空飛ぶウヴァさん   作:セミドレス

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第九話 ウヴァさんと転校生

 六月。気温も高くなり、学園の生徒の服装も夏服に変わったある朝。

 SHR中の一年一組の教室はひどく浮ついていた。

 副担任の山田真耶が、転校生の紹介を行っているからだ。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

 二人いる転校生の片方、金髪の女が自己紹介を行う。

 なぜか俺や織斑と同じ男子用の制服を着用している。

 単純に趣味によるものだろうか。それとも、そっちの嗜好の持ち主だというアピールなのか。

 どちらにしても、色調以外の共通点を見つけるのが難しいような改造制服が横行するこの学園だ。咎められることはないだろう。

 

「お、男……?」

 

 誰かが呟いた。馬鹿か、どう見ても女だろ。俺と織斑以外に男がいない環境とはいえ、服装でしか性別を判断できなくなるのはマズくはないか?

 俺はそんなことを考えていたのだが、男装女は俺の予想を裏切る答えを返した。

 

「はい。こちらに僕と同じ男性操縦者がいると聞いて本国より転入を――」

 

 教室がざわつく。なんだと? 男? とてもそうには見えない。

 奴の言葉が信じられない俺は、奴を注視し気配を探った。

 やはり感じ取れる気配や欲望は女のそれだ。どうやらあれで性別を偽装しているつもりらしい。

 

「男子! 三人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「織斑君ともウヴァ君とも趣の異なる美形! 素晴らしい!」

「おい、お前!」

 

 あっさりと騙されているらしい女共の喧しい声を、こちらも声を張り上げて遮った。

 

「は、はい?」

 

 男装がこちらに顔を向ける。

 

「お前、女だろう? 体も、心も。何のつもりだ?」

 

 俺はそう問いかけた。性別を偽装する目的など十中八九、俺と織斑に近づくことだろうがな。鬱陶しい話だ。

 

「い、イヤだなぁ、突然何を……ハハ……」

 

 俺の言葉に、奴はごまかすように笑みを浮かべる。だが、それは引き攣った不自然なものだったし、顔色も目に見えて蒼白に変わっていった。黒なのは一目瞭然だ。

 その愚かしさが癪に障り、俺は射殺さんばかりの視線をぶつけた。教室に困惑が広がる。

 ほとんど全員、偽装に気付いていなかったらしい。おかしいだろ。こいつらの目は節穴か?

 気まずい沈黙が場を支配した。

 

「あ~、山田先生。デュノアは体調が優れないようだ。医務室へ連れていってくれ」

「は、はい。デュノア君、こちらへ……」

 

 膠着していた状況を織斑千冬が破った。山田真耶が男装女の手を引いて教室から出る。

 いろいろとお粗末な奴だったな。これからどういった扱いを受けるのだろうか?

 

「次の転校生の紹介にいく。挨拶をしろラウラ」

「はい」

 

 もう一人の転校生に自己紹介を促す織斑千冬。

 二人目は小柄な女で、銀色の髪を腰まで伸ばしている。

 怪我でもしているのか、その左目は黒い眼帯に覆われていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 直立不動の姿勢でそれだけ言って、氷のような無表情で口を噤む眼帯女。

 再び沈黙が教室を満たす。

 どうやら自己紹介は以上らしい。無口な奴だな。俺でも、もう少し何か言った気がするぞ。

 この日の朝のSHRはぎこちない雰囲気のまま終了した。

 

 

 

 

 

 

「なあ、ウヴァ」

 

 SHR終了後、織斑千冬が教室を出ると同時に後ろの席の織斑が話かけてきた。

 

「さっきの転校生、本当に女の子なのか?」

 

 こいつも騙されていたのか。なんだ? このクラスの人間はめくらばかりか?

