戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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2015年、今年も張り切っていきましょー!


終息

被害は思ったより少なかった。

地下街は使うには難しい状況かもしれないが中心のアルツェを除けば地上で十分生活ができる。

最もいつ倒れてくるかわからないアルツェの眼前で生活しなければならないのだが。

 

「穂香ちゃん、すっかり眠ちゃった」

「まだ10歳未満だったわよね。さっきまでしっかりしてたんだから当然よ」

 

嬉々が穂香を背負い、恭二が蓮に肩を貸している。

 

「…隊長さん、少しは―――」

「要因1、私の方が格が上。要因2、あなたは男。要因3、小型の通信機を所有していたという罪―――」

「俺が悪かった」

 

全員の支給武器(アルマ)を運んでいるリリィは不満気ではあるが何も言い返せないが故に黙ることにした。

オクォロスの作った道を抜け、うまい具合に鉢合わせた6人は地上に向かっている。

追ってくるプロディターの影もなく、足取りは決して早くはない。

 

「なんであの力馬鹿女はいないんだ?」

「少なくとも俺がいる前では荷物すべて持たせるなんて狂動、許しませんよ」

「狂動ってなんだ?」

「狂言っていう言葉があるでしょう?あとは察してください」

 

深いため息をつくリリィ。

そんなのをよそに嬉々はどうしても聞きたいことがあり、明季に近づく。

 

「あの…」

「正影なら無事よ。オクォロスは仕留めそこなったみたいだけど私たちが回収してるわ」

「それなら…、よかった」

「…………」

 

オクォロスは去った。

プロディターも襲ってこない。

なのになぜこの嫌な感じは取れないのか。

 

明季は美姫たちは信用している。

彼女たちの身に何かあったとは考えていない。

ならばラグフィートや青羽など上司の身に何かあったのだろうか。

それはそれで困る話なのだ。

 

不安が何なのか、考えながら歩く。

答えは出るはずがない。

 

「?」

 

日が自分の体に当たったのが分かる。

地上に出た。

 

外の光景は決してきれいとは言い難い。

だが十分だった。

特に嬉々と蓮、それにリリィ。

彼らは二度と見られなくてもおかしくないと思っていた。

言葉を選ぶべきかもしれないが「助かった」と改めて実感する。

 

「嬉々、みんな!」

 

日の光に軽い感動を覚え止まっていると呼ばれる声がした。

真理奈と美嘉が出迎えてくれた。

 

真理奈は走って嬉々に抱き着こうとしたが直前で嬉々が制止を促す。

ここでまた入院沙汰はご免である。

それに気づいて真理奈も少し留まるがすぐに抱き着く。

加減はしてくれたようだがそれでも嬉々の笑顔は少し引きつっていた。

 

微妙な振動を感じた穂香は目をこすりながら目を覚ます。

 

「穂香ちゃん、元気してた?」

「ん…、美嘉さん?」

 

美嘉は穂香に赤ちゃんの誘導を促すかのように手を広げる。

穂香は寝起きではまだ眠いのか何も考えずに美嘉の元に移動する。

今回ばかりは下心なしに生きている喜びを抱きしめる。

 

無言のまま明季は恭二から蓮を預かる。

その行動に驚いたが、恭二は少し頭を下げると真理奈に歩み寄る。

 

真理奈は嬉々同様に恭二を抱きしめる。

ただ、真理奈の抱きしめていた腕の力は嬉々の時よりも強いはずなのに顔色一切かえない。

 

「こういう時、相手がいない人はどうしたらいいと思う?」

「寂しいと思うなら作るべきじゃないですか?」

「思わなかったら?」

「ただ見てればいいかと」

 

リリィに問いかけた明季は静かに笑う。

 

「なにか?」

「いえ、やっぱり同類に聞かなきゃだめねと思ってね」

「この場面だけ見ればそうだと思いますが?」

「いるじゃない」

 

明季の目線の先にリリィも目をやる。

目を覚ましたのか穂香が手を振っている。

満面の笑みとはああいう顔を指すのだろう。

 

「隅におけないわね」

「勘弁してください。対象外です」

 

全員のアルマを持っているため手はふさがっている。

感情を表には出さなかったがリリィはその時確かにホッとした。

 

「明季さん、司令が呼んでいます。急いでくれとのことです」

「分かったわ。案内して」

 

十分に思ったのか、真理奈は明季に自分の用事を伝える。

明季は「自分だけ呼ばれてるのだから自由にしなさい」といい、蓮を恭二に預ける。

そのまま明季は真理奈と一緒に、恭二はあとをついていくようにその場を去った。

 

「リリィ、生きてたんだね」

「2回も裏切者(プロディター)から生き残ったなんて、主人公スペックあるんじゃない?」

「それがあったらお前らは哀れなヒロイン役としてすでに死んでるな」

「何言ってるのよ。プロディターが攻めてくるま―――」

 

嬉々に向かって嬉々のアルマが向けられる。

左手でプルプルと震えながらもリリィは他のアルマを持ちながら刀を向ける。

それ以上しゃべるなと言いたいのは一目瞭然。

 

「…まぁいいわ」

「美嘉さん、あとパパ知らない?」

「そうそう、正兄はどこなの?」

「え………あの………」

 

