落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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レキは元々(ry


第2拳「首輪似合いそうと思っていましたから」

 

「起きてくださいお兄ちゃんっ」

 

「……」

 

 朝俺の意識を覚醒させたのはそんな声だった。背中にはフローリングに敷いた布団と枕。元々この部屋に住んでいたアリアとレキ、夏休み以降頻繁に泊まり込むようになった白雪や理子に遙歌たちのによってこの寮の部屋は住み分けができていた。と言っても厳格なものではなく元々のベッドが多い寝室はキンジやアリアが。元々趣味用の部屋を俺やレキ、遙歌の那須家が寝室のようなものとして使っていた。勿論リビングは変わらず共用だし、食事はそれぞれに用事がない限り一度に取っている。

 ともあれ今現在この元趣味部屋、現那須家寝室を使うのは三人で、普段も川の字で寝ている。一番右がレキ、真ん中俺、そして左が、

 

「……なにしてんだ遙歌」

 

「妹キャラらしく兄さんを起こしてあげようと」

 

 なるほどそれはありがたい心がけだ。時計を見れば普段の起床時刻より十分ほど後。寝過ごしてはいるもの、遅刻になるほどではない。遙歌なりに昨夜の疲れを配慮して限界まで眠らせてくれたのだろう。疲れていたのは確かで、隣のレキもいまだにくぅくぅ寝息を立てて眠っていた。

 今朝も我が嫁は可愛い。

 そしてもう一人の我が妹は、

 

「どうでしたか? 可愛くないですかね?」

 

 メイド服姿で馬乗りになっていた。

 メイド服。

 どこからどう見てもそれにしか見えない。いや、視る限りやたらオーソドックスでフリルなどの遊びが少ない本格的のものなのでメイド服というよりは侍女服。半年前にレキが来ていたようなものに似てる。 最近は制服が増えたとはいえ基本的に遙歌は和装が多いから捻りがない侍女服でもかなり新鮮である。

 

「……そりゃ似合ってるけど、なんでそんな恰好してるんだ。というかどこから持ってきた」

 

「スキル使って自分で作りました。なんでこんな恰好かというと、まぁそれはすぐに兄さんにもわかりますよ」

 

「もったいぶるなぁ」

 

「それより、どうでしたか? 妹に馬乗りになりながら起きるというイベントは? 兄さんが望むのでしたら――プロレス技でもバールのようなものでもぶつけますよ」

 

「こわいよなんでそんな物理だ。どうせ起こすならもっと甘めにしてくれ」

 

「じゃあ今度からもこうやって妹らしく楽しく優しく可愛く起こしますねー」

 

「頼んだよ妹ちゃん。じゃあそろそろ退いてくれ。レキ起こさないと時間もまずいだろうしな」

 

「はぁーい」

 

 笑いながら返事をして遙歌は扉へ。俺は一度伸びをしてからレキを起こそうとする。部屋を出て行こうとした遙歌は一度振り返ってから微笑んで、

 

「おはようございます、兄さん」

 

「おはよう、遙歌」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁら。ふぉふぁふぉう、ふぉういふぃ」

 

 起こしたレキと共に顔を洗いに行った洗面所で遭遇したのは、歯ブラシを口に突っ込んだアリアだった。

 

「おう、おはようさん。他のメンツは?」

 

 質問にアリアは区とを濯いでから、

 

「起きてるわよ。あとはアンタとレキだったけど」

 

「そか……お前さんの調子はどうだ? あとついでにキンジも……」

 

「!!」

 

 キンジの名前が出た瞬間にアリアの顔が真っ赤になった。

 

「――ほほう」

 

「お、覚醒したのか」

 

「えぇなにやらおもしろい匂いがしたので」

 

 すげぇ嗅覚だなと思いつつ、アリアを眺めていれば赤面しながら百面相をしていた。赤面と百面相はぶっちゃけレキの電波並のアリアの得意芸なので見慣れているといえば見慣れているが、しかし今回は中々に激しい。

 なにかあったのか。

 

「な、ななにもないわにょ!」

 

「にょって……」

 

「かわいいですかにょ?」

 

「完全無表情はちょっと」

 

「なんでもなかった、そう。なんでもなかったのよ……! ――というかなんでなんでもなかったのよ……!」

 

「よし錯乱してるので放っておこう。さぁ顔を洗って行くぞー」

 

「見ているだけでも面白いですけどねぇ」

 