 

「どう見てもそうだったろう。なぜわからない?」

「いや、俺も男にしては華奢だなって思ったけどさ」

「顔つきも女のものだったろ」

「いや、外国人の男の顔って見慣れてないしさ……」

「おい、貴様ら」

 

 織斑と話していると、声をかけられた。視線を向ける。先ほどの眼帯の転校生だ。

 

「織斑一夏はどちらだ?」

「俺だけど。何か用か?」

「貴様か……」

 

 どうやら織斑に用があるらしい。眼帯はカツカツと織斑の席の前に行くと。

 

 バシンッ!

 

 織斑に平手打ちをかました。突然なんだ? 織斑は今度は何をしたのだ?

 面識はないようだったので、直接何かしたわけではないハズだが。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 言葉を続ける転校生。織斑はワケが分からないという顔をしている。

 突然の凶行に教室中の視線が集まっていた。

 

「いきなり何しやがる!」

「ふん……」

 

 混乱から立ち直った織斑が問い詰めるが、眼帯はそれを無視して自分の席へ戻ってしまった。

 

「なんだってんだよ……」

「弟がどうだとか言ってたな。織斑千冬に関わることだろ。何か心あたりはないのか?」

「……たぶん、ドイツ軍絡みだ」

 

 思い当たる節があるらしい。織斑は苦々しい顔で絞り出すように声を出した。

 こいつにとっては嫌な話題のようだ。詳しく聞くのはやめておくか。

 

「そうか。まぁどうでもいい、着替えにいくぞ」

 

 一コマ目の授業は二組との合同訓練だ。

 

 

 

 

 

 

「お前、それ大丈夫か?」

 

 グラウンドに整列しながら、俺は織斑に話しかけた。

 

「すげえ痛い。やっぱり腫れてる?」

「かなりな。痣が残るかもな」

「そんなに? 氷もらって冷やした方がいいかな……」

「そうした方がいいな」

 

 織斑の頬は赤紫色に腫れあがっている。

 あの眼帯の張り手は、なかなかに強烈な一撃だったようだ。

 

「なにそれ、どうしたの? アンタまたなんかやったの?」

 

 二人で話していると、凰がひょっこりと現れた。織斑の頬を見て詰め寄る。

 

「いや、俺は何もしてないというかされたというか……」

「はぁ?」

「今日来た転校生にいきなり殴られたんだよ、そいつ」

 

 しどろもどろに答える織斑にかわり、凰に何があったか教えてやる。

 

「はぁ!? 一夏、アンタなんでそうバカなの!?」

 

 驚き、ついでに織斑を罵倒する凰。騒々しい奴だ。あと、惚れている相手にそれはやめた方がいいぞ。

 そう呆れると同時に後ろから声がかかる。

 

「安心しろ。バカは私の目の前にも二名いる」

「あんッ!?」

「えッ!?」

 

 振り向いた瞬間、凰と共に織斑千冬に出席簿で殴られた。

 痛い。クソ、なんで俺まで。文句を言おうとしたが、理不尽な女はすぐに俺達の傍を離れてしまった。

 

「では、本日より格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」

 

 生徒たちの前に出て授業の説明を始める女教師。

 

「おい、凰。お前のせいで俺まで殴られたぞ。どうしてくれる」

「知らないわよ、一夏のせいでしょ!」

「凰、ウヴァ、元気が有り余っているようだな。戦闘を実演してもらおうか」

 

 凰に恨み言をぶつけていると、いつの間にか再び近づいて来ていた織斑千冬に指名された。

 凰と戦闘の実演か……

 

「いいだろう、ちょうど観客も多い。凰、無様を晒す覚悟は出来ているか?」

「ハッ、どの口がそんなこと言ってるのかしら? いつかみたいに、軽く捻ってあげるわ」

「慌てるなバカども。誰がお前たち同士で戦えと言った。二人で山田先生に相手をしてもらえ」

 

 織斑千冬の言葉に合わせるように、学園の訓練機『ラファール・リヴァイブ』を纏った山田真耶がグラウンドに降り立った。

 

「二対一か?」

「いや、さすがにそれは……」

「安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける」

 

 カチンときた。なんだと? 俺があの色ボケ牛女に負けるだと?

