空飛ぶウヴァさん   作:セミドレス

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第二十六話 ウヴァさんと強欲

「本音!? なぜお前が!?」

 

 俺は岩礁に降り立ったバース――本音に詰め寄った。

 どうして本音がバースに。どうして本音がここにいる。

 混乱する俺に、本音が向き直る。

 

「このベルトは、さっき貰った」

 

 本音は短く、そう答えた。

 変身しているためその表情を伺うことができないが、落ち着いた声だった。

 

「貰った!?」

「うん……話は後。来るよ!」

 

 驚きから抜け切れない俺に、本音が鋭く言った。

 同時に、視界の端で海面がはじける。

 バースの奇襲で海に吹き飛ばされたポセイドンが戻ってきたのだ。

 

「バース、今さら何をしにきた!」

 

 ポセイドンが空中から、俺と本音に向けて光弾を放つ。

 俺たちは大きく跳び退いてその攻撃を回避した。

 回避しながら、俺は叫んだ。

 

「本音! コイツはバースごときで敵う相手ではない! 逃げろ!」

「嫌」

 

 本音は俺の言葉を短く拒んだ。

 そして俺が止める間もなく、駆け出した。

 

『クレーンアーム ドリルアーム ブレストキャノン』

「やぁあ!」

 

 バースの外付け装備――元から展開していた背部飛行ユニット、左腕クロー、脚部のキャタピラに加え、胸部の大砲、右腕にワイヤーウインチユニット、その先端にドリルビット――を全て展開して、ポセイドンに接近戦を仕掛けたのだ。

 

「ふん! お前とは戦い飽きた!」

「くぅっ!」

 

 だが、バースでポセイドンに勝てるわけがない。

 本音は右腕のドリルによる刺突を繰り出したのだが、あっさりと避けられ、逆に槍の斬擊を連続して受ける。

 鋭く、速く、ポセイドンの槍が火花を散らしながらバースの装甲を抉る。一つ、二つ、三つ。

 

「馬鹿!」

 

 四つ目の斬擊が当たる前に、俺はその連撃に割り込んだ。

 強引にバースの前に滑り込み、『打鉄』の盾でポセイドンの攻撃を受ける。二枚ある盾の片方が真っ二つにされた。

 しかしそれと同時に、俺は至近距離からグレネードランチャーを発射していた。

 榴弾がポセイドンの胸で爆ぜる。

 俺は爆風から本音をかばいながら追撃をかけようとしたが、既に奴は後方へと跳んでいた。

 バースを見ると、左の太股と右肩の装甲、そして頭部バイザーの右半分が破損していた。

 パチパチとスパークする割れた面の向こうに、唇を噛む本音の顔が見える。

 

「わかっただろう! バースでは無理だ! 退け、俺が時間を稼ぐ!」

 

 俺は本音を睨みながら、そう怒鳴った。

 

「嫌!」

「なにっ!?」

 

 俺の視線をまっすぐに受けながら、またも本音は俺の言葉を拒否した。

 同時に、ポセイドンが跳躍で一気に距離を詰め、槍の薙ぎはらいを仕掛けてきた。

 俺は咄嗟にグレネードランチャーを投げ捨て、実体化した近接ブレード『葵』で攻撃を受けた。

 そこへ本音が、バースの胸部に装備された大砲を連続して撃ち込む。

 ポセイドンは連続砲撃を回避するため空中に跳び、さらに光弾を放ってきた。

 俺はその攻撃を『打鉄』の盾で防ぐ。

 衝撃と共に盾が砕け散った。盾が、なくなった。

 俺たちとポセイドンの間の距離が再び開いた。

 

「本音」

 

 俺はポセイドンと睨み合いながら言った。

 

「おまえは、逃げろ」

 

 自分の声に哀願の響きが多分に含まれていることに、俺は驚いた。

 

「嫌」

 

 その俺の訴えを、本音はまた拒んだ。

 

「なぜだ!? 死ぬことになるぞ!」

 

 俺は声を荒げた。

 なぜだ!? なぜ俺の言葉に従わない!?

 そんな怒りと困惑が入り混じる感情が俺の胸に溢れる。

 そんな俺に向けて、本音は静かに言葉を投げかけてきた。

 

「私が死ぬってことは、ウヴァっちも負けるってことだよね」

「それは……」

 

 俺は本音の問いかけに対して、口ごもった。

 今の俺はポセイドンに勝てるか?