 赤面したままで何やら文句を言ってるアリアは一見して普段と変わらない。

 変わらないようだが――変わっている。

 『殻金七星』。

 それが昨日アリアから飛び出した光の名前だった。

 イロカネという物質が心に繋がる金属であるというのは既に何度も明らかにされていたことだ。ただそれにも種類があるというのがあの狐ロリこと玉藻の言だった。

 超能力や異常、過負荷に影響を与える法結び。

 『瑠璃神之道理』や『緋裂緋道』、レキやキンジの光弾や武装強化等感情に直結する法結び。

 大質量の色金の保有者――つまりレキやアリア、それの眷属である俺やキンジなどは後者をやりすぎると精神に影響が与えられるらしい。

 以下、玉藻解説。

 

『最悪の場合――憑かれ、憑りつかれ、祟り神となってしまう

『恋と戦と本能の緋々神と無と虚と理性の瑠璃神。静と動。相反する二つの禍神。生まれ落ちれば世に災いをもたらす存在じゃ。そうなる可能性をお主たちは秘めている。勿論精神を律すれば制御できじゃろうし、相応の対策が立てられておった

『じゃが――ヒルダによってアリアのそれは砕かれておる

『三年間かけて形成される心結びのみを断絶する七枚の殻……『殻金七星』。本来ならば法結びのほうだけを使えるようになったおったはずじゃがアリアもレキも若干緩んでおるの。それがキンジや蒼一のそれぞれの力になっておる

『あぁ、それ自体は問題ない。というよりそれくらいの想いを生み出せなければ守護者は務まらん

『だが、今のアリアには余裕がない。

『放っておけば――遠くないうちに緋々神になるじゃろう

『二つ戻したからしばらくは大丈夫じゃろうが……もって二年程度じゃろうな』

 

 それが玉藻の見解だった。

 玉藻はイロカネのプロフェッショナルらしいのでおそらく正しいのだろう。白雪や遙歌、レキたちも否定はせずに各自で動いている。昨日は深夜三時くらいに一度集まってアリアの現状を聞いた後からジャンヌは帰って来ていないし、白雪は捜索の後から水天宮に出かけている。 

 リビングへと入ればキッチンでは食事の準備をする遙歌。それにテレビもつけずソファに体を沈めていたキンジがいる。

「……蒼一か」

 

「よう、おはよう。どうだ調子、アリアはなんか普通そうだけど……いや、なんでお前そんな顔腫らしてるん?」

 

「あいつ記憶飛んでるらしい、後で俺が説明するから余計なこというなよ……顔のことは気にするな。いつものことだ。そういつも、いつもの……」

 

「おーい、帰ってこーい」

 

 声を掛けたたが反応が薄い。まぁ昨日の今日だし疲労がたまっているのだろう。俺だって昨日アリアに起きたことがレキに起きれば平静でいられる自信はない。

 まぁ実際それに加え、メーヤが飲み散らかした酒瓶と首の傷と記憶喪失のせいで勘違い(・・・)したアリアに物理的にフルボッコされて動く力がなかったというのが大きかったのだが。

 まぁつまり今の俺にできることはなにもない。

 

「……飯食べるか」

 

 朝飯は一日の活力なわけだし。我が道を往くレキは既に席についてもきゅもきゅと遙歌の作った朝飯を口に詰め込んでいた。げっ歯類か。

 見ればアリアも戻ってきて席についてる。顔が若干赤く、こちらを全く見ようとせずにレキや遙歌と話している。遙歌の侍女服はスルーだった。

 

「おら、帰ってこい。飯食うぞ」

 

「……」

 

「キンジ」

 

「……なぁ」

 

「あ?」

 

「お前はどうする?」

 

「――なんのことだ」

 

「…………なんでもない」

 

「そうか」

 

 なんでもなくても――俺たちの脳裏に過ったのは同じことだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が妹のメイド服の理由はLHRの時間に判明した。

 

「それじゃあ文化祭でやる『変装食堂(リストランテ・マスケ)』の衣装決めするぞぉ!」

 

 体育館に発砲音と蘭豹の叫びが轟く。集められたのは二年のA、B、C組に一部の一年生たちだ。ジャンヌはまだ帰って来ていないが、白雪や理子も戻ってきている。

 『変装食堂(リストランテ・マスケ)』は文字通りに変装して行う食堂のことで、ぶっちゃければコスプレ食堂だ。ただのコスプレ食堂で終われないのはここが武偵高なのだから当然。武偵としての必須スキルの一つの変装――俺やアリアは滅茶苦茶苦手――を完璧に行う必要がある。