 どうやらこいつは俺を過小評価しているらしい。舐めやがって。

 俺は力を示すべく『打鉄』を展開した。隣で凰も『甲龍』を呼び出す。

 先月の無人機襲撃事件で手酷い損傷を受けた『打鉄』だが、二週間ほど前に自己修復が完了した。細かな調整も済んで今は万全の状態だ。

 

「では、始め!」

「手加減はせん!」

「ウヴァ、足を引っ張るんじゃないわよ!」

「い、行きます!」

 

 織斑千冬の合図で俺達は飛翔した。

 

 

 

 

 

 

「こんな重い物、よくそんなホイホイ運べるな…すごい怪力だよな、ホント……」

「フン……」

 

 合同授業が終わり、昼休みに入る少し前の時間。

 俺と織斑は、午前中の授業で使用された訓練機を倉庫に戻していた。

 IS運搬用の専用のカートが用意されていたので使っているが、原動機の類は付いていない。ただの台車だ。

 数百キロの重量を持つ訓練機を積んだ状態でこれを動かすのは、普通の人間には一苦労だろう。

 実際、織斑はヒイヒイ言いながら運んでいる。俺にとっては大した仕事ではないが。

 

「だぁ、終わったぁ。ウヴァ、メシ行こうぜ」

 

 最後の一機を運び終えた織斑が、肩で息をしながら言う。

 

「ああ……ム……」

 

 俺は織斑に返事をしようとして、途中でやめた。倉庫の入り口に凰が現れたからだ。

 山田真耶との模擬戦は、このチビが足を引っ張ってくれたおかげで負けてしまった。思い出すと腹が立ってくる。

 

「チッ……」

「何よ」

「あー、鈴、飯か? 一緒行こうぜ。じゃあ、ウヴァ、そういうことで」

「ああ……」

 

 俺の苛立ちを察したのか、織斑は凰の手を引き連れ出した。気が利くやつだ。さて、俺も行くか。

 

 

 

 

 

 

「はーい、ライチタルトだよ~」

「…………」

 

 昼休み。部屋で制服に着替えた俺は、本音と食堂に来ていた。

 

「ねぇ、ウヴァっち、そろそろ機嫌直しなよ~。同じ班の子、すごい怖がってたよ? ていうか、今もみんなこっち見ないようにしてるし」

「あん?」

 

 本音の言葉を反芻する。

 確かに、午前中の授業の最初に山田に落とされてから、俺はずっと不機嫌だった。今もイライラしている。

 そんな俺の様子は、周りが怯える程らしい。それは良くないな。

 俺は苛立ちを鎮めようと、切り分けたタルトを口に運ぶ。

 弱めの酸味とクッキーの甘さが口の中に広がる。うん、美味い。少しだけ心が落ち着いた。

 サクサクした生地の触感を楽しんでいると、なにかのスープをかき混ぜながら本音が口を開いた。

 

「でも、まやまや強かったね~。私、ビックリしちゃった」

「フン、凰が邪魔をしなければ勝っていたさ……」

 

 山田真耶との戦いでの、凰のふざけた行いを思い出す。 

 何のつもりか凰は、俺と山田が切り結んでいるところに『龍咆』をバカスカ撃ちこんできたのだ。流れ弾が何発俺に当たったことか。

 それで敵を落とせたならまだいい。だが、実際には一発も山田の『ラファール・リヴァイブ』に命中しなかったのだから話にならない。

 その愚行に俺はキレた。それで凰を同じ目に会わせてやることにした。

 接近戦を行うようけしかけ、鍔迫り合いのために足が止まったタイミングで、凰と山田両方にアサルトライフル『焔備』の連続射撃をお見舞いしてやったのだ。

 これはなかなか上手くいった。凰を撃ち落とせたし、山田もダメージを受けて体勢を崩していた。

 だが、そこから決着を急いだのが良くなかった。

 俺は瞬時加速で接近して勝負を決めようとしたのだが、山田はそれを読んでいた。奴は俺の進路上にグレネードを投擲したのだ。

 瞬時加速は急には止まれない。爆発に巻き込まれた『打鉄』は、流れ弾のダメージもあり行動不能に陥ってしまった。

 やはり、負けたのは凰のせいだ。あいつとはもう絶対に組んで戦いたくないな。

 ライチタルトを口に運びながら、そんなことを考えていると、声を掛けられた。

 

「本音、ウヴァ君……今、いい……?」

 

 更識だった。トレー等は持っていない、飯は食い終わっているのだろう。何の用だろうか?

