暖かいココアがコップに注がれる。
これはある人の習慣となっていた。
決して誰かが飲むわけじゃない。
冷めてしまうと新しく温かいココアを新しいカップに注ぐ。
もちろん、これをしている人にも仕事はある。
身支度を終え仕事の時間が来る5分前、新しくココアを注ぐ。
靴を履き誰もいないはずの部屋を見て言う。
「いってきまーす」
それを言うと彼女は仕事に行った。
「穂香!」
「分かってる!」
穂香が銃をオスに向ける。
相手は3mと小柄のオス。
型はトカゲ。
穂香は両手に銃を持ち撃ち続ける。
相手は3mほどなので十分な攻撃力を誇る。
と、舌を伸ばし穂香の腕に巻き付く。
そのまま引き寄せて食べようとする。
「加勢してやろうか?」
「これくらいで、大丈夫!」
掴まれていない腕に持っている銃で舌に銃弾を浴びせる。
8、9発撃ったところで舌がちぎれる。
今度はちぎれた舌から謎の液体が飛び出る。
「きゃあ!」
拳銃に当たり銃口がドロッした液体によってふさがれる。
「なっ、なによ!この液体!」
粘着性があり剥がれない。
その間にオスが近づいてくる。
しかし、穂香は焦らない。
持っていた拳銃が使えなくなったのならどうすればいいのか?
答えは簡単。
新しい拳銃を出せばいい。
使っていた拳銃を消すと、新しい拳銃を取り出す。
ショットガンだ。
跳びかかってきたオスに2、3発お見舞いする。
撃たれた衝撃で軌道がずれ穂香の横にばたりと倒れる。
穂香はそこにさらに銃弾を撃ち込む。
5、6発撃ち込んだところでオスは動かなくなった。
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「ん~~…」
「ど、どう?」
「駄目だな。核がボロボロだ」
死んだオスから核を取り出し、確認する。
ショットガンにより攻撃したため核にもわずかだが当たってしまった。
「ごめんなさい…」
「まぁ、いいさ。だんだん感覚は分かってきただろ?それだけで上出来だ。核の採取なんてそのついででいいしな」
オゥステムには以前も言ったが核が存在する。
そしてその核は貴重な研究材料だ。
生きたままで核の取り出しを行うのは無理だが、きれいな状態で取り出すのは可能だ。
それは、価値が高く3m級でも無傷ならば5万~10万で取引される。
核はよほどのことがない限りとりだした者の所有物になるのだ。
「さて、日も暮れてきたし…今日のキャンプはここでいいか?」
「うん、私はいいよ」
「なら準備だ。テントを張るぞ」
リュックからテントのセットを取り出し準備をする。
これらのセットは都市を出る前にいろいろな店を回りそろえてきた。
都会になる予定があったというだけあって物は簡単にそろった。
「よいしょっと」
「正影さん、実年齢は?」
「15歳だ」
「うっそ?絶対40ぐらいいってるでしょ。アクリス細胞で成長とまってるからって詐欺は良くないよ?」
「マジだよ。ただ本来なら26歳のはずなんだけどな」
「以前いってた妹さんは?」
「あいつは20年の時5歳だったから…16か?」
「つまり今はお姉ちゃん?」
「そうなるな…。変な感じだ」
「でもきっと、妹のようにしたってくれるよ。…できた!」
テントが完成する。
「よし、食料はあるし、燃える木もある。今日はこのまま休んでもいいだろ」
「わーい!ちなみにご飯は?」
「缶詰と干し肉、後は栄養補助食品、どれがいい?」
「…カレー!」
「そんな選択肢はない」
「だって…、ずっとそればっかりだよ?」
「無理言うな。これしかないんだから。でも政府の建物に着けばなんでも食べれるぞ」
「本当?」
「本当だ。だから今はこれで我慢だ」
「はぁい」
2人で政府の拠点に向かって歩き始めて1週間が過ぎていた。
他についてきている人は誰もいない。
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~レアが死んだあと~
「穂香…」
かける言葉が見つからなかった。
正影にとって家族と呼べるのは妹のみ。
母や父はクローンで生まれたような正影にとってはいないも同然だった。
だから気持ちがわからなかった。
ただ、悲しいということしか。
「…正影さん」
不意に穂香が正影に話しかける。
「なんだ?」
「…火種になるようなもの、持ってますか?」
「あ、ああ。マッチくらいなら」
先ほどスーパーのようなところから持ち出してきた。
「ここに、放っておくことは、出来ません。みんな、大切な、家族だから…」
「…分かった。お前は家族を。俺はごみを捨ててくる」
「お願いします」
5分ほどかけて男たちの死体を窓から投げ出す。
落ちて再びひどい姿となる。
穂香の家族は一列に並べられた。
「…いいのか?」
「ここに、置いておいても、腐ってひどい姿に。あるいは、カラスの、えさに、なってしまいます。そんなの嫌です」
「そうか…」
正影はレアの持っていたカバンをとる。
中には地図とメモ帳、タロットカードが入っていた。
「これは、貰っていいか?」
「…うん。使ってくれたほうが、レアさんも喜ぶ」
