戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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時間が経つのが早いな…。
遅くなってしまったよ、投稿が。


1人

シェルター。

中には40、50人ほどの人が身を寄せ合っている。

残念ながらいるのはほとんどがプロトか職員。

一般市民は別のシェルターに入っていることを祈るしかない。

 

そんな中そわそわと動き回る1人の男性。

名前を蓮という。

彼は心配している。

自分のことではなく、嬉々のことでだ。

幸い仲介者(メディアトール)になっていたおかげで生きているということはわかる。

だが、それだけでそれ以上のことはわからない。

あともう一つ言えることがあるとすれば瀕死の状態ではないということぐらいだろうか。

 

「蓮、もう少しスマートになったらどうだい?」

「…そんなにそわそわしてるように見えるか?」

「一目瞭然だよ」

 

太郎がこらえきれずにとうとう言った。

別に気持ちがわからないわけでもない。

自分のメディアトールがどういう状況かわからないのだ。

メディアトールとは、その人にとって最愛の人であったり大切な家族で会ったり、親友であったりと何かしら意味を持っていることが大半。

彼らはこれを自分の強さを向上させるというより、常にお互いを感じあうために使っていることが多い。

嬉々はどう思って蓮のメディアトールになったかは知らないが、蓮は嬉々が好きなはずだ。

しかし、支給武器(アルマ)すら持たずに外に出たって何もできることはないだろう。

プロディターに見つかれば即死が免れない上に、蓮が死ねば嬉々も死ぬのだ。

まだここにとどまっているだけよしとでもいうべきかもしれない。

 

「彼女はアルマを所持しているのだろう?ならば信用するべきではないか?」

「リリィはそう言ってたが…」

 

ついさっき、リムたちがシェルターにたどり着いていた。

リリィ曰はく、美嘉と行動しているようだが2人の力をもってしてもぶつかり合えば逃げるのが最善策。

というよりそれ以外選択肢はない。

他にも聞きたいことがあったがリリィは適当に蓮をあしらってしまった。

今は何を考えているのか少し離れたところで1人座り込んでいる。

 

「心配するなという方が無理がある」

「それは否定しないが、もっとジェントルマンのように…」

 

そこに訪問者が現れる。

シェルターの扉がプシッと空気が漏れる音を立てて開く。

全員の目が入り口にくぎ付けになる。

そこから入ってきたのは………………美嘉だった。

 

「ここは…天国?」

「美嘉!」

 

先に駆け寄ったのは真理奈だった。

美嘉の手から引きずっていた斧が零れ落ちる。

 

「生きて…ここまで帰ってこれるとはね」

「ボロボロじゃない!一体どうしたの!?それに嬉々は?」

「嬉々は、今は藍と行動してると思う」

「藍、生きてるの…!?」

「でも状況は最悪よ」

 

ボロボロの体に鞭を打つ。

まだここで休んではいけないと。

 

「最悪とはどういうことだ?」

「司令…、敵は、プロディターは2体侵入しています」

「…!」

「そのうちの1体に追い掛け回されまして…そのせいで嬉々たちとはぐれてしまいました」

「司令」

「事態は最悪ということだな…。どうにかして外と連絡を取りたいものだが」

 

シェルターにだってもちろんその設備はある。

だが、こういう時に限って機能しなかった。

外での攻撃で何かがおかしくなったと考えるのが妥当だが最悪だろう。

 

美嘉の目がある1人に向く。

そうなることを予期していたかのようにリリィは美嘉を見ていた。

あからさまに嫌な顔をしている。

 

「リリィ、持ってるなら今出せばお咎めなし。もしかすると英雄かもよ?」

「…一体どこからその情報は持ってくるんだ?」

「じゃああるのね?」

 

しぶしぶ隠していた通信機を取り出す。

青羽は「なんでそんなものを…」と驚いているがラグフィートは驚くというより、いいものを見つけた子供の目になっている。

すぐに電波の周波数を合わせ始めるリリィ。

 

「私が伝えられる情報はこれくらいです」

「ご苦労だった、とりあえず今は休んでてくれ」

 

ラグフィートと青羽がその場を離れる。

代わりに梓や蓮が近づいてくる。

 

「…蓮はシェルターにいたのね。嬉々が探してたわよ」

「嬉々は無事なんだな?」

「最後に見たときは怪我という怪我はしてなかったわ、それに藍も一緒だった」

「藍は…無事…?」

「一応、ただアルマを失ってたわ」

 

息をのむ梓。

 

「大丈夫よ、梓。エニスも向かったんだから、きっとすぐに帰ってくるわ」

「もう、失いたくない…」

「………」

「お母さんも、お父さんも、お兄ちゃんも、みんないなくなったのに…これ以上、いやだ…」

「何言ってるの、一番あの子たちを知っているのはあなたでしょ?あなたが信じないで誰が―――」

 

