戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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最近ツナマヨおにぎりのおいしさを知った。
具材が外道だと手を出してこなかったが、コンビニのにぎりの中では安い方だし味も良かった。

友よ、いつだか外道だとばっさり切り捨ててスマン。


覚悟

倒れた家屋はとっくに見飽きていた。

物珍しさなんて微塵もない。

 

「せーのっ!」

 

悠人の掛け声と同時にその場にいる若人ががれきを力いっぱい持ち上げる。

中から赤ん坊の泣き声がしていた。

この赤ん坊、運がよかったらしくがれきの隙間で生存していたようだ。

大人なら間違いなくつぶされるであろう狭いスペースで。

 

その子の兄なのか、まだ幼い風貌が隠せない男の子が駆け寄って抱きかかえる。

安全が確保されたところでがれきを元に戻す。

 

「本当にありがとうございました」

「お礼はいいです。それより急いで避難を」

「って言ってもどこに逃げれば…?」

「……アルツェ内は危険ということしか分かりません」

 

プロディターが攻めてきた時の避難マニュアルなんて存在しない。

何もかも壊してゆくのだから。

どんなに強固なシェルターでも破壊し、どこに隠れてもいずれは探し当てる。

いや、探し当てるのではなく巻き添えを食らって死んでしまう。

 

「あと強いて言うなれば隣の区域のシェルターが壊れていなければ…」

「…分かりました、何とか探してみます」

「すみません、プロトという守る立場にいながら何もできず」

「何を言ってるんですか、貴方はこの子の恩人です。それだけで十分です」

 

誰も文句を垂れる人はいなかった。

深々と頭を下げると悠人以外の人が全員その場を去る。

 

「…最年長がこの様か」

 

自嘲気味に笑いながら呟く。

悠人だって分かっている。

全員を救えるわけがないということぐらい。

でもこれはどうか。

目の前の数人すら救えていないではないか。

家族だって避難させた後はほったらかし。

娘の泣きそうな顔を見たときは、そこに残ろうかとも考えた。

 

だが、やっぱりできない。

外では数多くの人が助けを求めているのだ。

プロトである自分がいかなくて誰が行くのかと鞭を入れた。

 

「……」

 

こんな風に余裕をこいていられるのも敵がいないから。

さっきまで探せばそれなりに見つけられたオゥステムたちもどういうわけがいなくなっていた。

全部倒し切ったと考えるのは油断になり、あまりよくないのだがそう考えるべきなのかと頭を悩ます。

そうやって考え込んでいたからだろう。

 

「……?」

 

音がする。

火が上がるとか、家屋が倒れるとかそういうのではない。

もっと多く、こちらに近づいているような…。

それなりに丈夫そうな建物を選び屋根の上に上がる。

住宅街であるが故、見晴らしがあまり良くなかったのだ。

 

高さに関してさしたる問題はない。

どれも背丈は大差ないのだから。

だからこそすぐに気づいてしまった。

 

「悠人さん!」

 

鈴が走りながらも悠人の存在に気づく。

槍を持ち、汗をかきながらもどこか気品が見え隠れするその走り。

しかし、その後ろでは

 

「…おおふ」

 

それなりの数のオゥステムが蠢ていた。

事情が呑み込めない悠人はどうするべきかと少し悩む。

 

本当はもっと悩んでいたかった。

 

腕を組んだその時、鈴の進行方向が悠人に変わる。

 

「は、いや、ちょ…」

 

分かっている。

やらなければならないのは。

だが、誰にだって土俵がある。

悠人の土俵は1対1になること。

相手が無駄に多ければアルマは使えないし(今は持っていない)、こちらが多くては出る幕はない。

 

討伐部隊の人間なのだ。

変わったアルマを持っている悠人のことくらい知っているはず。

っていうか名前を呼んでた。

 

「こ…」

 

悠人が出した答え。

 

「こっち来ないでー!」

 

逃走。

 

「え、ちょ、なんで逃げるんですのー?」

「貴方なら1人で相手にできるでしょう!こっちに面倒持ってこないでください!」

 

しかし、追ってきてるのはあくまでも討伐部隊といういわばエリートの人間。

足の速さの差など歴然である。

 

「1人で相手は面倒なんですの」

「おわ!?」

 

簡単に隣に付かれてしまった。

悠人に追いつくため速度を早めたせいか、オゥステムの群れとそれなりの距離が出てしまった。

だが、オゥステムの向かう先は一向に変わらない。

 

「大の大人が子供を置いていくのはどうかと思いますわよ?」

「よく言う、貴方のほうが強いくせに」

「強さの問題ではありませんわ、年の問題です」

「…まぁ、ここまで来たら無視はできないか」

 

ため息交じりに後ろを見る。

家屋を押し倒しながら、或は飛びながら追ってきている。

今別れても自分も対象に入っているだろうと踏んだ悠人。

逃げるのをやめオゥステムのほうを向く。

 

