落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第11拳「――Yes,Your Majesty」

 キンジの構えは抜刀術のものだった。

 納刀状態から、鞘走りを利用することによって加速、射出させる剣速の最高速(ハイエンド)。戦闘中の納刀が必要不可欠であるが故に実戦での使用は難しく、一級の達人か馬鹿しかやらない技術だ。

 そしてキンジはどちらかというと馬鹿だ。

 緋刀に収斂された緋々の気。刃と鞘の中にて猛る波動は抜刀の切っ掛けと共に爆発し、加速を生み出す。同時、踵に当てていたバタフライナイフを地面ごと蹴りつけ瞬発。コンクリートと共に宙を舞う。

 瞬発し、鞘走った緋色の斬閃は――ランスロットに届くことなく白光に叩き落とされた。

 

「――」

 

 全身を淡く輝くランスロットの身体。それが先ほど開帳した彼の宝具『気高くは湖光の聖剣(アロンダイト)』の能力であることは明らかだった。キンジが放った抜刀斬撃は今彼が放てるものとしては最大級の一撃。小細工なしの一刀だったからこそそれを上回る威力を放つのは困難だ。

 それでもキンジは緋刀を振るう。

 

「おお……!」

 

 雄叫びと共に一気呵成に。『緋裂緋道(スカーレット・アリア)』の発動にて発揮される膂力と攻撃性。それは従来の『性々働々(ヒステリアス)』とは比べ物にならない。一閃毎が大気を切り裂き、ランスロットへと迫る。

 

「ハッ!」

 

 だが変わらずに届かない。緋々の異能を用いても圧倒的格差は埋まらない。騎士の剣技は冴え渡る。圧倒的技能。美しさすら覚えさせる超絶技巧だ。重く、速く、巧く、そして美しい。二刀にて繰り出される乱斬撃は秒間で二桁に達し、全てがキンジの身体を刻んでいく。

 

「ぎ、ぃ……がぁ……!」

 

 けれどその程度で今更キンジが止まるはずもない。

 『緋裂緋道(スカーレット・アリア)』。それは単なる膂力超強化や異能破壊だけではなく物理的な耐久力の上昇もある。それのおかげでランスロットの斬撃はキンジに致命を刻まずにすんでいる。無論、だからといって喰らいつづければ失血死するし、痛みがないわけではない。

 正直言えば痛いが、

 

「慣れたもんだぜ……!」

 

 叩き込む。本来片手持ちのスクラマ・サカスだったが、キンジは振りやすいように両手でも使えるように柄を延長させている。峰を右肩に載せて、突っ込みながら打ち込んだ。大ぶりの動作故に、その間にもランスロットの斬撃が全身に奔るが構わない。

 

「ハハ……!」

 

「フ……!」

 

 鍔迫り合いだ。

 振りおろしたキンジの一刀、それを十字に受け止めたランスロットの双剣。至近距離で緋色と純白にはにらみ合い、牙を剥き出しにして。体格的にはキンジが劣っているが、異能の発動がそれを帳消しにしている。数秒、二つの色の鬩ぎ合いが発生し、

 

「――!」

 

 一度距離を取り、激突を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 真っ直ぐな剣だと、ランスロットは思った。

 眼前にて騎士王の剣を振るう緋色の少年に対して、彼はそういう感想を持った。剣術のスキルに於いてはまだまだ拙い。京都での一戦に比べれば幾らか練度を上げているようだが、ランスロットからすればあまり変わらないレベルだ。彼が刀を使い始めたのは夏頃のことだというのだからそれを考えれば十分といえば十分だが。彼の本懐は拳銃と剣刃の混成戦闘なのだろう。二挺拳銃と刀、バタフライナイフ。先ほどの三次元的な双剣双銃はランスロットでも驚くほどの技術だった。ただ刀だけを使うよりも、それらを組み合わせた方が勝率は上がるはずだ。