その時、シェルターの開く音がした。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「エニス、なんで…」

 

突然の出来事に頭がついていかない藍。

死んだと思う間もなかったのだが、危険だったのはあの一瞬でも理解はできた。

だが確かに逃がしたはずのエニスがいることは理解できない。

 

「なんでって、あんなに大きな音でドンパチやってたらまずそっちに向かうわよ」

「そうじゃない!みんなとシェルターに逃げたんじゃないの!?」

「みんなもうシェルターに着いてるわ。だから私が助けに来たの」

「だからって…」

「2人とも、話はあとよ!それより逃げるわよ!」

 

何か言い合っている暇なんてない。

プロディターはただ頭を強く打っただけ。

そんなの傷でも何でもない。

すでに臨戦態勢に入っているのが伺える。

 

2人の反応を伺う前に嬉々は手榴弾を構える。

それに反応した藍がすぐにエニスを連れてその場を走り出す。

エニスは突然引っ張ってきた藍の行動に疑問符を浮かべながらも一緒に走る。

と、後ろから爆音が響く。

その行動にエニスがギョッと驚く。

 

「あの距離であんなことしたら自殺行為よ!?」

「ああでもしなくちゃ私たちはもう生きてないもの!」

「黙って走って!」

 

走って逃げる3人。

今回は当たり所が良かったのか相手が爆発の後動きを見せない。

距離が離れていけば今戦っている敵は攻撃を行えない。

 

夢中で走り続ける3人。

どのくらい時間が経ったのかなんてわからない。

だが、後ろに敵の姿はすでに見当たらなかった。

 

「…撒いた?」

「そう…みたいね」

 

藍がエニスの方に顔を向ける。

エニスは何を言われるのかと思った。

だが、エニスの方を向いた藍の顔は泣いていた。

 

「なんで…なんで…!」

「……藍」

「私が囮になるって言ったのに、信じてくれるって…」

「……………………」

 

エニスは黙ったまま藍を抱き寄せる。

その行動に抑えがきかなくなったのか藍の目から涙が溢れ出る。

 

「1人だけ怖い思いさせてごめんね」

「怖かったよぉ………」

 

嬉々ではダメなのだ。

藍にとって最も大事なのはエニスと梓。

彼女が心から許せる相手はエニスと梓のみ。

嬉々も大事な友人の1人であるが違う。

三姉妹といわれるほどよく一緒に行動する3人。

この代わりは誰にも務めることはできないのだ。

 

「帰ろう、梓も待ってる」

「うん」

 

プロディターは撒いた。

ならばシェルターにいくのを妨害する敵はいない。

崩れてどこだかわからない通路を慎重に歩き、自分たちの居場所を理解しようとする。

 

「ここは…」

 

突如、開けた場所に出た。

自動販売機や、電子掲示板が並ぶ。

そしてその部屋の一番の特徴である広いカウンター。

任務を受注する部屋だと3人は知る。

 

しばしの間、3人は思わず立ち止まってしまった。

今まで賑わっていたこの部屋。

だが、今は違う。

無残にも壊された自動販売機。

ガラスの破片となった電子掲示板。

カウンターの中で隠れていたのか3、4体見える死体。

立ち込める悪臭。

自分たちの日常が1時間も経たないうちに簡単に壊されていた。

 

「…急ごう」

 

嬉々の呼びかけに我を取り戻す2人。

嬉々の家族は生まれた時から正影のみだ。

初めてプロディターが現れ人々があらゆる物を失った時、彼女はプロトとしての育成を受けていた。

一般人と違って失ったものなどほとんどなかった。

 

今、嬉々の頭の中はシェルターに逃げること、それしかなかった。

他のことを考える容量はすでになく、正直心身ともに参っていた。

 

仕方ないのかもしれない。

だが、それは命取りになるということすら頭から離れていた。

いや、おそらく警戒していても結果は変わらなかった。

だが自分を責める。

 

突如地面が崩れる。

何の前触れもなかった。

 

「「「!?」」」

 

驚く3人の目に入ったのはプロディター。

まだ諦めてなどいなかったのだ。

地面に足が着く前にプロディターが動いていた。

プロディターの刃が腹をきれいに引き裂く。

 

「ガハッ…!」

「エニス!」

 

完璧に油断していたエニスにそれを止める手立てなどなかった。

地面に足をつけるとエニスがうずくまる。

嬉々はその時、確かに口角が上がっているプロディターを見た。

 

「しっかりして!」

「しくじっちゃった…」

 

腹を抑えても出血は収まらない。

傷が深いのが伺える。

 

「藍、エニスを連れて―――」

 

プロディターは休む間など与えない。

3人に跳びかかる、が標的はエニスではなかった。

嬉々が刀で攻撃を防ぐ。

 

「なん、で…?」

 

