落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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番外編そのいくつか。
過去最高に謎の話。


「七十億分の一の奇跡だぜ?」

「やぁやぁ久しぶりだね八百年振りかい? 今は握拳裂って名乗ってるんだけ。っておいおいなんでそんなに睨みつけてくるんだよ。今のところ世界に四人しかいない同類じゃないか。ただ知っているだけの彼、ただそこにいるだけの彼、ただ戦うだけの君、そしてただ平等なだけの僕。三兆年の中でそれだけしか出会えなかったということを少しは慮って欲しいね。え? 今はそんな気分じゃない? ふぅん、君の悲願が達成できなくてテンション下がってるのかい。僕からすれば羨ましい限りだけどね。僕が三兆年かけても見つけられていないできないを君は見つけたわけだ。あぁだからもう睨まないでくれよ。解った、解ったよ。いくら僕でも君に殴られると三回くらい死ぬんだから止めてほしいね。生き返るからいいんだけどさ。実はさ――そこに転がってる君の失敗作僕にくれない? …………うん、そう。そこで死にかけてる落ちこぼれ。何で睨むんだよ。だってそうだろう? 自殺志願の君が死ぬために育てた君の弟子にして失敗作。戦友の子孫だからって期待したみたいだったけど、結局死ぬのはそっちで、君は死ねないんだから。難しいよね死ぬって。死んだら生き返っちゃうんだからさ。死んでも、死に続けるっていうのはどういうものなんだろうね。おっと、話がズレた。実はちょっと前にようやく僕のできない探しに期待できる子が見つけてさ。球磨川君っていう敗者の星みたいな子なんだけど。その子とかその周囲にちょっかい掛けるために便利な小間使いというかパシリ探してたんだよね。え? 僕には端末(ぼくら)がいるって? いやまぁそうなんだけど。確かに僕は七億人の端末(ぼく)がいるけどさ。端末(ぼくら)には強制とかしたくないわけなんだよね。僕は端末(ぼくら)の個性を何よりも大事にしてるんだからさ。頼み事はするけれど命令はしたくないんだよ。おまけに今回の球磨川君というのは関わっただけでも絶対碌なことにならないから、深入りさせすぎると可哀想だからね。そういうこと気にせずに使えるパシリが欲しいんだよ。だから、君の失敗作を僕にくれないかい? 悪いようにはしないからさぁ。なに、もしも僕の目論見が成功して、僕にできないをくれるやつがいたら君にも合わせてくれ……え? 要らない? まったく君は相変わらず頑固だねぇ。ま、いいさ。というわけでそこの彼は貰って行くよ? そういえば彼名前なんだったけ……ふぅん、よしよし覚えてたよ。君が育てた君の息子だ。くだらねーカスじゃなあないんだろう。だからくだらねーカスよりもそれはそれは大事に大事に馬車馬の如くに僕の為に死ぬまで働かせ続けてやるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「那須先生はアイツのことどう思います?」

 

 隣の席に座る同僚久々原滅私が俺に声を掛けてきたのは新学期が始まって少し、生徒会選挙が終わった頃の話だった。彼の方から積極的に話題を振られるというのは珍しいことなので手にしていた資料から目を離して久々原先生を見る。ちなみに言えば久々原先生のさらに向こう側にいる朳理地戯はタブレットPCから目を離さなかったが、少しだけ興味を向けたようにも感じた。

 

「アイツ……久々原先生、アイツとはどいつでしょうか」

 

「そりゃあ勿論アイツですよ。今の箱庭学園で、アイツなんて曖昧な呼称で表わされる奴なんてアイツ以外にいないでしょう」

 

「はぁ……」

 

 その言い方は正直鬱陶しいなと思ったけれど、普段自堕落とか有耶無耶とかを擬人化したような久々原先生である。その彼がそんなはっきりとしたことを言うなんてやっぱり珍しいことだったので資料を手元に置いた。

 まぁ、彼が誰を指しているのは解っていた。

 

「アイツ……俺が今パッと浮かんだのは、やっぱり黒神ですかね」

 

「そうです。アイツですよ、黒神めだか」

 