触れてほしくない話題だったかのように口ごもる美嘉。

穂香と嬉々は疑問符を思い浮かべるが、リリィだけはなんとなく最悪の事態を予想する。

話題をそらそうと戸惑っている美嘉を見かねるリリィ。

 

「とりあえず美嘉、拠点に案内してくれ。重くてかなわん」

「え、ええ。そうね。2人も疲れてるでしょ?」

「それはまぁ、そうだけど」

「じゃあまず戻りましょ、そうしよう!」

「「??」」

 

穂香を抱っこしながら方向を変える美嘉。

それを別に止める人はいなかった。

だが、違う面から見れば問題があった。

 

「美嘉」

「うん?」

「その手を移動させるか穂香ちゃんを降ろして」

 

一見は別に何も感じさせない画。

まぁ、少しばかり大きな赤ちゃんととらえられるかもしれないが疲れているのだから背負われるなり抱っこされるなりあってもおかしくはないだろう。

だが嬉々が注目したのはそこではなく美嘉の手がある場所。

穂香のお尻に触れていた。

 

「いや、さすがに今はないわよ!?体重支えてるだけよ!?」

「もし正兄が見たら殺意湧きかねないから」

「わ、分かったわよ…」

 

明らかに名残惜しそうに穂香を降ろす。

この姿を見ると嬉々はどうしても体重を支えるためだけだったのか心配になる。

 

穂香は地面に降りるとリリィの元へと駆け寄る。

 

「重いんでしょ?持つよ」

「先輩に持たせることはできませんよ」

「後輩は先輩の気持ちに甘えたほうがいいよ?」

「ハッ、知ったことか」

 

穂香以外の誰かだったら容赦なく渡していただろう。

だが、これで他には渡せなくなった。

面倒ではあるが黙って運ぶかと心の中でため息をつき歩き始める。

 

しかし、穂香はここで引き下がらなかった。

変な意地を張る。

リリィの服の裾を掴んで離さない。

 

「いいからよこしてよ、疲れてるんでしょ?」

「余計なお世話だ。おとなしく美嘉にでもついていけ」

「先輩の言うこと聞けないの?それから敬語」

「以後気を付けますよ、だから今は―――」

「いいからよこしてよ!」

 

いつもならただ強く引っ張っただけではリリィは持ちこたえることができる。

正影を仲介者(メディアトール)に持っていてもなんとか持ちこたえる。

だが、それに今は真理奈が加わっている。

どうなるか。

リリィの視界が一瞬にして反転する。

眼前に映るのが青い空。

 

「?」

 

次の瞬間、リリィの視界は真っ暗になった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「上出来だ…ようやく確保できたか」

 

リレグは素直に感嘆の息を漏らす。

窓越しに正影が眠っているのが分かる。

相当疲れきっているのか、当分起きる様子は見せない。

 

「プロディターの方はどうでした?」

「無事、帰還してくれたよ。最も一体がやられて帰ってきたのは予想外だったが」

 

おとなしくカプセルに入った人が目に入る。

2人。

片方は女性で片方は男性。

人種までは定かではない。

曇っているかのように体系は分かっても顔までは見ずらいのだ。

 

「ただ、こいつが何か感じ取っているようですが…」

「まぁ、あってもおかしくはないだろう。それなりに深い仲だったそうだからな」

「これでは回復に支障が出るかと」

「…それならLOPR―7を使って休ませろ」

「はい」

 

フラテッドは指示を受けるとキーボードをたたく。

はた目からは何も変わらない。

カプセルの中は相変わらずの状態。

だが、何かの計器なのか酷く大きかった揺れ幅が突然おとなしくなる。

 

「1つご報告が」

「なんだ?」

「E-23ですが、今回の作戦では使用されなかったようです」

「そうか」

 

流すように興味を示さないリレグ。

 

「よろしいのですか?」

「今、あの状態でE-23は使えない。核爆弾は手持ちで運べるほど容易いものではないからな、下手な衝撃1つで自分の身が危ない」

「持ち運べるものだと聞いたのですが?」

「面白い話だ。ミサイルを人が持って運ぶのか」

 

下らないと言いたげに手を振る。

 

「ここはもういい。イリュミタートの状態を確認し次第、休んでくれ」

「はい。では…」

 

フラテッドは部屋を後にする。

リレグはガラス越しに正影を眺める。

 

目の前で見て改めて思った。

全然変わっていないと。

正影と直接顔を合わせたことは何度かある。

だがそれを正影は記憶していないだろう。

 

地位はそこそこだったと自負しているが顔を合わせたのは数えるほど。

戦闘馬鹿が覚えるほどではない。

 

こちらとしても10人弱いる中の一人だった以上、正直記憶だけでは鮮明には思い出せなかった。

10年以上前の資料を引っ張り出した今ではよくわかるが。

 

だが疑問として残るのは一体何がどうなって正影が年を取ることなく今になって表れたのか。

自分が渡した機械にタイムスリップのような摩訶不思議な機能を取り付けた覚えはない。

というよりそんなことができればもっと違うことに使っている。

それ以前にそんな話、一科学者としては否定したいところ。

 

時間はある。

目覚め次第、聞いておこう。


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