 

「こんにちはー。どったの? かんちゃん」

 

 本音が応じると、更識はいつも以上に躊躇いを含んだ声で話し始めた。

 

「……『弐式』の飛行プログラムの基礎部分、組み終わったから……その、放課後……テストしたくて……手伝って欲しい……ダメ、かな……?」

「ええ!? もう組み終わったの!? さっすが、かんちゃん! ねえ、ウヴァっち、手伝ってくれる?」

 

 フム、調整段階のISの試験か。興味あるな。

 

「ああ、構わんぞ」

「ありがとう……」

「かんちゃん、どこでテストやるの?」

「第三アリーナを……使おうと……思ってる」

「うん、じゃあ放課後、かんちゃんのクラスに行くね!」

「……ありがとう……本音……ウヴァ君も……」

 

 最後にもう一度礼を言い、更識は立ち去った。

 いつも通りオドオドした態度だが、少しだけ嬉しそうな様子だった。

 

「なぁ、代表候補生ってのは普通、専属の技術スタッフがいるもんじゃないのか? なんであいつにはいないんだ?」

 

 疑問に思ったことを本音に訪ねる。

 ISコアを保有していないペルー共和国所属の俺ならともかく、日本の専用機持ちに付き人がいないのは不自然だ。

 

「あ~、うん。実はね、『打鉄弐式』の開発スタッフ、おりむーの『白式』にみんな取られちゃってるの」

「織斑に? ああ、なるほどな。あいつも運が悪いな」

 

 倉持技研は更式よりも、世界初の男性操縦者にして世界最強の弟を優先したということだろう。納得できない話ではない。

 

 

 

 

 

 

「ヌ……」

「あ……」

「やっほー、せっしー、凰さん」

「あら、ごきげんよう、ウヴァさん、布仏さん。そちらは日本代表候補生の更識簪さんですね。イギリス代表候補生のセシリア・オルコットです。以後お見知りおきを」

「あ、え……はい……」

 

 放課後、第三アリーナのピットに行くと凰とオルコットがいた。

 珍しい組み合わせだ。今月末に開かれる個人トーナメントに向けた訓練だろうか。

 

「アンタ、何の用よ?」

「なんでもいいだろ」

 

 不機嫌そうに問いかけてきた凰に、こちらもぶっきらぼうに返す。睨み合っていると本音が割り込んできた。

 

「まぁまぁ。私たち、調整中のISの飛行試験やるんだけど、いいかな?」

「ええ、構いませんよ。アリーナは私たちだけで貸切のようですし。私たちは南側を使いますわ」

「さんきゅー、せっしー」

 

 本音とオルコットが話をまとめてしまった。

 まあいい。今日は、凰と同じ場所にいると不愉快になる。さっさと行くか。

 

「オルコット、俺達は北側を使えばいいんだな? いくぞ、更識」

 

 俺は『打鉄』を展開してピットから飛び立った。

 

 

 

 

 『打鉄弐式』の飛行試験を始めて十分程が経った。オルコットと凰もピットから上がってきている。

 俺が更識に頼まれた内容は地味なものだ。様々な軌道でゆっくりと飛ぶ更識に追従し、挙動がおかしくなったらカバーに入る。それだけだ。

 今のところそういったことは起きていない。順調なものだ。帰ってもいいだろうか。

 そう思った矢先に、『打鉄弐式』が突然高度を下げた。加速して追いつき、更識の腰を掴む。

 

「おっと」

「……っ……ごめん……」

「気にするな」

 

 再び揚力を発生させた『打鉄弐式』を手放す。

 更識は俺の傍に滞空し、投影型キーボードを呼び出して叩き始めた。この場でプログラムを書き換えるようだ。

 

