有言実行できる気もしないしどうしたらいいんでしょう…?
「お母さんも、お父さんも、お兄ちゃんも、みんないなくなったのに…これ以上、いやだ…」
「何言ってるの、一番あの子たちを知っているのはあなたでしょ?あなたが信じないで誰が―――」
その時、シェルターの開く音がした。
そこにいたのは皆がよく知る人物。
「嬉々、藍!」
開いたシェルターから入ってきたのは2人。
真理奈が2人に駆け寄る。
「よかった!」
真理奈が嬉々に抱き着く。
前のように力を入れすぎるなんてことはなく、骨が折れるようなことはない。
遠目から蓮も嬉々の無事を確認できてホッとした。
「リリィ、どうよ!生きて帰ってきたわよ!」
真理奈の言葉に横目で2人を見る。
手は明季たちと連絡を取るため通信機を調整をしていた。
そしてみんなが帰還を喜んでいる中、リリィは確証はないが理解していた。
隣では梓も何も言わず藍に抱き着く。
今の今までずっとまた失うのを心配していた梓。
これほど嬉しいことはないだろう。
しかし、2人の顔は浮かばなかった。
「2人とも、エニスは見なかったの?」
真理奈の問いかけにピクッと反応する。
「さっきあなたたちを探しに行くって言ってどこか行っちゃったのよ」
「2人がここにいるなら、エニスは1人。今度は私たちが…」
「聞こえるか?………………………チャンネル間違ったか?」
丁度、リリィが調整を終えて明季たちと連絡を取り始める。
嬉々と藍は黙ったままである。
「真理奈、ちょっといいか?」
そこに横から蓮が入ってくる。
「……………蓮」
「生きててくれて本当によかった」
蓮は活き活きしているが嬉々には相変わらず喜びの感情が見えない。
それほど疲れ切っているのかと、ぼろぼろの姿を見て無力な自分を責める。
「藍、アルマは…?」
梓もおそらく蓮と同じことを思った。
疲れているのだと。
美嘉の話通りならばプロディターと一戦交えてきたのだ。
それでもおかしくはないだろう。
「アルマ犠牲にして生きて帰ってこれたなら儲けものよ、梓」
「そうだね…、でも藍はもう戦えないから私1人で―――」
「また命を捨てるのか?」
リリィが近づきながら梓に問いかける。
手にあった通信機はすでに見当たらず、ラグフィートが明季と話しているのがわかる。
梓はリリィの問いかけに顔をしかめた。
「藍は帰ってきたわ。エニスも無駄な戦闘は避けてるはず…」
「ああ、帰ってきたな。こればかりは予想外だったよ。だけどお前らこの状況にあてられて視野が狭まってるぞ」
「どういう意味よ?」
「そこまで暗い顔した2人がただ疲れているだけなのか?」
その言葉に全員がハッとして改めて嬉々と藍を見る。
誰にでも分かる。
プロディターから命からがら生還してきたのだ。
それなのに喜びなんて少しも見えない。
ただ疲れているだけではないなんて客観的に見れば一目瞭然。
その場にいる全員が事実から目を背けていたのだ。
「嘘……………でしょ?」
梓の顔から血の気が消えてゆく。
梓に次の問いを投げかける必要などなかった。
藍の足から力が抜け落ち、そのまま地面に崩れる。
そしてただ泣いた。
嬉々もそれにつれられるかのように声を押し殺そうとしながらも嗚咽が出る。
「嘘…………嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!」
言葉で否定する梓だが藍はそれを否定しない。
ただ泣くだけ。
「腹に一太刀入れられて…後は分からない」
「死んだところを見たわけじゃないんでしょ!?なら…!」
「分断されたとき、エニスはプロディターと一緒だった…」
「…!」
嬉々からの言葉が未だに信じられない。
何か悪い夢でも見ているかのようだ。
梓の体からも力が抜け、その場に崩れ落ちる。
「…あの」
後ろから青羽が話しかけてきた。
遠慮がちなのは言うまでもない。
「10分以内に正影たちが到着するわよ。それまでみんなここで待機、戦える人はプロディターの襲撃にあってももちこたえられるように各自準備しておいて」
「正兄は?」
「無事だよ、あまり状態は芳しくないみたいだけど」
ここでもし、エニスも生きていたら彼らは素直に喜んだだろう。
だが、そんなこと今はできない。
大事な人が死んでしまった。
そんな状況では1人の生存が確認されても素直に喜ぶことはできない。
「梓、つらいことを言うようだけどいつでも動けるように準備して、今戦えるのはあなたを含めて4人なの。しかもそのうち3人が疲労している、万全なのはあなただけよ」
