戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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よかった、投稿できた。
今年最後の投稿になります。
年が明けても少し休みボケで遅くなるかも…?




一瞬

「みひ…め?」

 

ありえない。

何かの間違いだ。

彼女に限ってそんな…。

 

目の前には美姫が横たわっている。

動く気配を見せない、それどころか生きてる気配すら見当たらない美姫を前に力が抜ける。

 

嫌な予感はしていた。

遠目から見たので確信ではなかったが使われた衝撃手榴弾(ショックボム)

ピンを外した後何かしらの衝撃を与えることで爆発する。

ただ、これは複雑な構造をしているが故作るのが難しく支給されない。

買うしかないのだがこれがまた高い。

「買うの苦労したんだから」と愚痴りつつ自慢していたのを覚えている。

別に興味なんてないのに。

そして美姫は支給されたものは使いまくる一方、買った物は使い渋る。

だからケチ姫と呼んだこともあった。

そんな人が衝撃手榴弾を使うなんて何かあったのではと、悠人に残りを任せて飛び出した。

 

軽口をたたくつもりだった。

いつものように言い争いになるはずだった。

 

だが来てみればヘリは消え、操縦士の死体が代わりに転がっている。

結果を知るにはそれだけで十分だった。

 

見姫の顔に手を触れる。

外見はほとんどダメージが見当たらない。

出血だって大した量には見えない。

顔にもまだ生気が漂っている…ように見える。

 

だが、揺らしても反応はない。

呼吸もしていない。

心臓も動いていない。

 

「嫌………」

 

いつもは言えない。

言えるはずがない。

強気でかかっているのに今更言えるはずがない。

だが、お互い理解していた。

だからこそ言い争った。

本当に嫌いな奴なら顔を合わせることすらしない。

 

「嫌……」

 

目から涙が溢れる。

 

動かない見姫を抱きしめる。

 

「ふざけんじゃないですわよ……!」

 

ただそこで抱きしめ続けた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「まだ着かないの!?」

「まっすぐ道ができてるわけないわ。それにこんな状況、結構な回り道が必要よ」

「時間がないのに!」

 

明季たちがアルツェの地下を走り回っている。

地下街に続く道を見つけるために。

思ってた以上に損傷が酷かった地下は住宅街への道を塞いでいた。

すでに行って戻ってを繰り返して早3度目。

急がば回れとは本当にそうなのかもしれないと少し不安を感じる明季。

 

「隊長!」

「恭二、焦る気持ちは分かるけど貴方も―――」

「違います、何かが近づいています」

「なんですって?」

 

プロディターでも近づいているのかと思った。

だが

 

「プロディターではないと思われます」

「どういうことよ?」

「足を止めていただければ分かるかと」

「?」

 

時間がないとはやる気持ちを抑えつつ、足を止める。

そして気づいた。

揺れている。

しかも思っていた以上に。

どうして気づかなかったのかと笑われても仕方ないほどに。

 

「地震?」

「不規則すぎるわ。それに恭二の言う通り近づいてきている」

 

土の中を移動するオゥステムは少なからず存在する。

だから地上はもちろん地下のガードも手を抜いてはいない。

だからこの揺れがあとどれくらい距離があるのか示していることにはならない。

頑丈な壁が揺れを最小限に防いでいる。

 

「行くわ」

「いいのですか?」

「何をどうしろっていうの。音を聞いたって距離もわからなければ止めることもできない。根源すら分かっていない以上、構っている暇はないわ」

「了解しました」

 

3人が頷き、再び走り始める。

その時だった。

 

何か鈍い破壊音と同時に揺れが一層大きくなる。

視界は揺れ、立っていることもままならない。

突然の出来事に3人ともその場に崩れ落ちる。

 

天井がメキメキと悲鳴を上げいつどこから崩壊が始まってもおかしくない。

 

「隊長!」

「無理に動こうとしないで、必要最低限の動きだけにしなさい!」

「何が起こってるの!?」

「分かってたらもっと早く対処―――」

 

明季の口が止まったわけじゃない。

「対処できていたわ」としゃべっていた。

だが声は穂香はおろか恭二にさえ届いていなかった。

それだけ大きな地響きが鳴っていたのだ。

近くにいることは分かっていた。

だがそれが何なのか、どこにいるのか皆目見当がつかなかった。

 

(モグラ型でもいるっていうの?ふざけないで―――)

 

しゃべっていたわけじゃない。

だがそれが現れると同時に思考が止まってしまったのだ。

 

再び起きる破壊音。

それと同時に視界が砂埃によって奪われる。

いつもなら反射的に離れるところだったが動くことができない。

だが、顔を音の方向へ動かす。

 

目に入ったのは「目」。

いくつもの目が通り過ぎていくのだけが分かる。

一瞬、目が合ったように思えたがそれは分からない。

 

(まさか…!)

