昆虫系グリードウヴァ ここまでのハイライト
①
中世の錬金術師によって創造されたメダルと欲望の怪人『グリード』の一人、虫の王、ウヴァ。
封印されていた彼は、800年の時を経て三人の仲間と共に現代に復活した。
しかし、本来ならば核となる九枚の『コアメダル』と無数の『セルメダル』によって構成されているはずの彼らの肉体は、コアメダルの一部が何者かに持ち去られていたため不完全なものだった。
「なぜだ……メダルが勝手になくなるハズがない……」
②
消えたメダルの内の数枚が、自分や三人の仲間より一足早く復活していた鳥の属性を持つグリード、アンクによって持ち去られたことを突き止めたウヴァ。
彼はメダルを取り戻すため、下級怪人『ヤミー』を造り出し刺客としてアンクに差し向ける。
意識を宿した一枚を除いて全てのコアメダルを失い弱体化していたアンクは、ヤミーに対抗するために人間の青年、火野映司を唆し、800年前にグリードを封印したコアメダルの力を操る戦士『オーズ』へと仕立てあげヤミーを撃退してしまった。
「アンクめ、復活しても喰えない奴!」
③
四人のグリードとオーズ、アンクのメダルの奪い合いは、大財閥『鴻上ファウンデーション』がオーズの支援を開始したことで激化していく。
そんな中、獣のグリード、カザリが『鴻上生体研究所』所長、ドクター真木と手を組みウヴァ達を裏切った。
カザリと真木の策略によってウヴァの仲間のグリード、ガメルとメズールは力の暴走を起こし消滅してしまう。
「カザリッ……貴様ッ!」
④
メダル争奪戦は鴻上生体研究所が開発した『仮面ライダーバース』の登場によってさらに混沌としていく。
ウヴァは、自分以外のコアメダルを体内に取り込み独自の進化を始めたカザリに対抗するため、ガメル・メズールを復活させることを決意。
オーズ、カザリから二人のコアメダルを奪取し、用意していた大量のセルメダルと併せて二人の肉体を再構築した。
「ガメル! メズール! 復活の時だ!」
⑤
コアメダルを取り戻すため、ガメル、メズールと共にオーズを襲うウヴァ。しかし、800年前には存在しなかった、無の力を司る『オーズ・プトティラコンボ』によって撃退されてしまう。
大きなダメージを受けながらもオーズからの逃走に成功した三人だが、逃げ延びた所をカザリに襲われてしまう。
多くのメダルを取り込み進化したカザリの力を恐れたメズールとガメルは、ウヴァを裏切りカザリに付いた。
自分以外のグリードの一斉攻撃を受け爆散するウヴァ。
だが、彼の意思は消えてはいない。
「このままではすまさん……」
⑥
絶望的な状況でもウヴァは諦めることはなかった。
意識を宿したコアメダル一枚となった彼は人間に取り憑き活動していた。
そしてオーズと袂を分かち、単独で動き始めたアンクを利用しセルメダルを手に入れ復活を果たす。
「俺の実力だ!」
⑦
本来、不滅の存在であるコアメダルさえも砕く無の力、紫のメダルを己がものとしつつあるオーズに対抗するため、ウヴァはアンクと共に他のグリード達に合流する。
そこには、人でありながらメダルを取り込みグリードと同等の存在となったドクター真木の姿もあった。
「ひさしぶりだなぁ……」
⑧
カザリ、メズール、ガメルが紫のメダルの力で意識を宿したコアメダルを砕かれ次々と消滅していく中、ドクター真木によってもたらされたコアメダルによってついに完全復活したウヴァ。
オーズ、バース、そしてバースの試作品である『プロトバース』との三対一の戦闘で圧倒的な力を見せつける。
オーズはその力の差から逃走し、Wバースは激戦の末戦闘不能に追い込まれた。
ウヴァの勝利が絶対となったかに思われたその時、逃げ出していたオーズが鴻上ファウンデーションが保有していた無限のセルメダルを取り込み『真のオーズ・タトバコンボ』となって現れた。
そのあまりに強大すぎる力に苦戦するウヴァ。
奮闘虚しく起死回生の一撃も避けられ、オーズの必殺技、スキャニングチャージ・タトバキックの直撃を受けてしまう。