 勝てない。

 俺の中の冷静な部分がそう言う。

 『打鉄』が傷つき過ぎている。防御型の『打鉄』が、防御の要であるシールドを失っているのだ。細かい損傷も無数にある。

 バースと共闘しても、負ける可能性の方が絶対的に大きい。

 だが……だからこそ。

 

「フン、俺が負けるわけがないだろう。さっきは油断しただけだ」

 

 俺は虚勢を張った。

 そんな俺に、本音が問を重ねる。

 

「そう……じゃあウヴァっちは、おりむーを殺すの?」

 

 俺は迷うことなく答えた。

 

「ああ、そうするしかないからな」

 

 嘘だ。

 二度も()()なかったのだ。三度目のチャンスがあったとしても、できないだろう。

 俺は、俺が思っていた以上に、織斑のことを気に入っていたらしいのだから。

 

「わかった」

 

 本音が言った。落ち着いた声だ。

 

「じゃあ、私も一緒に、おりむーを殺してあげる」

「なに!?」

 

 本音が、信じられないことを言い出した。

 俺は本音を見た。本音も俺を見ていた。

 割れたバイザーの奥に見える本音の表情は、俺がこれまで見たことのないものだった。

 鋭い。

 目的のためなら手段を選ばないという意志。

 それがあった。

 本気だ。強がっているわけではない。今のこいつは()()()

 

「本音、おまえ……」

 

 俺は言葉を失った。

 本音がそんな覚悟を決めていることが、悲しかった。

 きっと本音は、俺がポセイドンに敵わないとわかっているのだろう。

 それで、俺を助けるために、覚悟を決めたのだ。

 織斑を殺す覚悟と、自分の命を危険にさらす覚悟を。

 優しさが、そうさせているのだ。

 そうまでして本音が俺を助けようとしてくれていることに、嬉しいという思いもある。

 だが、本音を戦わせるわけにはいかない。

 もし織斑を殺せば、本音は一生そのことを引きずるだろう。

 他人の、それも友人の命を奪ったという罪を、独りで背負い続けるはずだ。

 織斑は乗っ取られていた。俺を助けるためだった。だから仕方がなかった。

 そういった理由をつけて、自分を誤魔化して楽になるようなことも、きっとしないだろう。

 本音に、そんな残酷な道を行かせるわけにはいかない。

 それに、もう一つの可能性。

 戦いに敗れ、本音が殺される。

 決してあってはならないことだ。

 絶対に避けねばならない。

 だが、ここで本音を戦わせれば、高い確率でそうなる。

 そんなこと、認める訳にはいかない。

 だからなんとしても、本音を逃がさねばならない。

 この身を盾としてでも。

 俺はそう心に決めた。

 同時に、ふと、自分の思考に違和感を覚えた。

 それがなんなのか、俺はすぐに気付いた。

 そうか、俺は……

 そう思った時、今までこちらを伺っていたポセイドンが動いた。

 

「余所見をするな!」

 

 苛立ったように叫びながら俺に向かって跳躍し、槍を振り下ろしてきたのだ。

 俺は後方にステップを踏んでその一撃をどうにか回避した。

 だが、ポセイドンは淀みなく追撃の構えを見せる。踏み込みと刺突の構えだ。

 マズイ。

 俺が焦りを覚えると同時に、本音がバースの大砲をポセイドンに向けた。

 エネルギー弾がポセイドンに撃ち込まれる。

 ポセイドンはそれを槍を振るって切り払うと、本音に向けて光弾を一発放った。

 本音はその場で身を沈めてどうにかそれを避ける。

 ポセイドンは本音には目を向けず、再び俺に向き直り、一瞬で距離を詰めてきた。

 槍を構えたポセイドンが目前に迫るが、俺は落ち着いていた。

 本音が援護してくれたおかげで、俺は既に態勢を立て直すことができていたからだ。

 左手に実体化したアサルトライフル『焔備』の銃口をポセイドンに向け、連写する。全弾命中。

 ポセイドンの前進は止められなかったが、速度は衰えていた。

 槍による突きを俺は余裕を持って回避し、後ろに下がって距離を離した。

 と、その時。本音が動いた。

 ポセイドンに突進し、左手に展開したクローでポセイドンの槍を持つ右腕をガッシリと掴んだ。

 そして力任せに引き寄せると、ポセイドンの胸に右腕のドリルを突き立てた。

 

「ぐおおおお!?」

 

