戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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うぅ…、頭が痛い。
なぜ正月明けはこんなに大変なんだ…!?(正月明けて3週間後の話)


決意

嬉々と穂香は明季の言葉が理解できず困惑した。

 

「あの…明季さん?」

「何度も言わせないで、正影は行方不明。最悪死んだと考えてもいいでしょう」

 

意気揚々と帰った2人に待っていたのは絶望だった。

オクォロスにやられたとは誰も言っていなかったし、何よりその場に居合わせている穂香の言動もそれは嘘をついていなかった。

だから嬉々はそんな言葉に納得できなかった。

 

「パパは死んでなんかいない!現に私が生きてるもの!」

「ええそうね、変なことしてなければ死んでないと思うわ」

「変な、こと?」

「一時的とはいえ繋がりを遮断する方法はある、それをしていたら?」

「でも私、微かだけどパパを感じるもん!」

「それじゃ確証には繋がらないの」

 

感じるといってもそれは感覚的なもというより直感のようなもの。

触られているではなく、触られているような気がする感じなのだ。

 

「美姫さんは?鈴さんは?あの2人は死んだって言ったの!?」

「美姫は死んだわ」

 

また思いもしなかった言葉に穂香が言葉を失う。

 

「詳しいことを話していいっていう許可が下りてないからまだ何とも言えないわ。けど美姫は死んで、正影は行方不明。これは事実よ」

 

隣にいる青羽がバツが悪そうに顔を下げる。

嬉々も穂香も疲れすぎていて涙が流れないどころか表情すらキョトンとしたまま。

明季は伝えることを伝えるとその場を後にする。

 

美嘉は何か声をかけようと思ったが何を言えばいいかわからない。

心愛は場を和ませようと案を出そうとするが出せない。

蓮は嬉々が悲しんでいるのに何をしたらいいかわからないと自分を責める。

太郎はただ黙ってその場を見つめる。

 

太郎のが一番いい選択なのかもしれない。

嬉々にとっては初めて自分の大切な人がいなくなってしまった瞬間なのだ。

そんな相手に向かってかける言葉なんてまずないだろう。

 

不幸中の幸いなのが死んだかどうかわからないということ。

場合によっては悪い方向へ進みかねないことかもしれないが、少なくとも嬉々は生きているととらえるだろう。

穂香も同様に。

理由はその場にいる全員が分かる。

死んだかどうかわからない相手を死んだと仮定してしまえばそこまでなのだ。

 

大切な相手に死んでほしいと願う人はいない。

 

「………青羽さん」

「?」

「少し、時間をください」

「でも一刻も早い復旧のためにも人手が―――」

「俺たちがやります」

 

蓮が他の人の意見を聞くまでもなく進み出る。

なんとなくこうなることは予想来ていた青羽。

本来なら駄目だと叱るべきところだが黙って頷いた。

幸いばれてもラグフィートは今の自分に何かペナルティをかせるほど余裕はないだろう。

 

「少しだからね。みんなも疲れているはずだからそこは分かっておいて」

「はい」

「で、穂香。君はどうする?」

「………」

「生憎、真理奈との仲介者を断ち切る設備が今はない。つまり今は穂香に働いてもらったほうが進みがいいんだけど?」

「…やります」

 

消え入るような声でそう言った。

 

「穂香ちゃん、少しくらい…」

「いいの美嘉さん、気にしないで。今だけだから」

「じゃあ振り分けをするからそれぞれの場所に行ってね。と言ってもばらばらというほどじゃないけど」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

嬉々は1人、道を歩いている。

その周りには疲れ切った表情をした人々が座り込んでいる。

ただでさえ、貧民には食料がいきわたっていなかったのだからこの状況はつらいだろう。

ただ、今の嬉々は何もできないので無視するしかない。

幸いアルマを持っているわけではないので見た目は一般人と何ら変わらない。

服もボロボロなので溶け込むことは容易だった。

 