だが、ダメージによって身体が爆発する寸前、突如現れた真木が投入したメダルによってウヴァは消滅を免れた。
「おぉ、おお! 感謝するぞ、ドクター!」
⑨
しかし、安堵したのも束の間、ドクター真木はウヴァの体に次々とコアメダルを投入していく。
世界の終末を望む真木はウヴァを器にコアメダルの力を暴走させ、世界を破壊しつくそうと企てていたのだ。
体の中で暴れまわる力に苦しみながらもなんとかその場から逃げだすことに成功したウヴァ。
そして……
廃工場が並ぶ寂しい町の路地裏で、もがき続ける影がある。
ウヴァである。
大量に投入されたコアメダルは体の中で激しく暴れ、耐えがたい苦痛を与えてくる。
いっそ意識を手放して暴走し、消滅してしまった方が幸せかもしれない。
そんな考えさえ浮かぶほどの苦痛だ。
そんな中、ウヴァの意識を繋ぎ止めるのは、何一つ満たされず、何一つ始まらずに終わろうとしている自分を認めたくないという逃避的な望みだった。
誕生した瞬間から欲望はあるのにそれを満たすための機能がない、そんな地獄をウヴァは味わい続けてきた。
乾く。
だが、どれほど水を浴びようと潤うことはない。
餓える。
しかし、何を口に入れようと味はわからない。腹も膨れない。
グリードという人口生命体が抱える欠陥だった。
だから、せめて欠けているもの、失ったものを取り戻そうとメダルを集めてきた。
いつか満たされる日が来ると信じて。
そんな夢を見るのもここまでのようだ。
暴れる力がウヴァの器を破壊しようとしていた。
「嫌だ、やめてくれ……誰か助けてくれ……」
必死に手を伸ばすウヴァ。
だが、この世界にその手を取るものはいない。
♢
「う、あ、俺は……?」
気が付くと俺は、アスファルトの上に横たわっていた。
辺りは薄暗く、空の端に太陽が見える。朝か? それとも夕方か?
回らない頭で、灰色にくすんだ世界をぼんやりと眺めながらそんなことを思う。
体内に意識を向ける。
俺が俺であるための核、九枚のコアメダルはきちんと揃っている。
だが、セルメダルが絶望的に足りない。
このままでは危険だと、覚醒していく思考が警鐘を鳴らす。
今の俺ではオーズはおろか、バース共にもなすすべもなくやられてしまうだろう。身を隠し、力を蓄えなければならない。
今後の方針を決めた俺は、立ち上がろうとして、無様に転がってしまった。
「クソッ、バカな……」
セルメダルが不足した体は鉛のように重い。ただ立つことすら難しいほどに。
どうしたものかと周りに目を向ける。
ひび割れた地面。そこらじゅうに殴り書きされたラクガキ。大量に転がるゴミ。
そんな視界の中に、使えそうなものが一つだけ見つかった。
死にかけの、人間の子供だ。
何があったのか、体中から血を流している。そして、都合のいいことに欲望、すなわち生きる意志も全く感じ取ることができない。
これなら弱体化したアンクがやっていたように、元の人格に干渉されることなく体を乗っ取れるだろう。
「死にぞこない。貴様の体、貰うぞ」
俺は体をメダルに分解してその小さな体に滑り込み、肉体を再生させる。
その瞬間、予想もしていない事が起きた。
温度を感じる。匂いもだ。
視界が狭くなり立体感を認識する。
色もわかる。紫色に染まる空の端。
感触がある。アスファルトのざらついた手触り。
「これが、人間の感じる世界か……アンクめ、自分だけこんなものを味わっていたのか」
俺はそう呟き、新たな世界へと立ち上がった。
♢
「失礼します、今日の分です」
「ご苦労」
使いっぱしりの男からセルメダルと食糧の入った袋を受け取る。
復活してから三年程の月日が流れた。
俺が目覚めた場所は、ペルーという国の首都の近くで、いわゆるスラムだった。なぜそんな場所で復活したのかはわからない。
だが、グリードが力を取り戻すには悪くない環境だった。
まっとうに社会の中で暮らしていけない者達が徒党を組んで争い、力の強い者が弱い者を虐げ支配する空間。
人間の中でも特に醜い欲望の持ち主が集う場所。
俺は街を支配する集団の一つを、構成員に屑ヤミーを取り憑かせることで乗っ取っていた。
