落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
奔る。
コンテナを蹂躙するのは絶風の刃だ。目にも留まらぬどころではない。あまりの速さに至る所に残像を生み出すほどの超高速機動。音速を確実に超過し、ソニックブームを放ちながらジーフォースは踵の三日月型刃をキンジへと叩き込む。
驚くべきはその出力だ。
キンジの知る中で速度の
だがジーフォースはそういう武威故の速さとは無縁だった。
蹂躙する為の、粉砕する為の、殲滅する為の、より効率よく人を殺す為の力だ。
キンジのことを調べられるだけ調べたジーフォースだからこそ、自分という戦い方が彼にとって異質なものであると気づいていた。
それなのに、
「なんで……!?」
『
避けている。先ほどから残像が至る所に生まれるほどの速度で繰り出す攻撃が一つ残らず紙一重でキンジは避けている。防弾制服は紙のように切り裂かれて、随分とアバンギャルドな様相になっているが、しかしキンジの身体には一閃もダメージを与えられていなかったのだ。
「……!」
それがどういう意味か理解して戦慄する。戦慄せざるをない。彼我の実力差は間違いなくジーフォースのほうが上だ。決闘にしても戦争にしてもジーフォースのほうが戦闘力が高いのは間違いないのだ。それなのに届かない。キンジがカウンターが得意であることも知っていたが予想を遥かに超えている。
そして何より、
「――サード」
遠山キンジにサードの姿被る。どうしようもない状況をひっくり返してしまいそうだと、そう感じさせる何か。ジーフォースが恐れ、傅く何か。奇しくもアリアたちがジーサードにキンジを重ねるようにジーフォースもまたキンジにジーサードを重ねているのだ。
「それでも……ッ」
キンジを中心に、さながら台風の如く動いていたジーフォースが新たな動きを見せた。平面ではなく立体に。台風の目ともいえるキンジの真上に『
そして抜き放ったのは分厚く長大な刀だった。
「
斬馬刀を中心に空間が歪んでいく。それは刀の形をとった重力操作兵器だ。刀身を中心に超重力空間を形成する空間打撃。
跳躍から落下まで一秒もなかった。
勿論キンジもその一秒に何もしなかったわけではない。背中に仕込んでいた緋刀を抜き、不安定な瓦礫となった足場で構える。右手で握った刀を逆手で持ち腰や背中、手首を可能な限り限界まで引き絞るように歪ませ、
「――緋桜狂咲」
「――!」
全身を竜巻の如くに回転させながら緋刀を切り上げた。竜巻のような動きによって生じたのは文字通り、動き通りの緋色の竜巻だった。緋々の気が織り交ぜられた螺旋斬撃。それはかなめの重力斬撃と激突し、
割砕音と共に斬馬刀ごと砕き切った。
「かなめ……!」
「だから呼ばないでっ……!」
斬馬刀は砕かれたがしかし代わりに莫大な衝撃が周囲を吹き飛ばし、キンジとかなめに大きな距離を開けた。お互いに大地が転がり、しかし二人とも即座に起き上がる。そして示し合わせたように同時に動いた。
「来ないでぇ!」
立ち上がりと共に突き出したのはU字型の特異な刀だ。刀というよりは音叉のようなもの。勿論巨大な音叉ではない。いや一瞬キンジはそれは形通りに音叉で、音響破壊兵器かなにかと思ったが違った。
U字の二つの刃が放電現象を起こした。それを目にして、キンジは数週間前のヒルダの雷星を彷彿とさせ、
「ッ!」
飛び退いた直後、それまでキンジがいた場所に閃光が弾けた。
「
つまりは超電磁砲。小型化し、刀の形状にして実用化しているなんていうのは聞いたことがなかったがそれでも先端科学兵装はそういうものだ。驚いていては身が持たない。ともあれ雷速ならば反応できないこともない。実際キンジは既にヒルダの雷星の瀑布を防いでいるのだ、『
しかしそれはジーフォースも当然ながら知っていた。
だからこそ手を休めない。右手に
「
「っお!?」
超電磁砲の一撃を回避した直後へと蛇の牙が伸びる。瓦礫が散乱する大地を這うように迫る刃がキンジの右足に巻き付く。つまりそれは足に刃の塊が押し付けられたということ。当然ただでは済まされない。