「器用なもんだな。俺には真似できん」

「……特技は、人それぞれ……っ!?」

 

 ――警告、ロックされています――

 

 更識と言葉を交わしていると、突然『打鉄』がアラートを鳴らした。

 

「ヌッ!」

 

 次いで飛来した砲弾から更識を庇う。強力な砲撃だ。受け止めたシールドには亀裂が発生している。

 

 ――機体名『シュバルツェア・レーゲン』、登録操縦者 ラウラ・ボーデヴィッヒ――

 

 『打鉄』が情報を表示した。

 砲弾が飛んできたきた方向を確認すると、今朝の転校生の片割れ、織斑の頬を張った眼帯女が黒いISを纏って佇んでいた。

 戦車を思わせる角張ったデザインのISだ。

 そして、デカイ。『打鉄』よりも一回り以上背が高い。

 

『どういうつもり? いきなりぶっ放すなんて、いい度胸してるじゃない』

 

 凰がオープンチャンネルで問いかける。あちらにも砲撃が打ち込まれていたようだ。あの眼帯、何を考えている?

 

『中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』、それに日本の屑鉄と出来損ないか。……ふん、この学園にまともなISはないのか?』

 

 眼帯女が口を開いた。侮蔑の言葉。どうやら叩き潰されたくてここへ来たらしい。

 ちょうどいい、今日は少し暴れたい気分だからな。

 俺は『打鉄』の両手に武装を実体化した。

 

「更識、下がってろ。アレを潰す」

「…………」

 

 更識を退かせる。

 眼帯は凰やオルコットと何か言い争っていた。ハッ、まどろっこしい奴らだ。

 

「馬鹿が!」

「むっ!」

 

 右手の『焔備』を撃ちながら腰部スラスターを全開にして眼帯に突撃する。

 奴は急上昇することでこちらの射撃をかわした。

 『打鉄』の軌道を修正しながら近接ブレード『葵』を構える。切り捨ててくれるわ!

 

「落ちろっお!?」

 

 なんだ!? あと一歩で刀の間合いに入るという距離で、突然『打鉄』が停止し、動けなくなった。何をされた? 何が起きている!?

 

「愚図が……」

「グゥッ!?」

 

 宙に磔にされた俺を、奴は手刀で切り付けた。追い打ちに大砲の連射が撃ち込まれる。

 弾き飛ばされた俺は地面に激突した。

 

「うぅ、おのれ…」

 

 『打鉄』の状態をチェックする。今の攻撃でシールドエネルギーが八割近く持っていかれた。だが幸い、『打鉄』の機体に深刻な損傷はないようだ。

 奴を見ると、凰とオルコットを相手に戦い始めたようだ。

 フム……

 

「三対一とか卑怯じゃね? やられたフリしてデータ集めるか」

 

 しかし強いな、あの眼帯。二人を相手に苦戦する様子もない。織斑が言っていた通り、ドイツ軍関係者なのだろうか。

 俺がそんなことを考えている間に『打鉄』は順調に黒いISの情報を集め、解析していく。

 

 ――武装、『大口径リボルバーカノン』、『ワイヤーブレード』四基、両手首にプラズマ刃発生装置――

 ――慣性停止結界、『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』――

 

 かなり攻撃力の高いISのようだ。それに停止結界、さっきのはこれか。厄介な代物だな。

 そうこうしているうちに、凰とオルコットが落とされた。二対一で負けるとは。情けない奴らだ。

 しかし、このままやられっぱなしは癪だな。あの眼帯女が油断して隙を見せたら、一発ぶち込んでやるか。

 そう思って俺が『焔備』と『葵』を静かに構え直した瞬間、奴は墜落していた凰の『甲龍』に砲撃を加えた。右側の非固定浮遊部位が砕け散り、凰が痛みに声をあげる。……は? アイツ、何をしている?

