戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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長い間お待たせしました。
ようやく面倒ごとも終わり8月は…

上の人「あっ、8月下旬も大変になるかも」

作「…」

あの野郎…。


糸口

「準備はできているか?」

「いつでも問題ありません」

 

リレグの問いにフラテッドが答える。

隣では黙った状態で和人もいる。

 

「これほどのチャンスもなかなかないはずだ。何としてもロスを捕らえてこい」

「「はい」」

 

それだけ聞くとリレグはその場を後にした。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

病室。

窓はあるが外の光景は決していいものではない。

そんな病室に凪は寝ていた。

 

「申し訳ないです。負けたにもかかわらず、生き長らえるなんて」

「貴方に問題点はなかったわ。責めることなんてない」

「未来ある若造が死にました」

「貴方だってまだ19よ。その若造に入ると思うのだけど?」

「こんな悲観的な人を残すよりなら希望ある者を残すべきです」

 

自嘲気味に話した。

明季と恭二、正影が来ている。

残念ながらお見舞いなんてものではない。

 

「ならその残された希望ある者を残すためにも貴方の力を貸してちょうだい」

「…そうですね」

 

左腕のあった部分を右手で撫でる。

この状態では戦うのは辛いだろう。

腕一本なくなうだけで戦闘力は大きく減少する。

それを分かっているのか少し悲しげな顔をしていた凪が話し出す。

 

「1つ、弱点らしきものができていた」

「それは?」

「響閃爆弾《フラッシュバン》」

「…?」

 

正影は聞いたことのない武器の名前に「?」を浮かべる。

 

「閃光爆弾《スタングレネード》の改良版みたいなものよ」

 

明季が正影の疑問を感じ取ったのか答える。

 

「光で目をくらますだけじゃなく、耳も潰すの」

「オーロワームには効かなかったのか?」

「試したけど、目は潰せたけど耳は一切効いてなかったわ。今回はその点はどういうわけか退化してるみたいね」

 

正影は単体で十分な強さを誇る。

支給される手榴弾などは使わないのだ。

だからこういう武器には疎い。

 

「腕があいつの牙に引っかかってね、しばらく口の真ん前でぶらぶらしてたんです。そしたら幸運にも…いや、不幸にも響閃爆弾の栓がとれちゃいまして…。それを極端に嫌がっていました。まぁ、その時振り回されて左腕と別れてしまったんですけど」

「どのくらいの間反応してたのかしら?」

「…10秒程度です。そのあとの後遺症はどのくらいかはわかりませんが」

「後遺症?」

「腕を持って行かれたんです。黙ってなんていられませんでした。途中で意識が途切れましたけどしばらくのたうち回っていた、にもかかわらずあいつは戻ってきませんでした」

 

確かにそれなら生きているのも納得がいく。

根こそぎ食い尽くすはずのオーロワーム。

それはオクォロスになったとしても変わらないだろう。

それでも逃がしてしまったのは単に察知できなかったから。

 

「意識はどのくらいあったか覚えてる?」

「…30秒持たなかったと思います。確実ではありませんが」

「それなら合点はいくかもしれないわね。他には?」

 

少し黙って考えたが凪に思い当たる節はなかった。

首を横に振り「すみません」と言う。

 

「ありがたい情報ではあるけれど…足りないわね」

「…支給武器《アルマ》は有効でしたか?」

 

おもむろに恭二が口を開く。

 

「斬りつけることはできた。けど、食べられたな」

「外からは有効なの?」

「そういうことだと思います。中はおそらく効かないと思いますが」

「…なら私たちも戦えるかもしれないわね」

 

そう言いながら正影と恭二を見る。

どちらとも聞きたいことは特にないらしく、首を横に振った。

 

明季はそれを確認すると1回だけ頭を下げ、その場を後にした。

恭二も黙ってついていき、凪と正影の2人だけになる。

薄情だなと思うところだが、戦える人が増えるというのは戦闘を進める上で手を増やすことができるチャンスだ。

一刻も早く、作戦を練り直すべきだと思ったのだろう。

それでも挨拶する時間ぐらいあるとは思うのだが。

 

「久しぶりの顔合わせだというのに見苦しい姿でしたね、すみません」

「いや、生きて帰ってこれたんだ。まずはそれを喜べ」

「…素直には喜び難いですけどね、職も失ったようなものですし」

 

確かに、腕を1本失ったというのは辛いものがあるだろう。

彼の戦闘復帰はもともとの戦闘力が高くない限り難しい。

監督をやっていたのだからそれなりではあるのだろうが正影は凪が戦っているところを見たことがない。

 

「…正影さん、オクォロス?でしたか。それに討伐作戦に参加するんですよね?」

「そうだな」

「かたき討ち、お願いします」

 