「ぎ、ぃぃ……ッ!」
思わず絶叫しかけるほどの激痛。脚が砕け、肉がズタズタに裂かれる。さらに左手に握った蛇が蠢く。柄を振り上げればそれに従い剣鞭も跳ねる。滅茶苦茶に振り回せばその動きに従って刀身の先のキンジもまた滅茶苦茶にあちらこちらに地面を激突させる。
十数度ぶつければ既にキンジは死に体だった。満身創痍、全身血塗れ。特に剣鞭が巻き付いた右足は骨まで露出している。
明らかに気力でどうにかできるレベルを超えていた。しかしそれでも油断はしない。できない。
這い上がってほしくないし、来てほしくないのに。
「かな、め……ッ」
「……もう、だめだよぉ」
そういう状態から這い上がるのが遠山キンジであると知っているから。緋刀を杖にして、彼は立ち上がる。牛歩とした歩みはもうすでに戦闘中なんてあるようには見えない。
それでも涙に濡れる言葉とは裏腹に体は勝手に動いた。
「もう、手遅れなんだ……」
太ももから短刀を取り出す。それまで彼女が使ってきた刀に比べればあまりにも小さく頼りない。実際、それに物理的破壊力は皆無だった。
勿論だからと言って、それが無害であるわけがない。
「――
ジーフォースは何の淀みもなく己の手のひらに刃を突き立てた。
「かなめ! なにを――ッ!?」
変化は劇的だった。突き刺した右手からボディスーツ越しにでもはっきりとわかるほどに血管が脈打っている。腕だけではない。首筋や頬、左腕や胴体から足に掛けてまで。
ドーピング。
それも明らかに体に悪い。少なくとも設計段階からして兵器として生み出された彼女の身体が受け付けないほどの劇薬。全身の血管が浮き上がり、目は血走り、血涙が溢れた。
それまで流していた透明の涙に交じり、犯され頬を伝う。
「ごめんね、私を殺して。その方がいいんだよ」
兵器として生まれてきた。
兵器として生きてきた。
これまでも、多分これから先もそうやって生きていくのだろう。
かつての自分はそれでよかったのかもしれない。
けれどこの武偵高で当たり前の陽だまりを知ってしまった。その暖かさを、その温もりを、その心地よさを。キンジたちが守ろうとするはずだ。あんなに素晴らしいものなら絶対に護りたくなる。その気持ちが痛いほどに理解できた。
だからこそ、ジーフォースはここで死んだ方がいいのだ。
人を殺すことしか能がない兵器なんていうのは生まれてきたのが間違いだった。
サードやドライに逆らおうなんていうのも思わない。曲りなりにも、こんな兵器だとしても今日まで生きてこれたのは彼らのおかげだ。あの二人にはあの二人の願いがある。それでもそれはジーフォースは必要ないだろう。いや、そもそも誰かに必要とされたことなんて一度もなかった。
だから、ここで死ぬべきだ。
それが最も後腐れがない。サードやドライがキンジたちに勝って必要以上に酷いことはしないだろうし、キンジたちだって学校を護るために全力を尽くしてくれるだろう。サードやドライならば、多分壊すことや殺すこと以外の道を見つけられるはずだ。少なくともかなめはそういう風に思っている。
あぁでも。
心残りといえば。
仲良くなれた彼女たちにありがとうって言うことと、仲良くなれなかった彼女にごめんねって言うことだろうか。
後の祭りだけど。
「ありがとう。ごめんね――
「馬鹿野郎ォーー!」
キンジの絶叫を聞き届けることはなく、ジーフォースは――かなめ行く。
死ぬために――殺されるために。
限界まで、いやそれ以上に強化された肉体。筋線維や骨、さらには内臓までが過剰強化によって軋み、自壊していく。
そして、
「――」
ジーフォースの貫手はキンジの頬を切り裂き。
キンジの一刀がかなめの胸を貫いた。
痛みは――なかった。
ちょい短めなのはキリが悪くて他に止めるところが見つからなかった。
一応かなめの刀は13種作りました。他のが出るのかは未定。
なにやらバトル入れば入るほど感想が減るので迷走中。
感想お願いします、はい。常に求めてます。