 だが、少年は敢えて一刀のみを用いて自身に挑んでくる。

 ふざけているわけではないだろう。そういう人間ではないというのは先ほど理解し、漢として認めた以上それは疑わない。力を温存しているわけでもない。そんな様子はない、寧ろ一秒一秒全身全霊でキンジは刀を振るっている。それはつまり、

 

「私から学ぼう、ということか」

 

 ランスロットの武威を。剣技における最高峰を。最後の円卓の武練を今ここで見取っているのだ。

 なるほど理屈としては解らなくもない。キンジの仲間には星伽の巫女が大太刀使いだろうし、『絶滅少女(ジェノサイドガール)』がいるから、ある程度までの修行は可能だろうが、どうしても身内ということでわずかながらの余裕は生まれてしまう。だが、ランスロットはそのある程度の先にいる騎士であるし、キンジ対し、厳しさを抱いても、優しさを持つ理由はない。だから自分から武威を学ぼうというのは理由になるだろう。

 しかし、考え付いても実行する人間はどれだけいるだろうか。

 学びに行って、そのまま殺されてもおかしくない。少なくともランスロットは最初の応答の後は殺意をもってキンジへと斬りかかっていた。力及ばずで死ぬ確率は一体どれだけ高かったのだろう。今こうして生き残る確率など恐ろしくすくなかったはずだ。

 けれどキンジは今生きていて、確かにランスロットの剣を学んでいる。

 

「……」

 

 ランスロットが遠山キンジを知ったのは京都における前哨戦でのことだ。シャーロック・ホームズが死に、秘密結社イ・ウーが滅びたことは当然知っていた。近く『宣戦会議』が行われことも。けれど当初、ランスロットは積極的に関わる気はなかった。

 王を持たず、同胞すらもいないランスロットは自分が持つ円卓の武威を劣化させないようにただ漫然と時を過ごしていた。京都にて行われた相対戦の中継を見たのも気まぐれだ。彼の覇王が自ら動くというから気分で見たに過ぎない。

 そして金色の覇王と緋色の少年の戦いを見て驚愕した。

 一目見て解った。少年が振るう刀がかつて聖剣であり、女王から人外へと渡ったものであると。殻の中にある円卓の騎士としての因子が反応していたのだ。どういう経緯かは調べればすぐについた。

 シャーロック・ホームズを『拳士最強』と共に打倒した遠山キンジ。彼が剣を人外から受け継いだということを。

 当然英国は騒然となった。人外だからと手放した英国の至宝が極東の島国の少年が持っているなどと。だが、同時にその少年は神崎・H・アリアの守護者であり、シャーロック・ホームズの後を継いだものであり、曹操すらも認めた王の素質を持つ少年だった。

 故にランスロットが来たのだ。最後の円卓として少年を見定めるために。

 騎士とは王の剣であり盾だ。

 彼がその器でないなら斬り捨て、聖剣を奪還する為に。

 故に彼はかくあるべくしてキンジへと二本目の聖剣(・・・・・・・)を抜いた。

 

「――宝具開帳」

 

「――!」

 

 それは光と熱だ。全身の血液が沸騰するのではないかという熱量。汗が吹き出し、その汗が蒸発するという馬鹿馬鹿しいまでの高温はランスロットの双剣より生み出されていた。

 しかしそれでさえ発動前の余波である。 

 本命は次だった。

 

「避けねば死ぬぞ」

 

 簡潔な警告。宝具の開帳を宣言した直後の空白にランスロットはキンジに告げ、頭上にクロスさせた双剣を振りおろした。

 

「――『煌々たる熾天の日輪(ガラティーン)』」

 

 

 

 

 

 

 

 警告されなければ死んでいた。それも身体が一つ残らず蒸発するという形で。『緋裂緋道(スカーレット・アリア)』の異能破壊があっても、物理的な熱量は防げない――こともないのだが、今ランスロットが放ったのは純粋にキンジの強度を遥かに上回っていた。

 

「ハァーハァーッ……!」

 

