シノンと共にガンゲイル・オンライン   作:ヴィヴィオ

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第31話

 

 

 ユウキとシリカと出会ってから二日後。俺は近くの駅でユウキと待ち合わせをしていた。今着ている服と姿の写真は教えて貰った携帯に送ってあるので、待つだけだ。昨日は弁護士の人と家の人に突撃したからな。まあ、かなり驚かれたけれど、不動産屋と弁護士を通したので直ぐに信じてくれた。あと、現金を持って行ったのも信じてくれた理由の一つだろう。もしかしたら、芸能人だからというのも大きいかもしれないが。

 

「キリト様っ」

「ん?」

 

 衝撃がして、誰かに抱き着かれた。振り向くとアバターの姿とほぼ変わらない、ユウキが居た。アバターと違うのは瞳の色くらいか。俺と同じでほぼアバターと変わっていない。

 

「えへへ」

 

 笑いながら身体を擦りつけてくる。衝撃でずれそうになった帽子を深く被り直しながら、ユウキの頭を撫でてやると嬉しそうにした。

 

「元気に外で遊べるって素晴らしいねっ」

「そうだな」

 

 彼女の病気から考えると、有り得ない事だろう。だから、とても楽しそうに笑っている。やはり、あの選択は間違っていなかったと、改めて思えた。例え面倒事を抱え込む事になろうと、後悔はしないだろう。まあ、詩乃が納得しなければ、出来る限り説得していただろうし、これは必然か。だが、同じ境遇のユウキを見捨てる事を詩乃はよしとしないだろう。もちろん、俺も彼女を見捨てる選択肢はない。

 

「ん~」

「どうした?」

「いや、どう見ても女の人だねって。ボクより女っぽいよ?」

「五月蠅い」

「あいたっ」

「だいたい、キリト様はやめろ。様も要らないし、呼び捨てでいい」

「え~」

「俺の彼女になるんだから、そんなのは要らない」

「わかった」

 

 嬉しそうに返事するユウキ。

 

「あっ、何処か寄っていく?」

「いや、もう一人助けないと駄目な子が居るだろ。そっちを優先する」

「そっか。うん……それじゃあ、行こうか」

「ああ」

 

 鞄を持って、ユウキの先導に従って移動すると一軒家があった。近くで話しているおばさん達はその家を気味悪そうに見ながら、ひそひそと話している。それをユウキは忌々しそうに睨み付ける。

 

「ユウキ、ここか?」

「うん」

「そうか。行くぞ」

「あっ」

 

 ユウキの手を握ってさっさと移動する。一軒家の門の前に立ち、インターホンを鳴らす。

 

「もう、強引なんだから……」

「嫌なのか?」

「全然っ、むしろボクは歓迎だよっ!」

 

 俺の腕に抱き着いてくるユウキ。顔を少し赤くしているので、恥ずかしいのだろう。だが、生憎と俺はよく詩乃としているので、慣れてしまった。そのまま少し待っていたが、家からは返事がない。

 

「おばさん、ボクだよ」

『……どうぞ……』

 

 それだけ聞こえて切れた。ユウキを見ると、顔を空いている手でかいている。

 

「まあ、色々とあるから……」

「わかった」

 

 門を開けて、中に入る。しかし、扉には鍵がかかっている。ユウキはポシェットから鍵を取り出して開ける。どうやら、合鍵を預かっているようだ。

 

「鍵、貰ったんだ。変な人が来たら困るから」

 

 扉を開けて中に入ると、目に入ったのは先ずは玄関。次に廊下を進んで直ぐにある二階に上がる階段だ。手すりが備え付けられているのだが、その手すりは途中で折れて斬り落とされている。壁を見ればところどころに手形があった。

 

「これは……」

「あはは、まあ怖がられる理由かな……」

「木綿季ちゃん、その人は……?」

「昨日話した人だよ」

 

 一階の奥から、顔色の悪いびくびくとした女性がやって来た。

 

「桐ケ谷和人です」

「ああ、話は聞いています。その、早く連れていってください……」

 

 それだけ言って、戻っていった。自分の母親と比べると親としてはどうなんだと思ってしまう。

 

「こっちだよ」

「ああ」

 

 靴を脱いで上がる。それから、廊下の直ぐ近くにある階段を上る。

 

「あ、所々壊れてるから気を付けてね」

「わかった」

 

 新しそうな家なのにと、不思議に思いながら上がっていく。確かに床や壁が途中で陥没していたりしている。それは上に上がって廊下を歩くと特に頻度が多くなっている。ドアもノブが壊れていたり、ドア自体が壊れていたりしている。更に奥に行くと扉が完全に壊れた真っ暗な部屋があった。

 

()()()、入るよ~」

 

 リアルの名前ではなく、アバターの名前を呼ぶユウキ。彼女はそのまま入ると、壁の近くにある電気のスイッチを入れる。明かりが点いて部屋の惨状が映し出される。学習机は叩き割られ、タンスやクローゼットは壊れて中身が出ている。ベッドのマットはスプリングが出てきたりしていて、とてもじゃないが廃墟としか感じられない。だが、不思議と破片や埃は無く掃除がいきとどいている。

 

「居た居た」

 

