落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
私は実に困っていた。
言うまでもない。遠山かなめのことだ。
キンジさんと一線を超える。そんな理由で武偵高に転がり込んできて、転入して一週間ばかりで馴染んでいるかなめのことだ。夏休みに転入してきてその間に先にあかりちゃんたちと仲良くなっていた私とは違い、なんのアドバンテージもなく溶け込んでいたというのは恐るべきコミュニケーション能力だ。少なくとも一般生徒から見れば、容姿端麗成績優秀運動抜群、ちょっと男嫌いとシスコンが玉に瑕の美少女だ。少なくとも彼女はそういう風に見ている。
でも私からしたらそう単純な話ではない。
これまた言わずもがな原因がある。忘れもしない文化祭一日目の夜の襲撃、そして兄さんの腕を斬り落としたことだ。そのことに関して深く考えると思わず発狂して周囲を無茶苦茶に破壊しかねない――というか少し前までの私ならば確実に周囲を破壊し尽し、下手人であるかなめさんを拷問にかけて血祭りに上げてぶっ殺していただろう。勿論そんなことはできない。やったら先に教師陣に半殺しにされかねない。兄さん曰くあの人たちに逆らうのは自殺行為なので逆らわないように心掛けている。
なので私は一体どうするべきか。
考えている間にもかなめは少しづつ変化していた。彼女は高校生をする間にもキンジさんとの交流を続けていた。交流というかなんという表現に困るのだが。問題発言通りに積極的にキンジさんとの距離を詰め、時にアリアさんや白雪さんたちと小競り合いをし――そしてある時いきなり彼女は変わった。
何があったかは私は聞いていない。ただ、かなめがうまく作った二人きりの時間の間に何かがあったのは確かだ。聞くと言葉を濁すが、それでも結果的に見ればあの二人がなんというか兄妹ぽくなったとでもいうべきだろう。少なくとも私はその結果だけで十分だ。
最もアリアさんたちには確りと吐かされて、その後にも半殺しの目にあっていたキンジさんが哀れだったから聞かなかったというのも大きいのだけれど。
その後、角が取れた彼女は余計に武偵高に馴染んでいる。あかりちゃんたちとも仲を深めている様子だったわけなのだが、
「距離感に困っているというわけですか」
「はい……」
困って困り切ってレキさんに相談していた。場所は最近物置と化しつつある女子寮のレキさんの部屋だ。
「まぁそれは私も同感ですねぇ。人の旦那の腕を斬り飛ばしてくれて本来ならば八つ裂きにしても足らないですが、それでもキンジさんの妹です。おまけにあれだけ純粋に笑っている姿を見るとどうしても手を出しにくい」
「そうなんですよねー」
元々イ・ウーで死にたがっていた自分だから解る。帰る場所や家族ができて、極々当たり前の生活ができるということがどれだけ暖かいことか。世界が色付いていることを知って、それを味わっていられるというのは途方もなく幸いなことなのだ。
「それでも中々心の整理がつかないというか」
一応師団としての見解はこのまま遠山かなめ――ジーフォースだけでも仲間に引き入れてしまえというものだ。先端科学兵装を用いる彼女の戦闘力は高いし、未だ姿を現さぬジーサードやドライの情報も得られるかもしれない。
「難しい問題です。人間関係というのはどうにも」
ワトソンさんの件にも痛感したがどうにもそういうのは私たちは苦手だ。
「うーん」
二人して頭を悩ます。リビングの外を見れば私たちの感情とは裏腹に綺麗な快晴だ。日曜日で、今頃かなめはキンジさんたちと外出だろう。台場だかどこかで兄妹デートだろう。羨ましい。兄さんと兄妹デートなんて数えるほどしかしていないというのに。
「こんな時兄さんならどうするんでしょうかね」
「……ふむ。蒼一さんですか」
なにやらレキさんの目がキラリと輝いた。
「……どうかしましたか?」
「ふむ――ここは私たち一家の大黒柱のやり方を参考にしますか」
なんというか、恐ろしく嫌な予感がした。
●
兄さん――つまり『拳士最強』那須蒼一にとっての戦友というはか女性陣から見て怪しくなるというか薄い本が捗りそうな人たちが何人かいる。
