相変わらずの人気のなさですが読んでくれている方々はありがとうです。
今回も楽しんでいただけたら幸いです。
あともしよければ感想とかも、お願いします。
「ん~…、これ!」
穂香が友達の持っているカードを一枚抜き取る。
取ったカードは「JOKER」。
「ああ!嘘ぉ!?」
「また穂香ちゃんが引いた~」
「弱いね、穂香ちゃん」
「何言ってるのよ!まだまだこれから!」
穂香は今、仮宿で友達とトランプ中だ。
10日間、同年代の子と遊べなかったのでその反動が来ている。
しかし、少しはしゃぎすぎだった。
「お前ら、もう9時だぞ?いい子は寝る時間だろ?」
そう、9時なのだ。
子供たちは今日ここに泊まるらしく、すでに寝間着だ。
穂香のテンションが高いだけでなく、友達とお泊り、さらに木の家になんてことになれば他の子どもたちもテンションが上がる。
親たちは、正影を信頼しているのかそこに関しては一切何も言わなかった。
正影としては「親がそれでいいの!?」とツッコみを入れたいところだった。
「私たちは悪い子だからいいの!ね~」
『ね~』
「お前らなぁ…。まぁ今日くらいは見逃してやるけどよ」
「やったぁ!」
今日くらいはいいかと妥協する。
自分だってまだ寝るわけではないし、11時くらいまでなら黙っていることにした。
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~長老に会いに行ったとき~
「せっかくゆっくりしてくれと言ったのに、何の用じゃ?」
「俺は政府の拠点を目指している」
その言葉に周りの空気が少しだが悪くなる。
それは正影にも予想できた。
「…そこに、おぬしの妹が?」
「ああ。あんたらがこいつらをよく思っていないのは分かる。だが俺は妹に会わなければならない」
ここに集落を構えているということは、おそらく見捨てられた人たちなのだろう。
それに対して政府は何もしない。
食料を渡すわけでもない、快適な環境を与えているわけでもない。
プロトがいるところは少し気になるが。
「詳細は省くが実は俺はこいつに10年ほど会っていない」
「10年?お主、年はいくつじゃ?」
「…25だ。妹とは首都にオゥステムが攻めてきたときにはぐれた。だから、俺は会いたい」
25歳と言ったのは、説明が面倒だったのもあるが、変に怪しまれないようにするためだ。
タイムスリップなんて言ってしまえば、人によっては危険人物ととらえられかねない。
正影自身、未だに納得できていないのだ。
「そうか。なら行き方を教えよう。家族は大事にするもんじゃからな」
「すまない」
「じゃが…、お主はここがどういう所か分かっているのか?」
長老が地図の一か所を中心として、広い範囲を指し示す。
オゥステムが必ず出現するとレアに忠告された場所だ。
「それくらいは分かっている」
「それでも行くと言うのか?あの子と」
「俺はそのつもりだ。だが、あの子がここに残りたいというのなら、俺は1人で行く」
「お主たちがどれほど強いかは知らんが…、この場所は危険すぎじゃ。40m級が普通に出現するんじゃぞ?しかも沢山」
「それくらい突破してみせる」
「無理じゃ。政府の助けがあればもしかすれば可能性はあるかもしれないが、あやつらとて自分たちの戦力を削りたくはないはずじゃ。お主にそれだけの価値はあるのか?」
価値は…、おそらくある。
レアの話が本当で、行方不明者が1人も出てきていないのなら政府はのどから手が出るくらい正影がほしいはずだ。
それに穂香もいればなおさらだ。
だが、ここでそれをこの人たちに教えるのはあまりよくない。
「妹に会いたがってるただの旅人だぜ、俺は。価値なんてないな」
「ならやめておけ。犬死じゃ。もし行く当てがなければここに残っても構わんのだぞ?」
「長老。心配してくれるのはありがたいが、俺はもう決めてるんだ」
「…そうか。お主が行きたいというのなら行けばよい。ワシらにお主を止める権利はないからの」
「分かってくれて助かる。じゃあ、早速だが道を教えてもらえるか?」
「出来る限り力はかそう。お主には生きていてほしいからの」
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道は聞いた。
だいたいこれまで通りのペース通りに歩けば3日で例の危険地帯に、そこを抜けた後、4日で政府の拠点に着く。
しかし、それは本当に今まで通りのペースで歩けたらの場合だ。
オゥステムをいかに避けながら進むのかにかかっている。
頭の中ではイメージはできている。
だが、正影は知っている。
イメージ通りに行くことなんてあるわけないということを。
ただでさえ、どんな型の敵が来るか分からない。
最悪の状況を考えればそれよりひどいことはないが、最悪の状況は死。
これでは考えようがない。
これだけ重要なことを悩んでいるときに限り、時間は速く進むように感じる。
