落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第6拳「最終的なオチが見え見えというか」

 

「えーそれではついに実妹にもその厭らし恥ずかしな手を伸ばし始めた遠山キンジさんの裁判を始めたいと思います」

 

 レキさんがカンカンという木槌の音を鳴らす。真っ暗な部屋の中、たった一人スポットライトを当てたらて、机に付きながら彼女は変わらなず抑揚のない声で裁判の開始を宣言していた。普段見慣れた制服や私服でもなく、ゆったりとした黒いローブを着こんでいる。

 

「ではまず、被告人遠山キンジさん」

 

「……」

  

 レキさんの正面で新たなスポットライトが被告人――キンジさんを照らす。普段から無表情というか暗い顔のキンジさんではあるがスポットライトに当てられた今、より青い顔がはっきりと見える。普通に顔色が悪い、もしくは冷や汗がすごいことになっている。この人もまたカッターシャツに黒のスラックス。全身が縄で椅子に巻き付けられている。

 

「えー、まず検察側検事側?……まぁなんでもいいとして――神崎・H・アリアさん。どうぞ」

 

「はい!」

 

 新たなスポットライト。紹介された通りにアリアさんだ。彼女はネクタイ付き、パンツルックのダークスーツ。年と見た目だけ除けばいかにもやり手な女検事でだろう。

 

「おほん。えー、被告人遠山キンジは私という恋人がありながら――」

 

 なんか暗闇の中で誰かが抜刀する音が響いたが、無視されて、

 

「元々白雪や理子やら中空知やら風魔とかにも手を出しつつ、私が広い懐で愛人や使用人文化として受け入れていたのに――ついにこの男は実の妹の攻略に乗り出しました!」

 

「出してねぇ! 名前ないからつけてやっただけで――」

 

「静粛に。被告人には人権が許されていません」

 

「人権も!? 発言じゃもごもご!」

 

 どこからともなく出現したガムテープが張り付いて人権はともかく発言を封じる。

 

「はい。では引き続き、事実確認と弁護人のランスロット・ロイヤルティさんどうぞ」

 

「うむ!」

 

 四つの目のスポットライト。アリアさんと同じような黒いダークスーツと伊達眼鏡のランスロットさん。

 

「このランスロット、キンジ様の忠義の弁護人として任せてもらおう。全☆力で!」

 

「はいではそのまま、件の少女遠山かなめさんについての報告を」

 

 キランと眼鏡を光らせ、

 

「一週間前に私のクラスに転入してきた遠山かなめ嬢ですが成績優秀運動神経抜群対人関係完璧と一部の隙もない優等生と言えます。転校してすぐながらも他の生徒からの人望も厚く教職員側からの評価も高い。――えぇ、キンジ様の妾としては十分だと言えましょう。常に兄であるキンジ様のことをほめている辺り忠義ポイント高いです」

 

「ふぁんふぉふぁふぁひひへんふぁー!」

 

「いえ、しかしキンジ様。私はこう思うのですよ――王にとって愛人はステータスだと」

 

「ふぉほふぁー!」

 

 被告人に味方はいなかった。しかし塞いだ口で会話が通じている辺り凄い。これが忠義か。しかし王の味方に慣れていないような気もするが気のせいだろうか。

 

「では判決を――えぇ有罪ですね。ギルティ」

 

 即決だった。

 裁判ですらないですよねコレ。

 それ思ったのは私だけではなかったらしく、

 

「……これ微妙に面白くないですね。最終的なオチが見え見えというか。……遙歌さん、もういいです」

 

「あ、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチンと指を鳴らして部屋を暗くするスキルとスポットライトを当てるスキルとコスプレするスキルを切る。明るさを取り戻したは一週間前に直したばかりの男子寮の一室だ。白雪さんの炎で一度炎上したが、それでも私のスキルを使えば一晩で元通り。壊れたものを治すスキルとか物の時間を巻き戻すスキルを使いまくったので完全に修復されているはずだし、何かが足りないという話も上がっていない。

 勿論兄さんの物に関しては解らないけど。基本的に私物が少ない人というか共有物が多いというのに今更ながら気づいた。

 

「ほ、ふぉふぁへふぁ……」

 

 簡素なシャツとスラックスから制服に戻ったキンジさんが震えながら何かを言う。

 