「準備はいいですわね?」

「まだと言っても待ってくれないんでしょう?」

「もちろんですわ」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「鈍い」

 

和人のかかとが美姫に直撃する。

腕で防御姿勢をとるがビリビリと腕が痺れる。

そこにとどまることは叶わず、蹴り飛ばされる。

 

ただでは終わらないと離れるその力を利用して手榴弾を投げる美姫。

 

「単調」

 

分かり切っていたかのように余裕をもちながらかわす和人。

地面に足をつけ一瞬和人から目を離してしまう美姫。

その一瞬で和人は美姫の予想だにしない攻撃をする。

 

「脆い」

 

すぐ近くで聞こえた声に反射的に腕で防御姿勢をとる美姫。

しかし、顔を上げた次の瞬間、和人の攻撃がそれでは防げないと判断する。

とっさに回避行動に出るが間に合わない。

 

腕に切り傷ができる。

決して深いものではない。

だが、気づくのが後一瞬遅ければもしかすると腕にナイフが刺さっていたかもしれない。

 

周りの気温は決して高いわけではない。

だが、おびただしい量の汗が出てくる。

緊張でここまで汗が出るなど初めての経験だった。

すっかり息も荒れ、深呼吸でもして整えなければと思うが思うようにいかない。

距離はある。

深呼吸をしてる間、別に目を閉じなければいけないわけではない。

だが、思考がそれを嫌がっていた。

 

もし深呼吸している間に近づいてくるようならまた距離を取ればいい。

別に和人は目で追えない速さを出しているわけではない。

単純な実力だけで比べるならおそらく2人に然したる差はない。

 

2人の間にある差、それは人を殺せるか否か。

 

プロトとはもともとオゥステム、謂わば人間の外敵を殺すために存在し、強くなる。

その力を人に向けるのは一部の例外のみである。

美姫はその例外には当てはまらない。

純粋にオゥステムを狩るためのみにその力を行使してきた。

 

「…お前、やる気あるのか?」

「………」

「ただ置物に用はない。さっさとどけ」

 

そんなことを言われても退けるわけがない。

任務のこともある、だが私情も含まれている。

 

「なんでよ…?」

「?」

「なんで簡単に人を殺せるの?」

「怖いのか?」

「少しはね、でもそれ以上にそういう精神を持ったあなたの心情に興味がある」

「そうだな…言うなれば―――」

 

そこまで言ったところで和人が走り出す。

美姫はすぐにアルマを構える。

スタンバトン、それもオゥステムを一時行動不能にできるほどの代物。

人が食らえばただで済むものではない。

 

対して和人が持っているのは先ほど取り出したナイフ一つ。

刃渡り10cmあるかないかの普遍的なナイフ。

もしかすると手榴弾を隠し持っているかもしれないがいざという時すぐに使えるわけではない。

何よりそれ単発なら美姫に当たることはまずないだろう。

 

重さはナイフのほうが軽いが、スタンバトンも動きに問題が出るほどの重さはない。

強度は2つとも十分。

両者ともそれぞれの武器は使い慣れている。

 

触れるだけで致命傷の武器とそうではない武器。

どちらが有利なのかは一目瞭然のはずだった。

 

「慣れ、だな」

 

だが、腕が鈍る。

美姫の腕が。

たとえ敵といえども人である以上、今から自分のしようとしていることは人殺し。

それが頭をよぎり、実力を出し切れない。

 

「まただ」

 

その言葉に無理やり腕を振るおうとするが遅い。

あっさりと受け流された。

足を少しばかり細かく動かすだけで何にもあたることなく。

 

無理に腕を動かした美姫のバランスは崩れている。

その崩れはおそらく1秒なくとも立ちなおせるもの。

だが、2人の間では命とり。

和人のナイフは美姫の目を狙う。

視界に入るのだ、何もしなくても。

下手をすれば即死してしまうその攻撃に対して測るべきダメージなんてない。

スタンバトンを握っていない左手でナイフをつかむ。

手から血が滴り落ちるが相手を捕まえることもでき一石二鳥だ、そう思っていた。

 

「!?」

 

激痛と同時に視界が歪む。

視界というよりは頭の中をかき回されたかのような感覚。

軽い脳震盪を起こしているのは間違いないだろう。

 

痛む頭をおさえながら和人を見ようとするがすでに彼は動いていた。

後手に回ってばかりなのは自覚している。

だが、決心がつかない。

更に今回は頭を揺らされたせいで正常な判断がままならなかった。

形だけの防御姿勢すら許されず腹に強い一撃が入る。

 

バウンドなしで3mは跳ばされる。

 

「対人戦の経験がない奴はこれだ。得物を持ってればそっちに集中が行って素手での攻撃の可能性をほとんど考えない」

 

激痛とはっきりしない意識のため、何を言っているのか理解するのに数秒要した。

無理やり肺から押し出された空気が胸を締め付ける。

息を吸うと今度は吐き気に襲われ手で口を押える。

ギリギリ抑え込むことはできたが口の中に嫌な味や臭いらしきものが残る。

 

