戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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最凶~外~
始まりの前


音がする。

ヘリの音。

扉は締まっているが完璧には防音にしきれない。

 

「よかったんですか?」

 

同乗している恭二が尋ねてきた。

 

「何がだ?」

「穂香にも、嬉々さんにすら何も言わずに出てきて」

 

今、正影の乗っているこのヘリはオクォロス討伐に向かっている。

アルツェから80キロと少し遠め場所に向かっているため、乗っている時間は長い。

眠って過ごそうかとも考えたが相手が相手なので眠れなかった。

 

 

 

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「今回の作戦はここで行うわ」

 

ヘリに乗り込む数時間前、外はまだ暗い。

ある部屋でミーティングを行っていた。

作戦内容の確認は重要なことだ。

 

「そこは?」

「使えなくなった地下都市と言ったところかしら。このアルツェができる前まで使われていた所ね」

「できるまで?その上に要塞を建てればいいんじゃないのか?」

「オスの大量発生地帯に近かったからよ。できる限り離れたかったのでしょうね」

 

人が500~1000人は住めるであろう思ったよりは大きな都市になっている。

それでも今のアルツェと比べればはるかに小さいのだが。

 

「まず何故この都市を使ったのか説明するわ。それはこの都市の壁がすべて対オゥステム使用になっているからよ」

「すべて…?」

「無駄に豪華よね。多少はがれているところは昨日のうちに補修したわ」

「仕事が早いな」

「ここは後に使えるだろうということでできる限りきれいにはしていたの。もしもの避難所としても使えるしやれることは常にやってたの」

 

避難所としても使えるであろう場所をオクォロス討伐のために使うとはなんとも残念な話である。

 

「ここにオクォロスを引きずり込む。それからあとは正影に戦ってもらいながらE-23を食べさせる」

「それは使うしかないのか?」

「愚問ね。貴方にオクォロスを倒せるほどの実力があるの?」

「単純な力勝負なら負けない」

「相性があるわ。確かにうまく誘導が成功すれば相手は身を隠すことができなくなる。それを踏まえても貴方の刀一本では無理でしょうね」

「ロストチルドレンの力をなめてもらっては―――」

「オクォロスの強度は異常なの。凪の時は斬りつけることができたみたいだけどあの後、このアルツェが何もしないと思う?ヘリであらゆる手を尽くしたらしいわ、兵器の出し惜しみなしでね」

 

正影の心配をするということは結果など聞くまでもないのだろう。

すべて失敗。

それに傷1つつけることができなかったに違いない。

 

「司令は倒せると思っているみたいだけど…、あの人らしくもないわね。貴方が2人いれば倒せるかもしれないけど」

「…まぁ、どちらでも構わない。俺がやられた時はE-23を爆発させるんだろ?」

「オクォロスを殺せればいい…、結果がすべてってことね。嫌いじゃないけど怖くも感じるわ」

「俺の命なんて所詮そんなものだ。俺の命と2人の命、秤にかけるまでもない」

「…………貴方のほうが有効性は遥かにあるのだけど」

 

これに関しては議論しても意味はないと明季はすぐに話すのをやめる。

 

「本当はもっと使い道がない民間人とかを使いたいっていうのが本音なんだけどね。そんなことすれば何を言われたかわかったもんじゃないわ」

「だから可能性があるように見える俺が選ばれたってわけか」

「本当は誘導もやってもらうつもりだったんだけどこっちで何とかなりそうだから必要なし。となれば貴方に頼むことはあとはないわね。ともかく戦うこと、それくらいよ」

「オクォロスが身を隠せないって言ってたが、壁の硬度はどれくらいなんだ?」

「…ダイアモンド以上」

「サラッとすごいこと言ったな」

 

適当なこと言ったのは間違いないがかなりの硬度と考えていいようだ。

 

「ほかに聞きたいこと…はないわね」

「ああ、俺はただ戦えばいいんだろ?」

「じゃ、この会議は解散よ。後の数時間、有意義に過ごしなさい」

「…と言うと?」

「穂香と嬉々とあなたで3―――」

「黙れ」

 

 

 

 

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「こういうのは言わないで出たほうがいい」

「残された嬉々さんの気持ちはどうなりますか?」

「帰ってくると言った」

「口では何とも言えますからね」

 

そう言われると何も言えず顔をそらす正影。

正影は他の人にはばれていないだろうと思っているのだが近くにいた明季や恭二などにはばれている。

穂香や嬉々だって同様だ。

 

「正影、これを渡しておくわ」

 

明季が1つの球体を渡してきた。

手のひらよりは大きい。

 

「これが…」

「E-23よ」

 

見た目はただの鉄球。

だが、中身は正影では理解できないほどの破壊力を持つ兵器。

耳元で振ってみるが音はしない。

 

「よほど強い衝撃を与えない限りは爆発しないから安心しなさい。口に入れた後はこっちで操作するから問題ないわね?」

「ああ。だが、1つ最後に確認したい」

「核を使った後の放射能等は問題ないわ。爆発させる場所は地下都市、そして対オゥステムの壁とはいえ壁があるのに変わりはないわ。十分抑えられる」

「…何度もすまないな」

「あなた、生きてればおそらくいい父親になったでしょうね」

 

正影と恭二の顔が驚きに包まれる。

明季はそれを見て怪訝な顔をする。

 

「…これでも世間の目は気にしてるつもりよ」

「それを踏まえてもお前がそんなこと言うとは思わなかった」

「私ってどう思われてるのかしら?」

「エスパーだろ?考えくらい見えるに決まってる」

「私が相手の質問を先に理解できるのは言動を注意深く見ているからよ。頭の中は見えないわ」

 