お前は後ででいいとでも言わんばかりにエニスを無視する。

藍は嬉々の手助けに入ろうとするがプロディターと嬉々の距離が離れない。

手榴弾は使えない上にハンドガンでは嬉々に恐怖を与えてしまう。

かといって素手で向かえば即死。

 

「藍、エニスを連れて逃げて!」

「馬鹿言わないでよ!そんなことできるわけないでしょ!?」

「最良の選択よ!いいからさっさとこの場を離れて!エニスもいつまで―――」

 

言葉を遮るようにプロディターの刀に力が入る。

だが、そこまで聞ければ十分だった。

藍も理解している。

エニスはこのまま放っておけばあまり長くはもたない。

だが、嬉々を放っていくわけにも…

 

「どうしたら…!」

「藍…あなた、だけでも…」

「エニスまで何言ってるの!?絶対に嫌よ!」

「…なら」

「なら?」

「う…」

 

ゆっくりと起き上がるエニス。

腹から勢いよく出血するが気にしない。

止めようとするエニスをよそにガトリングをがれきを使って固定する。

 

「藍、言うとおりに…お願い」

「何する気?」

「あいつを、生き埋めに、してやるわ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「この…!」

 

嬉々が力いっぱい押し返そうとするが全然刃がたたない。

嬉々も焦りを感じ始めていた。

 

エニスたちも逃げずに何かやっていてイラつきさえ感じる。

そんな時に嬉々の耳に声が聞こえた。

 

「あああああああああ!」

 

藍がハンドガンを構えて走ってくる。

声にプロディターも反応する。

これでは殺してくださいと言っているようなものだ。

 

「避けて!」

 

そして意味深な発言をする藍。

嬉々には何を言っているかわからない。

プロディターは標的を藍に変えていた。

避けてと言いたいのは嬉々の方だったのだが…。

藍が突如スライディングの形で姿勢を低くする。

その後ろには引き金に手をかけたエニスがいる。

 

「ば…!」

 

何をしたいのか理解した嬉々は急いで横へ体を避ける。

プロディターにも何がしたいのか分かったのだろう。

わずかだが動きが鈍ったのが分かった、が勢いよく飛び出したプロディターに避けるすべはない。

ガトリングが火を噴く。

人が抱えているのではなくがれきに固定されているのが幸いしてかプロディターの体から照準が外れない。

 

「ギギギギギギギギッゴゴィィィィィィ!?」

 

叫び声をあげながら藍を飛び越えエニスに跳びかかる。

いや、エニスのすぐ近くで火を噴いているガトリングに。

 

危ないと察知したエニスが体を無理に動かしガトリングから離れる。

引き金にはすでに細工がしてあり、手で引く必要性はない。

エニスが避けるとプロディターがガトリングを突き飛ばした。

それだけ脅威ということだったのかもしれない。

 

そして突き飛ばされたガトリングはなおも火を噴き続ける。

宙を舞うガトリングがあらゆるところを誰だろうと関係なく撃ち続ける。

全員が意味もないにもかかわらずうずくまり頭の上に手をのせる。

そしてガトリングが地面に落ちる。

落ちたガトリングは上を向いていた。

開いた天井のさらに上の天井にそれが直撃する。

 

崩れてくる天井。

それに気づいたときにはすでに遅かった。

 

「エニス!」

 

藍と嬉々、エニスが1人の状態で分断される。

固定されたガトリングは撃つのをやめない。

そうしている間にも完全に分断されてしまった。

まだそれだけなら気を付けながらもがれきを飛び越えればよかったかもしれない。

 

だが、ガトリングの角度が徐々に変化する。

嬉々たちが立っている位置の真上。

そこにガトリングの弾が直撃する。

生きるためにも選択の余地はなかった。

 

「藍、こっち!」

 

とどまろうとする藍を嬉々が無理やり引っ張る。

ギリギリのところで通路に逃げ込んだ。

だが、それと同時に通路の出口も完全にふさがれる。

 

「エニス、エニス!返事して!」

 

だが距離が長い。

奥の音など一切聞こえなかった。

 

「いや…、エニス!エニス!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「…うまく、いったみたい…ね」

 

エニスがガトリングの隣に座り込む。

すでに弾は尽きていたため、撃とうとガトリングの回っている音だけしかしない。

ガトリングの角度を微調整するため腹に力を入れていたので出血がひどくなっていた。

限界なんて自分がよくわかっている。

 

少し離れたところで何かが起き上がる。

プロディターだ。

恨めしそうに崩れたがれきの山のほうを向いている。

目も口も今は見当たらなかったのにエニスには分かった。

 

「ざまぁ、みやがれ、ね」

 

プロディターがゆっくり歩く。

エニスに手が残ってないことを見透かしているかのように。

 

「藍、梓…」

 

走馬燈というやつだろう。

あらゆる物が頭の中をかける。

生きたい、だけど不思議と怖くはなかった。

 

「楽しかったわよ…」

 

エニスの視界が暗くなった。


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