セルメダルを造るのに利用するためだ。
「何か情報はあるか?」
そして、人間の組織を使うもう一つの理由が情報収集だ。
製産したセルメダルは数千枚にも及ぶが、それを全て取り込んでもあの忌々しい“真のオーズ”には勝てない。
今のところ奴やドクターがどうなったのかわかっていない。
だが、コアメダルを狙っているであろう奴らの影が少しでも見えたら身を潜め、棲処を変えなければならない。
「いえ、火野映司、真木清人についての情報は相変わらず出てきません。ですが……」
「なんだ?」
平時と変わらぬ報告の後、続く言葉を何やら言い淀む男に、俺は尊大に訪ねた。
「はい、ISを動かせる男が見つかったそうです。それで世界中で他にもISを動かせる男がいないかと検査が行われています。リマでも今度IS持ってきてやるそうですよ」
「ほう、おもしろい……今日はもういいぞ」
「はい、失礼しました」
一礼して男が視界から消える。俺は顎に手をやりながら報告について考え始めた。
“IS”――インフィニット・ストラトス。この時代の人間が作り出した兵器だ。
絶大な攻撃力をもつそれによって世界の勢力図は大きく塗り替えられたらしい。
バースの存在を知っている以上、人間のオモチャと軽んじるわけにはいかない。
考えながら、受け取った袋から硬いパンを取り出して齧った。口の中にカビ臭さが広がる。
メダルとIS、二つの力を併せればオーズにも対抗できるかもしれない。
「IS、手に入れるか……?」
俺は今、人間の男の体を使っている。だが、この体を捨てて適当な女の体を奪えばISを動かすことはできるだろう。グリードとしての力を使えばISを強奪するのも難しくないはずだ。
しかし、三年間使い続けたこの体は手放したくない。
いや、正直に言えば、ほんのひと時でも人間の体を捨て、何も感じないメダルの塊に戻るのが嫌だ。
次に使う体で今と同じように五感が発生するとも限らないのだから。
「とりあえず、見に行ってみるか」
この体でISを動かせるかどうか。
それを試してからでもISについて考えるのはいいだろう。
人間でない俺なら、案外簡単に動かせてしまうかもしれない。
それにISがどの程度の力を持つのかも俺は知らないのだから。
♢
「ここか」
リマで行われるIS適正検査とやらの日になった。俺は検査会場であるスタジアムを訪れている。
思えばスラム地区から出たのは初めてだ。
同じ人間の住む場所でありながら全く違う、初めて感じる空気だ。
集まっている人間の数もあり、頭がクラクラする。
会場の奥に大きな機械が見える。おそらくあれがISだろう。
ISを動かせるかどうかは触れるだけでわかるらしい。
わざわざ並ぶのは面倒だと考えた俺は、群がる人間たちを強引に押しのけISに近づく。
「ちょっと、あなた何をっ!」
「どけ」
何やら詰め寄ってきた女を突き飛ばし、ISに手をつけた。
その瞬間、膨大な情報が流れ込んでくる。
ISの操縦方法、スペック、エネルギー残量、現在の装備・セッティング……
気付けば俺はIS――『打鉄』という名前らしい――を纏っていた。
気分が良かった。ハイパーセンサーによって人間の体以上の感覚を得ているからだろうか?
まるで自分が世界の主にでもなったかのようだ。
これは、欲しい。絶対に。
「フン……ここに来たのは得だったようだな」
このままISを奪ってしまおうかとも考えたが思い直す。
機械である以上、メンテナンスが必要なはずだ。
ISを使い続けるなら人間の社会に入り込む必要がある。
人の輪に紛れ込み、人間のフリをして、ISを手に入れる。
簡単なことではないだろう。オーズ共に狙われる危険も高まる。
だが、それ以上に俺はISが欲しい。
これからの方針を決めた俺は、呆然としている女に尋ねる。
「おい、動かせたぞ? どうすればいい?」
こういうの書くのは初めてですけど、完結目指して頑張りたいと思います。
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