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さて、今回から2,3話は多分リアルの話になります。
詩乃
暗闇の中、ある意味聴き慣れた銃声が響く。次に映し出された映像は小さな子供が拳銃を拾って男性を撃ち殺して返り血を浴びている姿。次に病院で警察に閉じ込められてお母さんにあわせてくれずに泣き続ける姿が見える。
「くっ……うっ……」
気持ち悪くなり、飛び起きた。呼吸が荒く、全身から冷や汗が流れている。何より嘔吐感を抑えるのも大変だ。
「はぁーはぁー」
だんだんと落ち着いて来た。だから、まずはベッドから立ち上がって時刻を確認する。朝6時。学校にいくためには8時に出れば間に合う。
「……まずはシャワー……」
怠い身体を起こしながら服を脱いで、シャワーを浴びて汗を流していく。冷たい水で全てを洗い流して身体を覚醒させる。まだ違和感もあるけど、それはしばらくすれば治る。
「よし、朝ごはんを作るか。あと、和人の分も作らないと……どうせならちゃんとした物じゃないとね」
身体を拭いて着替えたあと、キッチンで料理をしていく。卵焼き、ソーセージ、レタスにマカロニサラダ、胡瓜の漬物など色々と入れていく。時間をかけただけあって、明らかに何時ものよりも豪勢になっている。
「何やってるんだろ……」
自分で見ても明らかに普段のお弁当じゃない。それに量も作りすぎた。一部は朝ごはんにして、残りは晩御飯かな。栄養面は計算したけど量が多くなっておかしくなってる。でも、きっと大丈夫だろう。今日は体育もあるし。
「っと、体操服用意してなかった……」
何時もなら寝る前に用意していたのだけれど、昨日はガンゲイル・オンラインと勉強、今日の献立を考えていて時間がなかった。もっと効率的にしないといけない。準備を改めて行なって、最終確認をする。お弁当も鞄とは別の袋に入れる。料理の為に汚さないように着ていた服を脱いで制服に着替える。それが終わったらお婆ちゃん達の家に連絡を入れてから学校に向かう。
和人
朝、起きてから鍛錬を行う。イメージ空間と現実での鍛錬を終えて食事を食べる。今日は珍しく朝食が用意されている。それもそのはずで、母さんが珍しくいるのだ。
「おかえり」
「ただいま」
「お帰りなさい~」
既に直葉が食パンを食べている。俺も軽く汗を流してから制服に着替え、席に座って食べ始める。
「今帰って来たばかりだけど、また直ぐでなきゃいけないからお弁当とかはないけどね」
「仕事大変なの?」
「まあねえ。ネットで散蒔かれたSEEDとかいうので、大手のMMORPGを特集しないといけないし、ALOの事も特集しないといけないからね」
「ご苦労様」
「ええ、まったく和人のお陰で大変よ。まあ、別にいいんだけどね。それより、雑誌の表紙を撮るからまた顔貸しなさい」
「女装以外なら構わないよ」
「お兄ちゃんの女装って似合い過ぎて本物か区別付かないんだよねー」
「というか、女の尊厳を踏み躙る場合もあるわよ」
「……というか、時間いいのか? 朝練だよな」
「あっ、やばっ、間に合わないじゃん! お兄ちゃん、バイク出して!」
「別に構わないぞ。ただ、さっさと準備しろよ」
「は~い」
俺も部屋に移動して制服のシャツの上にライダースーツを着て、鞄をリュックに制服の上着と共に入れて、それを持って1階に戻る。1階に戻ると既に直葉が準備していた。
「お兄ちゃん、早く早く」
「はいはい。それよりちゃんとヘルメット被れよ」
「わかってるよ」
玄関から外に出ると、母さんも待っていた。
「たまには見送ってやんないとね。気をつけて行っといで。あと、放課後は写真撮影するから、何時ものスタジオに来てね。それと頼まれた事だけど、そっちは連絡ついて手紙を預かってる。必要なら会ってくれるって」
「は~い」
「わかった。行ってきます」
母さんから大事な物を受け取って、直葉を後ろに乗せてバイクのエンジンをかけて発進する。俺のバイクはスズキ・GSX1300Rハヤブサを元に作成された奴だ。まあ、特に変わっていないんだけど電気で動くようになっているぐらいだ。
『お兄ちゃん、高速のろ』
『まあ、その方が早いか』
高速に乗って速度をあげる。料金所を3つ過ぎたら降りて直葉の学校まで送る。登校時間にはちょっと早い時間なので朝練のある生徒しかいない。だけど、それでも人が居る。直葉は気にせず降りてヘルメットを渡してくる。
「ありがと。それじゃ、行ってきます」
「気を付けてな。あと、晩御飯は先に食べておけよ」
「わかってる。じゃあね」
直葉を置いてエギルの店へ向かう。ミラーで見ると知り合いに質問攻めされている直葉が見えたが気にせずに向かい、店の中で着替えさせてもらいつつ、荷物を預けて学校に向かう。ここからは歩きだ。
「気をつけて行って来いよ」
「また後でね」
「はい。行って来ます。あ、放課後に仕事に行くんで30人分の差し入れお願いします」
「ああ、わかった」
「シュークリームとかでいいわね」
「はい、お願いします」
