2015年10月。ガンゲイルオンラインにて第2回BoB(バレット・オブ・バレッツ)という最強ガンナー決定戦が行われる。1回目はログアウト可能・5分以内なら再接続可能だったため八百長が発生して急遽第2回目が行われる事となった。1回目は仕事で参加できなかったが、2回目は参加できる。なので詩乃ことシノンと共にログインして総督府を目指してブロッケンの街をバギーを二人乗りして走っている。
「いやはや、ついに来たね」
「そうね」
「ガンナー決定戦か~楽しみだね」
「キリトはガンナーじゃないでしょ」
「否定はしない。得物は剣だからね」
「それにしてもその格好はどうにかならないの?」
「え? 面白そうじゃない?」
「いい宣伝にはなるでしょうけど」
到着したので2人で並んで総督府に入る。直ぐに周りの視線がいっぱい飛んでくるが気にしない。そもそも視線にはなれてるしな。シノンの方はまだ慣れてないみたいだが。まあ、視線が飛んでくるのはこっちのせいなんだがな。ちょっと仕事の関係で頼まれたんだよね。もちろん、GGOの運営会社にも話は通してある。
「あそこでエントリーするみたいね」
「行ってみようか」
ATMや映画のチケット販売機みたいな所に登録所と書かれている。そちらを目指して歩いていく。
「やあ、シノン。遅かったね。出るって言ってたのに間に合わないんじゃないかと思ったよ」
馴れ馴れしく話しかけてきた銀灰色の長髪に長身の男。誰だ? 俺は見た事ないけど。
「こんにちは、シュピーゲル。連れの用事で遅れたの」
「連れ? もしかして、その……人?」
「そう。キリト、彼はシュピーゲル。友達よ」
「……そうか」
息を吐きながら答える。同時にコホーという吸気音が自動で響く。
「つ、付き合う人は選んだ方がいいよ……」
「大丈夫。今回は理由があるから。それよりも登録しないと」
「うむ」
「また後でね」
「あっ、ああ……」
シノンに促されてそちらに移動する。まずはシノンが登録を始めて俺が直ぐ後ろに立って漏洩を防ぐ。その間に住所を打ち込んでいく。打ち込まれる住所は俺の所だ。
「終わったよ」
「じゃあ交代だ」
「うん」
シノンと入れ替わり、俺は運営から支給されたカードを通す。特別な事はない。一時的に名前の変更などを行うだけだ。名前はもちろん、あの人の名前。これでお仕事の準備は完了。後は目立てばいい。ベスト4には最低でも入るように言われているが……優勝を掻っ攫う。
「登録完了。行くぞ」
「わかった」
2人でエレベーターに乗って地下へと降りていく。地下に降りるとやはり無数の視線が突き刺さる。
「おい、あれって司令だよな」
「皇帝の右腕……」
「死の小艦隊」
「ネタか、ネタなのか?」
「いや、そういえば映画がリメイクされるっていう話も……」
「ってことは光剣……いや、ライトセイバーで戦うのかね?」
「んな馬鹿な……」
進んでいくと座る場所があるのでその近くで壁に背を預ける。
「じゃあ着替えてくるね」
「ああ、行って来い」
「行って来ます」
シノンが行ったのでそのまま精神集中を行う。
「おい、お前はシノンと一体どういう関係なんだ!」
煩わしい声は無視して戦闘のコンディションを確認していく。しばらくするとシノンが戻ってきた。
「シノン、彼は……」
「えっと――」
「シノン、始まるぞ。準備はどうだ?」
「――大丈夫。問題ないよ。武装の確認もしてある。そっちは……聞くまでもないか」
「ああ。む、時間か」
直ぐに俺は光に包まれていく。どうやら先に戦うようだ。
「いってらっしゃい」
「うむ。蹴散らして来るとしよう」
わざと真ん中の方へ移動してタイミングを見計らってマントを翻して転移する。次の瞬間には廃墟となったビル街に俺は出現した。視界には戦闘開始の文字が現れて消える。直ぐに光剣を取り出してスイッチを入れて街中を歩いていく。
「へっ、まじでライトセイバーかよ。名前までダース・ベイダーだし正気か?」
どこからか男の声が聞こえてくる。
「コホー。貴様らの相手など剣一本で充分よ」
「言ってくれるねぇ! このギンロウさまが蜂の巣にしてやるよ!」
馬鹿な男は声をあげて飛び出して来た。そして、直ぐにH&K UMP……ドイツのH&K社が開発した短機関銃を乱射してくる。
「避けるまでもない」
光剣1本で外れるのは無視して名中するものは弾道予測線(バレット・ライン)が出る前に予測した場所を次々と切り払う。
「んなっ!?」
「それで終わりか? 相手にもならんな」
足を踏み込み、パワードスーツの力も合わせて一気に加速して接近する。相手が慌ててマガジンを変えている所に突きを叩き込みそのまま頭を掴んでビルの壁に叩きつける。その後、空中に放り投げて下から落下してくる所を突き刺してやるとゲームセットになった。勝利すれば元のホールに戻っていた。
「ダース・ベイダーつえええっ!!」
「ないわー」
「化け物だろ」
俺が通ると皆が道を開ける。そこを通ってソファーに向かい座りながらシノンや他の戦いを見ていく。依頼されたのは簡単だ。ハリウッドが改めて作るスターウォーズにGGOの会社が協力する事になり、宣伝も兼ねてプレイヤーを探したら光剣で戦っている俺にヒットしたという訳だ。実際に銃など使わずに剣だけで戦う俺にオファーが来た。映像は全て録画されてネット上に流される。まあ、俺達の会社も協力する事になったので何の問題もなく受けたのだけどな。オーダーはただ一つ。虐殺せよとの事だったのでその通りにしていく。
さて、シノンだが……こちらも危なげなく敵を撃ち殺した。へカートではなくただのライフルで狙撃してだが。そもそもあれくらいなら普通の拳銃で倒せるだろう。
「ご苦労」
「お疲れ様。なんか弱いね」
「おれ……私達が強いだけだ」
「それもそうね」
飲み物を注文して届いた物を退屈そうに飲みだしたシノンは直ぐに本を開いて読み出した。俺は俺でホールを見渡して用のある奴を探す。そいつが居る場所に向かう。仲間内で話し合っていたが、直ぐに俺に気づいたようで立ち上がって出迎えてくれた。
「な、何の用だよ!」
「おい」
ギンロウを睨みつけてトレードウィンドウを呼び出す。
「あん?」
贈るデータは電子チケットだ。それと説明書が書いてある。出演協力という形での報酬となる。事後承諾なのが酷い所なのだがな。
「おおっ、まじかよ」
「そういう事だ。わかっているとは思うが……」
「おーけーおーけー終わるまで黙ってるよ」
「うむ。さもなければ処刑だ」
それだけ言って帰る。
「おい、なんなんだよ?」
「あー終わってから言ってやるよ。今はまだ言えねえな。折角のものがパーになっちまう。まあ、対戦相手になる奴はラッキーって事だな。負けるのは確実かもしれねえが」
次の対戦が始まり、同じように残虐な方法で殺してプレゼントを配る。それを繰り返せば本戦に出られた。本線はバトルロワイヤル形式。シノンと合流すれば援護は問題ない。そもそも必要ないかもしれないがな。