「正影さん、私たちもう寝たいんだけど…」
「ん?お前ら、もういいのか?」
「だって11時なるよ?もっと遊びたいけどやっぱり睡魔には勝てないや」
「11時?」
穂香の腕時計を見て初めて気づく。
11時になる5分前だった。
「もうそんな時間か。ベッドはお前らが使え。俺は寝袋使うからよ」
「ベット2つしかないよ?」
「男子と女子にでも分かれて全員で使え。無駄にでかいんだから大丈夫だろ」
『はーい』
全員ベットに上っていく。
いつもはベットじゃないからなのか盛り上がっていた。
が、まだ子供。
10分もしないうちに全員が眠ってしまった。
穂香も友達と一緒に寝れたことで、安心して寝ている。
正影もすぐ寝袋に入った。
地面が木の板で整備されていたので思ったよりは寝心地がいい。
正影もすぐに眠りにつく。
その眠りは2時間で終わってしまうということも知らずに。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
押火は集落の中で一番見晴らしがいいところに立っている。
見張りだ。
オゥステムの襲撃にいち早く気づくためだ。
夜現れるオゥステムは少ないが決していないわけではない。
「なぁ、俺寝てていいか?」
ペアの男が尋ねてきた。
「馬鹿言うな。おれだって寝たいのを我慢してるんだぞ」
「そうはいっても俺、暗闇は何にも見えないんだけど」
「なら音を警戒しろ。寝ないでな」
「分かった。なら俺は静かに聞き耳を立てるから、黙ってろよ?」
「いや、5分ごとに話しかける。寝てるだろうからな」
「マジで眠いんだよ。少しぐらい気を使って―――」
突然やる気のない顔をしていた男が立ち上がる。
「どうした、突然?」
「何か…聞こえないか?」
それを言われ周りを見渡す。
見張り中にそんな冗談を言うやつはいないのだから緊張が走る。
何かが走ってくる音がした。
双眼鏡を使い、あたりを見渡す。
「何の音だ?」
「イノシシの群れなら大歓迎なんだが…」
押火が鐘をたたく棒を持ち出す。
「オゥステムか!?」
「長老の家とは真反対のほうだ。あの数はやべぇぞ!」
けたたましい鐘が鳴り始める。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なんだ!?」
鐘が鳴り始めて5秒、正影が目覚める。
はじめは夜中にまた子供が起きたのかと思ったが違う。
確実に警報の類だ。
子供たちを寝かせたままにし、仮宿を抜け出す。
音がするほうに行くとすでに何人か集まっている。
「敵集か!?」
「要塞《アルツェ》の方角からだ!オゥステムの群れ、型は蟻だ」
「群れ!?」
「異常な数だ!ざっと見た感じは50。どれも小型だがあれだけの数を―――」
「私は行きますよ?」
静かに口を開いた。
その人の名前は那倉。
長老の付き添いの人だ。
「しかし、あの数を1人では…!」
「長老、心配するな。俺も行く!」
「何を言っておる!プロトでもないお主が言ったって犬死じゃ」
「だけど、那倉1人で行ったって勝てるわけない!それなら俺は少しでもみんなが生き残れる可能性がある方を取る!」
「時間がありません、私は行きます!」
制止する暇も与えず、柵をこえていく那倉。
正影は柵の隙間から群れの様子を見る。
距離はおよそ300m。
あまり時間はない。
「くそ!あと1人でも戦えるやつがいれば…!」
「俺が行く」
正影が話し合いに参加する。
「俺にだって戦う力はある。これでも戦闘訓練を受けていた身だ」
「だが、お主にこれ以上迷惑をかけるわけには…」
「ここで無駄な言い争いをして、被害が出てしまったほうが迷惑だ。俺は行く」
「じゃが、お主を含めてもプロトは2人。あともう1人とは言ったが死ぬことだってあるやもしれん」
「俺はここの集落の人間じゃない。だから好きにやらせてもらうぜ」
それを言うと正影は柵を飛び越え敵陣に突っ込んで行った。
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「ふん!」
蟻の体が破裂したかの如く、弾けどぶ。
だが、それはたった一匹。
約50の大軍をもつ4,5mの蟻(オゥステム)の前ではほとんど意味をなさない。
こちらに攻撃してくる敵が5匹、後は出来る限り那倉を避け集落へ向かっている。
「このままじゃ…!」
焦りを感じたそんな時、救世主はやってくる。
集落に向かっていくオスたちの足が一斉に止まる。
那倉が異変に気づき集落のほうを見ると1人、人が刀を持って立っている。
「正影さん!あなた、プロトだったんですか?」
「那倉さん、だったな。それは動物持ってきた時点で気づいてたろ?」
「はい。です…が!」
話しながら那倉はオスを一匹倒す。
正影を相手にしているオスは一匹も動こうとしない。
「あなたは一体何者なんですか?」
「俺は―――」
一歩踏み込み、オスを真っ二つにする。
計3体同時だ。
「正影、ロストチルドレンの1人だ!」