 

不安がよぎる前に確信を持っていた。

地面の中を移動することができ、いくつもの目を持ち、異常なほど巨大。

オクォロス。

死んだと思っていた。

出し惜しみしてしまったのが失敗だったと思うが時すでに遅し。

プロディターが彷徨っている空間にオクォロスが入ってきたらどうなるか。

殺しあってくれる可能性も大いにある。

だが、仮に殺し合いを始めたとして何が残るか。

何も残るはずがない。

それこそ破滅だ。

殺し合いをしてくれようが徒党を組まれようがどちらに転んでも破滅なのだ。

 

時間にして僅か10秒。

目の前を通り過ぎたのかぽっかりと空いた穴には何も残っておらず土がむき出しになっている。

それから暫くその場にとどまった3人だったが30秒もしないうちに揺れが収まり始める。

収まるというよりは軽くなるの方が正しいのだが。

明季と恭二はすぐに立ち上がったが、穂香は足に力が入らない。

 

手が震える。

なぜあいつがまだ生きているのか、確かにパパが殺したはずだと恐怖する。

 

殺したと思っていたがまだ生きていたのだ。

確かに誰もオクォロスの死を手で触れて確認したわけではない。

遠目から見て止まっているから死んだと判断したのだ。

まさか内側から焼き殺したはずが気絶していただけなんて夢にも思っていなかった。

 

「隊長、お怪我は?」

「私は大丈夫よ。それよりそっちのほうが問題でしょ?」

「…ぁ………」

 

何か言おうとしたのだが口もうまく動いてくれない。

トラウマなんてものじゃない。

それよりも酷い何か。

それでも自分を落ち着かせ少しずつ、力を入れ始める。

 

「隊長、もしかしてこの穴…」

「ん?」

「地下街に続いてません?」

「……可能性はあるわね」

 

大きく拓いており、洞窟と言っても過言ではないほどの穴。

アルツェ内の構造をほとんど把握している人だからこそ分かること。

大きく開いた穴はほぼ間違いなく地下街へ続いている。

 

だた、ここを通りたいと思うことはまずないだろう。

非常事態だからこそ選択肢に入れてはいるがいつ崩れてもおかしくないはずだ。

どうして崩れず空洞を保つことができているのかがすでに疑問だ。

だが、ここでとどまることすら許されない上に近道。

 

「穂香、ここを通るけど大丈夫?」

「近道…なの?」

「おそらくね。危険も伴うけど大幅な時間短縮もできるしこの通路だっていつガタが来るかわからない以上、安全とはいいがたいわ」

「……………………分かった」

「恭二、私は少し速く進むから穂香のフォローをお願い」

「了解しました」

 

明季がオクォロスが開けた通路に降りる。

足場はしっかりしていた。

ヌチャっと粘液なのかただの水なのかは分からないが足場が気持ち悪いところがあるが大した問題ではない。

土のにおいが鼻につく。

いや、土よりも何かが腐ったにおいのほうが強いのかもしれない。

願わくばマスクでもして通りたい通路、というか避けたい通路。

 

だが、進むしかない。

もし読みが外れて実は地下街に繋がっていなかったらと思う節もあるがやるしかない。

一抹の不安と一緒に明季は走り始めた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「…!」

「?……??」

 

一方、嬉々は未だプロディターと対峙していた。

戦況は言うまでもない。

蓮は完全にノックアウトし、リリィは戦力と言うより傍観者のほうが近い。

もちろんリリィだって何の考えもなしにただ見ているわけではない。

 

