空飛ぶウヴァさん   作:セミドレス

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 今回はのほほんさん視点です。


第二十三話 Reverse/Re:birth

 ひらり、ひらりと、数枚の羽が闇の中を舞い落ちてゆく。

 その先に、無機質な光にぽつんと照らされる空間があった。

 急造の照明で照らされるIS整備場だ。

 布仏本音は、そこで独りうつむいていた。

 整備場を囲む旅館から、戦いの喧騒が聞こえてくるが、本音はそれに対して何か対応しようといういう気にすらなれなかった。

 その胸は悲しみに満たされていた。

 ウヴァが、飛び立ってしまったからだ。

 つい先ほど、本音の手を振り払い、ウヴァは飛び立ってしまった。

 止められなかったという後悔がある。

 あの仮面ライダーと名乗った怪人に襲われてから、ウヴァは荒れに荒れていた。

 織斑一夏への殺意を隠そうともせず、凰鈴音に暴行を加え、織斑千冬さえも威圧した。

 もともと、粗暴な性格ではあったが、あれほどの凶暴性を露わにしたことはこれまでなかった。

 人を、それも他人ではない学友を殺そうとしていることに何の禁忌も感じていないウヴァが、恐ろしかった。

 だが、それ以上に、不安だった。

 ウヴァがどこか遠くへ行ってしまうのではないか。

 そのような不安があった。

 ほんの数分前に受けた、ミイラのような怪人群の襲撃で、それは確信に変わった。

 怪人の群れを討ち滅ぼすウヴァの姿は、悪鬼羅刹そのものだった。

 このまま放っておけば、手の届かない場所へ行ってしまう。

 そう思った。

 だから本音はウヴァに、もう戦わないでくれと懇願した。

 しかしウヴァは本音の制止を振り払い、行ってしまった。

 

『俺はグリードなんだよ!』

 

 ウヴァが『紅椿』で飛び立つ前に残した言葉だ。

 本音にはこの言葉の意味がわからない。

 グリード。

 カトリック教会が定義する七つの大罪の一つ、強欲を表す言葉だ。

 およそウヴァには似つかわしくない言葉だと本音は思った。

 約三ヶ月、本音はウヴァと同じ部屋で暮らしてきたが、その間にウヴァが望んだものなどタカがしれているからだ。

 相部屋の学生寮程度の居住環境、見下されることの無い人間関係、そして一日にケーキを一ホール。

 ウヴァの欲望の器は、その程度で満たされてしまう小さなものだ。

 そんなウヴァが、グリードと自分を称した。

 わからない。

 ウヴァが何を考えているのか。

 仮面ライダーとはなんなのか。

 これから自分が何をすべきなのか。

 わからないことしかない。

 わかることはただ一つ、ウヴァに帰ってきて欲しいという思いだけだ。

 たとえ一夏を殺してしまったとしても、自分の隣に戻ってきて欲しい。

 そう思えるくらいには、布仏本音はウヴァのことが好きだった。

 好きだから、拒絶されたことが悲しい。

 悲しみと共に、ウヴァと過ごしたこれまでの日々が、本音の胸に泡のように浮かんでいた。

 

 

 ♢

 

 