「エニスは…死んでない」
「………………」
青羽が梓に手を伸ばす。
しかし、その手は梓をつかまずただ落ちているだけの彼女のアルマをつかんだ。
一応プロトではあるが訓練をせず、事務仕事に没頭していた青羽にとっては少しばかり重い装備。
それを持ち上げる。
「蓮」
「?」
「ないよりはマシなはずだよ」
蓮にガトリングを渡す。
持ちあげてみた蓮だが、見た目ほど重いものではないらしい(彼にとっては)。
「でも、青羽さん…」
「私たちプロトが使っているのはロストチルドレンとは違って専用の武器じゃないよ、支給された武器」
「…………」
「本当なら藍か梓に使ってもらいたいけどこの状態じゃ無理。使い勝手が違うのは目に見えてると思うけどもしもの時はお願いだよ」
「……分かった」
蓮には頷くほか選択肢はなかった。
彼の手元にアルマはない。
あるのならばたとえ使い慣れてなくても装備する。
それしかプロディターと戦うすべはない。
嬉々を死なせないためにも1人でも多く戦闘員がほしいのだ。
最も、使い慣れていないせいで力を発揮できず、死んでしまっては本末転倒もいいところだが。
藍と梓を休ませようと真理奈が彼らを移動させる。
「正兄…」
誰にも聞こえないほどの声量。
でも確かに彼女はそう言った。
「助けて、正兄…」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
強い風が吹き荒れる中、幾人かの人がヘリから降りてきていた。
「状況は!?」
「分かりません、5分ほど前から音信不通です」
「急いだほうがいいわね…」
目の前で煙を上げるアルツェを見ながら明季は言う。
彼女の手には新品同然とでもいえるほど綺麗な鎌があった。
刃の部分から手で持つ部分まですべてが綺麗に手入れされている。
血なんてどこにもついておらず、損傷も見当たらない。
戦いで使っているのかと問いたくなるほどである。
「美姫、鈴。あなたたちは安全が確認できるまでそこで正影の護衛を、ヘリは自由に使って。穂香は私たちと来なさい」
「なんで?」
「今のあなたは真理奈と繋がってる、その腕力は必要になるわ。それとね…」
鎌が上空を指す。
その先に目をやると視界に入ったのは羽をもったオゥステム。
大きさからみれば大したものではないが、見た目は蝶だろうか。
足が8本見えるが。
「私の鎌はアルツェ内では扱いずらいのよ、通路が狭いところもあるからね。美姫はスタンバトンを持ってるけど手榴弾を使われちゃたまったものじゃないわ、鈴も槍だから私と同じ。本来なら恭二1人で十分なんだけど今は仲介者《メディアトール》を持っていないただのプロト、正直保険がほしいの」
「アルツェ内にオスの侵入もありえますかね?」
「大型は無理だろうけど小型は油断ならないわ。1匹2匹なら問題はないけれど」
「一般市民は?」
「…悪いけど今は手を回せるほど人手はないの。後回しね」
「了解です…」
何か言い返したかった恭二だが、明季の言っていることは正論に他ならない。
勿論一般市民から見れば違うかもしれない。
だが、プロトとして、討伐部隊の隊長としてみれば正論。
彼らの役目は人を助けることではなく、敵を倒すこと。
人助けは優先されないのだ。
「行くわよ」
そのあとに言葉はなかった。
3人がアルツェの入口に向かって走ってゆく。
地上にある家は大体5割だろうか。
倒壊、半壊が見当たる。
人が生き埋めになっているのか助けを呼ぶ声がする。
何に殺られたのか胸を貫かれて横たわっている人もいる。
いつもの穂香なら間違いなく助けに行っただろう。
だがすべて明季に止められる。
その時、穂香は納得がいかないといらだちを感じるよりも、明季の意見に同意していた。
彼女にだって守りたいものはある。
人の命を秤にかけるのは嫌いだ。
だが、赤の他人と知り合いまたは家族、助けるならだれを選ぶか。
走って1分、ほとんど障害などなく建物の入り口にたどり着く。
いつもなら立っている警備員も当たり前ながらいない。
それどころか入り口にはぽっかりと穴が開き、誰の侵入さえも許していた。
「自分の身は自分で守るように」
「心得てますよ」
「私はパパのためにもまだ死なないもん」
「…なら行くわよ」
3人は戦場へと足を踏み入れた。
1週間以上空いたのに文字数が今までで一番少ないかもしれない…。
区切りよくするためです、勘弁です…。
これからもよろしくです。