分かってはいたのだが言われると思わず「へーそうなんだ」と思う。

 

『みなさん、そろそろです』

 

リムからの通信が入る。

全員の空気が張り詰める。

 

「オクォロスの状況は?」

『すでに囲い込みは成功しています。正影さんが到着する5分ほど前には指定位置に誘導完了できるはずです』

「分かったわ。何か問題があったらできるだけ早く報告して」

『はい』

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あら、嬉々おはよう。そんなに急いでどう―――」

「美嘉、正兄知らない!?」

 

食堂で美嘉を見つけて掴みかかるようにして尋ねる。

美嘉は少し「おおお!??」と焦ったが理由が分かれば納得できる。

嬉々が取り乱した理由など明白なのだ。

 

「知ってるんでしょ?教えてよ!」

「…嬉々、正影さんはもう出て行ったわ」

「…嘘でしょ?」

「ここで嘘をついてなんのメリットがあるの?」

「でも…正兄は私には何も!」

「それでも行ってしまったのは事実よ」

 

それを聞くと嬉々の手から力が抜ける。

足からも力が抜けたのが座り込んでしまった。

 

「嬉々、大丈夫!?」

「…またいなくなった。今回も…、生きて帰る、って言ってたけど…きっとあれは」

 

嬉々の言葉がとぎれとぎれになる。

帰ってきてまだ半年どころか3ヶ月過ぎたばかりだ。

まだ話したいことだって山ほどある。

まだ一緒にやりたいことだって山ほどある。

まだ、全然足りていない。

 

「嬉々、しっかりしなさい!正影さんはプロディターを退けたロスなのよ?オクォロスなんてどうってことないわ」

「…前言ってたの。正兄が特化しているのは刀を振るスピード、力でも体の丈夫さでもない。要は手数なの。以前、正兄はオーロワームと対峙したときに斬りつけたそうよ。結果、斬りおとすことができなかったどころか相手には逃げる気力すらあった。相性の問題よ」

「………」

「それが進化して現れた。これじゃ…本当に正兄は…!」

「進化が正影さんにとっていい方向に向かったっていう可能性も―――」

「奇跡は何度も起きるものじゃない!」

 

まだ早朝だったというのが幸いして人の影は少なかった。

荒らげた声にその場にいる全員が嬉々を見る。

誰も見たことがない嬉々の困惑と泣きじゃくりに驚く。

だが、誰も近づいてこようとはしない。

 

「タイムスリップなんて未だに信じられない。でもそれで説明がつくし別に構わない、正兄が戻ってきてくれたんだから。けどそんな奇跡は何度も起きるわけがない!美嘉、あなたは作戦内容も知ってるんでしょ?それを聞いた時どう思った?生きて帰れると思った?」

「……可能性はあるわ」

「5%?それとも10%?違うでしょ、1%もないと思ったんじゃないの?これで正兄が死んじゃったら…私は!」

「いい加減にして!」

 

今度は美嘉が声を荒らげる。

 

「貴方は正影さんの何?妹でしょ!あなたが信じないでどうするの!?なんでそんな簡単なこともわからないの」

「信じたい、信じたいわよ。でも心配が勝ってしまうのは当り前よ!」

「…穂香ちゃんは信じてたわよ?」

「……」

「嬉々、あなたも穂香ちゃんと同じくらい正影さんを大事に想ってるでしょ。黙って待っているのが嫌なのなら、あなたはあなたができることをしなさい」

「できる、こと?」

 

今この状況でできることなどないではないはずだった。

正影の手助けをするには圧倒的に力が足りてないし、そもそもそこまで行けない。

 

「私だって心配よ。でも何もできない、強いて言うならパニックをできる限り避けることが私にできること。だからこうやって普通に過ごしてるわ。でも、黙っているのが嫌でそこまで力になりたいっていうのなら…リリィを探してみなさい」

「…なんでリリィ?」

「私としては普通に過ごすこと、それが手助けにつながるって言いたいところなんだけどね。リリィが何か動いているみたいだから」

「リリィが…」

「ただし、できることをするのよ。それ以上のことは絶対にダメだからね?」

 

何をしているのかまでは分からないので何とも言えないが嬉々はすぐに決断した。

もう黙って待っているのは嫌だ。

私も何かしたい。

 

残っていた涙をふき取り顔が赤い中立ち上がる。

 

「私、行くわ」

「あなたには笑っててもらわなくちゃ私が困るのよ。前以上に」

「?」

「あなたが落ち込んでると正影さんの八つ当たりを受けて殺されるわ」

「私が落ち込んだ原因は正兄が二度と戻ってこなくなるかもしれないからで、戻ってきたら治るんだけど…」

「それに正影さんの機嫌はできる限り損ねるわけにはいかないわ!そして穂香ちゃんの近くに…」

「どうやっても無理だと思うんだけど…、じゃあ私行くわ」

 

美嘉には感謝してもしきれない。

いつもいい方向に嬉々を助けてくれる。

情報屋は情報がたくさん入る。

無駄な情報だって数多い。

だが、美嘉はそれを選別し嬉々に合った情報をくれて元気づけてくれる。

変態と思われがちだが、中身は本当にいい人なのだ。

 

「美嘉」

「?」

「ありがとう、いつも」

 

嬉々は走ってその場を去った。




これを書いてて思った。
もしかして50話でうまく収められるかな?と。

だけどこの変な自信は絶対に悪い方向へ進むんだろうなぁ…。

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