 ペルー共和国で発見された二人目の男性IS適合者、ウヴァ。

 本音が初めてその顔を見たのはIS学園に入学する十日前のことだった。

 見たといっても、直接会ったわけではない。ペルー政府から送られてきた資料に添付されていた写真を見たのだ。

 ウヴァの顔を正面から撮影した写真だ。不機嫌そうな、むっつりとした表情をしていた。

 年齢は本音と同じくらいか、少し上に見えた。

 肌の色はアジア系のそれだが、茶色い頭髪や目鼻立ちが良い顔つきからは、コーカソイドの血が混じっているようにも感じられた。もとより南米は混血が多い土地柄である。

 資料にはペルー政府が調査したウヴァの情報がまとめられていた。しかし、どの情報も不明瞭なものだった。

 戸籍が確認できず、おそらくスラムでストリートチルドレンとして育ったのであろうということ。

 ペルーの公用語であるスペイン語の他に、日本語とドイツ語を話せることから、その方面からの移民の血を引いているのだろうということ。

 リマを拠点とするマフィアの幹部であるということ。

 マフィアの中で頭角を現し始めたのはおよそ三年前からだということ。

 資料にはそういった情報が断片的に記されていた。

 一通り資料に目を通した後、本音はため息をついた。

 本音は、IS学園に入学した後、就学経験の無いウヴァの世話をすることになっていたからだ。

 その仕事は酷く疲れるものになりそうだと予測できた。

 なぜ本音がウヴァの世話をすることになったかというのは、次のような経緯による。

 発端は、ペルー政府が二人目の男性IS適合者という存在を持て余したことにある。

 外交上のカードになり得るが、問題の火種となる恐れもある存在だ。

 国際社会の中で強い位置に立つとは言い難いペルー共和国は、どのように扱うべきかを決めかねた。

 そして、とりあえずの対処として、ウヴァをあらゆる国の干渉を受けないIS学園に入学させることで問題を先送りにすることにしたのだ。

 しかし、社会の裏側で生きてきた男を、世界中から才女の集まるIS学園に放り込めば、問題を起こすことは目に見えている。

 お目付役が必要だ。

 だが、IS保有国ではないペルーには適当な人材がいない。

 そこでペルー政府は、日本の防諜を担う家系、更識家に助けを求めたのだ。

 九十年代に日系人のアルベルト・フジモリが大統領を務めたことから、ペルーと日本は政治的な繋がりが強い。ペルー政府内に更識家と直接パイプを持つ人間がいたのだ。

 そして更識家当主、更識楯無は、代々更識家に仕える家系である布仏家の次女、布仏本音にウヴァの世話役となることを命じたのだ。

 

 

 ♢

 

 

 IS学園に入学した日に、本音は初めてウヴァと対面し、言葉を交わした。

 細くて、恐い。剃刀のようだ。

 それがウヴァを直接見て、本音が抱いて感想だった。

 ウヴァはひょろりとした、カマキリを思わせる体形だった。

 身長百七十七センチ、体重六十三キロ。

 病的とまでは言わないまでも、かなりの痩せ型である。

 だが、ひ弱な印象はどこにもなかった。

 触れば怪我をしそうな、鋭い威圧感を纏っていたからだ。

 一部の生徒や副担任の山田真耶は、その気配に怯えきっていた。

 一コマ目の授業が終わった後の休み時間、本音はウヴァに話しかけた。

 ウヴァは苛立っていた。クラス全体が好奇心と畏れから、遠巻きに取り囲んでウヴァに視線を投げかけている状況を、不快に感じているようだった。

 そんなウヴァの正面に立つのは、本当に怖かった。

 目の前の男は南米でマフィアの幹部をやっていたのだ。

 麻薬の流通を中心に、高利貸しから人身売買まで、金になる悪事なら何でもやる連中だ。

 クラスの中で、本音だけが知っている。

 目の前の男が極悪人であると。

 だが、悪人だろうとなんだろうと、本音はその世話をしなくてはならない。

 本音は覚悟を決めると、怪訝そうな顔をするウヴァに、作り笑いを浮かべながら自己紹介と、自分がウヴァの世話役であるということだけを伝えてその場を立ち去った。

 そして授業を一コマ受けて次の休み時間。さっそくウヴァはトラブルを起こした。

 イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットと揉めたのだ。

 

『お前の声は不愉快だ。俺の前では口を開くな』

 

 一人目の男性IS適合者、織斑一夏と話をしているセシリアに、突然そう言い放ったのだ。

 離れた位置からウヴァを観察していた本音は、頭を抱えた。言い掛かりにも程がある。

 セシリアがウヴァのことを蛮人と罵った。本音は心の底からその言葉に同意した。

 最終的に、ウヴァ、セシリア、そして織斑一夏はクラス代表の座をかけたIS戦を行うことになった。

 

 

 ♢

 

 