上半身だけとはいえ、頭を下げる。

正影に断る理由なんてない。

 

「あくまでついでになるがな。任せろ」

 

なんのついでなのかぐらい凪にも分かった。

「さすがロリコン」と思いながら思わず吹いた。

 

正影はそれを気にせず立ち上がる。

彼とて時間があるわけではない。

明日が決戦の時なのだ。

 

「じゃ、俺もこれで」

 

迷わない足取りで出口に向かう。

病室を出る直前、凪に言われた。

 

「正影さん、死を覚悟しないで下さいよ?」

「…」

 

何も答えることがないまま、正影はその病室を離れていった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ったく、このアルツェは面倒ごとが多いな」

「そんなこと言ってないでこれ手伝ってよ」

「はいはい、上官殿よ」

「よしよし」

 

満足気に穂香が頷く。

面倒だと言ったのはリリィだ。

 

穂香はよくリリィにかまっている。

理由としてあげられるのは後輩ができたと思っているからだ。

他にも2、3人いるのだが、昇格試験の時に話せたこともあり、リリィのみ話すことがあるようになった。

皮肉は言うし、民間人の命なんてどうでもいいと思っている人なので正影や嬉々はあまり好きではないのだが子供だからということもあるのだろう。

穂香はどういうわけかお気に入りの後輩として接している。

 

リリィは思う。

この子は本当にロスのメディアトールなのかと。

未だにロスが存在するなんて信じがたい話だが目の前で見せつけられた以上、疑う余地などどこにもない。

だが、こんな子供をメディアトールに選ぶなど何を考えているのかわからない問いのが率直な感想だった。

 

「リリィ、穂香。あとどのくらいで運搬終わりそう?」

 

上の階から真理奈が話しかける。

両手にはプロトでも無理であろう量の荷物が高く積み上げられている。

それを涼しい顔で運んでいるもんだから大したものである。

 

「まだかかると思う。真理奈さんはまだ終わらないの?」

「1人だと大変だったけどこれで最後よ。終わったらそっち行くからもうちょっと待ってて」

 

そう言うと軽い足取りでその場を後にする真理奈。

 

「ほらリリィも負けないで!せっせと働いていればもう終わるころなんだよ?」

「人手が足りてないなら使えない民間人でも動員すればいいだろうに」

「大人の事情って言ってたよ?」

「…そうだな。お子様には分からないことだろうし」

「こらー、私先輩だよ!敬語とか使ってよ」

 

ピョンピョンと跳ねながら講義するがリリィから見れば周りを飛ぶハエに過ぎない。

少しは面倒であるが無視はできるレベルなのだ。

面倒なのに気に入られたなとため息をつく。

 

「そんなことやってるから遅くなるんですよ、上官殿」

「あっ、敬語使った!その調子だよ、後輩君」

「ケッ」

 

これならまだ表向きに「お前嫌い」オーラを出してもらったほうが接しやすい。

いや、接さなくてすむから楽だ。

資材を指定された場所に運ぶ。

あと4,5往復もすれば終わるだろうが、距離が長い。

その間にも穂香は「好きな食べ物は?」とか「どんな武器使ってるの?」などと話しかけてくる。

 

分からない。

 

「…なんでお前、そんなに話しかけてくるんだ?」

「だって後輩だよ?先輩は後輩をいじるのが楽しいの―――」

「そうじゃない。俺はあからさまに嫌がってるつもりなんだけどな」

「そうなの?でもいいよ、楽しいもん」

 

即答された答えに眉を顰める。

お前嫌いと言っている奴相手に話して楽しい?

 

「お前の経歴はあらかた聞いている。それを聞く限りは俺みたいなメリットデメリットを人の命にまで反映する奴は嫌いだと思うが?」

「…確かにリリィの直すべき点はそこだと思うよ。なら私がそれを直させればいい、そう思っただけだよ。それに初めての後輩。山あり谷ありは当然!」

「…やっぱりわけわからねぇ」

 

頭を掻きながら慣れないこの感じに対応しようとはする。

 

「ねぇリリィ。肩車してよ」

「嫌だ」

「先輩命令!」

「職権乱用」

「いいじゃん!やってくれる人、パパと美嘉さん以外いないんだよ」

「重いからか」

「疲れるから!」

 

資材が置いてあるところまで戻ってきたので再び持ち上げる。

面倒くさいとは思いつつも運ぶ。

 

「リリィって女の子みたいな名前なのにデリカシーないの?」

「名前で人は決まらねぇよ。覚えとけ、餓鬼」

「だから、私は貴方の先―――」

 

「穂香、ちょっといいかしら?」

 

運んでいると明季がいつの間にかいた。

少し驚きながらも穂香は動じない。

 

「明季さん、どうしたの?」

「貴方に用があるの。来てもらえるかしら?」

「パパが関係あるの?」

「大いにね」

 

