなった気がするよ!」

 

「何そのステマひどい」

 

「キンジ! ベレッタ社からスポンサー受けたからって露骨なステマに走るのやめなさい、恥ずかしいわね! ――時代はコルト社よ。M1911(コルト・ガバメント)最高ね?」

 

「うわー似たもの夫婦だぁー」

 

「褒めるなよ」

 

「褒めないで」

 

「褒めてないですからねー」

 

 馬鹿な言い合いをしていると同時に――来た。

 

「!」

 

 バイクだ。赤くカラーリングされたソレはビルを回り込むように現れ、ジープを超えて喫茶店の中に飛び込んだ。搭乗者は――いない。ICCビル地下駐車場に待機していたバイク型PAD『緋影』。ビルの多い香港での機動力として輸入していたのだ。自律走行状態の遠隔操作で、銃撃戦が始まるのと同時に呼び出したのが今到着していた。

 バリケードをぶっ飛ばしながら店内に到着。そのまま一切止まらずに走り抜けかけ、

 

「アリア!」

 

「ちゃんと運転しなさいよ!」

 

 キンジが運転席に、アリアが後部座席に飛び乗り、ホテルを脱出する。張遼たちも二人を追いかけながら発砲するが、ほぼ直角に機動する『緋影』を捉えきれずに取り逃がす。そのままバイクは道に出て、大通りへ。

 勿論追いかける。

 

「張遼先輩、運転お願いしますよ」

 

「了解っと」

 

 ジープの運転席に張遼が座りエンジンを吹かしロケットスタート。その間にも楽進と夏候惇は弾丸の装填を行う。『緋影』とは距離を開けられたが追いつけないほどでもない。

 背中は見えている。

 そして楽進がそれに目がけて肩に担いだのは――バズーカ砲だ。

 即座に引き金を引いた。

 

「じゃ、始めますかね! 映画じゃお約束のカーチェイスって奴を――!」

 

 

 

 




いやぁ地味な戦いだなぁー(

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