戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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9月…上旬ってまだ夏ですよね?

近くの家の人が栗を家の前で干してました。
おいしい栗が食べたいなぁ。


最強~内~
逃走と追跡


「プロディターが攻めてくるぅ?」

 

しかめながら嬉々がリリィに聞き返す。

まだ襲撃に合う前、嬉々がリリィにアルマを持ち出した理由を聞いていた。

 

「断言はできない。けど俺ならそうする」

「…無理無理。リリィ、あなたの話はすべて推測ばかりで正直理解できる人なんていないわ。大体誰よ、そのリレグって人は?」

「これだから馬鹿は…。美嘉は知ってるよな?」

「リレグ・アルステッド。10年ぐらい前までオスの研究者たちの中でもかなり上の方だったはずだけど死んだって聞いたわ」

「…1年前にあることがあった」

 

周りには3人のほかに以前からリリィと知り合いだった人が、少しピリピリしながら警戒している。

といってもここはリリィの部屋であり、他に入ってくる人などいないだろう。

しいて言うなら穂香が訪ねてきてもおかしくないが今はいない。

 

「俺の元いたアルツェでな、スパイが見つかったんだ」

「スパイ?」

「珍しい話じゃないけどな。でな、文字通り拷問ってやつをしてどこのやつか吐かせようとしたんだよ」

「知ってどうするのよ?」

「なにもしないさ。ただ、一応やっておく。それだけ」

「…表はあんなにきれいなアルツェだったのにね」

「で、いつも通り拷問してたらリレグの下についてるってやつが出てきたもんだ。馬鹿にしてるのかと思ってあの時俺キレたぜ」

 

「あの時のお前怖かったなー」と警戒している人が茶々を入れる。

 

「でな、俺たちのアルツェが襲われたあの日、またスパイを見つけたんだよ。逃げる直前だったのか荷物まとめてたな。まぁ、来ると分かってたらそりゃ逃げるか」

「何か言ってたの?」

「逃げるのに必死だったからか簡単に話したよ。ロストチルドレンとか、リレグとかプロディターとか。詳しく聞こうと思ったところでアルツェがオシャカだ。スキ突かれて逃げられるし見つけた時にはもう死んでたし踏んだり蹴ったりだったな」

「…仮にそれが本当だとしてもおかしいわ」

 

黙って聞いていた嬉々が口を開く。

 

「プロディターは正兄を狙ってるんでしょ?なら今ここに攻めてきても正兄はいない」

「話ではプロディターはリレグが操ってるそうだ。で、リレグってのは用心深かったらしい。基本は自分で考えないって聞いたが」

「それが何よ?」

「今この周辺で一番近いアルツェは?」

「33番のアルツェがここから400キロ…あっ!」

「今ここが襲われたら俺たち逃げる場所がないんだよ」

 

争い合っていることも多々あるが、手をとり合っていることがあるのも事実。

何かあったら近くのアルツェに応援を求めるのが普通。

だが、そのアルツェがいるのははるか先。

たとえ今応援要請をしても来るのは何時間も先。

 

「ここが潰れれば正影は帰る場所を失う。休む場所がなければいずれ疲弊しきってるところを煮るなり焼くなりするのは簡単なことだ。時間はかかるがプロディターがいれば確実だな」

「でも…リレグって人は一体何のために?」

「んなこと俺が知るわけないだろ。だが、俺の日常を奪ったツケを―――」

 

突如爆発音と主に建物が揺れる。

非常ベルが鳴り、危機感を煽らせる。

リリィたちは予想通りの状況だったので動じることはない。

 

『通達します。現在プロディターによる襲撃を受けています。戦闘員は指示が出次第戦えるよう、準備をしてください。非戦闘員は地下シェルターへの避難ブツッ』

 

オペレーターの指示が終わる前に回線が切れる。

すでにそこまで攻め込んできているのだ。

リリィが武器を持ち立ち上がる。

 

「どうするの?」

「戦える準備はしたがもともと時間がなかったからな、作戦なんてない」

 

部屋の扉にノック音が聞こえた。

リリィが立ち上がり迷うことなく扉を開ける。

扉の前にいたのは一人の男。

大きなカバンを持ち運んでいる。

リリィは会話することなくそれを受け取ると美嘉に投げる。

 

「これは?」

「お前らのアルマだ。お前のは斧型だから持ち出すのは苦労したみたいだぜ」

 

鞄の中から出てくる刀と斧。

施設内で武器を持つのは初めてかもしれない。

 

「後はお前らの好きにしろ、と言いたいところだが美嘉。穂香を知らないか?」

「穂香ちゃんがいないの?」

「そうか…知らないか。ならいい」

 

そう言うと部屋を出ていく。

残った嬉々と美嘉はどうしたらいいかわからずただ武器を握っている。

力はあっても何に向けて使ったらいいかわからない。

プロディター相手では殺される。

でも敵はプロディターのみ。

 

先に動いたのは嬉々だった。

 

「どうするの?」

「私は諦めたくない。まだ、やりたいことがある」

「武器持って逃げるっていうこと?」

「助けに行く、みんなを」

 

美嘉は驚かなかった。

返ってくる答えがわかっていたから。

あえて意地悪を言ってみたのだ。

 

「ここで逃げたら後悔する。それに…」

「それに?」

「蓮を助けないと私も死ぬじゃない!」

 

突然の必死な形相に美嘉が驚く。

美嘉にはいないが嬉々にはメディアトールである蓮がいる。

しかも蓮がA.

