シノンと共にガンゲイル・オンライン   作:ヴィヴィオ

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新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくです


第28話

 

 

 

 

 さて、BoBが近付いて来た俺達は既に準備を終えて各々が好きに行動している。具体的には訓練だ。そして、今は直葉とリアルで勝負している。審判は詩乃がしてくれている。

 

「お兄ちゃん、私が勝ったら言う事をなんでも一つ聞いて貰うよ」

「いいだろう、来い」

「始め」

 

互いに道着を着込み、腰に差した模造刀を構える。真剣での勝負は直葉の成長によって流石に危険になってきている。アメリカではっちゃけて実戦経験まで積んだ直葉の実力は壁を超えたと言っていい。真剣を持たせたら少なくとも鉄を両断してみせるのだから。

 

「ふっ」

 

カウンター重視なのか、動かない直葉に向かって俺は踏み込んで抜刀する。直葉はバックステップで回避し、即座に踏み込んで抜刀してくる。直葉の成長速度やこれまでの実力から攻撃の軌道を瞬時に計算して紙一重で避ける。次に攻撃が来るまでおよそ一秒から二秒あるのでそれまでに一撃を入れて終わりだ。

 

「甘いよ、お兄ちゃん」

「っ!?」

 

そう思ったのだが、直葉は抜刀した時から更に速度を上げて回転しながら、いつの間にか抜き去った鞘を片手で持って二連撃を放って来る。しかし、それを俺は持っている模造刀で防ぐ。これで直葉の鞘は弾き飛ばされて体勢が崩れるはずだった。

 

「ちょろ甘だよ!」

 

だが、直葉は自ら置くように鞘を捨てる事で更に回転して模造刀を叩き込んで来た。遠心力も加わり、速度を増した一撃はこちらの予想を遥かに上回って迫ってくる。それでも対応しようとしたら身体が前に引っ張られ、自ら模造刀による一撃を食らってしまう。なんとか腕を犠牲にして防ぎつつ、遠心力も加わって威力の上がっていた一撃のダメージを、自ら飛ぶことで削る。しかし、自ら飛んだこともあり、吹き飛ばされてそのまま尻餅をついた。

 

「だっ、大丈夫!」

「ああ、少し痺れるくらいだ」

 

詩乃が慌てて袖をまくりあげて腕を確認してくる。腕には青痣がある程度で、問題はなかった。放っておいたら元に戻るだろう。

 

「駄目」

「そうだよ。治療はしないと」

「むぅ」

 

詩乃が湿布やら包帯やらを取り出して腕に巻いていく。前はもっぱら直葉に治療していたのだが、今日は俺になってしまった。

 

「詩乃お姉ちゃん、判定は?」

「直葉の勝ち」

「ついに取られたか」

「やった! お兄ちゃんに初めて一本取れた!」

「やれやれ、まさか漫画の技を再現するとはな……」

「本当、出鱈目」

「えっへん!」

 

大きな胸を張る直葉。直葉の身体能力は俺が近くに居るせいか、異常なくらい高くなっている。人間の限界に近いくらい強化されているんじゃないだろうか? 視力も1キロや2キロ先まで見えるらしいし。これは俺と詩乃もだが。

 

「でも、まだまだ速度が足りないんだけどね。もっと引き寄せられるようにならないと原作通りじゃないから。鞘だって別のと組み合わせただけだし。いっそ小太刀でも持って二刀流するのもありかも?」

「確かにありだな。だが、鞘だからこそ、さっきの方法ができたんだぞ」

「だね」

「鞘が軽いから直葉が捨てることで和人の予想以上に振り上げてしまって体勢が崩れた」

 

一瞬の隙が致命的になるからな。それに直葉はどうやら実力を隠しつつ俺と訓練して、成長速度と本来の実力を誤認させていた。それがなければどうにかなったんだが、これは油断や慢心が原因だな。

 

「ふふふふ、頑張ったかいがあったよ。じゃあ、お兄ちゃんには私のお願いを聞いてもらおうか」

「ああ、約束だから構わないぞ」

「やった。じゃあ、私のお願いはね……」

 

面倒なお願いをされたが、約束なのでしぶしぶ応えてやった。かなり恥ずかしいが、前にもやって映画にも出たことがあるのでそこまで拒絶感はない。

 

 

 

 

 

 さて、GGOにログインした俺は直葉、リーファの願いに応えて色々とさせられた。リーファのお願いは非常に簡単だ。ある装備を着て俺が作り上げたバイクに乗ったりする所を写真に撮ることなのだから。その装備は装備の外見を変更するコラボ商品によって作られている。普段リーファが潜っている高レベルダンジョンから産出されている品だけあって、かなりの装備性能も高く特殊効果も高い。もっとも、コラボ商品化する事でスペックは多少下がっている。金属製の装備を布製に変更したらそりゃ、防御力などが下がるのは当然だ。もっとも、重さも軽減されているのでメリットもあるが。

 そして、一番の問題はこの装備を外す条件が似合う他人に譲渡する事だった。もちろん、リーファが設定した。シノンは除外されているので仕方ない。さて、この装備が似合うという事が色々と対象を狭める事になる。普通のプレイヤーなら欲しがる奴は物凄く多いだろう。いや、やっぱりないか。こんなの似合わない限りは着ないだろう。

 

「全く、面倒なお願い事をしてくれた」

 