 荒く吸う息すらも熱く喉が痛い。

 放たれたのは膨大な熱と閃光。空き島の地面の軌道上が融解してガラス状になるほど。市街地には当たらないように放ったらしいが、街中で放てばどうなるのか考えたくもない。

 

「ふむ、避けたか。範囲を絞ったが、加減したつもりはなかったのだがな」

 

 絶対嘘だ。

 滅茶苦茶加減し、放出前に忠告し、それから避ける時間までも作られたのだ。それだけ猶予を与えられたのだから当然避けただけのこと。閃光の斬撃砲撃。確かアリアや白雪が、これよりも規模は劣るが似たようなことができたはず。範囲を絞ったといっていたからその気になればより広範囲へと放てるのだろう。

 いや、それよりもだ。

 圧倒的破壊力はともかく――問題は彼が告げた剣の名だ。

 

「ガラティーン、だと……?」

 

 それは確かに聖剣だが――ランスロットのものではない。

 太陽の聖剣。それを握ったのもまた太陽の騎士であるはずの、

 

「そう、ガウェイン卿だ。だがな、遠山キンジよ。忘れたか? 私は最後の円卓だ。そして円卓とは王と、そして十二人の騎士が基本であるということを」

 

「……おいおいおいおい、ちょっと待ってくれよ」

 

 嫌な想像が脳裏を過った。少し、考えたくもないし、今まで考えもつかない最悪のことを。

 最後の騎士。最後の円卓。それをキンジは最後に残った円卓の騎士だと解釈していた。でも、もし――そういう意味ではなかったら。

 文字通り、最後に残った円卓だとすれば――

 

私自身が円卓なのだ(・・・・・・・・・・)。この身が王に尽くすべき騎士の円卓。ランスロットと名乗っているのは最も彼の血筋を受け継いでいるからに過ぎない。元々、かつての時代にても兄弟関係や親子関係のあったのだ。一度王を失い、残された騎士たちは後世に残すべく血を重ね、この私がいる」

 

 円卓の騎士は決して栄光だけの英雄たちではない。華々しいイメージの裏には裏切りがあり、策略があり、悪意があり、無関心があり、絶望があった。騎士王が滅びたのも他ならぬランスロット卿の背反から生まれた不和だったのだ。傷つけ合い、殺し合い、罵り合った。

 それでも、彼らは騎士としての気概を失わなった。

 いつか仕えるべき王を見出した時、今度こそ道を間違えぬように。衰えながらも剣を研ぎ澄ますことだけは怠らなかった。

 

「ランスロット卿、ガラハット卿、トリスタン卿、モルドレッド卿、ガウェイン卿、パーシヴァル卿、ベディヴィエール卿、パロミデス卿、ラモラック卿、ケイ卿、ベイリン卿――彼らの血が、誇りが私に流れ、彼らの剣は私と共に在る」

 

 故に『最後の円卓(ナイトオブゼロ)』。

 聖剣が、魔剣が、聖槍が、聖弓が。彼はその身にそれだけの宝具を宿しているのだ。

 

「さぁ少年よ。私だけではなく、私に流れる彼らにもその魂を見せるがいい」

 

 発せられる覇気はさらに強さを増していく。今は亡き、今は無き主だとしても彼の武威は損なわれることはない。十二人の騎士の魂を一身に背負った最後の円卓の騎士。未だ見ぬ宝具は少なくても十は存在し、さらに使われればキンジの勝率など那由他の彼方だ。

 ――それなのに。

 

「……なんで」

 

 キンジに、彼が必死に見えたのだろう。

 本気なのも解る。全力なのは最初に言っていたがまだまだギアは上がるのだろう。でもそれでもどうしてかキンジには彼が必死に見えた。

 必死というか、焦っているかのように。

 しかし満足に考える暇もなくランスロットは来た。

 

「――!」

 

 『煌々たる熾天の日輪(ガラティーン)』の効果は消え去り、最初と同じ『気高くは湖光の聖剣(アロンダイト)』発動状態。双剣から淡い白光がある。聖剣を切り替えたのか同時発動したのかは解らないが、最悪十二人分全員同時発動される可能性も考えなければならない。