「悪いが時間がない、だから選べ。これ以上俺の邪魔をせず賢明な判断をして逃げおおせるか、勇敢に俺に立ち向かってあの世を見るか」

 

そう言いながらも和人は正影に歩み寄る。

 

なぜ時間がないのか、もしかすればそこにこいつを出し抜くためのカギがあるのではないか。

正常になりつつある頭で考えるがおそらくそれも無理な話だろう。

仮にそこにカギがあったとしてどうやって時間を稼ぐのか。

話して?いや、時間がないといった者がそれに乗るとは思えない。

いったん撤退して?いや、そんなことすればそもそもの目的である「正影を守る」を達成できなくなる。

なら戦って?………可能性はある。

決して不可能ではない。

実力差はほとんどない。

あるのは人を殺す覚悟のみ。

 

 

正影は別に大切な人というわけではない。

おそらく大した好感も持たれてはいないだろう。

そして美姫自身も別に正影に惚れているわけではない。

どちらかというといいルックスを持っているし、性格も悪くない。

付き合えるなら悪くはないだろうという話。

 

それでもここにとどまる理由の中には私情も含まれているように思えた。

なぜだかわからない、美姫自身も。

実はどこかで今までにないほど惚れているのか、それとも穂香という存在が何かしら関係しているのか、それ以外か。

 

美姫は立ち上がりスタンバトンを構える。

頭はまだ嫌がっている。

だが、守らなければならないものがある。

引くことは許されない、いや許せない。

戦意のある美姫を感じ取ったのか、和人が歩みを止める。

 

「勇敢なバカだったというわけか…」

 

しかし、その言葉に呆れるような雰囲気はなくため息すらしない。

 

和人が振り返ると同時に美姫が動いた。

先手必勝といえるほど距離は狭くなかった。

和人には十分以上に構える時間があった。

 

距離が一歩、また一歩と近づいていくうちに美姫に緊張が走る。

自分から近づいているのだから自分がその足を止めればいい話。

だが、止めるつもりはなかった。

 

「ああああああああ!」

 

雄たけびをあげながら和人に跳びかかった。

しかし、和人は

 

「単調」

 

今度の言葉には呆れが入っていた。

軽々とかわした和人のナイフが容赦なく襲い掛かる。

 

いくら素人といえども同じ手は2度も通用しない。

今度は容赦ないナイフによる攻撃。

跳びかかるというトチ狂った行動をした美姫に避ける時間はない。

即死しないように体をひねるのがやっとだろう。

だが、美姫の顔には明らかな余裕があった。

もしその顔を和人が見ていたならば攻撃を躊躇していたのかもしれない。

 

美姫の脇腹に容赦なくナイフが突き刺さる。

心臓を狙ったつもりが狙いを大幅にずらしてしまったと舌を打つ和人。

こんなにうまく避けられてはまるでその行動を予想していたようでは………

 

「つ、かまえた」

 

ナイフを握っている和人の手に美姫の手が掴みかかる。

ヒットアンドアウェイ、これなら和人の予想の範疇内だった。

だが、自分の体を犠牲にしたこの行動は予測できなかった。

何より素手で自分の腕を掴んでいるという事実。

ただのナイフならまだしも人なら即死させられるほどの威力を持つスタンバトン。

それで和人を殺ってしまえば美姫も感電死ではないか。

激痛に少しばかり顔を歪めているが、希望が見つかったとそれ以上に笑っている美姫。

 

和人の手を握るその力は捕まえるだけならば十分な力が発揮されていた。

けがをしながらどこからそんな力が、と焦る和人に容赦するつもりはない。

 

「貴様…!」

 

素手で手をつないでいるのならば自分も死ぬ。

ならば確実に殺る場合、相手に当てる必要はない。

少し、死ぬことにためらいはあるが無様に逃げ帰るよりはましだ。

 

「じゃ、あの世で」

 

チェックメイトを宣言した美姫。

自分も死ぬ以上チェックメイトとは言いずらいかもしれない。

だが、自分よりある意味各上の人間に勝ったのだ。

十分だろう。

しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然鳴り響く銃声。

 

 

2人は何が起きたかわからなかった。

ただ分かることはまだ生きているということ。

 

「ぐ…」

 

美姫の手から力が抜け、和人が離れる。

和人は腕に空いた風穴を抑えている。

離れながらも周りを警戒しているところから彼の作戦内のことではないということがうかがえる。

一方美姫は…

 

「…??」

 

服の中に手を入れ、直に肌を触る。

すべすべしていた肌にヌチャッと何かしら液体がついている。

生暖かい。

手にその感覚が広がる。

しかし、その手を確認する時間は彼女に残されていなかった。

口の中に血の味が広がった。

それを最後に彼女の意識は途絶えた。




正影「俺の台詞、なくなってからどれくらい経った?」

作者「……………すみません」

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