 黒神めだか――今の箱庭学園に在籍する、少なくとも登校しているのならば知らない生徒や教師はいないだろう。それくらいに有名なのだ。一年生にして生徒会選挙、生徒会長に支持率九十八パーセントで就任。副会長会計書記庶務の他の役職を必要とせずに、彼女一人で生徒会の仕事をこなしている傑物。

 傑物というか、化物とすら呼ばれている女だ。

 

「黒神がどうしたんですか? あぁ、そういえば久々原先生は今期から生徒会顧問になられたんでしたっけ。彼女がなにか問題でも?」

 

「いえいえ、アイツは問題を起こさないですよ。起こさないというか彼女の場合は問題を起こしてもどうにでもするでしょうしね。俺みたいなお飾り顧問がどうこう言うことなんてないですよ。まぁ、欲を言えばなるべく早く他の役員を揃えてほしいってくらいですかね。まぁ、それもあの黒神なら必要ないんでしょうけど」

 

「まぁ、確かにそうでしょうけどね」

 

 と言っても黒神めだかの生徒会役員不足というのは今期終了式には踊るべき形でその怠慢とも言えない怠慢によって発覚するのであるが今はまだ俺も久々原先生も知る由もないし、彼女が生徒会職務を一人でまっとうしているというのも事実なのだ。

 

「それで、黒神をどう思う……でしたっけ?」

 

「えぇ、まぁそうなんですよ。ホラ、俺ってアイツに生徒会顧問押し付けられたわけじゃないですか。啝ノ浦先生もなんかサッカー勝負したとか風の噂……というか朳先生に聞いててですね」

 

「おまけにその僕は黒神を選挙に出させないようにしたけれど上手くいかず、それを命令した椋枝先生ですらも失敗して生徒会長に就任した黒神めだかのことをどう思う、そう聞きたいんじゃないですかね。久々原先生は」

 

「そういうことです」

 

 朳先生のタブレットPCから目を離さないままの言葉に久々原先生は頷いた。

 

「なるほど」

 

 なるほど、なんて頷きつつも、面倒だなぁとは思った。しかしそうはいってもこんなふうに話題を振ってくることの珍しさと自分がここにいることの意味も考えれば応えるべきだろうと思った。

 答える。

 忌憚のない――俺の考えを。

 

「……まぁ、別にどうも思いませんね」

 

「えぇ!? そんな馬鹿な!」

 

「……」

 

「あ。すいません」

 

 なにやらわざとらしいくらいの反応だったので睨みつけた。

 

「まぁ、確かに凄いとは思いますけどね。凄いけど、でも凄いだけで……なんというか、そういう奴を俺は知ってたんですよね。黒神めだかによく似た存在を」

 

「そんな存在がいるんですか?」

 

「いますよ、何人か」

 

 人類最強の請負人とか。人類最弱の戯言遣いとか。人類最優にして人類最劣の青色サヴァンとか。人類最速の殺人鬼とか。人類最悪の遊び人とか。人類最終の代替なる種とか。人類最負の敗者とか。

 ただ戦うだけの人外とか。ただそこにいるだけの人外とか。

 脆くて儚い化物とか。

 ただ平等なだけの人外とか。

 よく――知っている。

 

「だからまぁ、そういう人たちを知っている分だけ――それだけに俺には彼女の未熟性が見えてしまいますね。彼女はまだまだ。そんな風に俺は思ってしまうわけですよ」

 

「ははぁ……驚きですねぇ。那須先生がそんな見聞が広いお方だったとは」

 

 どうやら久々原先生の中では俺はそんなに見聞が広い認識ではなかったらしい。

 まぁそりゃあ彼からすればただの体育教師なので仕方ないだろう。そんなことを思いながら背後の腰の辺りまで延びて、適当にくくられた髪をくしゃくしゃと掻く。ちなみに服装にしたって久々原先生のくたびれたスーツでも朳先生の特に語ることもないスーツとも違うただのジャージだ。体育教師なのだからこれが正装だとも思うけれど。

 何はともあれ、

 

「そろそろ始業の時間ですよ」

 

「あ、そうですね」

 

 言って、立ち上がる。

 立ち上がって――

 

「――」

 