ブロッケンの街を一人でバイクに乗りながら愚痴を漏らす。今回はこの軍用トライクをBoBで使う為にテスト走行を一人で行っている。リーファはダンジョンへと出向いているし、詩乃は学校へと出かけている。本来は俺も行こうかと思ったが、少し仕事が入って行けなくなった。仕事自体は直ぐに終わってゲームにログイン出来たんだけど。

 走行テストも問題なく終わり、駐車スペースにトライクを止めて近くの喫茶店に入る。そこで紅茶を飲みながら少し休憩する。

 

「いや、困りますって。ボクはここで待っている人が居るから」

「そんな事言わずにさ、俺達が色々と教えてやるぜ」

「そうそう、手取り足取りな」

「おれっち達は初心者には優しいからよ。装備もくれてやるぞ?」

 

しばらく紅茶を堪能していると、ストリートの方からそんな声が聞こえて来た。画面越しにそちらを覗くと、紺色のかかった黒髪をした可愛らしいジャージ姿の少女がちゃらい格好をした男達にナンパされていた。その子の装備からして明らかに初期装備だ。

 

「これは都合がいい」

 

俺は立ち上がって会計を済ませると、そのまま店を出てそちらに向かう。

 

「何やってるの。待ち合わせはそこのカフェの中だろ」

 

強引に男達の中へと入って、彼女の腕を掴んでこちらに抱き寄せるように連れ出す。この時、ハラスメントコードが相手に出るはずだが、この場合は仕方ない。

 

「わっと」

「合わせて」

 

耳元でそっと囁いて位置を入れ替える。

 

「お兄さん達、ごめんね。彼女は俺の連れなんだ。装備も用意しているし、レクチャーも俺が問題なく教えるから大丈夫だよ。ねえ?」

「そ、そうだね。うん、ボクはこの人に教えて貰うから大丈夫。ありがとう」

「いやいや、そっちの子も含めて俺達がきっちりと世話をしてやるよ」

「ああ、ツレの子も滅茶苦茶美少女だからな」

「ん? ああ、なるほど」

 

不思議そうに小首をかしげたが、直ぐに思い当たる事があって掌を腕で叩く。そういえば、今の格好は服装に合わせてリーファに長い黒髪をツインテールにされていた。それにこの衣装。そりゃ、女の子に見える。顔も女顔だしな。

 

「別にお兄さん達に教わる事はないかな」

「なんだと?」

「だって、お兄さん達が装備してるのって中堅クラスだからないね。少なくとも高レベルダンジョンに行ける装備をしてないと教わる事はないし」

「「ああ?」」

「えっと、大丈夫?」

「平気平気。うん、納得しないだろうから、ちょっと戦おうか。お兄さん達全員と俺一人でいいよ。そっちが勝ったら、なんでも付き合ってあげる」

「いいだろう、やってやるぞ!!」

「おう!!」

「ぼくも戦うよ」

「いや、装備ないだろうしいいよ。それにねぇ……」

 

この程度の相手、憂さ晴らしにちょうどいい。そう思いながら彼等に決闘を申請する。直ぐに申請が受理されて俺と彼等はバトルフィールドへと移動された。流石にプレイヤーキルが推奨されているGGOでも街中での決闘はバトルフィールドが展開される。

 

「へっ、後悔させてやるぜ!」

「「「おうよ!」」」

「それは面白そうだ」

 

カウントがどんどん進んでいく。カウントがゼロになるとバトルが開始される。だから、今の間にアイテムストレージから軍用魔改造トライクを取り出す。決闘中ならどこでも取り出せるのだ。

 

「「「「なんじゃそりゃっ!?」」」」

「ふふふ」

 

トライクに飛び乗った俺は早速取り付けてある武器に腕を片方ずつ突っ込んで装着する。大概、トライクにはシノンと二人乗りをする為に一人が操縦し、もう一人が銃撃戦を行うように装備を整えてある。そして、今回はBoBの時の為に用意した特製の武器だ。それも両手に一つずつ。それらはチューブがトライクに取り付けられたタンクへと繋がっている。

 

「ま、待てよ、そりゃ反則だろ!」

「別に問題ないよ。それじゃあ、時間も無くなって来た事だし頑張って耐えてね」

「「「「ひぃぃぃぃっ!!」」」」

 

カウントがゼロになった瞬間、容赦なく備えられたミニガンの引き金を引いた。発射される大量の弾丸は雨となって男達へと襲いかかる。本来は人が携帯できる装備ではるが、かなり多くのペナルティを負うことになるそれを、トライクに備え付ける事で軽減した。移動ペナルティが掛かるなら、別に移動手段を用意して移動砲台みたいな感じにすればいいのだ。

直ぐに勝敗が告げられ、戦闘は終了した。俺の目の前にはリザルドが表示され、勝利した事で彼らの持つ大量の金が入り込んできた。

 

「まだやる?」

「けっ、結構です!」

「お邪魔しました!」

 

脱兎のごとく逃げ去っていく男達を見送った俺は、後ろを振り向いて助けた彼女を見る。

 

「助けてくれてありがとう」

「いや、こっちも目論見があったからいいよ」

「目論見? もしかしてナンパ? そんな格好をしているけど、ハラスメントコードが出たって事は男なんだよね?」

「まあね。ナンパとも言えなくもないかな。とりあえず、この装備が似合いそうな君にこれを受け取って欲しいだけだよ」

「?」

 

不思議そうにしている彼女に俺は事の次第を説明するのだった。

 

 

 

 


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