開始のカウントダウンが行われ、リーファは空を飛び、シノンはへカートを構える。カウントが零になった瞬間、両者が動く。リーファは瞬時に飛び出しながら恐ろしい速度で魔法を発動させる。その魔法によって有り得ないほど加速を得るリーファ。だが、魔法が発動すると同時に引き金は引かれる。
「っ!?」
轟音と共に発射された弾丸は秒速825メートルという驚異の速度でリーファに飛来する。本来なら何もせず貫かれて終わるはずだった。だが、直前で危険を察知したリーファは上昇によって回避を試みる。それによって銃弾から逃れる事はできたが、衝撃波によって少なくないダメージを負う。
「なんなのよそれ!」
リーファにとって、シノンがPGMヘカートIIなんて持っているなんて知らない事だ。自分と同じくファンタジー系の魔法が飛んでくると思っていたリーファにとってこの回避は奇跡的といえるだろう。
「加速度を計算して……撃つ」
しかし、スナイパーであるシノンは容赦しない。上昇したリーファの速度を割り出して連続で狙撃していく。
「なめるなっ!!」
それに対してリーファは抜刀して銃弾を切断してシノンに向かって螺旋を描きながら急降下を行う。普通のスナイパーなら驚愕して終わっていた。だが、生憎とシノンは普通のスナイパーではない。常日頃からパートナーの非常識っぷりにならされている。
「キリトの妹ならこれぐらい当然」
平然とそう言ってのけて腰から拳銃を引き抜いて射撃する。これに関してはリーファも抜いた刀のみで対応し、問題無く切り落とす。そして、シノンの直ぐそばまで接近する。シノンは後方に倒れるように飛び退く。
「至近距離からの狙撃、回避できる?」
へカートの銃口が倒れる事により持ち上がり、避けられないタイミングで向けられる。
「ちょっ!? まっ」
「待たない」
容赦なく引き金が引かれて発射された弾丸によりリーファが吹き飛ぶ。吹き飛んだリーファに対してシノンはへカートを置いて直ぐに別の拳銃を取り出して射撃を行う。リーファはなんとか刀で防ぐが、致命傷こそ避けたが少なくないダメージを受けていつもの剣技を出せない。
「こう、なったらっ!!」
最後のあがきとして銃弾を無視して突撃を行うリーファ。それに対してシノンは銃で刀を殴りつけて軌道を変え、自身も回転しながらリーファの懐へと入り込む。そして、突き出された腕を掴んで投げた。
「がはっ!?」
「チェック・メイト」
投げ飛ばしたリーファの上に乗ってシノンは銃口を額に突きつけた。
「じゅ、銃なんて反則だよ!」
「いや、素人に全力で喧嘩売った時点でお前の負けだから。それに武器を確認しなかったのが悪い」
「ぐっ……でも、さっきの動きは素人じゃないよ!」
「押し込んだからな」
「対策は聞いていた。後、少しずるもした。でも、勝ちは勝ち」
シノンのズル。それは簡単だ。戦闘中に訓練空間に逃げ込んで時間を止めて計算し、準備した事だ。そうでないと、予測線すらない銃弾を切り落とすというふざけた事をやってのけるリーファに勝ち目はないだろう。
「わ、わかった……認めてあげる」
「ありがとう」
「仲良くしろよ。シノンはお姉ちゃんになるんだからな」
「お姉ちゃん……」
「おっ、お姉ちゃん……」
顔を赤くして照れるシノン。
「うん、そうだよね。お兄ちゃんと結婚したら私のお姉ちゃんになるんだよね……」
「それにこれから一緒に住むからな」
「……どういう事?」
「それは……」
リーファに詳しい説明をしていく――
仮想空間から出て現実へと戻ると、直葉は詩乃ではなく、こっちを見て刀を突きつけてきた。
「お兄ちゃん、勝負! お兄ちゃんが居なかった間の挑戦だよ!」