 まぁそうなったらどうしようもないのだが。

 意地と気合いで我慢くらいしか思いつかない。

 

「どうした、臆したか!」

 

「く……!」

 

 剣速はここにきてさらに上がっていく。致命の一撃を避けるだけで精一杯であり、受けた傷は数えるのも億劫だ。『緋裂緋道(スカーレット・アリア)』が発動していなければとっくの昔に死んでいただろう。

 

「お、オオッ!」

 

「シィ!」

 

 一刀と双剣が交わり、白刃が緋閃を食いつぶしていく。どれだけの時間が過ぎ去り、どれだけの刃をキンジは身に受けただろうか。こちらがボロボロであるのに対して、ランスロットの傷はあまりにも軽微だ。

 

 けれど、だからこそ、キンジは今自分が生き残っていることに疑問を感じた。

 

 そもそもキンジからすればこんな決闘が実現していること自体が謎なのだ。なるほど確かに自分が振るうのは英国の騎士王の剣で、国宝だという話なのだから手に入れようとする者がいてもおかしくないだろう。寧ろ、当然のはずだ。だからキンジとしては『宣戦会議』の時点でランスロットの名前を聞いたとき普通にやべぇと思った。なのに彼は一瞥するだけに終わった。神崎かなえの裁判の帰りにヒルダと共に現れた時は実はついに来た、と思いつつ一度は知らぬふりをしたわけだが、

 

「ふさわしいかどうかって」

 

 問答無用に刀を奪っていいだろうものを、なぜか彼は決闘という形を望んでいた。

 おかしいだろう。

 なぜわざわざそんな過程を踏む? 騎士としての流儀? いや、ランスロットは場合によっては不意打ちも行うのだから野試合だって構わないだろう。それなのに決闘。態々ワトソンに手紙を書くのを手伝ってもらい正式な手順を踏むまでやっていた。おまけに円卓の現状や覇道について、さらには自分の能力の一端まで言いだし――そしてその上でキンジに器を見せろと言う。

 そう、ランスロットは一貫して聖剣を所持していることではなく、所持するだけの器があるかを問い続けてきた。

 似ているようで――全く別物だ。

 

 だってランスロットはキンジの王の器を魅せろと、示せと言っているのだ。――彼がキンジにそれがあることを望んでいるかのように。

 

「――あぁ」

 

 そしてキンジは気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランスロット、一つ言っておく」

 

「……?」

 

 唐突に足を止めたキンジにランスロットは訝しみながらも動きを止めた。これまでこちらの話を聞かせてばかりだったら、畏まって言いたいことがあるならば聞こうと思ったのだ。勿論ここで命乞いとか言いだしたら即殺しようと思った。

 勿論そんなことはない。

 そしてキンジはランスロットの目を見て、真っ直ぐと、その緋色の眼光を飛ばし、

 

「――俺はお前が求める王様なんかじゃない」

 

「――」

 

 ランスロットの目が見開かれた。ほんの僅かだけ足が下がり、動きが止まる。停止していも、即座に動けるようにしていたはずにも関わらず、その緊張が消えてしまった。ほんの僅かに生じた隙で、一瞬後には補正されたがそれほどまでにキンジの言葉はランスロットの核心を付いていた。

 

「お前は俺に王であってほしいんだろう……違うか?」

 

「なに、を」

 

「考えりゃわかるだろ」

 

 考えれば。

 ランスロットという男の、遺された、残された最後の円卓のこと、彼の心を考えれば。

 彼の心を蔑ろにすることなく、彼の心に向き合ったのならば。

 きっとすぐに理解できることだ。

 

「生きる意味と戦う理由。俺の友達はそれを何より大事だって言っていた。それがあるのとないのとじゃあ、生きているのと死んでいるくらいに違うってな。それは俺も同感だぜ」

  

