戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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暑い…。
やっぱり扇風機じゃ辛いんでしょうか?

でもまだ夏はこれからで扇風機は辛いとなると本当に今年は大変そうだなぁ…。


事実は闇に

「正兄、おはよう」

「ああ…」

 

朝の食堂。

いつも通りの活気。

いつも通りの食事。

いつも通りの会話。

だが、一部の人にはどことなく元気がないのがわかった。

 

「正兄…、元気ないね。風邪?」

「そんなところだ」

 

余計な心配をさせまいと嘘をつく。

上からも言うなと言われているのでそれもある。

嬉々はいつも通り隣に座る。

 

当然の判断だったと思う。

迅速な対応により情報は今のところ漏れているように見えない。

だがそれもいつまで続くかなんて分からない。

知っている人は数多いはずだ。

正影たち6人他、オペレーターの大半が知っている。

いつ漏れてもおかしくないだろう。

 

「穂香ちゃんは?」

「…昨日の試験の疲れが出てまだ部屋で休んでる」

「風邪?2人そろって」

「そういうこともある」

 

穂香は恐怖の象徴ともいえるべき敵を目の前にしてまいってしまった。

自分が未熟だったころとはいえ、本当に正影と死を覚悟したこともある敵。

 

穂香にとって正影は簡単に言えば正義のヒーロー。

つまり何でもできる最強な味方。

それにさえ恐怖を感じさせる相手だ。

 

最近は1人でベッドに入って眠っていたのに昨日は正影のベッドに何も言わず入ってきた。

震えているのがよくわかった。

 

「B定食朝食バージョンおまちどうさま」

 

美嘉が嬉々がカードを読み込ませてから1分。

早い段階で頼んだ物を持ってくる。

 

美嘉が来ると正影はつい反応してしまう。

だが、今回は穂香が好きな美嘉に対してではない。

このアルツェの中で一番の情報屋である美嘉に対してだ。

 

たいてい美嘉の持っている情報はどうでもいいものが多い。

アルツェ内の女子のスリーサイズ。

男子も女子も含めた好きな人。

後はまぁ、給料制の職員それぞれの給料だったり人それぞれの恥ずかしい経歴だったり。

 

だが持ってくる情報の中にはたまに「それは知ってたらやばいだろう」という情報もあったりする。

上層部のみが知るパスワード。

秘密裏に運搬している物資。

 

黒い部分も知っている。

 

「…あの、正影さん。私の顔に何かついてます?」

「ん?…ああ、すまない」

「正影さんが私に謝った…!」

 

ちょっとした驚きを覚えながら美嘉が震える。

 

この様子からすればおそらく知らないのだろう。

もし知っていればこんなことどうでもよく思うはずだ。

さすがに昨日のことを知ることはできないかとホッとする。

無駄な緊張で乾いた喉をいやそうと水を飲もうとする。

 

しかし、やはり情報屋だった。

 

「そういえば正影さん、昨日から上の人たちが騒がしいんだけど…、何か知らない?」

 

思わず口に運ぼうとしていたコップが止まる。

しかし、それは一瞬。

気づかれまいと平常運転を装う。

 

「俺は昨日昇格試験の監督をしていたんだぞ?しかもそのあとすぐに救援要請に応じた。上のことなんて知るわけないだろ」

「でも知ってるわ。その応援要請は同じ昇格試験の第3班からでしょ?そして全滅してた」

「…そうだ」

「でも入ってきたのはそれだけ。その人たちの遺体が運ばれてないどころか、現場だって今は立ち入り禁止。おかしいと思う」

 

…確かにそれだけ情報があればおかしいと思うだろう。

だが、今美嘉が言った簡単な情報さえ規制されているはずなのになぜ美嘉は知っているのか?

 

「…そう言われてもな」

「正影さん、見たんでしょ?」

「凄惨な現場だったよ。血の海とでもいうべきものができてた。遺体がないのは食われたからだろう」

「全員死んでたの?」

「遺体はなかったからな。そこまでは分からない」

「血以外何もなかったの?」

「…ああ」

 

オゥステムは人を食べる。

それは襲われない限り襲ってこないミークでさえ、人を食べる。

だから正影はこの言い訳で通用すると思った。

 

これ以上話したくないし思い出したくもない。

そう思い、朝食を残し立ち上がる。

 

「美嘉、悪いが片づけといてもらえるか」

「まだ残ってるけど…」

「今日は気分がすぐれなくてな。悪いな」

 

誰にでも分かるような作り笑顔をしてその場を去る。

 

残った嬉々と美嘉。

嬉々は特に異変を感じていた。

正影は人だ。

人は笑う。

でもあそこまであからさまに笑顔を出されると作っているのは明白なのだ。

 

「嬉々は何があったと思う?」

「…分からない。ただ恐ろしいことがあったんじゃないかっていうことぐらいしか」

「おそらく死体がないのは食べられたからで間違いないと思う。おそらく敵があれなのかしら?何もなかったなんてありえないこと言って」

「アルマ《支給武器》がなきゃおかしいなんて正兄は知らないよ。正兄の前で死んだプロトはいないんだから」

 

今の時代では当たり前のように渡される武器。

それがアルマ。

プロトに自分専用の武器を生成する力はないのでアルツェが支給しているのだ。

昔はなかった代物。

特徴としてはロスの武器には劣るがオゥステムのアクリス細胞に最も有効な成分が含まれているらしい。

 

そんなオゥステムにとって危険なものをオゥステムは食べるだろうか?