勿論それは今更言うまでもなく正逆であるキンジさんやその兄である金一さん、それに京都で一戦交えた張遼さんがそれにあたるだろう。あるいは戦友というには少し言葉が違うかもしれないが今は亡き握拳裂や教授も同じだ。その人たちに女には理解できない絆を生み出したのは、他でもない。彼らの魂とでも言える拳は刃を交えたからに他ならないのだ。
「だからってこの展開ですか」
場所は移ってお台場のマック、そのオープンテラス。私はかなめと向き合っていた。数メートルの距離を空けて互いの中央には無表情のレキさんと困り顔のキンジさんが。
「チキチキキモウト決定戦ー、どっちがキモウトの称号に相応しいのか。実況は私レキとキンジさんでお送りします」
「いや、あのキモウトとか止めてくれません……?」
「そうそう! 私はお兄ちゃん大好きなだけだし!」
例によってレキさんの酷い発言にドン引きしつつかなめと意見があう。一瞬目が合ってから、すぐに離したけれど。
「あの、決闘とか止めましょうよ。校則で禁止ですし。ホラ、キンジさんもなんとか言ってください」
「いいか遙歌。俺たちの共通認識でな――この電波嫁に暴挙はもう諦めてるんだ」
「それでいいんですか!?」
「どやぁ」
生暖かい目で空を見上げるに無表情でどやぁとか口で言うレキさんだった。
「というわけでまずは観戦の準備ですかねー。せっかく来たんだからポテトとか食べたいです。キンジさん買ってきてください」
「嫌だよ自分で行け」
「何言ってるんですか。つい最近パシリ騎士を手に入れたキンジさんならランスロットポテト三秒とでも言えば持ってきてくれますよ」
「そんなわけあるかぁー!」
「いいから。やってください」
「そんなことあるわけないだろうが……ランスロットポテト三秒。これでいいだ――」
「Yes,Your Majesty!」
「えぇー」
ホントに来た。
マック店内。それも店員の調理スペースから。フライヤーから上がった、揚げたてポテトがキンジさんの言葉と共に如何なる力加減かオープンテラスにまで跳んだ。
「トウッ!」
という掛け声と共に店員さんがレジカウンターを超えて飛び出してきて、
「ソルトォ!」
中空にて塩を振り、
「ハ!」
キンジさんとレキさんに落ちる直前でポテト全てを容器で受け止めて店員さん――というか言うまでもなくランスロットさんがポテトをキンジさんへと差し出した。この間実に二秒もない。
「ご賞味ください、我が王よ」
「何やってんだお前!?」
「勿論、かなめ君とデートというキンジ様を陰ながら護衛していました。ここで食事と聞いていたので忠義のマッククルーとなっていたました。食事に関しては原産地から調べ尽くし、僭越ながら私自ら作らせていただきました」
「マックの皆さんすいませんでしたぁー!」
全力でキンジさんがカウンターへと頭を下げていたら店員の人たちも笑って手を振ってくれていた。
「いや、あれどう見てもアリアさんたちですよね」
「スルーしようとしてたのにあっさり言うなよぉ!」
あの人たちは何をやっているのだろうか。調理スペースにはアリアさんや理子さん、白雪さん。レジカウンターには白雪さんやジャンヌさんに白雪さん。客席にはあかりちゃんや志乃ちゃん、ライカちゃん、麒麟ちゃん、桜ちゃんもいるし、やけに手慣れた手つきでモップを掛けているのは陽菜ちゃんだ。
なにこの大集合。
「アリア様たちはキンジ様を見守りに、あかりくんたちは先ほどばったりあってキンジ様がその手管でかなめ君を寵愛すると言ったら自発的に同行しました」
「なにやってんだよぉ……」
あまりの超展開にキンジさんが崩れ落ちた。その上でキンジ様ぁとか叫びつつさらに飲み物やら食べ物を運び出すランスロットさんである。
なんだろうこのコント。正直帰りたい。ふとあかりちゃんと目が合って、アイコンタクトでメッセージ。
『がんばれ』
「……仕方有りません。妹一匹那須遙歌、頑張らせてもいましょうか」
「ここら辺のちょろさは兄妹そっくりですねぇ」
余計なお世話と言いたい。