 つまりよくあるなんちゃってレベルだとあの教師陣からの酷い折檻が待っているのだ。

 地味に俺ピンチである。

 

「よぉし、各チームごとに集まって待機しとけ……ん、なんかこの部屋視界悪くない?」

 

 それアンタの煙だよ。視界が悪くなるほど吸うとかどんなんだ。生徒の健康にも気を付けろと言いたいが、元々生きるか死ぬかの世界なので言っても無駄だろう。

 

「さぁどうぞ兄さん、キンジさん。男子のくじ引きはこちらですよー」

 

 そして現れたのは朝から侍女服姿の遙歌。こいつ朝からずっとこの恰好なのだろうか。

 お兄ちゃんは虐められないか心配だよ。

 

「というかコスプレするの二年だけでお前関係なくね」

 

「何言ってるんですか。せっかくのコスプレイベントですからね。私も一緒にやらせて頂きますよ。さぁどうぞどうぞ。一回は引き直しできますよ」

 

 ……楽しんでるならいいのだけど。

 突き出されたくじ入り箱を見る。アホみたいなイベントだがアホはアホなりにガチなので何気に運命の瞬間だった。

 

「ぬう……」

 

 先にくじを引きに行ったのはキンジだった。箱の中に手を突っ込み下の方を漁っている。初めの方は色物少なそうとか考えているんだろう。

 そして引いたのは、

 

「神主か」

 

「おしっ」

 

 NTR巫女がガッツポーズしていた。ここまでのガッツを見せつけられたらもう俺には何も言えなかった。頼むから刃傷沙汰は……回避不可能だろうから、せめて殺し殺されが勘弁してくれればいい。

 

「……チェンジだ」

 

 それだけ言ってキンジは再び箱に手を突っ込んだ。二枚目は『警官(警視庁・巡査)』だった。何気に警視庁とか限定するあたり鬼畜だなぁと思うもこの東京だし比較的簡単な部類だろう。

 正直羨ましい。

 

「ささ、兄さん。キンジさんが安直なやつになりましたが兄さんならばすごいの引いてくれると信じていますよ」

 

「……いやなフラグはやめてくれ」

 

 相も変わらず妹ちゃんの俺に対する期待は重い。

 とりあえず引いた。こういうのは直観派なので迷わずに、

 

「――フィッシュ!」

 

 引き抜いたのは『執事(燕尾)』。

 これは……。

 

「おお、これはあたりですね。一緒に従者やりましょう」

 

「なんだそこそこあたりじゃないか」

 

「いや……ぬぅ……」

 

 執事服を着ればいいという話ではないが、そういうのはヴラトの時に体験しているので楽と言えば楽だが、

 

「洋服苦手なんだよなぁ……」

 

「もう一回引きます? 私は執事押しですけど」

 

「……えぇいままよ。チェンジだ!」

 

「どんだけ嫌いなんだよ」

 

 やかましい。というか執事になって誰とも知らぬ客に奉仕するとか無理。レキ以外のいうこと聞く気ないし。

 

「フィッシュ・アゲイン!」

 

 そして引き抜いたのは――

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 そこに書かれていた文字を見て生まれたのは沈黙だった。

 

「……ぷっ」

 

「…………うわぁ」

 

 遙歌は吹き出しかけて、キンジは哀れそうに声を上げた。

 そして俺は……出す言葉もない。

 

「どうしました蒼一さん」

 

 背後からひょっこりレキが現れた。

 

「そんなに固まって……おや」

 

 俺の手の中の文字を見る。数秒止まって、

 

「それが蒼一さんの仮装ですか。そんなのいつもの私にとっていつもの蒼一さんなわけで……おや、なんでしょうこの謎の不快感。……いけませんねこの謎のNTRされた感。というわけで蒼一さん、当日は私の専属奴隷やればいつもと同じじゃないですか? 大丈夫、ちゃんと首輪はつけますよ。前から蒼一さんは首輪似合いそうと思っていましたから」

 

「……………………」

 

 小さな紙に描かれていたのは――奴隷(サーヴァント)の二文字だった。

 

 




ギャグと見せかけてシリアスと見せかけてギャグ(

変装はいろいろ迷ったけれど迷う前に生まれた奴隷が結局採用されました。
なんだこの奴隷系主人公というかエクストラのせいで違和感ないね!(

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