スコードロンを作ってから数日後、第三回
『まもなく、BoB個人戦を開始します。皆さま、転移後は準備してお待ちください』
酒場の一席を俺達で確保している。そこにユウキ、シリカ、ランが座っている。三人はここから観戦して、応援してくれるからだ。さて、隣を見ると危険な
「プラズマ・グレネード30個と、デカネード20個。閃光弾が10個。これと光剣5本で終わり。うん、ちゃんとあるね」
メニューを開いて物騒な事、この上ない言葉を並べるリーファ。プラズマ・グレネードは手榴弾よりも威力を強化し、直径10m以内の物を殲滅する高火力の爆弾だ。デカネードはプレイヤーがつけた大型プラズマ・グレネードの事で、直径20m以内の物を消し飛ばす威力がある。そんな危険極まりない物を個人で所持しているのだ。
「リーファ、銃は?」
「んと、ベレッタ92は持ってくよ。爆弾を投げて、撃って爆発させるから」
ベレッタ92はイタリアのベレッタ社が設計した自動拳銃で、9x19mmパラベラム弾を15発装填できる。重量も950gと比較的軽く、取り回しやすい。
「なるほど。あと、一つ忠告しておくけどストレージから数を出しちゃ駄目だからね。撃たれたら即死するから」
「了解だよ、お姉ちゃん」
シノンはへカートⅡのメンテをしながらリーファに色々と教えていく。
「端末の使い方は知ってるよな?」
「うん、大丈夫」
「なら、いい」
「お兄ちゃんは今日はどんなので行くの?」
「基本的に剣だな」
「ガンゲイルオンラインでやる事じゃないよね!」
「本当にそうだよね~」
「あははは」
ユウキ達にも笑われた。まあ、確かにそうだろうな。ちなみに俺の剣は宇宙船の装甲板を加工して剣にしてみた。
「どっちにしろ、私が全部撃つ」
「……アンチマテリアルライフル持ちの超遠距離狙撃ってやばいんですけど……」
「常にランダムで動け。止まればそこで終わりだ」
「まあ、その為の対策をいっぱい用意してきたけど……お姉ちゃんに当たったら負けると思う」
「三人共、おかしいからね」
「ユウキ、それはちょっと……」
ランが注意しつつ、俺の長い黒髪を櫛で解してから、三つ編みにしてくれる。
「“否定、できません”」
「そうなんだよな」
そんな風に話をしていると、会場の扉が開いて三人の人が入って来た。一人は背丈の高いツンツン頭の青年で、残り二人は黒髪の美少女だった。全員、赤色の服を着ている。
「キリト?」
「浮気なの~?」
「違う。あの女の子の方の二人は強いぞ。警戒しておけ」
「確かに体感もしっかりしてるし、足運びとかは武道をしている人だ……って、信玄に信廉じゃない」
「知っているのか?」
「うん。ALOで世界樹まで案内してあげて、友達になったの。ちょっと行って来るね」
「いってらっしゃい」
「迷惑はかけないようにな」
「うん」
リーファが居なくなると、ユウキがこっちにやって来て俺の膝の上に座った。
「ねえねえ、優勝できそう?」
「さあな。流石に強い人も多いだろうからな」
「大丈夫。キリトは私が守る」
「いや、逆だから」
こんな話をしていると、また何人かが入って来た。
「っ⁉」
「どうした?」
入って来た人を見た瞬間。シリカが抱き着いてきて、ユウキの胸に顔をうずめて、身体を隠していく。シリカの身体は震えている。視線をやると、何人かで話しているフード姿の奴等。その内の一人から、銀色の髪の毛が一瞬だけ見えたが……基本的にGGOのアバターはランダムだけだった。だけど、新しくドクターがコンバート前のゲームをしていた容姿をこちらの世界に合わせて修正するシステムを作った。こちらは課金が必要で、身長などは現実基準のものしか出来ない。
「まさか……」
『時間になりました。転送を開始します』
※※※
「ちょっと相談がある。詳しい内容はこれだ」
「なるほど……」
「了解した」
※※※
次の瞬間には、俺は誰も居ない場所に居た。目の前には救急セットが置かれている。それ以外には正面には大きな画面があり、残りの準備時間が表示されている。ここで装備を変更するのだ。
「パワードスーツ、装甲剣二本。光剣四本。プラズマ・グレネード5個、手榴弾10個。デザートイーグル二丁。マガジン10個、ワイヤー・アーム」
どれも問題無い。予定を変更して、本気で殺しに行く。装甲剣一本と光剣一本、デザートイーグル以外はまずは必要ないので、ストレージにしまい込む。デザートイーグルは腰の後ろにホルダーがあるのでそこに装着する。光剣は左側のベルトに設置しておく。
「……」
後はやる事が無いので、剣の柄に手を置い当て眼を瞑る。精神統一を行う。やる事と狙いは決まった。ならば、やる事は一つ。
「鬼に逢うては鬼を斬る。仏に逢うては仏を斬る。剣の理ここに在り」
『時間になりました。会場に転送します』
目を開くと、そこは廃墟だった。BoBでは初期配置は他のプレイヤーと一キロ離れている。本来なら、そうだ。しかし、今回は個人戦が追加され、予選が無い関係で人数が多い。といっても、200から500メートルは離れて出現する。そして、10分毎に衛星によるスキャンが行われて、俺達の位置は端末に表示される。
「さて、殺し合いを始めよう。
眼を瞑り、神経を研ぎ澄ませる。風切り音が聞こえ、振り向きざまに剣を振るう。微かな手ごたえと共に銃弾が弾かれる。
「ちっ、化け物めっ!」
そいつは空に向かって信号弾を放った。それは空に非情に大きな音を出した後、黒色の光を発する。