 入学初日の授業をすべて受け終わった放課後、本音はまっすぐ寮の自室へと向かった。

 広い部屋にベッドが二つ。相部屋である。ルームメイトは、ウヴァである。頭が痛かった。

 制服のまま、ベッドに横になった。動く気になれなかった。目を閉じてじっとしたまま十分ほどが経過した時、ドアが開く音がした。

 ウヴァが部屋に来たのだ。

 立ち上がった本音は、刺激しないように作り笑いを浮かべながら、できるだけフランクな態度で同室であることを伝えた。

 そして、ウヴァが昼食を摂った様子がなかったことを思い出し、食堂に誘った。空腹から不機嫌になられても面倒だからだ。

 食堂に到着すると、なぜかウヴァは驚き、戸惑うような様子を見せた。

 そして美味いものはどれかと訪ねてきた。

 ケーキを勧めた。

 理由は特にない。ケーキを食べる上級生が、たまたま目に入ったからだ。

 二人でケーキを注文し、テーブルに着いた。

 ウヴァが注文したのは苺のショートケーキだ。

 フォークで切り取り、最初の一口をゆっくりと口に運ぶ。

 また、ウヴァが驚いたような顔をした。

 そして凄い勢いでケーキを食べ始めた。

 尋常ではない食べ方だった。

 単に腹が減っていたから、というのとは違う食べ方だった。

 ケーキを食べたのは始めてなのか?

 ふと気になって、本音はそう質問していた。

 

『ああ、だがこれが甘くて美味しいものだってことは、俺にもわかるぞ』

 

 ウヴァは、嬉しそうに答えた。

 小さく笑っていた。小さいが、それはとても満たされた笑みだった。

 その笑顔を見た時、すとん、と本音の中で何かが落ちた。

 ああ、この男はこれまで美味いものなど、一度も食べたことがなかったのだな。

 そう思った。

 目の前の男に抱いていた嫌悪感が消えた。

 代わりに、同情、憐れみの心が生まれた。

 この後、ウヴァはケーキをさらに二切れ食べた。

 そして部屋に帰ってシャワーを浴びると、すぐに眠ってしまった。

 ウヴァの眠る姿は、無機的で静かだった。

 ウヴァが寝息を立て始めた後も、本音は眠れなかった。

 ウヴァについて考えていた。

 ウヴァはこれまで悪事をたくさん働いてきたことだろう。

 だがそれは本当に悪いことなのだろうか。

 ウヴァが暮らしていた場所、ペルー共和国を思う。

 ペルーでは、アルベルト・フジモリ元大統領が未だに根強い支持を保っている。

 大統領を勤めていた時代に議会を解散して独裁体制を敷き、汚職を追求されてペルーを追われ日本に亡命し、その数年後には投降した反対勢力の武装集団を法的手続き無しに銃殺することを命じた罪で起訴されたにも関わらず、人気があるのだ。

 それはフジモリ元大統領が任期中、治安の改善に真摯に取り組んだからだ。

 そういう国なのだ。

 そういう国の貧民窟で、ウヴァは人間を食い物にして生きてきたのだろう。

 だが、そうしなければ生きられなかったのだとしたら。

 人が生きるために獣を喰らうのは悪か?

 悪ではない、というのが一般論だろう。

 では人が生きるために人を喰らったとしたら?

 悪だと言う人間もいるだろう。悪ではないという人間もいるだろう。

 私はどちらだろうか。本音は自問する。

 悪ではない。驚くほどあっさりと本音の心は答えを出した。

 本音は思う。

 そうか、私はそういうのを許せる人間なのか。

 許せることが善いことなのか、悪いことなのかはわからない。

 わからないが、わかることもある。許せる私は、きっと彼と上手くやっていけるということだ。

 うん、それはいいな。善いだ悪いだなんかよりずっと重要なことだ。ルームメイトと仲良くやっていけそうかどうかということは……そう、善悪なんかよりずっと……

 いつの間にか、本音の意識は眠りについていた。

 

 

 ♢

 

 

