シノン
桐ケ谷家じゃなく、私が持っている家。現在、私は二人を迎える準備をしている。ここはワンルームなので四人で生活するには狭すぎる。ベッドを入れるだけでほとんど埋まってしまう。
「さて、どうしよう。というか……」
改めて見渡すと、色々な思い出が浮かび上がってくる。和人との逢瀬を幾度となくして、交じり合った部屋。ここは私達にとってホテルみたいな物。だから、私と和人の匂いが混ざっている。
「……やっぱり、ちょっと嫌」
いくらあの二人は私と境遇が似ているとはいえ、ここは私と和人だけの家だから。直葉も入れてない。でも、和人の為なら仕方ない。そう諦めて外に出ると、ふとある事を思い付いた。
携帯を取り出して不動産屋に電話をかける。直に相手が出たので、名前と住んでいる部屋を教えて、その周囲に空きがないかを確認する。
『空きはありますよ』
「あるんですか?」
このマンションにある私の部屋の回りを借りられたら、それでいいと思う。どうせ引っ越しはするんだし。
『はい。開いているのは同じ階じゃないんですけど、上と下の部屋が空いています』
「……それなら、その二部屋を貸して貰っていいですか?」
『ええ、構いませんよ』
上下で彼女達の部屋を確保すれば問題ない。移動は高層マンションに義務づけられている避難用の梯子を使えばいいし。
『ただ、上階だけは広めな4LDKの部屋になっていて、テラスもある端の場所なので値段は高くなっております』
「大丈夫です。取り敢えず、半年契約をお願いします」
『わかりました。一応、部屋の確認をお願いしますね』
「はい」
直に対応してくれたので、契約してクレジットカードで支払っておく。契約や保証人がいるので、そこは和人のを使う。委任状は渡されているので問題ない。後は一応、本人にも電話で確認してもらったので大丈夫。最悪、あとで不備な部分を埋めにいけばいいだけ。本来なら、学生の私達には貸してくれないのだけれど、こっちは全額一括払いなので、あちらも文句はない。代金自体は私の口座から振り込んだ。私も和人について、アメリカでは色々とやった。日本でもたまにモデルや俳優の仕事を人が居ない時にやったりもしている。
和人と一緒に居ると勉強がはかどってしっかりと覚えられる。だから、台本も簡単に覚えられるし、演技指導とかは和人がつきっきりでやってくれるのでそれなりにはなっている。それに分からないところがあれば、しっかりと教えて貰えてその後に褒められて、甘えさせてもらえるから……楽しいひと時になる。
取り敢えず、今は急いで購入した家具を人を雇って搬入する。一番広い上の部屋をメインの場所にする。一室は皆で寝られるベッドを用意する。後はタンスやテーブルなんかも変えていく。前に有った物はリサイクル業者に引き取って貰って、アンティークでインテリアを整えていく。全てそろえると結構な額が飛んでいったけれど、大丈夫。シリカの対策は問題ないみたいだし、平気でしょう。どうせ全て自費だから、和人や家族には迷惑をかけない。
「っと、窓も変えなきゃ」
外から鍵があればあけれるようにしないといけない。ついでにガラスは強化ガラスの外から見えないようにしましよう。他にも風よけなんかも設置しないと。色々と買う物があるけれど、急いで用意しなきゃ。