お金を少し払っているとはいえ、何時も世話になってるのでお土産や宣伝をしたりと色々とさせてもらっている。インタビューとか雑誌でここの事も載せた事もある。なので、載せた当初は凄い繁盛したが、今は落ち着いている感じだ。それでも固定客は多い。そんな事を考えて歩いていると、ある程度の生徒が固まって歩いている中、前方で一人で歩いている女の子を発見した。
「おはよう、詩乃」
「っ!? お、おはよう」
気配を消して背後から近づいて耳元で声を掛けるとビクッと身体を震わせてこっちを見詰めてくる詩乃。だんだんとその表情は真っ赤になって、更に怒気に変わってくる。
「和人? 貴方はちゃんと挨拶できないの?」
「ふふ、油断している詩乃が悪いんだよ。シノンに近づけたいならこれぐらいで驚いちゃ駄目だよ」
「それは無理よ」
「そう、そもそも完全にあちらにするのは不可能だよ。あっちも今の詩乃も両方詩乃だけど仮想と現実は違う。でも、中身は同じだから近づけられる。近づけるのはいいが、こっちの詩乃を否定するのは駄目だ。全部ひっくるめて詩乃なんだからな」
「……でも、私は……」
「それにさ、詩乃に感謝している人だっているんだから」
「え?」
「すくなくとも俺は感謝してる。それ、お弁当でしょ」
「あっ」
詩乃が持っている袋を奪い取って持つ。そして、母さんから貰って持っていた袋を詩乃の胸に押し付ける。
「それ、放課後に家に帰ってから開けるように」
「なんなのよ?」
「詩乃がやった結果、その良い部分が入ってる」
「……わかった。帰ったら開けてみる」
「それでよし」
「ところで、何時まで胸に手を押し付けてるのかな?」
「おう……押し付けた不可抗力。直じゃないから勘弁して欲しい……駄目?」
手を抓られる。結構痛い。
「これ次第と、今度バイクで何処か連れて行って。それで許してあげる」
「了解した。お姫様」
「ふん」
その後は学校へ向かいながらたわいない会話をしている。ガンゲイル・オンラインの事だったり、宿題の事だったり、服装についてだったり。
「……普通はついてこれないはずなんだけど……」
「まあ、両親の話を聞いたりやモデルの仕事していたら情報は入ってくるよ。それに情報を集めないと騙されて女装させられる時が……」
「……どんまい」
「ズボンとかはまだいいんだ。別に大して変わらないし……しかし、スカートとかストールとかはないわ」
「大変そうね」
「全くだよ。まあ、他にも色々とあるけどね」
「?」
俺が後ろを振り向くと、さっと隠れる何かが居る。いや、気配から人なんだが、俺に殺気を向けて来ている。他には妬みや嫉みだな。
「あっ、今日の宿題で英語のところが分からなかったんだけど、わかる?」
「英語か。大丈夫だよ。どこだ?」
「53ページの問4なんだけど……」
詩乃と話ながら校門を抜けて下駄箱に移動する。そこで靴を履き替える。
「っ」
「ん? どうした?」
「何でもない」
下駄箱の中で詩乃が少し不自然な行動を取るので、素早く手を掴んでこちらに引き寄せる。
「ちょっとっ」
「これ……」
「大丈夫。中学生の時に慣れてるから……」
詩乃の指から血が出ていた。原因は下駄箱の中にある上履きに入れられた画鋲だ。ご丁寧に持ち手の部分にセロハンテープで貼り付けてある。
「慣れてるとか関係ないって」
「でも、人の命を奪ったんだから……」
力が抜けたのか、詩乃がこっちに寄りかかってくるので、抱きしめて背中を撫でて落ち着かせてあげる。あとで怒られるかも知れないが構わない。
「それも仕方ない事だろ。殺さなきゃこっちが殺られてたんだから。人間の本性は人それぞれで色々だからな」
「和人も?」
「そうだな。役得だと思ってたりするぞ?」
「バカ」
詩乃が顔を赤らめながらそんな事を言って俺から離れる。
「……ありがと」
小さくそうつぶやいた。でも、それに答える事はしない。拳が飛んでくる事はないだろうが、恥ずかしがっているのは確実だしな。それよりも、詩乃の上履きを取って画鋲をハンカチで包んで回収する。
「それ、どうするの?」
「ん? 指紋チェックする」
「……そこまでする?」
「俺の大切な人を傷つけたんだから、当然だろ」
「っ!? そんな勘違いしそうな言い方しないで! まだそんな関係じゃないんだから」
「はいはい、大切な友達だからね」
「そうよ」
気づいているのかね? 自分でまだって言った事とか、勘違いされそうじゃなくて、勘違いしそうって言ってる事に。多分気づいてないだろうな。やっぱり詩乃は可愛いな。
「っと、早く行こうか」
「そうね。誰かさんのせいで注目集めちゃってるし」
「そうだね。まあ、注目されるのは慣れてるから気にしないけど」
「私が気にするのよ。ほら、早く」
「はいはい」
詩乃と一緒に教室に行く。詩乃に先に入ってもらい、教室内の気配を探る。詩乃が来た事でニヤニヤしている奴を探そうとしたのだが、何故かクラスのほぼ全員がニヤニヤしていたり、殺気や妬みを詩乃に向けていたり、俺に向けていたりする。
「……」
「ちっ」
端的に言って、やりすぎたようだ。これではわからない。詩乃はさっさと席に座って授業の準備をしだしたので、俺もそれに倣う。準備が終わったら俺が詩乃の席に行って、宿題を広げた。