空飛ぶウヴァさん   作:セミドレス

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 Count the medals!
 現在ウヴァの持つメダルは……

 クワガタ・コア 一枚
 バッタ・コア  一枚


第二十一話 ウヴァさんと暴虐

「クッ……命乞いだと? 死ぬのはキサマだ!」

 

 切り立った崖の下、俺は『打鉄』を展開し、織斑が変身したオーズもどき、ポセイドンへと襲い掛かった。

 コアメダルをごっそりと奪われたせいで、肉体の内側から菌糸に蝕まれているかの如き苦痛を感じている。だが、そんなことはどうでもいい。グリードの原点、メダルを求める欲望が俺の中で暴走しているからだ。

 

「ハァッ!」

「この世界のオモチャか、面白い!」

 

 近接ブレード『葵』による斬撃をポセイドンはその手に持つ紅い槍で受け止めた。舐めた口の利き方に更なる怒りが募る。

 

「俺のメダルを返せッ!」

 

 鍔迫り合いに打ち勝ち、メダルを奪った敵を押し潰すべく、俺は『打鉄』のスラスターを全開にした。だがポセイドンはビクともしない。

 

「中々の馬力だな!」

「ヌァッ!?」

 

 数拍の押し合いの後、突然ポセイドンは身をひねり、掬い上げるような蹴りを放って来た。

 推進機関の出力を引き出すために姿勢制御を放棄していた俺は、その蹴りによってバランスを崩し地面へと激突してしまう。クソ、なんてパワーだ。接近戦では分が悪い。

『葵』を量子格納した俺は、上空へと飛び上がりながらアサルトライフル『焔備』を実体化した。空中から連続射撃を行う。

 それを横方向へ跳躍して回避するポセイドン。

 奴め、空は飛べないようだな。嬲り殺しにしてやる。

 そう考えて空中からの攻撃を続行しようとした時、ポセイドンが槍の先から一発の光弾を発射した。大振りなモーションからの一撃だ。俺は余裕を持って『打鉄』の実体シールドを構えた。着弾、凄まじい爆発。

 

「グゥッ!? なんだと!?」

 

 予想を大きく上回る衝撃に弾かれ姿勢を崩す。『打鉄』の堅牢な盾が、たった一発の光弾に砕け散っていた。そんな馬鹿な!?

 驚きに動きを止めてしまった瞬間、ポセイドンが俺に向かって跳んだ。

 

「落ちろ、蠅が」

「ッ!」

 

 一瞬で俺の目前に迫り、目にもとまらぬ速さで突きを放つポセイドン。身を捩ってそれを避けようとしたが、完全には回避できず『打鉄』の右腕が貫かれた。剥き出しになった回路が火花を散らし、アラートがマニピュレーターの機能停止を告げる。

 だが俺はそれらを無視して左手にグレネードランチャーを呼び出した。跳躍の勢いが消え、ただ落ちるのみとなった敵を仕留めるためだ。

 

「消えろっ!」

 

 俺はマガジンに装填された六発の榴弾全てを投射した。全弾が命中し、奴は爆炎に包まれる。

 

「やったか……ッ!?」

 

 呟いた瞬間、突然『打鉄』が高度を落とした。見ると、海面から伸びる水の鞭が『打鉄』の脚部に蛇のように絡みつき、引き落とそうとしている。

 アイツ、メズールのように水を操れるのか!?

 スラスターを吹かして抵抗したが、鞭の力は思いの他強く、勢いよく岩礁に叩きつけられた。その衝撃にいくつかのシステムがダウンし、目障りな警告ウインドウが何枚も表示された。

 

「ウウ……」

「この程度か、つまらん」

 

 呻きを上げる俺に、ポセイドンがゆっくりと向かってくる。あれだけ榴弾を叩き込んだというのに大したダメージを受けていない。ダメだ、『打鉄』ではコイツに勝てない。

 

「クソ……」

 

 空へ逃げるため『打鉄』を浮かべようとすると、周囲の海水が先ほどと同じ水の鞭となって絡みついてきた。全身を縛られ、動きを封じられる。『打鉄』の装甲がギシギシと軋んだ。

 目の前まで来たポセイドンが、トドメを刺そうと槍を構える。穂先にエネルギーが集中し、刃が光を纏った。

 

「よせ、やめろ……」

「面白くも無い奴。もういい、死ね……ムッ!」

 