 実際、短期間で本音はウヴァと良好な関係を築くことができた。

 ウヴァが、本音に懐いたのだ。

 子犬のように本音の後をついてくるようになった。

 本音はそれを煩わしいとは感じなかった。

 一緒に食事をとって、勉強を教えて、生活の面倒を少しだけみる。

 充実していた。

 特に、勉強を教えるのは楽しかった。

 ウヴァは物覚えが良く、理解力もあった。そして、その粗野な態度とは裏腹に、驚くほど素直だった。

 一を聞いて十を知るというタイプではなかったが、教えれば教えただけ伸びた。教え甲斐のある生徒だった。

 また、生活面でのトラブルも、ウヴァは意外なほど起こさなかった。

 せいぜいが、中国の代表候補生である凰鈴音と仲が悪い程度だ。

 ただ、友達を作るつもりはないようだった。

 数人の例外を除けば、クラスメイトとは、本音か織斑一夏を介してしか会話をしなかった。ほとんどコミュニケーション障害だった。

 良くない事ではあったのだが、本音はウヴァのそういった部分に可愛げを感じてもいた。

 それに、これに関してはウヴァばかりが悪い訳でもなかった。

 ファミリーネームがない。スラム街で育った。反社会的組織の構成員だった。

 そういった情報が広まるにつれ、クラスメイト達はウヴァと距離を置くようになった。

 嫌われているということではなかった。むしろ、その危険なプロフィールに魅力を感じ、近付きたいと考えている女子生徒もいた。だがそういった生徒も、いざ話しかけようとすると尻込みしてしまうらしかった。

 最終的にクラスは親しみやすい性格の織斑一夏を中心に回るようになり、ウヴァは本音の隣を居場所とするようになった。

 

 

 

 

 IS操縦者としてのウヴァは、恐ろしい才能を見せた。

 入学二日目、二度目のIS起動時にイギリス代表候補生、セシリア・オルコットとIS戦を行い、ほぼ一方的に打ちのめしたのだ。

 実際にISを動かしたのはその日が初めてであったにもかかわらずだ。

 ウヴァはISを動かす才能と戦いの才能、両方を非常に高い次元で備えていた。

 その正体はアメリカが作成した戦闘用強化人間が脱走した存在なのではないか――気付けば、そんな噂が囁かれていたほどだ。

 使用している『打鉄』の性能の低さのせいで、特殊な攻撃手段を持つ最新IS相手に遅れをとることもあったが、操縦者としての実力は誰にも劣っていなかった。

 いつか自分の手でウヴァを世界最強(ブリュンヒルデ)の座に……

 本音がそんな夢想を密かに抱いてしまうほど、ウヴァは強かった。

 

 

 

 

 その強いウヴァが、襲われて、手酷くやられてしまった。

 あの、仮面ライダーと名乗る怪人に。織斑一夏の体を乗っ取った怪物に。

 ウヴァだけでない。セシリア・オルコットも凰鈴音もラウラ・ボーデヴィッヒもやられてしまった。

 そしてウヴァは怒り狂った。鎮まらない憤怒に飲み込まれた。

 その感情のままに、ウヴァは仮面ライダーを倒そうと動きだした。

 篠ノ之博士から預かった『紅椿』があれば、仮面ライダーに勝てるとウヴァは思っていたようだが、本音はそうは思えなかった。

 ウヴァが、怒りのあまり冷静さを欠いているからだ。

 そもそも、負けた相手に独りで立ち向かおうというのが、()()()()()のだ。

 一度負けた相手には自分以外の誰かをぶつけたり、協力者を連れて再戦を挑むのが、これまでのウヴァのやり方だった。

 協調性はないが他人と力を合わせることの有効性は知っていたはずだ。

 そのウヴァが、独りで仮面ライダーと戦おうとしている。

 いかに『紅椿』の性能が優れていても、それで勝てるのか。

 もし仮面ライダーを倒せたとしても、同時に織斑一夏を殺した場合、ウヴァはもう帰ってこないのではないか。遠くへ行ってしまうのではないか。

 そんな不安が本音の胸にあった。

 だから、飛び立とうとするウヴァを止めようとした。

 止められなかった。

 拒絶された。

 心が、痛い。

 その痛みのせいで、本音は動くこともできずに独り、うつむいているのだ。

 そんな本音の前に、どこからともなく現れた人影が立った。

 

 

 

 

「おい、お前」

「っ!?」

 