 俺が呆然としていると、今度はオルコットの『ブルー・ティアーズ』を『ワイヤーブレード』で引きずりアリーナの隔壁に叩きつけ、『リボルバーカノン』で撃ち抜いた。ハイパーセンサーがオルコットの苦痛に歪む顔を捉える。

 

『ウヴァっち、止めて!』

 

 ピットの本音から、悲鳴のような通信が入る。

 確かにこれは危険だ。『打鉄』を浮かべようとした瞬間、奴の大砲がこちらを向いた。ヤバイ。

 

「グアッ!?」

 

 砲弾が直撃し、吹き飛ばされた。『打鉄』のエネルギーがゼロになる。

 

「クソッ!」

 

 奴を見ると、今度は凰を引きずり回していた。舐めやがって。

 俺はISを解除し、先ほどの砲撃で取り落としたブレードを拾い上げて走り出した。

 奴は『ワイヤーブレード』の拘束を解き、エネルギー切れで動けない『甲龍』に手刀で切りかろうとしている。させるかよ!

 

「ドラァ!」

「何!?」

 

 跳躍し、飛び蹴りをかます。

 奇襲にバランスを崩しよろめく『シュバルツェア・レーゲン』。俺の存在を意識から外していたらしい。

 その隙を狙い、俺は『葵』で奴の『リボルバーカノン』を切り落とした。

 

「貴様っ!」

 

 激昂し、俺を叩き潰そうと腕を振り下ろす眼帯。俺はそれをブレードの背で受け止め、弾き返す。

 奴の目が驚愕に見開かれた。ハッ、人間のクセに調子に乗りすぎなんだよ!

 動きを止めた『シュバルツェア・レーゲン』の懐に踏み込む。

 

「ラァッ!」

「ぐぅっ……ぁ……」

 

 飛び上がり首を掴んで全力の頭突きをくれてやった。

 奴の鼻から血が吹き出し、眼帯が外れて金色の瞳が露になる。

 奴のスキンバリアーで手と額が軽く焼けたが、これくらいならまぁいいだろう。

 

「これ以上は……ダメ……」

 

 さらに追い打ちをかけようとしたところで、更識の『打鉄弐式』が割って入った。

 学園の備品であろう『焔備』を『シュバルツェア・レーゲン』に向ける。

 

「貴様……貴様ら……」

 

 奴は左目を抑えながら、憎悪に満ちた表情でこちらを睨みつけている。

 

「どうした、続けないのか? 怖気づいたか?」

「やめて……おねがい……」

 

 怒りに震えている奴を挑発すると、更識に懇願するように制止された。

 もう少し屈辱を味あわせてやりたかったが、やめておくか。また本音が心配するだろうしな。

 

「お前たち、そこまでだ」

 

 睨み合っていると、アリーナに鋭い声が響いた。織斑千冬だ。こちらに向かって歩きながら言葉を続ける。

 

「模擬戦をやるのは構わん。だが、ISと人間の戦いなど到底容認できることではない。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

「教官がそう仰るなら」

 

 織斑千冬に素直に応じる赤目金目。奴はISを解除した。

 

「お前たちもそれでいいか?」

「ふん、いいだろう」

「…………」

 

 こちらの意思を確認する織斑千冬。

 俺は肩に担いでいた『葵』を地面に刺しながら、肯定の返事を返した。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

 そういって織斑千冬は立ち去った。顔を抑えながら金目眼帯もその後を追う。

 おいおい、好き勝手暴れたそいつへの罰は無いのか? こっちの腹の虫が収まらんぞ。まあ、それも含めて月末のトーナメントで決着をつけろということだろう。

 あの眼帯、必ずや叩き潰してやる。

 まあ、今はそんなことより、とりあえずは……

 

「更識、今日はここまでだ。凰とオルコットを医務室に運ぶ。手伝え」




ラウラ・シャルロット登場回でした。
シャルロットさんは空気を読まないウヴァさんのせいで退場してしまいましたが。
彼女は今後出番がないわけではありませんが、レギュラーにもならない予定です。
オーズのブラカワニコンボみたいな感じですね。オレンジですし。

しっかし、投稿速度上げたいと言いながらまた日が開いてますね。よくないなぁ。


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