落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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おひさおひさ。二週間ぶりくらいですかねぇ。
原作最新刊で出てきたフランスの場所いってここが……とか見てきました。
まぁフランス編がどうなるのか激しく謎ですけど(



第6拳「決闘する――そういうことさ」

 

 

 結論から言って人間関係において俺たちは壊滅的だった。

 いやもう自分たちながら悲しくなるほどの脳無しだったのである。キンジアリアワトソンによる三角の修羅場が形成されてからしばらくたったわけだがその間に『チキチキ波乱の幕開けとかまじ面白いけどマジどうしよう?会議』の回数は二桁を超え、一年生ズたちとかも巻き込んだが全然進展しなかった。というかあの一年生ズは軽く百合の華が咲いているので意味がないのも当然であった。

 遙歌が目覚めたらどうしよう。

 まぁそれはそれで妹の人生なので俺には止められない。

 いや、どこの馬の骨とも知れない奴がアレの隣にいるとかそれはそれで我慢ならないのであの一年生ズ女の子ならば安心といえば安心なのかもしれない――などと本人に言ったら兄妹喧嘩で空き島が吹き飛んだので妹の恋愛関係にはなるべく触れないようにしよう。

 いやまぁ男連れてきたら口は出すけど。

 そこら辺を考え出すと終わらないので今は置いておいて。

 真剣にあの三角関係が問題である。なにが問題だってキンジもアリアも最近はかなり不機嫌で周囲との関わり合いが控え目になっていて、ワトソンは休息に周囲に溶け込んでいるということだ。あの王子様然としたワトソンは恐るべき人心掌握術――求心力やカリスマとは何か違う――で武偵高中の生徒から人気を集めていた。おまけにやたら学校に寄付しているので教師陣にも受けがいい。いやほんと感心するほかない。一時期学園内で勢力を伸ばしていたジャンヌファンクラブとかもワトソンファンクラブに移動したりしているらしい。まぁ武偵高の生徒はかなりノリがいいので流行というがあったりなかったりするのだろう。

 FEWに参加しているバスカービルやジャンヌ本人へのアクションはこれまではなかったがそれも時間の問題だろう。

 時間の問題というか、

 

「はじめましてこんにちは。エル・ワトソンだ」

 

 ごくごく普通に挨拶をしてきた。

 

 

 

 

 

 

「……はじめまして、那須蒼一だ」

 

 強襲科の体育館。同学年の強襲科連中相手の組み手で千切っては投げ千切っては投げのリアル無双をしていた時のこと。キンジやアリアは任務でそれぞれ出ていて二人の姿はない。だからだろうか、ワトソンは極々普通に死屍累々となった生徒たちの間を縫うように彼は現れた。あの時の交差点のようにあくまでもただの徒歩である。なんというか奇襲好きな知り合いが多いので違和感があるがまぁ押し殺す。

 ごく普通の挨拶だが一般生徒が周囲に多い今の場でFEWの話をされても困るのだ。だから俺も普通に返す。

 

「Good。教室は同じでもちゃんと会話するのは初めてだったからそうやって挨拶してくれるのは嬉しいよ」

 

「そいやそうだな。それで? 俺に何の用だ。お前って確か衛生科(メディカ)だったよな」

 

 女子ネットワーク曰くニューヨークで強襲科、マンチェスターで諜報科。そしてこの東京で衛生科と卒がなくこいつは身に着けている。これに加えて対魔スキル持ちでもあり、なんちゃらとかいう結社の一人だったりするらしい。

 

「そう、確かに衛生科である僕だが、この別の科を履修するのは珍しいことでもないだろう? なに、そんなに難しいことじゃないさ。僕も一応バリツの心得があってね。『拳士最強』と呼ばれる君と少し拳を交えてみたくて、さ」

 

 なんか倒れていた女子から黄色い声が上がった。

 倒れていた男子からも殺せの声が上がった。

 解りやすい奴らだなぁと嘆息しつつも、体育館の端っこでパイプ椅子に座って酒瓶を傾けていた蘭豹を見る。

 

「くかー……くか……」

 

「寝てんのかよ!」

 

「――くかー……」

 

 寝続けていた。

 最近強襲科の白兵訓練は俺対他ばっかでアイツ仕事していない。指南というのは不得手なので一年相手は滅多にないが、二年三年を殴りまくる作業は俺の仕事になっていた。訓練というにはあまりにもアレだが、荒事専門なのだから荒事でいいだろう。一応蘭豹も寝ているように見えて、何かあったら教師として動く……のだろう。多分、そうであってほしい。