 ポセイドンが悲鳴を上げた。

 その胸の紋章がバースのドリルによって抉られ、削り取られていく。

 もちろん、ポセイドンもただやられているだけではない。

 本音を吹き飛ばそうと、体から強烈な風の波動を発し始めた。

 だが、本音は退かない。

 左腕のクローと両脚のキャタピラで踏みとどまった。

 そのまま、ポセイドンの胸の傷は広がり続けていく。

 広がり、深くなる傷の向こうに、織斑の体がちらりと見えた。

 その瞬間、俺は反射的に動いていた。

 『打鉄』のスラスターを全開にして、ポセイドンに突っ込み、蹴りつけた。

 その衝撃でポセイドンは後ろに転がり、本音の攻撃から解放された。

 

「なんで……」

 

 本音が俺を信じられないものを見るような目で見つめる。

 俺はその視線をまっすぐに受けながら、はっきりと言った。

 

「俺はお前に人を、織斑を殺すようなことをして欲しくない」

「だけど今は!」

「本音」

 

 怒ったような表情を見せながら何かを言おうとする本音を、俺は遮った。

 

「おまえは逃げろ。コイツは俺が抑える」

 

 四度目だ。この頼みは。

 だが本音は今まで通り、首を横に振る。

 

「そんなの嫌! だってウヴァっち一人じゃ!」

「いいんだ」

 

 俺は言った。俺には似合わない、優しい声だった。

 

「俺は、俺自身よりも、お前の方が大切なんだ」

 

 本音が驚きの表情を見せた。

 当然だろう。これほど俺らしくない言葉もない。

 だが、偽りのない俺の本心だった。

 自分のそういった心に気付いたのは、つい先ほどだ。

 俺は、自分を盾にしてでも本音を逃がそうと考えていた。

 いつの間にか、本音を自分よりも優先していたのだ。

 俺はそのことに気付くと、すぐに納得できた。

 それだけの時間を過ごしていたのだ。

 思えば、IS学園に入ってから、俺は大した不満を抱くことがなかった。

 朝から本音とケーキを食べて、教室に行けば織斑と篠ノ之が馬鹿なことをやっていて、休み時間にやってくる凰に悪態をついて、時間がある時は簪と一緒に『打鉄弐式』のテストをしたり出かけたりする。

 満足していた。

 そういう日常に、俺は満足していたのだ。

 八百年前から追い求めてきた満足を、俺はいつの間にか手に入れていたのだ。

 そしてその満足をくれたのは本音だ。満足の中心にあったのは、常に本音だった。

 だから俺にとって一番大切なものは、本音なのだ。

 コアメダルよりも、命よりも、本音が大切なのだ。

 そのことに、今の今になって気が付いた。

 俺の満足のかたちはポセイドンによって壊されてしまったが、それでも、いや、だからこそ、俺は本音を守りたい。たとえ命に代えても。

 自らの心を確かめた俺は、本音から視線を外した。

 膝をつくポセイドンに向き直り、『打鉄』のスラスターを全開にした。

 実体化したブレードを上段の構えから振り下ろす。

 ポセイドンは槍の柄でそれを受けた。

 押し合い。

 鍔迫り合いながら、俺は背後の本音に叫んだ。

 

「本音、行け! そして全てを織斑千冬に伝えろ! 学園か自衛隊が動けば、コイツは倒せる!」

「嫌!」

 

 まだ、本音は俺の言葉を拒む。

 俺は声を荒げた。

 

「なぜだ!」

「後悔したくないからだよ」

 

 返ってきたのは、静かな声だった。

 それに続いて電子音声が響いた。

 

『セル・バースト!』

 

 バースが高火力攻撃を行う時の音声だ。

 俺は『打鉄』のスラスターを開いて上空に飛んだ。

 

「ブレストキャノン、シュートっ!」

 

 本音の叫びと共に、足元を閃光が駆けた。

 バースが放つ大威力の砲撃だ。

 しかしポセイドンは、後方へ跳躍しながら、槍でそれを受けとめた。

 退きはしたがダメージは受けていないだろう。

 俺は空中から本音の傍らに降りた。

 

「ねぇウヴァっち、私も同じなんだよ?」

「なに?」

 

 ポセイドンと睨み合う俺に、本音が言葉を投げかけた。

 

「私も、ウヴァっちのこと、大切に思ってるんだよ?」

 

 優しい声で、そう言われた。

 

「それは……」

 

 俺はどう答えるべきかわからず、押し黙った。

 そこへ本音が言葉を重ねる。

 

「私、今はウヴァっちから離れるつもり、ないから」

「だが……っ」

「だから!」

 

 曲がろうとしない本音に、俺は説得を続けようとしたのだが、それは遮られた。

 そして続ける本音。

 

「あの仮面ライダーを倒して、おりむーも助けて、三人で帰ろう」

「なに?」

 

 荒唐無稽なことを言い出した。

 だがその声音は本気だ。

 

「ウヴァっちが私のこと大切だって言ってくれたのは嬉しいよ。でもウヴァっちは、私だけでなく、おりむーのことも大切に思ってる。じゃあ、助けようよ」

「そんなこと、できると思っているのか!?」

 

 俺は声を大きくした。

 なぜ今さら、最も困難な道を望む!?