 それは那須蒼一にとってのレキで。

 遠山キンジにとっての神崎・H・アリアだ。彼女がいるからキンジは戦っているし、きっとバスカービルの仲間たちだってそれぞれにあるのだろう。

 でも、

 

騎士(アンタ)にはそれがないんだよな。守るべき主も、仕えるべき王も、捧げるべき忠義も、生きる意味も、戦う理由も」

 

 だったらそれは騎士として――死んでいるのも同じだ。

 例え限界にまで届いている武威を持っていても。

 かつての円卓の騎士の宝具を継承していても。

 それじゃあ意味がない。

 

「……知ったような口を」

 

「知ってるさ。俺は誰よりもあんたらみたいなやつを知っている。……そういうやつらばかり見てきたからな」

 

 生きる意味や戦う理由がなくて、まるで迷子になっている者たちを。それはかつての蒼一やレキやアリアだった。多分、自分も似たようなものだろう。

 蒼一が死にたがりばかりと出逢ってしまうように。

 キンジもまた出逢ってしまうのだ。

 彼らのような一人ぼっちの寂しがり屋に。

 だから蒼一が彼らに生きてほしいと願うように、キンジもまたそういう人たちには居場所を見つけてほしいと思う。

 

「俺はアンタの求める王にはなれないし、なりたくもない。俺は俺だから。けどな」

 

 もし、居場所がないっていうなら――自分が一緒に居場所を探したいと思う。或は自分が居場所になったり。

 

「もし他にアンタのそういうの(・・・・)がないなら、俺たちのとこに来ればいい。退屈はしないぜ。率いるとかそういうのなしに、どいつもこいつも好き勝手やってるんだからな」

 

 そして言葉と共にキンジは緋刀を納刀した。左膝を落としながら後ろへ、右膝は浅くまげて前に。腰は可能な限り回して、左手を鞘を、右手は柄を握る。『緋裂緋道』発動時に放ったのと同じ抜刀術の構えだ。

 決着の意思を込めたキンジの構え。

 それを前にして、

「――」

 

 ランスロットは言葉を失っていた。勝手な物言いだった。キンジの言葉にランスロットは肯定をしなかったというのに、キンジは勝手に言って、勝手に納得してしまった。滅茶苦茶だし、支離滅裂だ。子供が好き勝手にしているようにしか聞こえない。

 それなのにランスロットの胸には確かに響いていた。

 

「ふ、ふふ……」

 

 何故だろう。意味が解らない。あんな言葉のどこに心を打たれる要素があったというのだろうか。ないはずだ。こんなことを言っても笑われて馬鹿にされて終わるに違いない。演説や懐柔としては不合格としか評価できないだろう。

 それでも確かにランスロットには笑みを浮かべていた。

 理由なく、根拠はなく、原因なく、理屈なく、所以なく、道理もない。

 あぁ、なのにたまらなくなってしまうということは、

 

「あぁ、ならばこれこそが――」

 

 胸に生まれた想いのまま、ランスロットは疾走を開始した。

 

 

 

 

 

 

「緋刀・錵、限定奥義――」

 

 居合の構えを見せるキンジの波動は留まる事を知らない。戦闘開始時点に比べれば、ランスロットとの決闘にて飛躍的に高まった武威。元々カウンターに関しては先天的な才覚を持ったキンジはタイミングを誤らなかった。

 

「『気高くは湖光の聖剣(アロンダイト)』……!」

 

 しかしランスロットもまた全身を包む白光を高める。用いるのはかつての自分が振るった聖剣にして魔剣。十二の宝具全てを彼は十全に扱えるが、名は体を表すというべきか最も信頼しているのはこの湖の剣だった。

 その力はありとあらゆる概念を断滅させるという能力だ。

 刀身が捉えた者ならば物質であろうと、概念であろうと、不定形なものであろうと、霊体であろう、思念だろうと関係なく。絶対に打ち勝ち、断ち滅ぼすという破格の異能。単純故に小細工できない力だ。その気になれば緋刀も緋々の気を纏ったキンジも斬滅することは可能だった。先ほどは行わなかったが、最早そんな加減をするつもりはなかった。