「分かった」と言ってすぐにでもついていきたいところだが仕事がある。

え~と…と悩んだが、特にいい案は浮かばない。

ゴトンと、資材を置きリリィに任せることにした。

 

「悪いわねリリィ。仕事の人手がただでさえ少ないのに」

「いいえ、問題ありません。力持ちも終わり次第来るとのことですし」

「助かるわ。穂香、行くわよ」

「はーい」

 

2人がその場を離れていく。

リリィも仕事を終わらせようと資材を運び始める。

それと同時に穂香が大声を出して言った。

 

「次は私にも敬語使ってよー?」

 

どうせ使う機会なんてなくなるに決まってると思いながらそれを聞き流した。

どうせ正影は死ぬ。

そう思っている。

作戦内容は聞いてないがどうせ自殺願望があるキチガイしか参加できないようなものだとは分かっている。

現にリリィが運んだ資材はどういうものかは知らないが外に運ばれているようだ。

いつオクォロスに気づかれてもおかしくないというのに。

ここの人間は意味が分からないと幾度となく思った。

自分が助かるために動く、それならわかる。

だがこれでは自分は死にに行っているようなものでしかない。

 

リリィは資材を置きながら思う。

自分が手伝っているのも死ぬ可能性が極めて低いから。

外に行ってこいなんて言われたらそれを命令した上司を蹴り飛ばしている。

 

穂香がいなくなったので仕事が増えたな、と面倒に思いながらも資材を運びに戻ろうとする。

 

「お疲れ様」

 

後ろに資材を運んでいる真理奈がいた。

その手にはいつ見てもおかしいと思えるほどの量の資材が乗っかっている。

 

「これで全部よ」

「…ありがとうございます」

 

ズシン…と音を鳴らしながら資材を置く。

「ふぅ」と言いながら手を払うその姿は全然疲れていなかった。

オペレーターより現場の方が向いているなと勝手に思う。

 

「…ねぇ、リリィ。なんであなたはそんなに悲観的なの?」

「突然ですね。…まぁ、言うなればそうすることが生きることにつながるからです」

「でも、あそこまで表に出すことないんじゃない?人との関係も大切だと思うけど?」

「本当の自分を知らずについてきた人間なんていずれソリが合わなくなります。それなら最初から共感できる人間といるべきです」

「…否定はしきれないけど」

 

口に手を当て少し考える真理奈。

その間にもリリィは仕事を終えたので部屋に戻ろうとする。

 

「それで人生楽しい?」

 

真理奈が思っていたことだった。

リリィという存在を見た時から。

 

リリィも足を止める。

 

「死ぬのが怖い、じゃダメですか?」

「人生楽しくなきゃ損だと思うわ」

「…満喫してますよ、ある程度は」

「もし、楽しく過ごしたいって思うなら穂香ちゃんと接してみてよ。もうしばらく」

「なんであんな餓鬼と?」

「子供の力ってやつよ」

 

「それじゃ」とそれだけ言うと一方的に話を切り、反対方向にいなくなってしまった。

別にリリィもそれを止めることはなかった。

さっさと帰って寝たかった。

 

だが、真理奈の最後の言葉が頭の中に残った。

さっき、穂香と話をしていた時面倒だとは思っていたがどこか嫌な感じはしなかった…のかもしれない。

「何を考えているんだ俺は」と、頭を掻く。

ただの戯言だと言い聞かせる。

どうせそれを確認できる機会も二度とないと。

 

さっき敬語を使う機会がなくなると思った理由は、正影が死ねばあいつはおそらくあの感じを保ってられないだろうと思ったからだ。

だがさっきの今ではあるが、それは変わった。

正影以外でもおそらく落ち込むだろう。

知り合いが多く死ぬに決まっている。

だが、そのおかげで俺はおそらく生き残れる。

今、このアルツェは全神経をオクォロスに向けている。

それが故に死人が出るのだろうと思う。

死ぬ可能性を少しでも潰したいリリィだからこそ考え付いたことだ。

 

「…チッ」

 

思わず舌を打った。

自分らしくないと思ったからだ。

早足で自分の部屋に戻る。

そして机の引き出しから携帯(通信機)を取り出す。

アルツェ内での通信は禁止されていた。

遠くの人と連絡を取るなら本来は部屋の端末を使うしかない。

なのに通信機を持っていた。

 

「……おう、俺だ。頼みたいことがある」




恭二



武器は腕と手を覆う装甲。
基本的に拳で戦い、真理奈のメディアトールであるからこその力を存分に発揮している。
常に明季の下で動いている。
数少ない長い間このアルツェで生きている男の1人である。
実は彼1人では討伐部隊に入れる実力がなく、真理奈がメディアトールであるのがとてもでかい。

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