「っわ」
「しっかりつかまってろよっ!」
肩に乗るアリスを抑えつつ素早く空に飛び上がる。悪心を強く持つ存在が近くにいたおかげで少し余裕がある。スピードを上げて、公園の上空を飛ぶ。即座に背後から追いかけてくる姿がある。
「待ちなさい!」
声を出して叫ぶのは黒い服の少女だ。手に魔力を集め、それを此方へと向けてくる。
「止まらなければ撃ちます!」
脅迫ではないのだろう。魔界人の平均からすれば中々に高いレベルの魔力をあっさりとコントロールし、溜めている姿を見るとかなり高位の魔界人なのかもしれない。後ろにいる白い少女も同様に高いレベルで魔力を練っているが、
「アリスちゃん! ばんざーい!」
「わぁーい!」
アリスを盾にするように突き出してみながら飛行を続ける。
「あ、あ、あ、ああああ、アリス様ぁー!?」
やっぱり攻撃何かできない様子だった。ちょっと調子に乗ってアリスを空中で振り回してみる。上上下下左右左右。そこで一旦ストップして顔を見て、
「楽しい?」
はちきれんばかりの笑顔を浮かべ、
「うん! もっとお!」
「よぉーし! 神様がんばっちゃうぞぉー!」
なんだか慌てふためいている姿を見ているのが楽しくなった。決してこの幼女に心を開いたわけではない事を理解してもらいたい。ともあれ、
アリスを全力で空に投げ上げる。
「アリス様あああああああああああああああああああああああああああ―――!?」
「きゃぁ――――――!!」
楽しそうな悲鳴と普通の悲鳴が混じる凄まじい状況が出来上がる。だが白い方はこれを好機と見たか、迷わず魔力による弾幕を此方に放ってくる。隙間なく、此方を逃がさない様に放つ弾幕の壁だが、
「よっと」
片手を振るう事で弾幕をの壁を破壊し、上から落ちてきたアリスを捕まえる。
「マイ!」
マイと呼ばれた白い方の少女は舌を見せ、てがすべった的なジェスチャーをしてくる。もう片方の少女が説教している。木を取られているうちに、
「そぉい!」
「わはぁ――――――!!」
「アリス様ああああああああああ―――!?」
喜びと普通の悲鳴がもう一度空に木霊する。やだこの子面白すぎるとか思いつつアリスを再びキャッチし、
「もう一回! もう一回!」
「止めてください、お願いします、もう本当に心臓に悪いですから、お願いですからやめてください」
「うん。そうか」
その言葉に安心した様子を浮かべ―――
「そぉい!」
「アリス様ああああああああああああああああああああああああああ!?」
もう一度空に投げる。楽しそうなアリスの悲鳴と、悲痛な少女の悲鳴が三度空に木霊する。いやぁ、美少女の悲鳴は聞いてもいつでも絵になるこれは是非ともどうやってか録音したい。そう言えば家に帰ればボイスレコーダーがあったはずだ。これは今すぐ家に帰ってボイスレコーダーを回収するべきか。
そんな事を悩んでいると、
「わぁあ――――――……」
アリスが楽しそうな悲鳴を上げながら下へと落ちてった。
「……おや?」
「おやじゃないですよおおおおお―――!!」
「キャッチ失敗しちゃった、てへっ」
「アリス様あああああああああ―――!!」
段々と声が枯れてきて掠れ声になっているのが解る。流石にそろそろかわいそうなので一気に急降下し、落ちているアリスを掴みあげる。頭上で安堵の息と、特大の怒気を感じられる。流石に少し遊びすぎたかと思いつつも、
「おにいちゃんもういっかい!」
「えー……でもなあ……」
「あそんでくれないのぉ……?」
当初の母親を探すって目的がテンションで忘れてしまっているようだ。個人的にはそれが最重要目標なのだが、
アリスを二人の追っ手に向ける。
「お姉さんたちがアリスちゃんはもう遊んじゃ駄目だって……」
「え……」
アリスが泣きそうな顔をする。
「あそんじゃ……だめなの……?」
素早く両手を振りそれを否定に入る少女。
「いやいやいやいやいや、一緒に帰ろうってお話ですよ? ですよね? お願いですから泣かないで―――なんですかそのいかにもやった! って感じの顔は! あなた質が悪いですね!?」
「ぅ……」
目じりに涙が溜りはじめ、そしてアリスが泣きそうな表情を一段階進める。目の前の少女が二人とも本格的に慌て始める。やっぱり相当高い身分なのかこの娘恐れというよりは畏れているというのに近い感じがする。失敗して怒られる事よりも、失敗して命令が実行できないことを恐れていにる様感じる。中々面白い。
とりあえずアリスを肩に乗せる。
「嫌な事を言うお姉ちゃんは放っておいてお兄さんと楽し事をしようぜー」
「ま、まさか本当にガチでペドな人!? アリス様! 離れてください! それ生物としてヤバイ連中の一つです!」
「失礼な! 我はただの神道の神だぞ!」
「キャアア! 触っただけで相手を孕ます変態! 変態! まさかアリス様ももうすでに」
「豊かな想像力だぜぇ……」
さすがにここまで来ると何も言えなくなる。というか俺はあのヒャッハーしてたアバウト神話の連中の中でも基本的に出番が少ないけどずっと働いてたタイプなのだが。ここまで言われるとさすがに……へこまない。もうすでに慣れた事だ。罵倒と暗殺は魔界の基本だ。
というわけで、
「お母さん探しに行こうぜー」
「うん!」
「ま、待ちなさい!」
もういい加減付き合うのも飽きたのでこのまま進もう。そう思った矢先、
「―――一体何をそこまで時間をかけているのですか」
新しい声と気配がする。二人の少女よりも強く、そして濃密な気配だ。斜め上へと視線を向ける。そこには新たな姿が見える。オレンジ色をベースとした金髪のメイド服の女だ。
「あ!」
アリスが敏感に反応する。メイドが一例を取り、
「お迎えに上がりましたアリス様―――さて、貴女達は仕事一つにどれだけ時間を―――」
そのままメイドの女が説教に入り始める。その様子を遠くから眺め、パンツを見るにスカートが邪魔だなあ、等と考えつつ、顔をアリスへと向ける。
「お知り合い?」
「おてつだいさん!」
あー。なんとなくアリスちゃんの正体解ったかも。
あそこまでの力を持った魔界人のメイドは一人しかいない。そして、彼女が仕える主は一人だけ―――最強の魔界人夢子を従えられるのは魔界神・神綺だけだ。
もしかしなくても俺の人生デッドエンド?