否、オゥステムはそれは食べずに吐き出す。

つまり現場には残っていなければおかしいのだ。

案外わかりそうなことだが見落としがちなこれ。

正影はこの時代に来て目の前で人が殺されたことがない。

だから知らないのだ。

 

「正兄ならすぐに気づくと思ったけど…、よほど憔悴してるみたい」

「正影さん、プロディター相手に余裕かましてたんだよね?それ以上の敵ってことかな…」

「あれより上がいるの?」

「少し考えにくい話だけど。…ああ、もうなんかモヤモヤする!」

 

いくら考えても出ない答えに美嘉が頭を掻く。

 

出るはずがないのだ。

常識だったことが変わってしまったのだから。

 

「リムなら知ってるはずよね?」

「美嘉、忘れたの?オペレーターは昨日から全員モニタールームで缶詰め状態よ」

「ぐぬぬぬ…」

 

だんだん手が潰されていく美嘉。

 

残っているのは上の情報へのアクセス。

入ってるとは限らないし、危険な綱渡りでもある。

でも諦められない。

なぜなら私は情報屋だから!

 

「思考駄々漏れよ」

「…失礼」

 

「美嘉ぁ!なにサボってんだ!給料減らすぞ!?」

 

少し離れたところからがたいのいい男が美嘉を呼ぶ。

彼女は今仕事中なのだ。

 

「親父さん、それ困ります!じゃ、嬉々また後で」

 

そう言うと美嘉の返事も待たずにさっさとその場を後にする。

嬉々もそのことに関しては特に何も思わず食事をとる。

 

「(正兄…、心配だなぁ)」

 

美嘉と話したことを思い出す。

彼女の推測は案外あたるものだが、今回は推測すらなかった。

これは違う、という消去だけ。

何か予想外のことが起こっているのかと口にご飯を含みながら考える。

 

何か調べようにも嬉々にその手段は分からない。

できるのはせいぜい聞き込みぐらいだろう。

 

「(美嘉ってすごいわよね。なんか上の人しか持っていないはずのパスコード持ってるし。まぁその分、危険にもさらされてるけど)」

 

さっきも上にアクセスするとか言ってた。

危険って自覚はあるみたいだけど…、時間が経てばいつかは知ることができるはずなのに。

まぁ、後でとも言ってたし早く知ることには文句なんてないし…

ん?

 

「…後でってまさか私も一緒に調べるってことじゃないわよね?」

 

しかし、その考えが当たってしまうということを嬉々は5時間もしないうちに知ることになる。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

ラグフィートの指令室に集められた6人。

正影、明季、恭二、鈴、美姫、穂香。

おそらくこのアルツェ内で、最強のメンバーといってもいいだろう。

 

正影が朝食を終え帰るとすぐに明季に呼び出された。

このメンバーを見る限り話す内容は決まっている。

 

「こんな朝早くから済まない。だが、集められた理由は大方察することができるはずだ」

「オーロワームの件ですね?」

「そうだ」

 

いつになく真剣な顔をするラグフィート。

アイコンタクトで青羽に合図する。

 

「現在オーロワームはこのアルツェを離れるようにして進行中。距離は約15キロ。3班が全滅した後は静かに移動しています。君たち6人にはこれの討伐をお願いしたい。なお、私たちはオーロワームを以後「オクォロス」に名称を変更する」

「…勝算は?」

「あります。君たちの働きぶりによるけど」

 

そう言うが青羽はあまり気のりしていないのか顔は暗い。

 

「E-23の使用ですか?」

 

明季が知っているらしく何か武器の名前のような名称を言う。

青羽は黙ってうなずいた。

 

「何ですか、それ?」

「私は初めて聞きましたわ」

「E-23、対オーロワーム専用とされている大量殺戮兵器よ」

 

今はオクォロスって言うみたいだけど、と付け加える。

それを聞いて目をぱちくりさせる2人。

対オクォロスならば大量殺戮兵器と言うのはおかしくないだろうか?