 そんな俺に、本音は質問を返してきた。

 

「ウヴァっちなら、やり方を知ってるんじゃないの?」

 

 鋭い声音だった。

 そうであると確信しているようだった。

 

「……なぜそう思う?」

「直感、かな。バースのことを知ってたウヴァっちなら、わかるんじゃないかなって」

「…………」

 

 俺は沈黙した。

 本音はそれを肯定と受け取ったらしい。

 

「みんなで、学園に戻ろうよ」

 

 無理矢理に笑顔を作りながら、そう言った。

 俺は溜息をついて、本音と向かい合った。

 

「おまえは強欲だ」

「ウヴァっちよりはね」

 

 本音が、今度は自然な笑みを浮かべた。

 その笑顔を見て、俺はもう仕方がないという気になっていた。

 本音の命だけでなく心も守るには織斑を助けて三人で帰還するしかないらしいのだから。

 どうやら、俺は本音に勝てないらしい。

 まったく、欲張りで我が儘なやつだ。

 そんなことを思いながら、俺は厳しい声で言った。

 

「俺だけでは無理だ。力を貸せ。二秒でいい、さっきみたいにしがみついて奴の動きを止めてくれ」

「わかった!」

 

 二人でポセイドンに体を向ける。

 

「相談は終わりか?」

 

 槍を構え、油断なくこちらを伺うポセイドン。

 今からやるのは賭けだ。

 奴が俺の読み通りに動くかどうか。

 

「行け、本音!」

「うん!」

 

 ドリルを備えた右腕を構え、ポセイドンに向かって突進する本音。

 俺は『打鉄』を宙に浮かべ援護射撃を行う。

 ポセイドンは本音を見据えたまま動かず、俺の射撃をその堅牢な体表で受けとめた。

 本音がポセイドンの槍の間合いに入る。

 ポセイドンが槍を振るう。

 本音がドリルを突き出す。

 穂先とビットがぶつかり合う。

 金属が砕ける音。

 バースのドリルビットが破壊されたのだ。

 瞬間、舞い散るドリルの破片の向こうから、何かがポセイドンに向かった。

 フック(鍵爪)だ。

 本音は破壊されたドリルユニットをパージし、その基部のワイヤーウインチユニットからフックを射出したのだ。

 ワイヤー付きのフックが蛇のようにポセイドンに巻きつく。

 同時に本音は、ポセイドンが再度振るった槍をかいくぐり、その背後に回った。

 

「ウヴァっち!」

「貴様ら、何を!?」

 

 本音がポセイドンを羽交い締めにした。ワイヤーとクローによる拘束だ。

 ポセイドンが、身をよじりながら、体から雷撃を放ち始めた。

 先ほど風の力でバースを引き剥がせなかったから、今度は雷撃を使ったのだ。

 かかった。読み通りだ。

 俺はポセイドンに向かって急降下した。

 そしてポセイドンの雷撃の範囲に入る直前に、『打鉄』を量子格納する。

 さらに俺は、ポセイドンと同じように体から雷撃を放ち、ポセイドンの攻撃を相殺した。元は俺の力だ。これくらいはできる。

 そのまま俺は、ポセイドンの目の前に着地した。

 右手を手刀に。

 それをポセイドンの胸の、本音に深く抉られた部分に、全力で突き刺す。

 メダルの塊を貫く感覚の後、とん、と指先に何かが触れた。

 

「がぁ!?」

 

 ポセイドンが呻いた。だが、本音が押さえつけているため逃げられない。

 俺は手刀を、ポセイドンを切り裂きながら、上に向かって滑らせた。

 そして、首に到達すると同時に、手を開きながら突き入れる。

 捕まえた。

 俺は、ポセイドンの何にいる織斑の首を掴んだ。

 

「こいつは返してもらうぞ!」

「触れるなぁあああ!」

 