 槍を振り下ろそうとしたポセイドンが、突然大きく飛び退いた。同時に、奴がいた場所を砲弾が通過する。

 砲弾の飛んできた方向を確認すると、凰、ボーデヴィッヒ、オルコットの三人がそれぞれのISを展開した状態でこちらに向かって来ていた。戦闘の轟音を聞いて駆け付けたのだろう。三人は俺とポセイドンの間に降り立った。

 

「大丈夫か、ウヴァ! アレはなんだ!?」

「潰せ」

「何?」

「いいからアイツ潰せ!」

 

 質問してきたボーデヴィッヒを俺は怒鳴りつけた。

 

「ちょっと、落ち着きなさいって。そこのアンタ、何者よ! 答えなさい!」

「この世界の戦士か、相手をする気なら覚えておけ。命乞いはするな、時間の無駄だ」

 

 凰の問いに、俺を前にした時と同じセリフを吐くポセイドン。その声は愉悦に歪んでいた。

 

「うわ、話が通じないカンジ?」

「穏便に済む相手ではなさそうですわね」

「捕えるぞ、油断するな」

 

 軽口を叩きながら、三人はポセイドンへと攻撃を開始した。『ブルー・ティアーズ』のビットが奴の死角を狙い、『甲龍』と『シュバルツェア・レーゲン』が接近戦を挑む。

 戦闘の場が岩場から砂浜へと移るのを横目に、俺は『打鉄』の状態を確認した。右腕を初め損傷は多いが、戦闘は継続可能だ。四対一ならば、奴を倒してメダルを奪い返せるかもしれない。

 そう考えて『打鉄』を浮遊させようとした俺の視界に、新たな機影が映った。簪の『打鉄弐式』だ。その腕には織斑千冬を抱いていた。

 

「ウヴァ、大丈夫!?」

 

 俺の傍に降り立ち、心配そうに訊ねてきた簪を無視し、俺は織斑千冬に詰め寄った。

 

「おい、アイツはなんだ!?」

「落ち着け。あんなもの、私も初めて見る」

「ふざけるな!」

 

 俺は怒りのままに叫んだ。初めて見るだと? お前の弟だろうが!

 たわけた事をぬかす女を殴りつけようとしたその時、辺りに爆発音が連続して響いた。

 ポセイドンが『ブルー・ティアーズ』のビットを槍から打ち出した光弾で次々と撃ち落としたのだ。

 さらに奴は、腕に絡みついてた『シュバルツェア・レーゲン』の『ワイヤーブレード』を逆に利用してボーデヴィッヒを振り回し、凰の『甲龍』に叩きつける。

 第三世代型IS三機を圧倒するとは。やはり凄まじい力だ。

 

「直接指揮を執る。更識は私を運べ。ウヴァ、お前は護衛だ」

 

 眉をひそめながらも、普段と変わらない態度で俺達に命令を下す織斑千冬。本当にポセイドンのことを知らないように見える。

 では織斑は、あのベルトとメダルをどこから手に入れたというのだ?

 新たな疑問が芽生えたが、今は考える暇がない。ここは様子見も兼ねて織斑千冬に従ってやろう。

 俺は防御型換装装備『不動岩山』を呼び出し、織斑千冬を抱いて戦場の上空へ向かう『打鉄弐式』に追従した。

 

『凰、ボーデヴィッヒ、相手に付き合うな。張り付いて攪乱しろ。オルコットは『スターダスト・シューター』で上空から火力支援だ。全員、攻撃よりも回避を優先しろ。動きを止めるな』

 

 取り出した拡声器を使って指示を出す織斑千冬。数的有利を活かし、慎重に削らせる作戦のようだ。

 

「ウヴァ、試験装備にカタールがあったな。使用許可を出して凰に渡せ。『甲龍』の大剣ではあの敵と相性が悪い」

「いいだろう」

 

 拡声器をおろした織斑千冬は、俺に対し確認するように命令を下す。的確に思える内容に俺が頷くと、再び戦闘を行っている三人に指示を出す。

 

『オルコット、斉射だ。ミサイルも使え。凰、ウヴァから武器を受け取れ』

 

 『ブルー・ティアーズ』の大型ライフルとミサイルによる一斉射撃が上空からポセイドンに襲い掛かる。その火力に奴が怯んだ隙に、俺は実体化したカタール『ルームシャトル』を一旦距離を取った『甲龍』へと投げつけた。

 

「凰、これ使え!」

「サンキュ! おもしろいの持ってるじゃない!」

 