それと同時にオスも再び侵攻を始める。
しかし、一匹として正影を狙ってくるやつらはいなかった。
「俺を…狙わない?」
2020年、オスは人を見ればどんな対象を相手いたとしても必ず最初に人を殺っていた。
力の差が大きく、勝てないと分かっていてもだ。
だが、このオスの群れは正影に勝てないと理解したのか集落のを標的にした。
奇妙だ。
「やっぱり成長していたのか…。だが!」
正影は群れの真ん中に入り込む。
そして斬る。
「強さは変わらず…だな」
正影が一振りすれば相手は死ぬ。
ロスがこんな雑魚相手に駆り出されることはまずない。
理由は簡単すぎるからだ。
今回は50匹に対してプロト1人ではきつかったから正影は出た。
相手も1体だったら正影は今頃寝袋の中だ。
那倉が5匹を倒し、正影に加勢する。
「加勢します!」
「別に必要ないぞ?これくらい雑魚も同然だ」
「ですが、あっ!」
群れから外れ集落に近づいてるオスがまばらに見える。
那倉がそれを倒しに行こうとする。
「待て」
オスを斬りながら正影が止める。
「なんで!?集落に今戦える人はいません!」
「いるよ。1人な」
「えっ?」
「プロトでもロスでもない一般市民だけどな。ただ今練習中だから近づくと当たるかもだぞ?」
「どういう―――」
言いかけたところで銃声が聞こえる。
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「当たった!」
「なんだ、坊主。やるじゃねぇか!」
「坊主じゃない!私は女の子」
「分かった分かった。ほら、早くしないと、次が来るぞ?」
「分かってる!」
構えて再び撃つ。
当たった、が、動きを止めない。
「ちゃんと核を狙え!でないと意味が―――」
「大丈夫。さっきのもまぐれだと思ったの?」
動いていたオスが突然倒れた。
「おお?何したんだ?」
「これには毒がついてるの。もともと銃は痛みをものともしないオスには意味ないから使われにくいの。スナイパーだってコアを遠くから狙えるって言う利点はあるけどコアが見えてなきゃ、何発撃ったらいいんだか分からないしね」
「つまりあいつは生きてるのか?」
「10分もすれば動き始めると思う。あくまで即効性に優れた毒だから」
「ずいぶんよく知ってるな?本当に一般市民か?」
「全部正影さんから教えてもらったことだから。私なんてまだまだ」
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「…あの子もロスなの?」
那倉は驚いている。
無理もない。
ロスは全滅したとかなり前に知らされたはずなのだから。
「残念ながら違うな。あいつは俺の仲介者《メディアトール》だ、しかも一般人」
「ロスのメディアトールになるとあそこまで強くなれるのね…」
正影が武器を持っているところを見て、ロスというのは信じたようだ。
正影の周りにはオスの死体が沢山転がっていた。
生きているのは毒で動けなくなっているのを含めても残り10匹いるかいないか。
「残り8!」
正影が集落に向かうオスを同時に2体斬る。
今回は逃げるオスはいないようだった。
「7!」
「6!」
いつの間にか那倉もカウントしている。
「5!」
「4!」
そこまで斬って気づいた。
他に動いているオスがいない。
「…やっちまった」
「3!ってどうしたの?」
「いや、俺の予定だと最後の一匹だけが動けない状態でサクッと刺して終わりだったんだが。なのに…」
「全部止まってますね?」
プロトだからなのか生きているオスの見分けはつくようだ。
「2!じゃ、私がラスト一匹残すのでそれを刺すのは?」
「…その案を採用」
「じゃあ1!」
オスがはじけ飛ぶ。
正影は残った最後の一匹の前まで来た。
そしてただ刺した。
真っ二つにするのではなくただ刺した。
「0」
「…。あの、正か―――」
「お願い、ツッコまないで」
かっこよく決まった…はずだった。
しかし、正影は刺した瞬間に間違いを犯したと気づいた。
(コアの場所…、わかんねぇ)
しかし、時すでに遅し。
刺してみたが神様は微笑まず、結局コアを売るために取り出すということで頑張って解剖をしたという、残念な最後を迎えたのだった。
「全…滅?」
モニターの前でスキンヘッドの男が驚いている。
残念ながらモニターは集落を離れると、かなり遠いところにあり原因が分からない。
必要ないと思って集落に設置した3つのモニター以外は近くにつけなかったのだ。
「冗談だろ?」
キーボードを打ち始める。
何かを表す数字が画面に出てくる。
「0」と書いてあった。
「プロト1人で50以上のオスを倒した?」
ありえない話だ。
驚きを共有したいところだが、あいにくフラテッドはいない。
「…面白くなってきたな」
焦りはもちろんあったがそれ以上に楽しみになった。
思わず口角が上がる。
「まずは報告だな」
男は立ち上がりその部屋を出て行った。