1つの施設の中に入る。

その中も人はいっぱいだった。

だが、彼女が見るのはそこではない。

迷わず奥へ進むとプロトが見えた。

 

「お前は…」

「嬉々、プロトよ」

「護衛の任の変更は聞いてないが?」

「少しだけ時間をもらったの。奥にいる稗田(はいだ)さんに会いたいの」

「…民間人は一切通すなと言われてるんだが」

「プロトは?」

「…………手短に済ませてくれ。報告書を書くのは面倒なんだ」

「ありがと」

「入ったら2つ目の扉の奥だ、ちなみに右」

 

通してもらい言っていた部屋の前に立つ。

特に緊張することはない。

扉をノックすると2拍ほど開けて「どうぞ」と声が聞こえる。

開けるとそこにいたのは1人の男性。

若くは見えないがまだそれほど年がいっているわけでもないだろう。

 

「嬉々か、こんな時にどうした?」

「久しぶりです、稗田さん」

 

頭を下げる。

 

「毎回やめてくれ、申し訳なくなる」

 

そう言われてすぐに頭を上げるが本来ならもっと深く頭を下げたいところだ。

なぜなら彼は育ての親であり―――

 

「正影は一緒じゃないのか?まぁこんな時に来ること自体が疑問なんだが」

 

正影の司令だった人。

正影からすればおそらく久しぶりに会っただけで、いつものように頭を下げるなり敬礼なりするだろう。

しかし、稗田からすれば失ってしまった自分の部下が10年後に帰ってきたのだ。

顔を見たいに決まっている。

 

「それと今は伊瀬(いせ)って呼ばれている」

「つい2か月前に変えたばかりじゃないですか?」

「相変わらずの状況だ。少し早く見つかってしまったからな」

「いつもいいますけど私は稗田さんって呼び続けます」

 

正影と結衣を失ってから彼に不備こそなかったもののダメージが大きかった。

その後、嬉々には分からないが稗田は嬉々を引き取った。

親のように慕っていた正影がいなくなったのだから6歳の嬉々だけでは辛いだろうという理由からだそうだが、大抵の人は実験に使うのではなんて思ったそうだ。

良くても罪悪感からだとか。

 

初めこそ認めてくれない嬉々だったが誠意が通じたのだろう。

今では本当に良かったと思っているようだ。

 

そして10年後結衣は相変わらずだが正影が生きていると聞いた。

疑問こそ残るが嬉しいに決まっている。

 

「で、どうした?こんな時に」

 

本題に入る。

それを聞かれて自分からもいうつもりだったにもかかわらず嬉々はどうしたらいいかわからず黙る。

 

相手のペースに任せるつもりなのか稗田は急かさない。

嬉々は少しずつ言葉を紡ぐ。

 

正直最後のほうは文章とは言い難いものとなっていた。

思ったことを言葉に出している感じ。

思い出したことを時間軸など関係なく出している。

黙って稗田は聞いていた。

泣き出して何を言っているのかわからなくてもただ聞いていた。

 

「正影が…」

「私、どうしたらいいかな?助けに行きたいけどそんなのできないことくらいわかってる。正兄ならできることからやれとでも言いそうだけど…何をしたらいいかもわからない」

「……」

「今度は本当にいなくなっちゃいそうで…。やっと会えたのに……」

「…覚悟はあるのか?」

「え?」

 

慰めの言葉が来ると思っていた。

それが普通のなのだから。

だが、それはあまりに突拍子過ぎて予想なんてできない、選択肢を与える言葉。

 

「正影が連れていかれた場所は…なんとなく想像がつく」

「…!」

「だが、嬉々。お前がただそうやって伏しているだけではいけないだろう」

「居場所と…行き方を知っているの!?」

「あくまでも予想だ。そして合っていたとしても俺の力だけではそこには行けない」

 

かつてないほどの喜び。

いや、喜びというのはいささか語弊があるだろう。

正影が無事でなければ意味がないのだから。

だが見えた一筋の希望。

 