「これでお前も……」
接近して、斬り伏せる。次の瞬間には即座に剣を振るって飛んでくる銃弾を弾く。剣を盾にしながら裏路地へと入る。道にはどんどんプレイヤーが集まってきている。そいつらはバトルロワイアルなのに互いに戦う事をしていない。つまり、
「馬鹿な、居ないぞ!」
「そんなはずはない!」
「探せ!」
そんなプレイヤー諸君にプレゼントとしてプラズマ・グレネードを落としてやる。すると汚い青い花火があがった。俺は即座に走って隣のビルに飛び移る。そして、寄って来たプレイヤー連中の近くに移動すれば、ワイヤーを放って飛び降りる。落下ダメージはプレイヤーを踏み潰すと同時に横に回転しながら剣を振り回し、軽減させる。もともとワイヤーでも軽減しているのでダメージはパワードスーツで受け止められる。
「なっ!?」
「どっから湧いてきやがった!」
瞬時に接近して、首を斬る。相手が驚いている間に二人、三人と斬って殺す。しかし、流石に時間が経つと銃を向けて放ってくる奴が出て来る。なので、転送されるまでの一定時間無敵とかす死体を盾として防ぐ。死体を蹴って相手に突っ込ませると同時に飛び出して、射線を外し接近する。常にプレイヤーを盾にする事によって同士討ちをさせつつ、近付いて殴ったり、首を折って殺す。背後の気配に対して、ワイヤーを放って銃弾を切断。即座に剣を投げて串刺しにする。
「奴は武器を捨てた!」
「今だ!」
即座に飛び上がって射線を回避。しかし、空中は恰好の的だ。だが、ワイヤーを放って、撒き戻す事で方向を変える。プレイヤーの背後に回ったらワイヤーを円形にして、首を絞める。そのまま銃の盾にしつつそいつの手榴弾を拝借して投げる。手榴弾の破片からは死んだこいつを盾にして防いだ。後は死んだ奴等の銃を取って。とどめをさしていく。
※※※※
酒場では、ドローンによって映し出される映像が複数の大画面に表示されている。その一つが、今しがた行われたキリトによる殺戮映像が映っていた。
「うわぁ、黒騎士やべぇ……」
「一人だけ別ゲームじゃねえか」
「というか、えげつないな。単独キル18人かよ。まだ始まって10分経ってねえぞ」
「人数が多いからな……」
そんな話をしている中、ユウキとランはシリカを連れて個室へと移動していた。個室でもちゃんと映像は見れる。
「流石は救世主様。凄いね! 必殺仕事人だよ!」
「凄いレベルなんですか? いや、現実でも桁違いでしたが、ゲームだと更に……」
「“頑張って”」
シリカはランの膝の上に乗って一生懸命に応援している。個室に移った事と、二人が近くに居る事でどうにか耐えているようだ。
そして、映像は切り替わる。そこには水色の髪の毛をした少女が森の中に身を隠しながら、寝そべって目標を待っている。その視線の先では、二人の男性がサブマシンガンとライフルを持って撃ち合いしている。彼女は二人が射線に重なる瞬間を狙って撃った。弾丸は一人の上半身を吹き飛ばして貫通し、もう一人の首から上を吹き飛ばした。そして、弾丸を輩出して警戒しながら森から出て男達の装備を回収していく。
「シノンさんも凄いですね」
「二人同時に撃ちぬくなんて、できるんだね」
「“アンチマテリアルライフルだからかもです”」
「でしょうね。しかし、このようなゲームはいかがなものかと……あまりに命が安すぎます」
「大丈夫だよ。だって、ゲームだから何度だって蘇るしね。それに犯罪の抑止になるかも知れないよ? これで満たされたら」
「“逆もありそうです”」
「どちらも、結局は人の心ですからね……主よ、どうぞ皆が道を踏み外さないように……」
画面が移り変わり、次に表示されたのはいかつい男性。その後ろに虚空から現れるかのように金髪少女、リーファが出現する。彼女の手には光剣があり、背後から容赦なく首を斬り落とした。その直後に装備を回収して、フード付きマントを翻すと姿が掻き消えていく。いや、地面を見ると微かに足跡が残っている。次の集団には爆弾を投げ込んで、自分はさっさと逃げるという戦法を使って確実に敵を減らしていく。
「光学迷彩だよな、アレ……」
「確か、ブロッケン地下迷宮40階の奥に居るボスが出すんだよな」
「……アレを撃破しているという事か?」
「買ったのかもよ?」
「おい、ちょっと待て。あっちの双子もやばいぞ」
信廉と信玄と呼ばれた二人はさっさと合流して、二人で的確に危な気なく敵を倒していく。こちらは銃もちゃんと使っているので、まだましだ。そして、画面が変わる。そこには黒い影が映り、プレイヤー達が殺されていっていく。プレイヤーが倒れると、その後に姿を現したのはサングラスを付けた長身の男性。彼の手にはMaxim9が二丁、握られていた。Maxim9は銃の射撃音を軽減する装置サイレンサーを銃口の先に取り付ける筒状のものではなく、銃とサイレンサーをひとつにまとめたSFチックなデザインの一体型ピストルにしたのだ。
「闇風、やばいな」
「銃撃を全て避けてやがる」
「その上であの速度で走りながらの正確な射撃だろ」
「突き詰めればAGI型も凄いって事だな」
第三回BoB個人戦は始まったばかりだ。そう、殺戮の宴はまだ終わらない。
「It's show time!」
キリト:未来のサイボーグ戦士並み
シノン:13の名前を関する人達並みの射撃技術。
リーファ:気付けば貴女の背後からこんにちは。爆弾か光剣のプレゼントをくれる。