「お前はいいのか?形見とか」
「あると、私は引きずり続けてしまいそうだから…」
マッチに火をつける。
「火をつけても、それくらいじゃ消えるかもだぞ?」
「でも、どうすれば…」
「ほら」
1つのタンクを持ち出す。
灯油が入っていた。
「これは…?」
「一階に置いてあった。灯油ってやつだ。何もないより火がつきやすくなる。匂いが少しきついが仕方あるまい」
「ありがとう」
死んだ5人に灯油をすべてかけた。
マッチに火をつける。
迷わず、マッチを5人に投げた。
すぐに火が広がる。
そして悪臭も。
しかし、穂香にとってそんなのはどうでもよかった。
「…」
ただ火を見つめる。
「穂香、俺は先に下に行ってる。レアにはお前を連れてってくれと言われたが、お前はどう思ってる?」
「…」
「来たくなければ来なくても構わない。そこからは好きに生きろ、お前の人生だ。だが、もし俺と来たいというのなら、1時間だ。1時間だけ下で待っててやる。それまでに来なかったら俺は1人で行く」
「…」
「先に行ってるからな」
正影は1人下に降りた。
一時間、下で立ちながら待つ。
何度も言うが彼に穂香の気持ちは分からない。
今まで仲間が目の前で死んだことは何度かあった。
だが、不思議と泣くことができなかった。
悲しいという気持ちはある。
だが、涙は出てこない。
周りには「強いね」や「薄情者」と言われたがどちらなのかは自分にも分からなかった。
でも、なんとなく思っていた。
自分は「薄情者」なのだと。
仲間が死にそうで助けられるのならもちろん助ける。
だが、正影はそういう一面を持っていると同時にすぐに仲間を切り捨てたりもする。
絶対に助けられない、もう死んでる、それが分かった瞬間、そいつを切り捨てるのだ。
効率的で戦闘している人から見ればもちろん合っている。
だが、その死にそうな人の家族、友達、恋人から見れば酷い人にしか見えない。
そんな世界で彼はそういう立場で生きてきたのだ。
58分後、穂香が下に降りてきた。
「…もういいのか?」
「うん」
「で、どうする?ついてくるか?」
「お願いします」
頭を下げる。
「よし、ならさっさと行こう。早く、ゆっくりしたいしな」
「あの…」
「なんだ?」
「どうして、待っててくれたの?」
「1時間待つっていったろ?」
「今私が下りてきたとき、だいたい57、8分経ってた。普通、もう1時間たったと思ってどっかいってる」
「ああ、それか。そうだな、お前がついてくるみたいだしやっぱりお前が持つべきだな」
「?」
正影があるものを穂香に渡す。
「これは…!」
レアの腕時計だった。
「これがあったからな。きっかり一時間なんて余裕」
「そう…」
「で、これは今からお前のものだ」
「え?」
驚きの顔を正影に見せる。
「どうした?嬉しいだろ?」
「…これがあると、私レアさんたちのこと引きずっちゃう」
「…」
「毎日、毎日、おもいだして、忘れることもできずに…」
「いいんじゃないか?」
「へ?」
「お前は忘れようとしていていたのか、みんなのことを?」
「そうしないと、私、毎日泣いちゃうから…」
「泣きたきゃ泣け」
「…」
「誰が泣くなって言ったんだよ?泣きたいときは泣かなきゃ体に悪いぞ?」
「でも…」
「思い出は大事だ。確かに過去のことなんて大抵は意味を持たない。でもお前は意味を持たないからって忘れるのか?」
「…」
「引きずりたきゃ引きずれ。引きずってたら周りに迷惑が、これからが考えられないかもなんて考えるな。どんなに悩んだって結局なるようになる。それに…」
「?」
「思い出はいいものみたいだぞ?足かせになんてならねぇよ。俺には思い出といえるほど長い間の記憶はないから分からないけどな」
「どういうこと?」
「俺はある人のクローンだ。その人は8歳で死んだ。だから俺は8歳の体から人生がスタートした」
「そんな…」
「知識等は科学技術で初めから埋め込まれていた。だから支障はなかった。だけど、いい思い出がないんだ。生まれてすぐ戦闘訓練漬けの日々だったからな」
「…」
「だから俺は知らない。思い出がどのくらいすごいものなのか。だが他の普通の仲間はみんな言ってたよ。嫌な思い出もあるけどいい思い出は生きる糧になってるって」
穂香が持っていた腕時計を強く握る。
「だから、なっ?忘れるなんて言うな。引きずってもいいから持ち続けろ」
「…うん」
穂香が持っていた腕時計を腕に着ける。
レアの長さに調整してあったせいか、ぶかぶかだ。
調整をしてちょうどよくする。
「よし、じゃ、行くか」
「うん。でもどこに?」
「政府の建物にな。そこに行けば妹にも会えるだろうし」
「なら、長い距離歩くよね?テントとか置いてあった店知ってるよ?」
「そうか、なら案内してくれ。常に屋根がないところで野宿はつらいからな。あともう一つ」
「?」
「その…、やっぱ他人への迷惑だけは少し考えてくれ」
「…正影さん、かっこ悪い」
「うっ!」
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飯も食べ終わり、寝る態勢に入っていた。