直葉は毎日、一日一回は挑戦してくる。俺に一撃でも入れられれば色々とご褒美を与えている。
「後でな。母さんも帰ってくるし、ご飯の用意もしないとな」
「む、明日には絶対だからね」
「ああ。さて、詩乃。悪いけどご飯を作るの手伝ってくれ」
「ん、いいけど……」
詩乃は直葉を見るが、直葉そっぽを向いた。いや、それだけでなく――
「あ、私宿題があるから!」
――逃走した。家事技能が壊滅的な我が妹だった。
「直葉は使えないから。というか、料理させたら駄目だ」
「うん、わかった」
エプロンを荷物から取り出した詩乃と一緒にリビングにあるキッチンへと向かう。そこに置いてあるエプロンをつけて一緒に食材を確認していく。
「何もないね」
「まあ、自炊は母さんくらいしかしないし。俺も希に作るくらいだから」
「そうなんだ。買い物いかないとね」
「荷物持ちは任せて」
「うん。じゃあ、行こうか」
「ああ」
手を繋ぎながら近所のスーパーに野菜などを買いにいく。一緒にスーパーで食材を選んでいると新婚気分になってくる。二人共赤くなっても、気にせず買い物を行なって戻り、料理を開始する。といっても、今日は鍋なのでそこまで大変じゃない。野菜やきのこ類を切って出し汁の中に入れるだけだし。
「お皿はこれでいいの?」
「うん、大皿を使って――」
一緒に準備をしているとチャイムが鳴った。
「この時間だとメインが来たみたいだ。ちょっと行ってくる」
「うん」
玄関に向かって、宅配されて来た物を受け取る。今日のメインは大量のカニだ。毛ガニをいっぱい買ってみた。あと、七輪とかも。今日はカニパーティーだ。
二人で準備をしていると、直葉も降りてきて運ぶくらいは手伝ってくれた。カニは甲羅を最初にとって、それで出汁を取って野菜を炊いていく。いい時間になると母さんが帰ってきた。
「ただいま。その子が言っていた詩乃ちゃんね」
「うん」
「よ、よろしくお願いします」
「じゃあ、質問するわね」
緊張する俺と詩乃。母さんの判断次第で結果が変わってくるのだ。
「家事はできる?」
「大丈夫です」
「じゃ、合格」
「軽!? お母さん、軽すぎない!!」
「いや、だって和人が選んだなら大丈夫だろうし、それに二人共殆ど家事できないでしょ。一緒に住んで家事をやってくれる方が助かるわ。それに和人だったら向こうの家に入り浸りそうだし、そうなると直葉は私が仕事の時、ここに一人になって心配に――」
母さんが何か心配している。
「食事とかは出来合いで問題無いでしょうが、もしも襲われた時やり過ぎたりしないかとかあるし。母さん、幽霊が出る所には住みたくないわ」
「やり過ぎないよ! そりゃ、手足を斬り――じゃなかった、折ったりはするだろうけど」
「詩乃ちゃん、お願いね。できれば栄養の事も考えてあげて」
「は、はい。任せてください」
「ちょっと!?」
「諦めろ。ちなみに手足を斬り落とすのは論外として、折るのも行き過ぎかも知れない」
「そ、そうかな? でも、リタちゃんとか、ドクターの所は穴だらけにするって」
「あそこは例外だ」
直葉もうちのメンバーとは知り合いだ。うん、まあどう考えても俺を含めて悪影響を与えたな。
「お腹すいたから食べましょ」
「そうだね」
「はいはい。詩乃」
「うん」
四人で冷房をかけながらの夏カニを楽しんだ。詩乃の部屋に関しては色々と直葉が言い張ったが、俺と同じ部屋になった。母さんは好きにしたらいいと言っていた。避妊するもしないも自由にしていいとの事だ。孫は欲しいらしい。とりあえず、両家公認でイチャイチャできるようになった。これで問題は解決したので本格的にGGOをやろう。まずは第2回バレット・オブ・バレッツ《The Bullet of Bullets》に参加する事だ。