「ふぃふぉほふぉうふぉふひほひへふふぁんふぁいふぉふぁふぁふぃほほふぁー!」

 

「何言ってるかわかんないわよ」

 

「ふぉへー!」

 

「しばしお待ちくださいキンジ様」

 

 ダークスーツと眼鏡から元通りの騎士礼服へと戻ってキンジさんの口に貼られているガムテープや巻き付いていた縄を取り払う。ぜぇぜぇいいながらキンジさんは崩れ落ちて、

 

「俺が何をしたっていうんだ!」

 

「実妹に手を出したんでしょう」

 

「名前付けただけだろ!」

 

 名前付けた――というのは中々重いことだと思うけれど。名は体を表すというし。

 GⅣの一線を超えるという問題発言をしてから一週間。爆弾発言に激怒していたレキさんすらもその手が緩み有耶無耶になってしまっていた。おまけに名前がないというからキンジさんに求めてちゃっかり『かなめ』なんて名前を貰っている。

 『金女』でかなめ。

 家族に弱いキンジさん――というか家系に少なからず問題を抱えている私たちだ。どうにも扱いに困る。兄さんの腕を斬り飛ばしてくれた恨みはレキさん共々忘れたつもりはないが、当の本人は戦意の欠片もなくキンジさんになついているように見える。

 

「というより、名前一つであそこまで喜ばれては……」

 

「攻めるに攻めれないのよねぇ」

 

「なら今の茶番はなんだったんだ……」

 

 そう、GⅣ――かなめさんはその名を貰った時に飛び上がらんばかりに嬉しがっていた。金の字に女と付けただけの意味もへったくれもないような即席の命名に、だ。それまで数字と呼ばれてきた彼女が名前を得たということはそれだけの意味があったのだ。

 他人ごとではないなぁ、と思う。

 私も、私たちも。

 と、スマートフォンが鳴った。それは私だけではなくてキンジさんもアリアさんもランスロットさんも。

 そしてレキさんは思い出したように、

 

「む、そろそろ時間ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

・銀聖女:『時間だ――師団の会議を今より始める』

 

・明 夜:『しかしあのぅ……私こういう機械には疎いんですが、こういうことをすまーとふぉんやぱそこでしてもいいんでしょうか?』

 

・実妹様:『キリコちゃんに作ってもらった専用チャットアプリなので傍受の心配はないと言っていいでしょうね。エシュロンでも傍受不可能と自慢されましたし』

 

・銀聖女:『そういうことらしい。私たちもそう簡単に一度に集まれるわけではないからな。メーヤやパトラなどは西洋のほうの戦役がメインだろうし、学生が本分のバスカービルや私たちでも行動範囲が絞られる。故に携帯端末で気軽に情報交換や会議ができる場は必要だろう。電話では言いにくいこともあろう』

 

・忠☆義:『ふむ。言語が自動変換されるというのは嬉しいですね』

 

・銀聖女:『今回は初回ということで全員に参加してもらっている。進行はまぁ私がやらせてもらうがな。今回の議題は――GⅢ、GⅣ、そしてロスアラモス・エリートについてだ。ワトソン』

 

・助 手:『あぁ。では僕の方から説明させてもらう。この一週間、彼らのことについてリバディー・メイソンが全力を当たって情報収集に勤しんだ。皮肉にも那須の行方不明が本部に本腰を入れたようだね……。ともあれ、まずGⅢについて。彼の情報はアメリカ支部の『非翼賛者名簿(アンアダプターズ・リスト)』に名前が載っていた』

 

・九尾狐:『なんじゃそれは?』

 

・忠☆義:『リバディー・メイソンのエージェントに勧誘されながらも断った者が載るリストですね。私も何度か勧誘されたことがあります。まぁ断りましたが』

 

・助 手:『そう、それに彼は載っていた。故にステイツの情報を当たったら少し苦戦したものの彼の情報は出てきた。調べれば中々向こうでは有名な男だったよ。えっと、画像はどうやって……あ、これか。じゃ、見てくれ』

 

・正性男:『……おい、なんのコラだこれは』

 

・助 手:『コラージュの類じゃない。本物だよ。これに写っている人もね』

 

・金王女:『誰じゃこれは』

 