そして今、嬉々とプロディターの両者はともに困惑していた。

原因は揺れ。

命の取り合いでさっきまで、少なくとも嬉々は気づかなかった

気づいた時には結構な揺れになっておりこれにはさすがに足を止めた。

プロディターもそれに呼応するようにおとなしくなった。

 

ただ、プロディターも何が起きているのかわからず困惑しているように見える。

人の姿であるが故、あくまで外に現れている行動から察するにだが。

 

揺れがだんだん大きくなり、嬉々は立つのもままならなくなる。

 

「リリィ、何が起きてるの!?」

「知ってたら何か行動をしている!それよりプロディターから目を離すな!」

 

刹那、黙っていたプロディターが嬉々に向かって飛びかかる。

反応に遅れた嬉々だったが反応する必要はなかった。

プロディターの攻撃は大きく嬉々を外れ、民家に飛び込んでいったからだ。

プロディターと言えどもバランス感覚はあるらしい。

揺れの大きさにバランスを保つこともままならないこの状況。

それで飛びかかったって狙いなど定まるはずもない。

 

そしてプロディターが民家にツッコんだのと同時にそれ以上の衝突音が聞こえる。

 

「なに…が?!」

 

状況が把握できない嬉々の前にリリィが転がり込む。

必死にバランスを取りながら蓮を背負う。

 

「リリ―――」

「こい、早く!」

「この状況でついて行くなんて無理に決まってるでしょ!」

「何でもいいからさっさとそこを離れろ!」

「そんなこと言われても…!」

 

離れたくても地面に伏していることしかできない。

むしろこの状況でグダグダとはいえ移動できるリリィを不思議に思う嬉々。

 

「なら少し我慢しろよ!」

 

バランスをとることがままならない中、リリィは必至に立ち上がり槍を振りかぶる。

その行動が何を意味しているのか、これはこの状況の危機でも理解できた。

しかし、その行動の意図を理解できない嬉々は慌てて避けようとする。

が、立つことができない以上移動はできない。

這いつくばってでは時すでに遅し。

リリィの槍が勢いよく嬉々を殴り飛ばす。

 

「がっ!?」

 

背中の骨がすべて逝ってしまったのではないかと思うほどの激痛が走る。

しかし、そんな痛みを吹き飛ばすほどのものを嬉々は宙で目撃する。

 

視界に入ったのは大きな何か。

芋虫のようにも見えたが体中についている目玉がそれではないと訴えている。

虫はあんなに凶悪ではないと。

そして美嘉と一緒に見た資料を思い出す。

 

(あれが…!)

 

オクォロス。

オーロワームすら実はまともに見たことがない嬉々にとって初めて見る超巨大型。

その大きさに恐怖よりも先に魅せられてしまった。

しかし、いくつもの目がギョロギョロ動いているのを見ていれば正常な人ならばすぐに「嫌悪」等に思考が切り替わるだろう。

嬉々も同じだった。

 

「あそこ…」

 

オクォロスはまっすぐ自分たちがいたところに進んでいた。

時間にして3秒。

嬉々の視界に入って3秒後、さっきまで自分がいたところがオクォロスの口に飲み込まれる。

プロディターも避けていなければ口の中。

 

宙に浮いている時間が終わり地面に落ち始める。

受け身を取ろうとしたがリリィの攻撃が予想以上に痛く、地面の直前で体勢を崩し今度は胸を痛める。

この時は胸がある程度あってよかったと自分の胸に感謝する。

 

「無事か?」

「……おかげさまで」

 

近くに降りてきたリリィはなんの悪びれもない。

まぁ、命の恩人と言えばそうなのだが。

 

「さっさと退くぞ」

「いいの?」

「なにが、と聞きたいところだが折角あいつ(プロディター)から逃れられたんだ。3人全員無事なんて奇跡の一言でも言い表していいものか…。それにこいつを抱えて戦うのは無理だ」

「……そうね」

 

オクォロスは自分たちに興味がないのか襲ってこない。

むしろオクォロスはそのまま一直線に去ってゆく。

通った道には何も残っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嬉々たちの騒乱は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

すべてを奪ってく行くオクォロスの手によって。




クリスマスは過ぎましたし…、次の行事は正月か。

それではみなさん、よいお年を!
これからもこの作品をよろしくです。

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