 悲鳴をあげるポセイドンを無視して、俺は織斑の体を引き抜いた。

 大量のセルメダルがポセイドンの体から噴き出す。

 

「本音!」

「うん!」

 

 俺の声に応え、本音がポセイドンを力いっぱいに投げ捨てる。

 バースはポセイドンの電撃によってダメージを受けているが、致命的なものではないようだ。

 対するポセイドンは、器を奪われたせいで、のたうつばかりで立ち上がることもできない。

 

『セル・バースト!』

 

 電子音生が響く。

 本音がバースの大砲を、数メートル先で未だセルメダルをまき散らしているポセイドンに向ける。

 俺は意識のない織斑を地面に寝かせ、本音を後ろから抱くようにして支えた。

 バースの足取りが危ういものに見えたからだ。

 

「ありがと、ウヴァっち」

「フン、お前は射撃が下手だからな。さぁ、やれ」

「おーけい! ブレストキャノン、シュートっ!」

 

 本音の叫びと同時に放たれるエネルギーの奔流。

 その破壊力が、未だ立ち上がることもできないポセイドンを直撃する。

 光に飲み込まれるように吹き飛ばされ、海に投げ出されるポセイドン。

 そして砲撃終了から一拍の間の後、海上で爆発がおきた。

 勝った。

 俺たちはポセイドンを倒したのだ。

 

「私たち、やったの……?」

「ああ。おまえのおかげだ」

 

 俺が答えると同時に、本音がガシャリと音を立ててその場にへたり込んだ。

 

「あー疲れた〜。ウヴァっち、おりむーは?」

 

 バースに変身したまま仰向けになった本音が、疲労の色が濃い声で尋ねてきた。

 

「今、確かめる」

 

 俺は『打鉄』を展開して織斑の傍らに膝をついた。

 ハイパーセンサーで織斑のバイタルをチェックする。

 診断はすぐに終わった。

 

「問題ない、意識を失っているだけだ」

「よかった〜」

「ああ、本当によかった」

 

 そう言って、二人で小さく笑う。

 ひとしきり笑いあったあと、ふと、本音が真面目な声で尋ねてきた。

 

「ねぇウヴァっち」

「なんだ」

「学園に戻ったらウヴァっちのこと、全部教えて」

「なに?」

 

 俺は本音の言う意味がすぐにはわからなくて、尋ね返した。

 

「だから、全部教えて。どこで生まれたとか、何者なのかとか」

 

 そう言われて、本音が何を聞きたいのか理解した。

 本音のことだ、俺がただの人間ではないということには、とっくに気付いていたのだろう。

 そして今回のことで、それを知ろうという決心をしたというところか。

 

「ああ、いいぞ。俺もいつかは話したいと思っていたんだ」

 

 俺はそう口にした。

 その瞬間、首筋にザワリと嫌な感覚が走った。

 これは!? まさか!?

 俺は慄きながら、反射的に海を見た。

 同時に、海面が大爆発を起こした。

 

「なっ……馬鹿な!?」

 

 気付くと俺は叫んでいた。

 その飛沫の向こうに浮かぶものがあったからだ。

 ポセイドンのベルトを中心に浮遊する数十枚のコアメダルと、無数のセルメダルだ。

 

『タカ! クジャク! コンドル! クワガタ! カマキリ! バッタ! ライオン! トラ! チーター! サイ! ゴリラ! ゾウ! シャチ! ウナギ! タコ! プテラ! トリケラ! ティラノ! サメ! クジラ! オオカミウオ!』

 

 奇妙な声と共にコアメダルがポセイドンのベルトに次々と吸い込まれていく。

 そして眩い閃光が溢れ、そこに巨大なモノが現れた。

 全長十メートル以上はありそうな、鳥とも恐竜ともつかない黒い怪物だ。

 俺はこの怪物を知っている。

 俺たちグリードを造りだした錬金術師の一人、ガラ。

 奴が二十一枚のコアメダルを取り込んだ時に生まれた『真のオーズ』。

 海上の怪物はそれと同じ姿をしていた。

 

「なにあれ!?」

 

 跳ね起きた本音が驚愕の声をあげる。

 俺はそれに答えず、織斑を抱え上げながら叫んだ。

 

「クソ! アレは手に負えん! 本音、逃げるぞ!」

 




 この物語はウヴァさんというキャラクターにこういう決着をつけました。
 決着をつけるって怖いですね。
 あと今回は途中に覚悟という単語を頻出させたんですけど、読者から見てKAKUGOになっていないか心配です。

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