警備員の人達が詰めている職員棟の一室で、軟禁状態で色々と聞かれ、警察が呼ばれてさらに色々と聞かれ、書類を書かされたりした。詩乃達は放課後に呼ばれて個別に聞かれたようだけど詩乃達の事はちゃんと話して理解してもらったので拘束時間は長くない。俺は残念ながら午後の授業が完全に潰れた。そして放課後開始から1時間でなんとか開放してもらった。まあ、後日警察に詩乃と一緒に行かないといけないんだがな。まったく、面倒だ。婦女暴行未遂に殺人未遂と恐喝など罪状はやばいくらいだし。ちなみに絡まれていた彼は簡単に終わった。
「やっと終わった」
「お疲れ様」
「詩乃もお疲れ様」
「うん。それよりもごめん。私のせいで……」
「気にしなくていいよ。でも、ごはん食べ損ねたのは痛いな」
「それなら、はい」
詩乃がお弁当の入った袋を渡してくれた。
「お昼のだから味は落ちてるだろうけど、まだ食べられるから」
「そうだな。ありがたくもらっておくよ」
「お弁当箱は後で返してね」
「わかった。ところでもう一人は?」
「両親が迎えに来て帰ったよ。私は近くに居ないし、和人は?」
「拒否った。仕事で忙しいだろうし、これから母さんとこの仕事だから結局会うしね。それに怪我もしてないし、被害は特にないから呼ぶ必要もなし」
「今から仕事に行くんだ……凄いね」
「まあ、仕方ないよ。それよりも、送っていくからさっさと帰ろうぜ」
「うん。色々、ありがとう」
詩乃と一緒に下駄箱に移動して、靴を履き替える。俺の下駄箱の中には手紙とかが入っていたが、適当に掴んで鞄にしまう。どうせファンレターとかのはずだ。別の方でも関係ないし。
「それ、どうするの?」
「どうもしない。ファンレターは読んで終わり。他の手紙はちゃんと名前が書かれてる奴だけ断る。会ったことも無い人にはそれで充分」
「そっ、そうだね」
詩乃は鞄から回収していた靴を取り出して履いていく。慣れてる感じだ。女は色々と怖いらしいし、過去に色々とあったんだろう。
下駄箱から校門へと移動しながら色々と話していく。
「そういえば、詩乃はご飯食べたの?」
「うん。少しだけ食べたよ。だから全部食べていいよ? 作りすぎたから」
「頑張ってみるか」
「感想聞かせてね」
「ああ。正直に言うよ。それより、今日は家に居る?」
「居る。和人からもらったのも見てみたいし。GGOを少しやってから見てみるね。約束あるから」
「まあ、何時見てもいいけどな」
GGOの事なども話ながら店に着いた。店でお土産を受け取り、ついでに追加注文してからバイクに乗る。カップケーキなので崩れる心配はない。詩乃を後ろに乗せてバイクで家まで送り、そのまま仕事場に向かう。
「和人、大丈夫だった?」
「言ったとおり大丈夫だよ。それより時間が無いからさっさと撮影しよう」
「そうね」
すぐに撮影を行い、一時間ほどで撮影が一旦終わる。セットを変えたりするらしいので俺は休憩だ。その間にテーブルに持ってきた詩乃のお弁当を開ける。重箱に殆ど中身が入っている。というか、ほんの少ししか減っていない。食べきるのは無理っぽい量がある。まず、今食い切るのは諦めた。
「まあ、食べるか」
お箸を探すと、見つかったのは一つだけだった。それもなんだか使用済みという感じの。洗い場も遠いし、むしろそんな時間はない。当然、他のお箸もない。詩乃が入れ忘れたようだ。多分、詩乃もいっぱいいっぱいで気付かなかったんだろう。今日は色々とあったし。間接キス……詩乃と? 他の奴ならまだしも詩乃なら別にいいか。むしろ、そろそろお腹が減ってやばい。
「頂きます」
ドキドキしながら食べる。味はしっかりしていて、冷えているけど充分に美味しかった。なのでパクパク食べる。そんな事をしていると、母さんがやって来た。
「それ、どうしたのよ?」
「お、お昼ご飯」
「そう」
ちょっとどもってしまった。平常心平常心。
「店売りじゃないわね。女の子に作ってもらったのかしら?」
「えっ? 何のことかな……」
「そうかそうか。母親として全然女っけどころか友達とかもいないから心配してたけど、彼女ができたら大丈夫よね」
「まだ付き合ってないって!」
「まだ、ね。まあいいわ。私としては妹に手を出したり、男色じゃなかっただけいいから」
「ぶっ!? ノーマル、至ってノーマルだからな」
「はいはい。その子、今度紹介しなさいね」
「はぁ……わかったよ」
母さんが携帯を取り出して何かをしている。嫌な予感しかない。すぐに着信がきた。送ってきたのは映画の撮影仲間達だった。おめでとうとか、そんなの。中には死ね、裏切り者って書かれた奴まである。まあ、こっちは俺と同じでボッチの子で、ついでにひきこもりの女の子だったりする。研究者肌だけど。
「母さん」
「皆に送っちゃった」
「ややこしいことを……」
「リタちゃんは怒ってるでしょ」
「死ねってさ」
「ご機嫌取りしないといけないじゃん」
「今更でしょ」
「面倒な。っと、そろそろ時間か」
「撮影終わったらあっちの方に行くんでしょ?」
「ラストの何シーンか撮って終わりだしね」
「頑張ってね。それと特集組むから取材よろしく」
「……了解」
母さんが俺や俺達の専属記者になってるから、仕事は結構多いんだよね。母さんのギャラもだけど。出世も早くて忙しいらしい。
撮影が終了し、次の仲間達の場所まで移動する。ぶっちゃけ、ここはクレイジーな連中が結構居る。技術力だけはある奴とか、マニアな奴とかね。そんな中でリタは特級プログラマーだ。もちろん、普通の人達も居る。
「土産」
「ご苦労だね」
「ドクター、リタは?」
「アルヴヘイム・オンラインの調整中だよ」
「他の連中は?」
「ログインして既に準備している。早く行きたまえ」
「了解」
映画用に作成されているVRMMOにログインして準備する。今、撮影しているのはfate/apocrypha。つまり、ジャンヌとか、色々と居る。俺のキャラ? 想像にお任せするよ。
「遅れてごめんねー」
「さっさと始めるぞ」
「……やる」
「そうですね。時間がありませんから」
「りょーかい」
基本的に入った瞬間から演じている。映画の撮影を行い、編集なども皆で行って終わると既に夜9時。詩乃には悪いけど、今から行くとしよう。でなければそれはそれで構わない。それに渡した物で詩乃がどうなるか心配だしな。