「それでも…、正兄を助けられるなら!」

「ただし、絶対生きて帰ってくることだ。お前を犠牲にして正影だけ助かってみろ、今度こそ俺の命はないからな」

「分かった!分かったから…」

 

餌を目の前にして我慢の限界が近い犬のように体をぐいっと出してくる。

さっきまでとは大違いの態度に「相変わらず単純だな」と思ってしまった。

 

「まず、リレグって知ってるか?」

「名前くらいなら…あとオスの研究者だったとか」

「それだけで十分だ。俺からもラグフィートに言っておこう」

 

ここでもその人の名前かと首をかしげる。

聞いたのはリリィからだったか。

あいまいな記憶になりつつはあるが確か消息不明じゃなかったっけとある限りの記憶を戻そうとする。

 

「さて、表に出るか」

「え、外に出るの?」

「こんな状況だ。俺を特定するのは難しいだろうし、最強の護衛がついてきてくれるんだろ?」

「…!もちろん!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「………………」

「……………」

 

資材を持ち上げながら頬を掻くリリィ。

穂香の様子がおかしいのだ。

静かすぎる。

理由は分かっている、だからこそ何もできないことが分かる。

 

美嘉には励ましてあげて的なことを長々と回りくどく言われたがお分かりの通り、そういうのが苦手なリリィ。

それは美嘉も理解しているはずなのだが…。

 

こうなってくれればと思っていた状態だ。

静かに何もしゃべらず作業に没頭できる。

なのにいざそうなると調子がくるって違和感がものすごい。

 

もともと、子供という生物はうるさくて避けてきた道。

何をどう接したらいいのかわからない。

 

「ねぇ、リリィ」

「あ?」

 

穂香が口を開いた。

なんとなく嫌な予感がしていたリリィ。

 

「私、どうしたらいいのかな?」

 

喉元までこみ上げた「俺に聞くなよ」という言葉を飲み込む。

なんで飲み込んだのか、いつもならいうはずなのになと後になって思ったリリィ。

 

「何もするなって言う?」

「……生きてるか分からない奴を助けに行くのは得策じゃないからな」

「そう…だよね」

「慰めてほしいって言うなら俺には聞くな。分かってるだろ?」

「………私、ここに来る前にも大切な人たちとお別れしたの」

「全員そうだ」

「なんでオゥステムって生まれちゃったのかな?」

「俺が知りたいな」

 

突き放すこともできた。

だが、何故か言葉はそうしなかった。

 

「リリィは、大切な人がいなくなった時…どうした?」

「…親が死んじまったのは俺の記憶がない頃だ。だから失ったとはいえ、正直なんとも思わなかった」

「でも、大切な人って家族だけじゃないでしょ?」

「付き合い方の問題だ。これ以上は踏み入れさせないっていう境界線を作る」

「なんで?」

「俺にもわからない。でもそうやって生きてきた」

 

初めからそう生きてきたのだ。

自分がどうしてそう決めたのかなんて分からない。

 

「でもそれは俺の生き方だ」

「…?」

「お前の生き方にケチをつけるつもりはない。批判をすることはあるかもしれないがな、それでもお前の人生だ。やりたいようにやれ」

「………………」

「なんだ?」

「私、そこまで質問した覚えないよ?」

「…」

「もしかして…励まして―――」

 

リリィはその場を立ち去る。

何も言わなかった。

おそらく、彼自身もおかしいことに気づいたのだろう。

残った穂香は1人考える。

自分のやりたいようにやれ……。

リリィの励ましは大きかった。

 

「…うん、私頑張ってみる」

 

穂香は黙ったまま作業を再開した。




蓮「…なぁリリィ」

リ「?」

蓮「最近お前の出番多くないか?」

リ「俺みたいなキャラいないからな。作者も作った後使いやすさに気づいたらしい」

蓮「メタい」

リ「できる限り調整はするつもりだそうだ。まぁ、残念な結果になりそうだがな」

蓮「それには同意」


……善処してるんです(現在進行形)

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