 正真正銘、掛け値なしの全身全霊。

 行く。

 そしてランスロットは見た。

 

「――」

 

 居合の構えを見せるキンジの背後、同じ構えをした巫女装束の少女を。誰か、というのは一応知っていた。キンジの仲間の巫女。京都にて色々淑女にあるまじきことを叫びながら、色々複雑な想いをさせられた少女だ。

 言うまでもなく星伽白雪。 

 そしてランスロットは今から放たれる抜刀斬撃が少女のものではあるとは気づかなかった。

 星伽候天流『緋々星伽神』。

 刀という武器を用いたキンジが彼女から教わった奥義の一つ。

 冠した名は、かつて共に七夕で始めて彼女が得た小さな自由の証。あの時はキンジと白雪とアリアの三人だったが、今度はもっと大人数で、もっと自由を楽しめることを願って。

 巫女との絆が至高の一刀となって発揮される。

 

「――輝き星花火」

 

 ギンッ(・・・)、という音がし――その時には終わっていた。

 それは緋々の一刀が純白の二刀を断ち切った音だった。

 ありとあらゆるものを断滅する力を持った異能。なるほどそれは確かに強力無比ではあるだろう。

 けれど同時にありとあらゆる異能を破壊するのが緋々色金の力なのだ。そして純粋な強度では劣ろうとも愛と絆を力にするのもまた色金の力だ。

 振りぬかれた緋色の閃光。それは双剣ごと白光を断ち切り、ランスロットの胸に横一文字に斬撃を深く刻んでいた。

 

「――あぁ」

 

 そして彼は崩れ落ちる。崩れ落ちて――憑き物も落としながら。

 口元には確かな笑みを浮かべながら。実際はまだまだ戦ることはできた、今の一撃を喰らってはそんな気になれないし、なんとなく自分が結局負けるだろうなと思ったから。

 いいや、結局負けるというか、

 

「私の、負けです」

 

 『最後の円卓(ナイトオブゼロ)』ランスロットは敗北を認めていた。

 あの時のキンジの言葉に胸を打たれてしまった時点で彼の負けだったのだ。キンジに見入って、魅入ってしまったのだから――勝てるものも勝てない。

 そして崩れ落ちたままに、動けると言っても決して浅くはない傷のままで膝をつき、荒い息のままのキンジへ頭を下げた。

 

「貴方の言葉、この胸に届きました。我が王よ、今よりこの身は貴方の剣となり盾となることを誓いましょう」

 

「……いや、アンタ何言ってるだ」

 

「王が言ってくれたではありませんか。己に仕えればいいと。このランスロット、その言葉受け入れたい所存であります」

 

「いや、あれは戦友とか仲間的に意味で言ったわけで」

 

「この身が朽ち果てるまで、私の全てを王に捧げましょう」

 

「聞いてねぇ……」

 

 顔をひきつらせながらもキンジは困ったように頭を掻く。着流しが元々真紅だが解りにくいが頭部からの流血は酷く視界も真っ赤だ。正直このまま失血多量で気を失わないかなと思ったけれど、残念ながらそんな上手くいかなかった。

 一度嘆息し、そして全く動かず自分に跪き騎士を見て、

 

「勝手にすればいいさ。言ったろ、うちはどいつもこいつも勝手にしてるやつしかいないんだから」

 

 そんなぶっきらぼうな、けれどどこかに温かみが含まれた言葉に対して、

 

「――Yes,Your Majesty」

 

 忠義と忠節を以て答えた。

 答えることが――できた。




白雪の花火イベントとかあんま描写してなかったけどありました。原作と違って、アリア付きだったけど。

あと騎士王の血がないとかいいながらランスロットにモルドレッドの血流れてるじゃんとか突っ込んだらダメ(
ここでは血というか魂とかの話なので。

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