 意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 失った意識の浮上は一瞬だった。

 どこかの学校、どこかの教室。それは知っている場所だった。箱舟学園と呼ばれる俺、那須蒼一が五年前から去年まで(・・・・・・・・・)――つまりは球磨川禊と黒神めだかが在籍している間に教育実習生として通っていた学校だ。服装もいつの間にかジャージではなくて、真新しいスーツに変わっている。この当時は俺はまだ二十歳前だったけれど、肉体年齢は今と同じ二十一。結構年齢を誤魔化しているが、まぁ今はどうでもいい話だ。

 明らかに普通の現象ではない。

 けれどそれは慣れた者だった。

 

「やぁ」

 

 教卓に立っていた俺の真正面。教卓を挟んだ一番前の席にいるというわけではなくて、文字通りに教卓の上に座って俺の目の前にいるのだ。

 美少女だ。

 黒い髪。前髪直線。腰の辺りで一括り。アイドルなんか目じゃないくらいの器量。

 

「――なじみ」

 

「おい」

 

「ぐふっ」

 

 蹴りを入れられた。それもかなり強烈で、蹴りを喰らって黒板に背をぶつけてから崩れ落ちるほど。

 

「僕のことは隷属と尊敬を意を込めて安心院さんと呼べと言っているじゃねーか」

 

「……すまない」

 

「あ、ちなみに少し用があったからホームルームに行こうとした君を強制的に眠らせて僕と対面させたわけだけど文句ないよね? 文句言ったらぶっ殺しちゃうぜ」

 

「問題ない」

 

「嬉しいって言え」

 

 

「嬉しい」

 

 『ただ平等なだけの人外』安心院なじみ。

 彼女を語ることは恐ろしく長いのでとりあえず一言だけ。

 今の俺の――持ち主だ。

 

「よっと」

 

 彼女の脚が、膝をついて崩れ落ちていた頭に足を載せる。裸足とか靴下とかではない上履きである。

 

「君を呼び出したのは他でもなくてね。実はなんか最近暴力の世界がうるさいんだよね。なんか困っている端末(ぼく)がたくさんいるようだ。やっぱり零崎一賊が復活したっていうのが切っ掛けだったのかね。人識君と、それに……誰だっけな。あの死神の子」

 

「零崎問識――石凪砥石だろう」

 

「今思い出したっていうのに余計なこと言ってんじゃねーよ」

 

 踵落としを喰らった。

 

「人識君と問識君、それに月織ちゃんとか暮識君、性識君当たりに加えて波識君と寂織ちゃんが決定的だったのかなー。舞織ちゃんはどうにも相変わらずだしね。というわけで僕としては今はまだいざこざのレベルだけれどそのうち大戦争やいーちゃんや天君との戦いみたいに世界壊しかねないレベルに発展しそうになるかどうかを確かめに行ってくれというのが今回の君の役目だ」

 

「それは俺が判断すればいいのか」

 

「そんなわけねーだろ。判断するのはこの僕だぜ」

 

 踵落としの次は蹴り上げだった。

 顎が上がって、彼女と目が合う。

 

「ん? なんだい? もしかして怒ってる?」

 

「いいや」

 

「そいつは当然。君は僕のパシリでしかないんだからね。いやいやこれは誇るべきことだよ? 生も死もプラスもマイナスも異常も過負荷も一般時も財力も政治力も暴力も玖渚機関も五神一鏡も『殺し名』七名も『呪い名』六名も平等にくだらねーカスであるこの僕から特別扱いされるなんて七十億分の一の奇跡だぜ? 喜べよ」

 

「喜んでるよ」

 

「よろしい。じゃあ、これで話は終わりだ。ちなみに期限は球磨川君がこの箱庭学園に来るまでだ。先生仕事と両立して頑張ってくれ。ちゃんと仕事ができたらご褒美に僕の髪を触らせてあげよう。十秒ね」

 

「頑張る」

 

「じゃあ頑張れ『調律奴隷(アンクルーフィン)』那須蒼一」

 

 そして意識が再び消え去った。

 まぁそんなこんなで。

 師匠に見捨てられ。

 高校生の青春の裏で世界を馬車馬の如くに駆け巡り。

 人外に言われればジュースを買いに行くのも、街を壊滅させるのも刃向わない。

 そんなのが、今の俺、那須蒼一である。

 これはまぁ、とにかく俺が酷い目に合うだけのお話だ。

 




これは流石にレキも同情するはず(

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