 大型ブレード『双天牙月』を投げ捨て、カタールを手にした凰がポセイドンへ躍りかかる。両腕の『プラズマ手刀』を起動したボーデヴィッヒもそれに続く。

 疾風の如く襲い掛かる刃に、先ほどまでとは一転して守勢一方となるポセイドン。オルコットの援護射撃があるため距離を離して仕切り直す事もできない。次第に傷を負い、その身からボロボロとセルメダルが剥がれ落ちる。

 そして数分間の一方的な戦いの末、決定的な一打が叩き込まれた。『甲龍』の両拳の衝撃砲、『崩拳』が直撃したのだ。吹き飛ぶポセイドン。追い打ちにオルコットの射撃が連続して命中する。

 

「ここまでだ、武装を解除して投降しろ」

「…………」

 

 大きなダメージを受けて膝をつくポセイドンに、ボーデヴィッヒがプラズマ刃を突き付けながら言った。おそらく『停止結界』も併用して動きを封じていることだろう。さらにその隣では、凰が『甲龍』の衝撃砲をチャージしている。決着だな。

 

「なんとか言いなさいよ。だいたい、アンタ何なのよ?」

「仮面ライダー」

 

 凰の問いにそう答え、変身を解除するポセイドン。体を覆っていたセルメダルが消失し、織斑の姿が露わになる。だがその手には、紅い槍が握られたままだ。

 

「一夏……?」

 

 織斑千冬の呟きが聞こえ、俺はハッとした。マズイ、手緩い精神しか持たないあいつらでは!

 

「馬鹿共が! ハァアアッ!」

 

 俺が危機感を覚えたのと同時に、織斑は驚愕する凰とボーデヴィッヒの隙を突いて槍を振るった。その穂先から走った閃光に吹き飛ばされる二人。強大な破壊力に『甲龍』と『シュバルツェア・レーゲン』は機能を停止してしまう。

 

「おのれっ!」

 

 焦った俺は、左手に『葵』を実体化して織斑へと投げつけた。

 

「変身」

『サメ! クジラ! オオカミウオ!』

 

 だが俺の攻撃は、再度の変身で現れた光の紋章に阻まれてしまう。

 

「これは!? なんですの!?」

 

 突如の逆転に混乱し、決断を下せずにいると、オルコットの悲鳴が聞こえた。

 目を向けると、海面から伸びた水の触手に『ブルー・ティアーズ』が囚われていた。

 

「死ね!」

「がっ! っあ、あ……」

 

 動きを封じられた『ブルー・ティアーズ』へ向けて、ポセイドンが槍を投擲した。それはISの絶対防御を突破し、オルコットの胸を貫いた。夥しい量の血液を撒き散らしながら海面へと落下する『ブルー・ティアーズ』。

 ダメだ、このままでは俺もやられる。それだけは何としても避けなければ。どうする? どうすれば……

 

「こうなれば……貸せ!」

「えっ……!?」

「織斑、止まれ! 姉を殺されたくなければな!」

 

 俺は『打鉄弐式』の腕から織斑千冬を奪い取った。右腕でその体を抱き、まだ動く『打鉄』の左手で頭を握る。

 

「ウヴァっ!?」

「お前……」

「黙れ! これしかないだろ! 俺は本気だ!」

 

 簪と織斑千冬を怒鳴りつけた。

 織斑が何を考えて暴れているのかは知らないが、唯一の肉親を盾に取られれば動きを止める可能性はある。いや、そうであってもらわなければ困る。

 心臓が激しく暴れるのを感じながら、俺は脅迫の言葉を続けた。

 

「メダルとベルトを捨てろ! コイツを潰すぞ!」

「馬鹿なことを……うッ!?」

 

 俺の脅しに動きを止めたポセイドンから大量のセルメダルが零れ落ち始めた。苦しむようなそぶりも見せている。

 どうした? 何が起きている?

 俺が疑問を感じた時。

 

「あああああっ!!」

 

 突然、砂浜に絶叫が響いた。ボーデヴィッヒの声だ。今度はなんだ!?