 とりあえず蘭豹は寝たままなので問題ないのだろう。

 

「……いいさ、来いよ。授業(・・)だしな。お安い御用さ」

 

「そう、授業(・・)だ。気楽に頼むよ」

 

 笑顔と共にワトソンは動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――」

 

 初動は早くはなかった。白兵技術の授業なのだか接近しなければ始まらない。だから当然ワトソンは前に出た。苛烈さや速度はないが無駄のない、けれど緩く絞り出しながら重心を先に運ぶ動きだった。つまりは予測しづらい。普通だったらなんの予備動作もなくいきなりワトソンが飛び出したようにしか見えないだろう。バリツ――つまりは総合格闘技(バーリ・トゥードゥー)を持っていると言っていたがそれよりも風魔ちゃんが使うような忍体術に似ている。もっと言えば俺の我流のソレにも近い。滑るように、流れるように。強襲科の授業で着るのは少し大きめの白トレーニングシャツとジャージだ。基本的に腰や脇に拳銃やナイフを装備しながら白兵訓練を行う生徒もいるが俺は言うまでもなくワトソンも完全な徒手空拳。

 繰り出されたのは無拍子の肘打ちだった。

 小柄な体をさらにコンパクトに縮めながら首の付け根、鎖骨の中心あたり狙い。初動は遅かったが射出中に速度を載せて、肘という固い場所も考えれば十分に相手を無力化できる一撃だった。

 勿論それは相手がただの犯罪者が相手だった場合なのだが。

 

「あっぶね」

 

「むっ」

 

 普通に危ない一撃だったから普通に避けた。無駄がなく、読みづらい動きだとしても俺の目には一目瞭然であり、全ての動きを捉えているのだから回避は容易い。後退しながらの回避を行い、その肘を握り固めて受け止める。肘を伸ばして次の打撃を繰り出すのを止める為だ。そして開いている逆の拳を握りしめて振りかぶり――肘をフェイントとした膝蹴りへとぶつける。

 

「これもダメか」

 

「悪くないけどなぁ」

 

 というか性質の悪い動きだ。

 まぁこれも授業なので、

 

「続けるぜ」

 

「当然だ」

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや。Goodなんて言葉で片付けられるほどではない。『拳士最強』、情報や映像では知っていたが直に体験すると違うものだ。いい経験になったよ、那須」

 

「そりゃ重畳。ま、俺もただ無双するだけよか実りのある時間だったな」

 

 実際ワトソンの体術のスキルは結構な強度だった。一流とまではいかなくても、二流ではない。その中間くらい。武偵高の生徒ととしてはかなりの上位だろうし、十分実戦でも通じるレベルだ。

 

「ふむ、那須。不躾だが君に一つ聞きたいのだがいいかい?」

 

「あ? そりゃまぁ内容によるけどな」

 

 何気にフレンドリーだなぁとか思いつつ答える。訓練を終えて流した汗を拭き、流した水分を補給しながらの会話だ。

 

「なに、答えたくなければ答えなくてもいい。そして難しい話でもないし、詳しく言わなくてもいいさ。僕が聞きたいのは――君はどういう訓練をしているのだい?」

 

「……はぁ? 訓練?」

 

「そう。訓練、修行でも修練でも言い方はなんでもいいが自分の強度を上げるための行為のことさ。君はそれをどういう風に行っている?」

 

「そりゃあさっきみたいに組手とか模擬戦とか……」

 

「意味有るのかいそれは」

 

「――」

 

「『拳士最強』である君の武威は最早語るまでもなく他の追随を寄せ付けないだろう。今こうして少し手合せしただけで僕では格闘技能に関して絶対に及ばないのは明白であり、それは他も同じはず。君の妹であってソレは同じだろう。そして僕は考えたわけだ。――君はどうやってその武を研鑽し維持しているのだい? ……まぁ勿論答えなくてもいいけどね」

 

「……あー。いや、別に大したことはねぇよ」

 

 武威の研鑽と維持。いかにしてそれを行っているかというのはまぁたまに聞かれることでもある。三つ子百までなんとやらと言いつつも武術というのは保つのは大変だ。だから毎日の修行は欠かせない。まぁ誰かに教えることで学ぶことができるともよく言うが、当然ながら俺に教導のスキルはないし、それから学ぶというの微妙だ。夏休み間における修行では格闘スキル仕様の遙歌との模擬戦がメインだったわけだが、ワトソンの言いたいことは解る。