 突然声をかけられた本音は、地面に向けていた視線を跳ね上げた。

 目の前に、一人の男が立っていた。

 赤い服を着た、若い男だ。年齢は二十歳くらいだろうか。

 女と見間違えそうな、中性的で美しい顔をしていた。

 体の線も、女のように細い。手脚が長い。

 右に流れるように左右非対称の形を作る、鮮やかな金色の髪が目を惹いた。

 その足元には、孔雀のものに似た赤色の羽が散らばっている。

 本音は男が目の前に立ったことに気付かなかった。

 ここは一般人が立ち入れないようになっているIS学園の合宿施設で、尚且つ今は緊急状況下だ。

 そこに侵入してくるとは何者だろうか? 警戒心に身が固くなる。

 

「あなたは何者? どうしてここに?」

 

 本音はそう訪ねた。だが、男は本音の問いには答えず、逆に質問を返してきた。

 

「お前、アレの、ウヴァのなんだ?」

「え……?」

 

 予想していなかった言葉に、本音は困惑した。

 この男はウヴァと関係があるのか?

 そういえば、身に纏う雰囲気が、どことなくウヴァと似ている気がする。

 

「私はウヴァっちの……」

 

 自然と、本音は男の質問に答えようとしていた。

 こんな不審人物の問いに答える必要はないが、答えることで何かが変わる気がしたのだ。

 本音は思考する。

 私はウヴァのなんなのだろうか。

 友達? 違う。そう呼ぶにはどこか対称性が欠けた関係だからだ。

 恋人? 違う。そんな気取った関係じゃない。

 相棒? 近いけど、どこか違う。もっと指向性の無い関係だ。

 家族……そう、家族だ。これが一番しっくりくる。関係することに意味が必要ない関係。

 そして、その関係をもっと突き詰めると……

 

「私は……ウヴァっちは、私の弟だよ」

 

 本音はそう口にした。

 ウヴァとは出会ってから三ヶ月程度の時を共に過ごしただけだが、本音はそう言葉にすることができた。

 自分はあの孤独な青年の唯一の家族であり、保護者なのだ。

 そういう自負心が、心の中にあると気付いた。

 本音の言葉に、男は一瞬、目を丸くした。

 そして、腹を抱えて笑い始めた。

 本音はその姿に親しみを感じた。他人を嘲ることを好む様が、ウヴァに似ていると思ったからだ。

 ひとしきり笑うと、男は再び本音に向き直った。

 

「ククッ、馬鹿なガキだ、あの虫頭を弟とはなぁ。だが、それくらい馬鹿なら、使える」

 

 そう言うと、男はどこからともなく取り出した機械を、本音に投げ渡した。

 ベルトのように見える。バックル部分に何かのスロットやダイアル、カプセル状の部品が取り付けられており、大仰な印象だ。

 

「これは?」

「腰に巻け」

 

 男は本音の問いには答えず、高圧的に言った。

 本音はその言葉に従ってベルトを腰に巻いた。

 すると、男がまた本音に向けて何かを投げ渡してきた。表面に蠍の模様が刻まれた、直径四センチほどの銀色の円盤だ。

 

「メダルを入れて、ダイアルを回せ。力が手に入る」

「力が……」

 

 力。

 それがあれば、ウヴァを追いかけることができる。

 今の本音に必要なものだった。

 本音はベルトのスロットに銀色のメダルを投入した。

 続いて、バックルの右側に備えられたダイアルを回す。

 本音はこのベルトが何なのかを、直感的に理解していた。

 

「変身」

 

 カポン、というどこか間の抜けた音が響いた。同時に、本音の周囲に無数の機械部品が出現した。

 機械部品達はガチャガチャとメカニカルな音を立てながら、本音の体に組み付いていく。

 そして二秒後には、本音の体は部品が組み合わさって完成した鎧に被われていた。

 黒いアンダースーツの上からシルバーとメタリックグリーンの装甲が被さった機械鎧だ。

 頭部に備えられたU字型のバイザーが赤い光を放っている。

 

「それはバース。どれほどのモノかは、戦ってみればわかる」

 

 男が、どこか満足げに言った。




 アンク登場です。のほほんバースです。
 前回あんな引きをしたのにウヴァさん出てこない話ですいません。
 次回はウヴァさんが赤椿で暴れます。

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