Aが死ねばBも死ぬ。

 

「美嘉」

「分かってるわよ。私としてもリリィだけに穂香ちゃんを任せておくのは心配だわ」

「じゃあ行くわよ、慎重にね」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「しっかりして!」

「う……ぅぅ……」

 

真理奈ががれきをどかして人を助け出している。

他にそんな救助活動をしている人なんていない。

沢山のコンピュータやモニターが並んでたはずのこの部屋。

まだ使えそうなのもいくつかあるがモニターが並んでいた壁の真ん中が大きく抉られそこから一直線に物がすべて消えている。

すでにプロディターは去った後なのか部屋を出る方向にも穴が見え、見るも無残な死体がいくつも転がっている。

 

ここには完璧な戦闘員なんておらず、一回がれきに埋もれてしまえば外に一人で出ることは不可能。

真理奈ががれきに一度埋もれた時もかすり傷程度で済んだのは奇跡としか言いようがない。

 

「誰か生きてますか!?」

 

そこにプロトを連れたリムがやってくる。

 

「リム?こっちよ!」

「真理奈さん、無事でしたか」

「早くして、埋まってる人がいるのよ!」

「す、すみません。みなさん、お願いします」

(あずさ)、あなたは見張りを。私と(あい)で他を手伝うわよ」

 

ガトリングを持った3人がそれぞれの行動に出る。

真理奈が1人でがれきをヒョイヒョイどける中、2人が唸りながら他をどける。

 

「リム、他はどうなってるの?」

「アルツェ内の職員たちはそれなりに。でも外や地下の民間人は…」

「アルマは行き渡ってるの?」

「この3人はたまたまです。任務に行く直前だったらしくて」

「はぁ、プロディターに攻められたアルツェが成すすべなく陥落していく理由がわかるわ」

 

やがて埋まっている状態で生きている人がいなくなる。

大抵の人は潰れて血が一面に広がった状態。

崩れたがれき等の臭いのおかげでその生臭いにおいはしない。

 

「リム、肩を貸してあげて。男見せなさいよ」

「力仕事があれだったからこっちに就職したんですけどね」

 

リムが2人、真理奈が足が潰れた人を1人、エニスが2人と5人を運ぶ。

シェルターへの道は分かっている。

いつも歩いている廊下を出来る限り早く走りながらそこを目指す。

しかし

 

「ここも…!」

 

梓を先頭に進む中、廊下は崩れたがれきによって進めなくなっていたりしている。

ガトリング使えば何とかなるかもしれないが時間がかかる以上、どかすよりなら違う道を選ぶべきだ。

だが時には道の開拓も必要である。

 

「少し離れてて…!」

 

きれいな壁に向かってガトリングを打ち込む。

使いまわしがきくちゃっちいものではなく、本物。

きれいな壁に穴が開き、粉々になった壁屑が宙を舞う。

 

「急い―――」

 

突如、後ろに熱気が走る。

自分たちのほうに向かって放たれたものではない。

光の柱のごとくそれは垂直に少しの間延びる。

通ってきた道の床に穴が開いている。

そんな攻撃方法を持っている奴はこのアルツェには存在しない。

 

「嘘…」

 

光り輝く物体が穴から延びる。

それは手の形をしていた。

次に出てきたのは丸い形をした輝く物体。

つまり頭。

這いつくばるようにして穴から這い出て起き上がる。

体中から噴き出る汗。

 

「走るわよ!」

 

真理奈の一喝で全員の止まっていた体が動き出す。

まともに戦っても勝てる敵ではない。

ならば逃げるしかないのだ。

梓を先頭に開けた穴から走り出す。

全員が開けた通路に入った刹那、さっきまでいた通路に熱気が走る。

 

「梓!」

「分かってる…!」

 

プロディターが後ろから追いかけてくる以上、シェルターには向かえない。

一緒に来られてはシェルターの意味がない。

だがそれ以上の問題を梓が見る。

リムとエニスが肩を貸している4人の存在。

真理奈の場合、1人を抱えるのだから多少スピードは下がるとはいえ走れる。

だが、肩を貸していては走るなんて無理だ。

かといってここで置いていくわけにもいかない。

 

「藍?」

 

エニスの呼びかけに全員が止まる。

 

「先行ってて」

「何言ってんのよ?勝てるわけないでしょ!」

「今戦えるのは私と梓だけ、後ろを任されているのは私なんだから当然よ。それにこのままじゃ逃げ切れない」

「それは…」

「1人なら身軽なんだからうまくやるわ。1分くらいひきつけたらすぐ身を隠すわよ」

「…絶対ですよ?」

「リム!?」

「藍さんを説得するには時間が足りません。このまま止まって話しててはすぐに―――」

 

何かが壁に衝突する。

自分たちが通ってきた通路から飛んできた物体。

ならば正体なんて明白。

 

「行って!」

「………絶対帰ってきなさいよ!」

 

走ってその場を藍以外が後にする。

それを確認すると藍はガトリングを構える。

不用意な攻撃は相手をどう刺激するかわからない。

今はただ構えるだけ。

壁に衝突した物体が壁から剥がれる。

体中が輝く人型の物体。

その物体が腕を使わず仰向けから足の力のみで立ち上がる。

 

立ち上がったプロディターを見て藍が疑問を抱く。

おかしかった。

確かに。

 

「(なんか―――)」

 

しかし、考える時間なんてない。

プロディターが突進してきた。

このまま進ませてはもしかするとみんなのほうに行くかもしれない。

つまりよけることは出来ない。

 

藍はガトリングの引き金を引いた。




美姫


支給武器(アルマ)があるにもかかわらず滅多に使わない変わり物。
使ってるところを見た人が少ないため、中にはプロトじゃないのではと思っている者もいる。
アルマはスタンバトン。
穂香ほどではないがあてることができれば相手の動きを止めることもできる優れもの。
昔はアルマで戦っていたのだが、威力が低いため大きな相手では戦力になるのが難しかったので爆弾系統を使うことが多くなっていった。

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