モンスターと戦っていたらシノンがこちらに走ってくる。俺はさっさとモンスターを倒してシノンを迎え入れた。彼女はそのまま抱きついてきて顔を俺のほっぺたに擦りつけてきた。
「こないだの遊びの続きか?」
「にゃあ」
顔を赤くしながら可愛らしく鳴くシノンの頭を撫でていく。こないだの遊びとは別アカウントを作ってALOと呼ばれるゲームに撮影の為に参加した時の事だ。俺はインプでシノンがケットシー。猫耳と尻尾がついたシノンは凄くかわいい。そんな訳で飼い猫プレイとかして遊んでみたのだが、甘えてくるシノンはやばかった。首輪をつけて俺には甘えて他の奴らにはツンというのもまたいい。
「んっ」
気持ち良さそうに撫でられながら、シノンは太ももにあるデザートイーグルをクイックドロウで抜いて出現したモンスターの頭部を打ち抜く。打ち抜かれたモンスターは即座にポリゴンへと変わっていく。
「移動するか」
「うん。はやくデートしよ」
「ああ。さっさと殲滅するぞ」
「了解」
シノンが魔香と呼ばれるアイテムを銃弾で破壊すると、大量の黒い煙が出て沢山の大型モンスターが出現した。魔香によって湧いてきたモンスターを二人で蹴散らす。そもそも魔香とはモンスターを出現させるアイテムで、出て来る香りが強いほど強力な敵を呼び出す。一番強いのが出て来るのは破壊された時で、ボス戦が始まるのだ。もっとも俺は複数を同時に焚いて強力なモンスターを大量に出現させている。そして、壊されたのはその全てだ。よって出て来るモンスターもかなり強くなる。
「邪魔、さっさと死ね」
押し寄せて来るボスモンスター、オーガの拳をシノンは相手の力を利用して投げ飛ばす。空中に投げ飛ばされたオーガに地面を蹴って跳躍したシノンはへカートⅡを取り出して頭部に直接狙いを付けてトリガーを引く。近距離からへカートⅡの一撃を受けたオーガはお亡くなりになった。そして空中から落ちてくるシノンはへカートⅡをアイテムストレージに仕舞って太もものデザートイーグルを2丁、クイックドロウで取り出して落ちながらモンスターを蹴散らす。着地と同時にすぐに動いて流れるような動作で次々と始末していく。全ての行動が次の行動を生かすための一手となっている。体術による格闘戦や回避技術も教え込んだ甲斐があり、被弾もかなり少くない。
「随分と強くなったな。俺も負けてられないな」
ワイヤーと光剣、実体剣を駆使して徹底的に叩き切る。この実体剣は俗に言うガンブレードという奴で銃弾も放てるので色々と面白い。もっぱらモンスターに突き刺して内部に銃弾を叩き込むのに使っている。
数分で決着がつき、残っているものは居なくなった。敵の殲滅が完了するとこちらにシノンが寄ってくるので頭を撫でて髪の毛の感触を楽しみながら労う。
「だいぶ格闘戦もできるようになったな」
「うん。直葉には負けるけど」
「直葉は仕方ない」
直葉が模造刀を持って無手の詩乃と訓練をしている場合は詩乃が負ける。合気道を中心に教えているが流石に刀を持たれるとまずい。素手同士なら裏技を使っていいところまでいっているのだが、刀を持った直葉は桁が違うからな。
「むっ」
「どうしたの?」
「通信だ。ちょっと待ってくれ」
「うん」
シノンを撫でながら通信を取るとすぐに相手の声が聞こえてきた。
『すまないが話がある。シノンを連れて何時ものガンショップに来てくれ』
「直接言えば……」
『断られるに決まっている』
「だな。わかった」
「?」
通信を終えてシノンを見ると不思議そうに小首をかしげている。とりあえず、チケットと今までの稼ぎをつぎ込んで買ったバイク。軍用トライクのブラックトライクを呼び出す。こいつはブラックロックシューターのゲームにでてきた奴を頑張って再現してみた物だ。マシンガンとブレードも用意してある。
「まずはガンショップにいこうか」
「うん」
シノンを抱き上げてブラックトライクの後部座席に乗せ、俺も乗り込んでブロッケンの街へと向かう。シノンは身体を押し付けるように抱きついてくる。走らせると楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
「飛ばすぞ」
「わかった」
更にぎゅっと抱きついて来るシノンの温もりを感じてから、ギアを上げてアクセルを回す。時速はすぐに140キロを超えていく。途中で現れたモンスターもブレードで切り倒す。シノンはサブマシンガンを持って敵を蹴散らしていく。ときたまプレイヤーも居て、対人装備をしている奴らが襲ってくるが辻斬りを行って蹴散らして進んだ。
ブロッケンに到着した俺とシノンは駐車場でブラックトライクを仕舞う。ここからは腕を組んで手を繋ぎながらガンショップへ向かって歩いていく。やっかみなどの視線を受けるが無視する。
「あ」
「飲み物ならある。はい」
飲み物を買おうかと考えたらシノンがアイテムストレージからドリンクを取り出して差し出してくれる。
「ああ、ありがとう」
ストローから流れ込んで来るのは好みのドリンクでとても美味しい。ドリンクを受け取って今度はシノンへと飲ませる。そんなことをしていると周りの温度がかなり上がったようだ。とりあえず気にせずたわいもない会話をしながらガンショップに入る。
「アンタッチュブル?」
「そこで待ち合わせ」
「?」
ゲームが置いてある場所に移動するとそこには大男と長身の男性が待っていた。その長身の男性が丁度ゲームをクリアしたところだったようで、ゲームのゲートから出て来るところだった。
「来てくれたか」
「まあね」
「?」
「それで闇風さんは何の用?」
「用があるのはこっちだ」
長身の男性、闇風さんは隣の大男を促す。
「俺はベヒモスだ。そっちの子にお願いがあってな」
「シノンに?」
「多分これ」
不思議そうに聞くとシノンはアイテムストレージから大きな銃、ミニガンを取り出した。
「それだ! 悪いが返してくれないか?」
「キリトがいらないならいいよ。別に私はいらないし」
「俺もいらないよ」
「助かる」
「でも、どうして私だとわかったの?」
「ダインって奴が自慢してたからな」
「なるほど」
シノンがミニガンを返している間に闇風さんと話す。
「悪いな」
「まあ、これくらいなら構いませんよ。それより今度のBoBに出るんですか?」
「出るぞ。そっちも出るだろ?」
「今回は出ます」
「なら前の戦いでの借りを返そう」
「できるかな?」
「やるさ」
「楽しみに待っているよ」
話をしている間にあちらも交渉が終わったのか、シノンが俺の腕に抱きついてくる。
「じゃあ、俺達はデートの続きをしてくるから」
「ああ、またな」
「今度は俺が勝つからな」
「今度も私が勝つ」
闇風さん達と別れてからはブロッケンの街を二人で散策し、最後はブロッケンに購入した自宅へとブラックトライクで戻った。その後はリアルで詩乃の手料理を食べて、ログインしなおしてからシノンと寝室へと入った。