・助 手:『なんで知らないんだ』

 

・毒 手:『ほら、私たちって基本的に無法者だから国のトップが誰とか関係ないのよ。誰であろうとも現場レベルでは同じだし』

 

・ルパン:『というか半分くらい無法者だしね、私たち』

 

・銀聖女:『おほん。まぁ全く罪を犯さずに生きていくのは難しいだろう。話を続けてくれ』

 

・助 手:『結論から言えばGⅢはアメリカをメインで活動していたRランク武偵だった』

 

・実妹様:『? そんなランクあったんですか』

 

・火巫女:『Sの上、基本的にどこかの国の王族とか王様の専用武偵だからRoyalでの頭文字でRランク。生徒会の資料で見たことあるよ。Sランクは毎年何人かいるけど、まだRランクは武偵高始まって以来一人もいないみたいだね』

 

・助 手:『Good。その通りだ。現時点ではたったの七人しかいない。日本にも一人いたが……ちなみにRランクの最低戦闘力は個人で一個大隊と勝利可能クラスだ。小さな国ならば一人でも制圧できる』

 

・実妹様:『……私たち結構いけるんじゃないですか?』

 

・緋 桃:『いけそうね。申請しようかしら』

 

・助 手:『いやいや戦闘力の話だからね。確かにバスカービルの戦闘力は世界トップクラスだが、Rランク武偵には護衛諜報捜査能力も必要とされる。戦闘特化のバスカービルのメンバーだと無理だろう。いや、遙歌君は別として』

 

・緋 桃:『解ってるわよ冗談通じないわねぇ』

 

・助 手:『えぇ……・』

 

・正性男:『ハハハ、女陣の中の野郎なんてこんなもんだ。早く慣れた方がいいぜって、あいた! おい蹴るなよアリア!』

 

・銀聖女:『痴話喧嘩はそっちでやってくれ、いちいち書き込まなくていい。ワトソン、進めてくれ』

 

・助 手:『あ、ああ。それでそのGⅢという人工天才(ジニオン)を生み出した計画が『ロスアラモス・エリート』。イ・ウーから流用した超人精製計画だ。つまり彼はそのある成果と言えるらしい。十代前半では驚くほどの異常っぷりを見せたそうだ』

 

・九尾狐:『なにやら釈然としない言い方じゃのう。なにかあるのか?』

 

・助 手:『ある、というかあったというべきだね。当初成功とされていたのだが……資料では発狂したとある。生まれ育った研究所を破壊して脱走している。その後政府は彼を抹殺しようと暗殺者を何人も仕向けているが誰一人帰ってこなかったらしい』

 

・緋 桃:『……殺したの? 武偵のくせに』

 

・助 手:『いや、そうではなくて仕向けられた暗殺者が全員彼に付いたらしい。全員が全員ね。今では政府は交渉説得をメインで行っているそうだ』

 

・正性男:『覇道ってやつか。そいや曹操はアメリカの覇道は終わっているとか言ってたけどな』

 

・助 手:『ちなみにGⅣ、かなめとドライは研究所でサードと共にいた人工天才らしい。――僕が調べれたのはここまでだ。遠山たちがかなめから聞いた話は今のところリバディー・メイソンでは発見されていない。かなりの機密のようだ』

 

・正性男:『……パトラ義姉さん、兄さんとの連絡は取れないまま?』

 

・金王女:『ないのぅ。こうしてヨーロッパまで来たりしているのに全く手がかりが掴めん。まったく新妻放り出して何しておるのやら』

 

・九尾狐:『こっちで張ってる結界にも引っかからんしのう。まぁそれは那須も同じじゃが』

 

・電波嫁:『あの男もどこになにをしているのやら……帰ってきたらお仕置きですね』

 

・九尾狐:『今代の瑠璃の姫はセメントじゃのう……』

 

・銀聖女:『GⅢたちの情報はこれくらいか。他に何か伝達事項はあるか? ないならばここで締めるが』

 

・電波嫁:『ふむ……』

 

・実妹様:『なにかありました?』

 

・電波嫁:『いえ、ただ――ここで終わったらオチがないなと』

 

・役全員:『それがオチだよ!』

 




説明会面倒だったのでチャット形式に。結構みんな行動ばらけてるので、何気に便利かも。



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