 視線を向けると、倒れ伏していた『シュヴァルツェア・レーゲン』に異変が起きていた。その装甲が溶けるように形を失い、黒い泥となってボーデヴィッヒの体を覆っていたのだ。

 泥は流動しながらヒトガタへと形をかえていき、鎧をまとった黒い巨人へと形を変える。

 そして巨人は立ち上がると、猛烈な踏み込みと共にその手に持つ刀でポセイドンへと斬りかかった。

 

「ボーデヴィッヒめ、あんな隠し玉があったか」

 

 『打鉄』が表示する巨人の解析結果を見て俺は呟いた。

 ――ヴァルキリー・トレース・システム―― 自動操縦システムの一種で、条約によって使用はおろか、研究・開発すら禁止されているシロモノだ。その性能は凄まじく、姿を変えた『シュヴァルツェア・レーゲン』は槍を失ったポセイドンと互角に渡り合っている。

 今ならやれる。俺は簪へと織斑千冬を投げつけ、砂浜へと急降下した。

 先ほど弾かれた『葵』を拾い、ボーデヴィッヒと共にポセイドンへと刃を振るう。今まで受けたダメージのせいか、ポセイドンの動きは精彩を欠いていた。

 

「終わりだ!」

「ぐぅっ!?」

 

 数度の攻防の末、俺のブレードがポセイドンの胸を深く貫いた。呻き声を上げ、動きを止めるポセイドン。

 このまま俺のメダルを吐き出すまで斬り裂き続けてやる!

 そう思い、ブレードを引き抜こうとした俺の腕をポセイドンが掴んだ。同時に足元から水の鞭が発生し俺とボーデヴィッヒを縛り上げる。コイツ、まだこんな力が!?

 

「邪魔をするなぁッ!」

 

 ポセイドンが叫ぶ。俺が穿った胸の傷口から大量のセルメダルが噴き出した。空を覆わんばかりの量だ。

 その大量のメダルは、ポセイドンの背後に集まると渦を巻き始める。コイツ、何をする気だ?

 そんな俺の疑問に答えるように、メダルの渦はその姿を巨大な黄色い竜巻へと変える。カザリと同じ力だと!?

 驚愕した瞬間、黄色い竜巻が襲い掛かってきた。逃げられない。俺は反射的に『不動岩山』の防御フィールドを作動させ、全エネルギーを注ぎ込んだ。

 バリアを越えて伝わってくる竜巻の凄まじい暴圧。追加装甲によって強化されているはずの『打鉄』が悲鳴を上げる。視界を塞がれ、センサーが喧しくアラートを鳴らす。

 そして数秒間の蹂躙を行った後、『不動岩山』がシステムダウンすると同時に竜巻は消えた。

 ポセイドンは、織斑は、既にいなくなっていた。俺のメダルを持ったまま。

 

 

 

 

 

 

「織斑の野郎! ふざけやがってッ!」

 

 ポセイドンに逃げられてから約三十分後。旅館に設けられた管制室に戻った俺は、怒りに任せて壁を殴りつけた。漆喰が広く崩れ、木造の柱が剥き出しになる。

 

「ウヴァ、よせ」

「黙れッ! お前の弟は何をした!」

 

 背後から俺の腕を抑え、制止の言葉を口にする織斑千冬。俺はその胸倉を掴み上げ、怒声を発した。女は顔を歪め、目を伏せる。

 ポセイドンによる被害は甚大だった。

 『ブルー・ティアーズ』と『シュバルツェア・レーゲン』が大破。

 ボーデヴィッヒはいつ目覚めるともわからぬ昏睡状態に陥った。

 オルコットはISの致命領域対応によってかろうじて命をつないでいる状態で、肺を深く抉られているというのに治療を行うことさえできない。

 さらに『甲龍』そして俺の『打鉄』が中破。凰も軽傷を負い、現在治療中だ。

 現在、動ける専用機は未完成の『打鉄弐式』のみという惨状だ。

 おのれ、織斑め……

 

「ウヴァっち、やめて!」

「チッ……」

 

 織斑千冬を締め上げたまま怒りに震えていると、本音が間に割って入ってきた。

 その悲痛な声に俺は舌を打ち、織斑千冬を解放した。

 荒れていた息を整え、待機形態の『打鉄』を本音に投げつける

 

「『打鉄』を使えるようにしろ、すぐにだ。右腕は外しておけ」

「……わかった。ウヴァっち、今は休んで。かんちゃん、おねがい」

「うん……ウヴァ、座れるところに行こう……落ち着いた方がいい……」

「……ああ」

 

 簪に促され、俺は管制室を出た。確かに、冷静になる必要がある。

 ポセイドンはどこに消えた? あの力、どう戦えばいい? 使える手札は今どれだけある?

 簪の後に付いて歩きながら、俺は必死にメダルを取り戻す術を考え続けた。




Q.なんでポセイドンがメズールやカザリのメダルを取り込んでるの?
A.格闘と槍ビームだけだと地味だから

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