 ユウキは勝手知ったる他人の家のように進んでいき、壊れたクローゼットに顔を近づけ覗き込む。俺も一緒に覗くと、そこには裸のまま三角座りの状態で、毛布を被ったシリカであろう女の子が居た。彼女の近くにはペット用の鉄製餌入れに水と手で掴める食事が入っている物が置かれていた。こちらでもペット扱いなのかと、普通なら彼女の両親に怒るのだろうが……この部屋の惨状を見てそれも仕方ないかと思える。おそらく普通の皿とかなら容易く粉砕してしまうのだろう。それに大きな家具以外は撤去されて綺麗に掃除はされている。おそらく、怖がりながらも必死に出来る事をしていたのだろう。何時襲われるかも知れない凶暴な猛獣と一緒に暮らしているような物だし、彼女の両親があのような感じになるのは仕方ないかも知れない。

 

「これはアレか。力のコントロールが出来ていないのか」

「そうだよ。だから、まともに生活できるのはゲームの中だけ。あと、この餌入れとかはシリカ自身が望んだみたい。ゲームでペットにされてたから、それが抜けきらないみたい。カウンセリングをネットで受けてるから、まだましになってきてるそうだけど。現実じゃ筆談もしないしね。ペンが折れるし。キリトなら、どうにかできるんじゃない?」

「出来る限りはするが、それよりも呼び方はキリトやシリカでいいのか?」

「ボクはあっちがメインだし。もっとも、珪子はシリカって呼ばれる方がいいみたい。自分は珪子じゃないと思っているのかも知れないね」

「なるほど。で、俺は?」

「いや、名前で呼んでいいのかわからないし。それに恐れ多いし……」

 

 ユウキにとっては俺は救世主という事になるんだろう。クリスチャンというのも影響しているのかも知れない。

 

「ちなみにキリトは色んな所で聖人指定されてるよ? やったね」

「おい」

「見つけた人にはなんと、沢山のお金が貰えます」

「賞金首かよ」

「まあ、必死で探しているって事だよ」

「名乗る気はないから、黙ってろよ。それとこっちでは和人と呼んでくれ」

「もちろん! りょーかい、和人」

「ああ。さて、シリカ。おいで」

 

 しゃがみ込んで出来る限り見ないようにしながら、言うが動かない。仕方ないので俺自身も入っていく。

 

「危ないよ?」

「構わないさ」

 

 近付くと珪子……いや、本人が望む通りシリカでいいか。彼女は怖がるように端っこに逃げるが直ぐに追いつく。ゆっくりと手を差し出すと、身体を震えさせる。どうしたらいいのかわからない。

 

「無理矢理引っ張り出していいよ。シリカもそれでいいってゲーム内で言ってたし。荒療治しないと無理だから」

「わかった」

 

 ユウキの言葉を信じて、近付く。そして、シリカを抱きしめようとする。

 

「っ⁉」

 

 腕を無茶苦茶に狭い空間で振り回してくるが、顔を傾けて避けつつ接近して、抱き着いて抑え込む。すると、身体を震わせながら泣き出す。

 

「大丈夫だ。ほら、何もしないから……それに俺は頑丈だからな」

「……ぁ……」

 

 しばらくそのままでいると、おずおずと震えながらも抱き返してくるのだが……その力が凄まじい。骨が折れてしまうかと思うほどだ。鍛えていなければ、本当にそうなっていたかもしれない。だけど、ここで逃げたら、絶対に後悔する。それに、シリカの心に更に深い傷が残る事にもなるだろう。痛みは無視して、笑顔でシリカの頭や背中を優しく撫でていく。

 しばらくそうしていると、シリカからは震えがなくなって頭を猫のように擦りつけてきた。

 

「おいで」

「……にゃ……っ⁉」

 

 猫の言葉が出たからか、顔を真っ赤にする。どうやら、向こうでは猫にされていたのかも知れないな。

 

「可愛い猫のままでも、俺は受け入れるから気にしなくていいよ」

 

 こくりと頷いたシリカを連れて外に出る。

 

「大丈夫?」

「ああ、問題ないよ」

 

 決して大丈夫ではないが、問題はない。先ずはシリカに力のコントロールを覚えさせないといけない。しかし、そうなると俺だけでは無理だ。ここはドクターに協力を要請しよう。

 

「よかったね、シリカ」

 

 こくりと頷くシリカを嬉しそうに眺めるユウキ。彼女の手にはシリカの服とかが入っているだろう鞄がある。だが、彼女は一定以上には近付かない。だが、廊下とか広い所に出るとそんなのはなかったように近付いて、シリカに触れてくる。シリカは触れられる度にビクッとなっている。ひょっとしたら、敏感なだけかも知れない。

 

「さっきは近付いて来なかったが、今は大丈夫なのか?」

「え? ああ、それは簡単だよ。広かったら避けられるけど、狭かったらあたっちゃうからね。ボク、反射神経とか動体視力はいいけど、リアルの身体は貧弱だから簡単に潰れちゃうよ」

「そうなのか?」

「うん。キリト達に比べたら」

「そうか。ん、キリト?」

「ほら、行こうよ和人」

「ああ」

 

 取り敢えず、ドクターに連絡して今からいくとしよう。

 

 

 

 

 

 


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