朝田家でしばらくお世話になり、俺と詩乃は帰って来た。そのまま今度は俺の家に連れて来た。詩乃がここに住む事について連絡した時に今日連れて来るようにと言っていたから。
「さあ、入って入って」
「えっと、いいのかな?」
「これから住む事になるんだから気にしなくていいよ。妹や母さんはまだだろうし」
「うん……でも、確定なの?」
「確定だよ。母さんも乗り気だしね」
電話の感じだと何も問題無い。むしろ、助かるらしい。俺と直葉の家事技能は……うん、ダメダメだし。
「ほら、こっち」
「んっ……お邪魔します」
詩乃を自宅へと招き入れて案内していく。家は日本家屋に道場まである。庭も隣が空家になった時に買い取って広くしてある。もちろん、俺の趣味で改造してある。
「ねえ、和人……」
「ん?」
「なんで庭に滝があるの?」
「修行の為」
滝打ちとか、精神を鍛える為に丁度いいんだよな。
「あ、滝の水はお湯にできるし、滝湯にもできるよ。もちろん、露天風呂もある」
「うん、やりすぎ」
「いやー知り合いに頼んだら普通にやってくれたからな」
ドクター達の技術力はやばい。色々と便利アイテムを貸してくれるダメ人間量産猫型機みたいだ。
「でも、庭は砂利が敷いてあるだけで庭園じゃないんだね」
「ああ、そこは妹と道場の外で戦う為の場所だな。祖父の教えもあって、よく戦ってるよ」
実際に祖父は強かった。それと直葉もなんだかんだ言って小さい頃から俺に付いて一緒に修行していたから、かなり強い。全国大会でも軽く優勝してくるくらいに。
「うん、私には無理」
「まあ、詩乃は後衛だからな」
「いや、戦闘民族と同じにしないで欲しい。頑張るけど」
「適度に頑張ってくれればいいよ。詩乃は俺が守るし」
「うん」
縁側を歩いて家の中を案内して1階にある俺の部屋に移動する。物は殆ど置いていない。せいぜい床の間にある真剣くらいだろう。原作のキリトには悪いけど和室の方が好きなので和室を使わせて貰っている。
「ここが俺の部屋」
「刀が置いてある」
「あ、真剣だから気をつけろよ」
「うん……って、模造刀じゃなくて真剣なんだ」
「そう、本物。だから普通に斬れるから。もちろん模造刀もあるけど、そっちは道場に置いてある」
「……なんでかは聞かない」
スルーされた。
「こほん。とりあえず荷物置いちゃおう。これから一緒にここで寝泊りするし」
「うん」
バイクに積みっぱなしにしていた荷物を移していく。少しして俺の部屋の一部に詩乃の着替えなど私物が置かれた。布団は一つしかないけど、どうせ一緒に寝るし問題は無い。いや、色んな意味であるだろうけど。我慢できないとかいった。
「ん?」
「どうしたの?」
「ああ、妹が帰ってきたみたいだ」
「そうなんだ。音とか聞こえなかったけど……」
「気配がした」
「……うん、挨拶しないと」
「こっちに向かってきてるようだから大丈夫だろ」
直葉の気配は自室に寄った後、こちらに向かって全力疾走してきている。ただ、足音はほぼ無く、限りなく無音に近い。そして何よりもう濃厚な気配を出している。
「お兄ちゃんっ!!」
扉が開かれて直葉が飛び込んで来た。直ぐに詩乃に目を向ける直葉。
「お前が泥棒猫か!!」
「にゃ、にゃあ?」
小首をかしげながら手を丸めて招き猫みたいな事をしながら鳴いた詩乃。
「いや、乗らなくていいから」
「でも、妹さんから取ったのは事実だし……」
「ああ、可愛い――」
「死ねっ」
「ちっ!?」
直葉が隠していた刀を高速で抜刀して斬りかかってくる。俺はそれを両手で挟んで受け止める。
「お兄ちゃん……退いて、そいつ殺せない。お兄ちゃんに付いた悪い虫は斬らないと」
虚ろな瞳でそう言ってくる。完全に病んでいる。
「かっ、和人……」
身体を少し震わせた詩乃。だが、直ぐに持ち直した。流石に経験があるだけ違う。
「大丈夫。直葉、遊びはそれくらいにしろ。いくらなんでも真剣はやりすぎだ」
「ちっ、仕方ないね」
直ぐに瞳が元に戻り、刀も引いてくれる。それから鞘に仕舞ってから詩乃に向けて殺気を飛ばす直葉。
「貴方にお兄ちゃんは渡さない。死にたくなかったらさっさと去れ」
「こら」
「お兄ちゃんは黙ってて。これは女の戦い!」
「いや、明らかに……」
「和人、いいよ。えっと、直葉ちゃんだったかな。私は和人のものだから、絶対に和人の下から去らない。それに私はお兄ちゃんを取らないよ。二号でも三号でも尽くすだけだから」
「ふーん、じゃあ私に戦いで勝ったらお兄ちゃんに相応しいって認めてあげる」
鞘に入った刀を詩乃に向けて挑発する直葉。どう考えても“普通”なら詩乃に勝目はない。
「うん、いいよ。勝負方法は私が決めていいよね? ジャンルは戦いってそっちが決めたから」
「いいよ。どうせ私が勝つしね」
「じゃあ、和人……VR空間用意して」
「まあ、そうなるよな」
詩乃が勝つ為にはVR空間での戦闘が最低条件だろう。
「VR空間? じゃあ、私はリーファで行こうかな。お兄ちゃん、設定できるよね?」
「ああ、問題無い。ちょっと待ってろ」
部屋に備え付けてあるパソコンで設定を行う。使うのはSEEDで作り上げた訓練空間だ。これは各ゲームのデータを解析して武装とステータスを再現出来る。アイテムぐらいしか違いは無いので比較的簡単に行えた。
「さて、設定完了。フィールドは草原。500メートル先にお互いを配置するよう設定した」
「わかった」
「うん」
二人が被ったアミュスフィアのスロットにコードつきカードを指して有線で繋げる。これでネットワーク内部に設置された戦闘フィールドに転送できる。
「準備できたぞ」
「はーい」
「ん、行って来る」
「ああ」
「「リンクスタート」」
二人が起動ワードを唱えてゲームの世界へと飛ぶ。俺もアミュスフィアを被ってそちらに移動する。
視界が移り変わり、草原の中に立っている。俺はゲームマスターとしてこの世界のコントロールが可能だ。ゲームマスターは破壊不可能存在となれるので問題無く戦いを特等席から見れる。という訳で、詩乃がシノンとなり、直葉がリーファとなった。シノンはいつも通りの姿だ。リーファは原作とは違って長剣ではなく刀になっているくらいだ。
「さて、二人共準備はいいか?」
「問題無い」
「ふふふ、切り刻んであげる」
両者共に気合充分で武器を構えている。さて、リーファのゲームでの実力は知らないが、見させて貰おうか。飛行能力と合わさった剣技の性能とやらを。
リーファちゃんはちょっと病んでます。
ちなみに流石に殺すつもりはありませんよ。キリトが止めるのがわかりきってますし。止めなければ寸止めです。
お兄ちゃんの為なら未遂も問題無いというくらいには病んでいます。