「ちゃんと暖かくして寝ろよ?」
「風邪なんてひかないよ」
「いくら体が強くなってるからってひくときはひく。それが今だと困るからな。薬なんてないし」
「風邪は寝て治すものでしょ?薬なんてあるの?」
「いい意気込みだ。それならひきそうにないな。じゃ、電気消すぞ?」
懐中電灯を消しテント内が真っ暗になる。
と、2、3分くらいすると穂香が正影をつついてきた。
「どうした?」
「あの、正影さん。そっちの寝袋に入っていい?」
穂香は9歳だそうだ。
今までにぎやかだったのに突然投げ出された静かな世界。
怖いのも無理はない。
「ああ。いいぞ」
暗い中、正影の寝袋に入ってきた。
「えへへ。暖かいね」
「2人で寝てるんだからな」
「近いからって変なことしないでよ?」
「そんな趣味はないから安心しろ。ほら明日も早い。早く寝ろ」
「うん。おやすみ、正影さん…」
すぐに寝息を立てた。
真っ暗なのだが、近くに来れば顔くらいは見ることができる。
子供らしい、かわいい寝顔だ。
(こんな子が、オスと戦って、命を懸けてるんだよなぁ…)
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~出発の準備中~
テント等をそろえた頃、正影は1つのことを思い出した。
「そういえばレアに仲介者《メディアトール》になってくれとか言われてたな」
「聞いたことあるよ。私、強くなれるの?」
「そんなこと言ってたな。でもどうやるんだか…」
「レアさん、メモ帳みたいなの見て言ってたよ?」
鞄を探すとそれらしきものがあった。
「これか…」
ペラペラとめくってみる。
想ったより最初のページにそれらしきことが書いてあった。
いくつかやり方が書いてある。
1、特定の薬品を使用し性交を行う
「これはない。っていうか薬品って何?」
2、ツールによる媒介を利用した細胞交換
「…意味不明」
3、血液の交換
「これは…、いけるか?」
4、だ\に\\薬\\\換
「読めないな…。まぁ仕方ないか。出来るのは…血液の交換だな」
「それ、痛いの?」
「血、出さなきゃいけないから痛いだろうな」
「え~…」
「でもまぁ、生きるためだ。お前を守ってるといつか失敗しそうで怖い。逆にお前の力が上がるなら俺としてはありがたい」
「…は~い。で、どうするの?」
「これで少し切る」
持ってきたサバイバルナイフを取り出す。
「よりによって痛そう…」
「仕方ないだろ。これしかないんだから。ほら、腕出せ」
なんだかんだ言いながら腕を出す穂香。
ナイフを少し突き立てると簡単に血が出た。
「これを交換…、って俺はどうやってこれを取り入れればいいんだ?」
「舐めれば?」
「…それしかないか」
ナイフから落ちた一滴を舐める。
特に変化は感じない。
「…よくわかんねぇな?まぁ、まだお前が貰ってないもんな。ほら」
ナイフには穂香の血がついていたので爪で皮膚を切り指に血をつける。
「血っておいしくないよね…」
「これくらい味はしない。早く舐めろ」
穂香が指にかぶりつく。
舐めればいいのに根元までしっかりと。
「おい、そんなしなくても…」
すぐに口が離れる。
「まず~い…」
「そうか、で、どうだ?何か変わったか?」
「…わかんない」
え~…、駄目だった?
「そうか…。身体能力はどうなってる?」
「って言われても…。これ、殴ってみればわかるかな?」
「そうだな。そこらの建物殴ってみろ。以前のお前じゃちょっとしたヒビが限界―――」
穂香が殴った瞬間ベキン!と音がしてそこがへこむ。
「…」
おおふ…。
すげー変わってんじゃん。
「すごい!正影さん、見た?」
「ああ。これは想像以上だな。これなら俺も多少は楽になるはずだ」
「これでお荷物には―――」
と近くの建物内で商品が落ちる音がした。
「―――だれ!?」
穂香が手に銃を作り出す。
「…(驚き)」
正影には物音よりも、ロスにしかできないはずのことをやってのけた穂香のほうに注意がいっていた。
「…マジで想像以上だ」
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正影はテントの中で30分ほど穂香が寝た後も考えていた。
彼女は普通はできないことをやってのけた。
自分が体をある程度いじくりまわされるのは覚悟していた。
だが、彼女も同じくなるだろう。
最悪自分以上かもしれない。
(俺が…、守るしかないか)
研究機関の奴は女子供お構いなく、体を解剖し、実験し、結果を求める。
ある意味そのおかげで今が保てているのだろう。
最悪の結果である、人類滅亡が免れたのはそのおかげだ。
だが、正影は納得できない。
この時点で彼は「薄情者」なんかではないのだがそれに気づくことはなかった。
穂香の頭をなでる。
「絶対、守ってやるからな…」
守るべき存在が増えた瞬間だった。
読んでくれてありがとうございます。
お気に入り登録は1にもかかわらず定期的に?読んでくれている人はいるようでありがたい話です。
これからもよろしくです。