 自分より強い者と戦わずにどうやって武を高めるかということ。

 

「俺と同格の拳士はシャーロックとかいたし拳士じゃなくても張遼とかランスロットもいる。あそこらへんとやり合うのはいい経験になったしいい経験になるだろうな」

 

 実際にシャーロックや張遼との戦いはいい経験値になった。技術的にはこの学校に入学した時点でカンストしていたのだが、瑠璃色金の力で身体能力の限界値は上がってより概念的な戦闘が可能になっている。そういうのもあいつらと一戦交えなければ今の強度にまで至ることはなかった。

 

「維持も研鑽もちゃんとやってるよ。つーか俺の場合は忘れように忘れられないって感じだしなぁ……」

 

「哀愁漂わせている姿でちゃんとやっていると言われても納得しづらいがそこら辺はまぁ君の事情だし触れないでおこうか。君の武が損なわれないというならばそれでいいのだから」

 

「心配してくれてどうもありがとう。けどその心配はしなくても大丈夫だよ」

 

「Good。いい心がけだ」

 

「Thanks」

 

「……驚いたな。ちゃんとした発音になっているじゃないか」

 

「これでも一時期世界放浪してたんだぜ。こんにちわありがとう失礼はいいいえくらいの英語は言えるさ」

 

「世界放浪してそれくらいしか言えないっていうのはどうかと思うけどね」

 

「それを言っちゃあいけないぜ」

 

 あとは拳で語ればいいのだから。それでなんとかなったし。会話は全部あの人がやってたな。

 ワトソンが立ち上がる。しかしこいつよく見ればスポーツドリンクもタオルもやたら高級そうな特別仕様だ。こういう所をさり気なくするから人受けがするのだろうか。

 そこら辺よくわからん。

 

「さて、僕はこれから装備科の平賀さんのところに行くつもりだったのだが、もし僕に聞きたいことがあれば聞いてくれ。お近づきのしるしと質問に答えてくれた礼だよ。例の件に関しては口を閉じさせてもらうけどね」

 

「聞きたいことねぇ……」

 

 キンジとアリアとはどうなっているのかとか言いそうになったがそれについてちょっかいかけるのは諦めたので聞くのは止める。それ以外だとワトソンの所属するリバディー・メイソンが師団眷属のどちらに所属するつもりなのか聞きたいがそれは先に止められた。俺としても学校でその話題はしたくない。

 その他で聞きたいこと。敵でも味方でもない現状で、こういう質問をできる機会は稀だろう。その上で聞きたいこと。

 例えばその精神を豹変させてしまった仲間のこととか。

 知りたいとは――思う。 

 だが、

 

「別にない。気にすんな」

 

 本人から聞いて知りたいのだ。彼女(・・)の口から話してほしいと思う。

 だから聞かない。

 

「そうか。ならばいい。それでは僕はこれで失礼しよう」

 

 スポーツドリンクやタオルを手にしてワトソンは立ち去ろうとした。立ち去ろうとして、立ち止まる。

 

「あぁ、そうだ」

 

「?」

 

「これは質問でもお願いでもなんでもないただの告知というか知っておいてほしいことなのだが」

 

 それは振り返ることをせずに発せられた言葉だった。告知や知っておいてほしいと言っているが、それはまるで釘をさすように言い方だった。

 ――邪魔をするな、と。

 

「近いうちに――僕は遠山キンジを決闘をする」

 

「……なんだって?」

 

「エル・ワトソンは神崎・H・アリアを掛けて遠山キンジと決闘する――そういうことさ」

 

 

 

 

 

 




つーわけで色々伏線+ワトソンの蒼一懐柔回。
ここでレキとか遙歌とかいれば何かしらの情報を得られたんだろうけど蒼一一人では無理ですね(
まじ殴る以外は無能な我らが主人公。
どうでもいいけどそこそこバトルインフレしてきてなんとなく各キャラの簡易能力値とか作りたくなるこの頃。
あとHYAKUSYOとかも書きたい。蒼一VS恋か蒼一VS一刀(魔改造)とかね。迷う。

あとなんか九月九日はレキの日だとか。レキへ土下座するがいい貴様ら(
そして戻ってきてレビューというか推薦実装されていてびっくり。
感想共々書いてもらえると嬉しいです。

では次回よりバトルー

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