それにこれだけのギャラリーだ。今更やめましたなんて言えないし、確かに刃を交えることでしか解らないこともあるだろう。
「というわけですよかなめ。一戦交えましょうか」
「ふうん、非合理的ぃ。そもそもお前との勝負は買ってるしぃ」
「ほう? それは聞き捨てなりませんね。この私が一体どこで貴方に負けていると?」
「ふふん。勿論妹度だ! だってお前は――実兄と一線超えようとしてない!」
「ちょっと待もがぁ!?」
キンジさんが叫んだがレキさんに口にハンバーガーを突っ込まれて黙らされた。
それは置いておいて。かなめのその言葉には甘いと言わざるを得ない。思わず失笑してしまったら、かなめが目に見えて顔を顰めた。
「む、なにさ」
「甘いですね――そこら辺は平行世界の私がどうにかしてます」
「メタはやめろぉー!」
「くっ……! それがあったか……!」
「それで納得するのか……!?」
ちょっとキンジさんの突っ込みがしつこい。黙って観戦しててくれないだろうか。
「まぁ如何ながらブラコンキャラが被っているのは確かですからねぇ、えぇ。そこら辺は否定はしませんよ? 私は兄さんが大好きですからね。大好きだから胸を張りますとも。ならばこそ、私は胸を張って決闘をさせてもらいましょうか」
口端を歪めながらの私の言葉にかなめも笑みを浮かべ、どこからともなく刀状の高分子カッターやX字の自立駆動ベルト、それにヘッドセットを装備する。
「ふん。化物女だか何だか知らないけど精々いろんなスキルを使えるだけの女がなんだっていうのさ。この私の最新最強の先端科学兵装の前に何ができるのか見せてみなよぉ!」
●
ナノマシンのスキル『
●
「ま、これくらいはできますかね」
「――」
「やりやがったー! まさかとは思ったけどやっぱりやりやがったぁー!」
駆け抜けた私、武装や制服をぶっ壊されボディスーツ一枚になったかなめ、全力で突っ込んだキンジさん。それ以外の空気は完全に止まっていた。アリアさんたちはあきれ顔で、あかりちゃんたちは完全に呆け顔で。
「え……あ……なに、これ……?」
茫然としながらかなめが膝から崩れ落ちる。何が起きたか理解できていないようで、手の平の砕けた刀の柄の残骸を眺めながら息を漏らしている。そんなかなめに制服の上着が羽織らされる。キンジさんだ。
「あー、まぁ相手が悪かったな」
「……」
「えぇ、別にかなめが弱かったわけじゃあありませんよ。その証拠にSF系スキル百個出し尽くしたわけですからね。ちょっと私が強すぎただけですから気にすることないです」
「まぁこれで最強キモウトの座は遙歌さんのものですね」
「それは勘弁してほしいです」
本当に要らない。実妹最強とかならともかくキモウト最強とか切実に要らない。
「ふぇ……」
ようやくかなめの脳みそが現実に追いついたのか彼女が声を上げた。視線を集める中、彼女の目からじわりと光るものが生まれ、流れた。
どう見ても――涙だ。
涙を流した彼女は凄い勢いで立ち上がって、キンジさんの上着を被ったまま、
「うわぁああああん! お前の義姉電波女王ー!」
欠片も否定できないことを叫んで涙ながらに逃げ出した。
「……うわぁ」
「うわぁ、じゃなぇよ! あの恰好で泣きながら街走り抜けたら捕まるっつぅの! おいアリア! それに間宮たちもかなめ追いかけろ! ランスロットも!」
「しょうがないわねぇ」
「あ、はい!」
「Yes,Your Majesty!」
なんていう風にグダグダに始まった決闘はグダグダのままに解散という流れになって行った。
「なんというか……これ意味合ったんですか?」
「さぁ?」
さぁ、って。本当にかなめがさっき言った通りだ。
義姉が電波なのはどう考えても兄さんが悪い。
はいお久しぶりです。
少し開いたのは一次書いてたのも含めて、まぁご覧の通りです。
全開より苦戦してネタ塗れ。どれだけ解るかな……?
かなめとキンジの件に関しては大体原作通りで、あとで触れます。
こんな感じのグダグダな日常は終わり。
次回からシリアス。
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