 

「この兵器には対オゥステムになる材料が一切使われてないの。これが作られたのが支給武器《アルマ》が実用化され始めたころ。だからそっちに充てるほど資源に余裕がなくて代わりにあるものを使った」

「あるもの?」

「核兵器なの、E-23は」

 

それを聞いてより一層落ち込みを見せる青羽。

 

「まぁ、作ったっていうよりはほとんど完成形で運ばれたらしいわ。いくらオゥステムでも核兵器をもろで受ければ耐えられないわ」

「…そこまでは情報を流した覚えがないぞ」

「これは私が独自に仕入れた情報です」

 

青羽が顔を上げ話を続ける。

 

「これを直接相手の口の中に放り込みます。後は全員の避難が終わり次第、爆発させます。これをして生きているのはプロディターぐらいのはずです」

「…なぁ、俺は核についてよく知らないんだがあれだろ?放射能とかいうのが残るとか何とか」

「ええ。しかもこれは半径100キロ圏内に人がいないことを想定して作られたわ」

「青羽、オクォロスはどのあたりを徘徊しているんだ?」

「…離れてても80キロ、近いときは10キロ圏内」

 

そんなところでこれを使えばどうなるかなんて誰にでもわかる。

破滅だ。

 

「そんな近くで使う気か?」

「でも、これ以外に手はないの」

「本末転倒だ。敵を倒しても俺たちがここに住めなくなる」

「ならお前は腕だけであいつを殺れるのか?」

 

黙っていたラグフィートが口を開く。

 

「このまま黙ってても私たちは死ぬ。なら打って出るべきだ」

「ふざけるな。最悪10キロ圏内で使いかねないんだろ?穂香のような子供にもそうだが俺たちだってどんな症状が現れるかわかったもんじゃない」

「なら他の作戦を教えてくれ。もちろん勝算のあるものをだ」

「…これだけの精鋭がそろった。6人でやればもしかすれば…!」

「申し訳ないが今回は明季たちは戦力にならない可能性がある」

「なに?」

 

明季を見るとすでに悟っているかのようにまっすぐな目を正影に向けている。

恭二や鈴は黙ってうつむく。

 

「今回の3班の件で異様な点があった」

「オクォロスだとわかれば大きな穴も納得いく」

「アルマが1つも残っていない」

「アルマ?」

「プロトに支給している武器のことだ。対オゥステム仕様になっている。仮に作戦で人が死んだとする。そのとき人は食べられる。だがアルマはオゥステムにとって害以外の何物でもない。だから誤って飲み込んだものは吐き出すのだ。絶対に食べない」

「…つまりオクォロスはプロトの武器に耐性があると?」

「そうだ、だからこの作戦の要はお前になる」

 

まともに戦えるものがプロトにはいない。

となると必然的にロスが必要となってくる。

ロスの出す武器とアルマは全然違うようだ。

 

穂香は遠距離専門。

まぁ、オクォロス相手に穂香を真正面に立たせるなんて正影は死んでも反対だが。

 

「…俺はやらない」

「死ぬぞ、全員」

「E-23を使えばそれも同じだ」

「ならお前ひとりで倒せるのか?あいつが」

 

正影だって分かってる。

これが一番間違いないって。

でも納得いくはずがない。

 

「…司令」

 

明季が口を開く。

 

「私も正直その作戦にはあまり賛同できません」

「おまえもか」

「理由が違います。あれは私たちにとって力の象徴です。違いますか?」

「…」

「もしあれを失ったことが知れ、オクォロス撃破の情報も流れれば放射能云々とか言いながら近寄ってくる輩が出ます。もしそうなれば正影のことも知られるはずです」

 

これには少し納得がいったのかラグフィートが黙って聞く。

 

「理由は存じませんが司令はロスを隠したいようですし…。目立った行動は避けるべきかと」

「ならどうする?」

「…案はあります。確証はありませんしおそらく司令たちが言っている作戦より難しくなると思いますが」

「言ってみろ」

「青羽さん、核兵器の大きさってどれくらいですか?」

「オクォロスの口に入るように直径30cm前後の球体になっているけど」

「…なら可能だと思います。後は正影の技量が問題ですが」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「…なによこれ」

 

嬉々が思わず呟く。

目の前の画面に映ったのは何枚かの画像。

それは昨日3班が全滅した場所の写真。

そこに映っていたのは大きな穴。

血なんてどこにも見当たらない。

 

「…美嘉」

「分かってるわ。これは本当に知らないほうが身のためになる情報だったかもしれないわね」

 

いろいろと文がつづられており嬉々は読む気が失せた。

しかし、その中で色が変わっている部分のみが目に入る。

オクォロスだ。

 

「…オクォロスって何かしら?」

「待ってて、今文を読んでるから。頭はこれ以上目を通すなって言ってるけど」

 

下に画面を移動させていく。

すると新たに1枚の写真が映し出されていた。

それは誰もが知る敵、「オーロワーム」。

なんでこんなものがと疑問を持つ前にさらい1枚ある写真に気づく。

美嘉が画面をスクロールする。

すると出てきたのはやけにうまく描かれたオーロワームに酷似した謎の生物。

オーロワームと比べてでかいし目が多種多様だ。

絵だけでも化け物だというのが分かる。

 

「美嘉、どうだった?」

「…」

「美嘉?」

 

美嘉の顔から血の気が引いていっているのがわかる。

 

「ど、どうしたの!?」

「…嬉々、落ち着いて聞いてね」

「なによ、急に」

「私たち、知っちゃいけないことを知っちゃったみたい…」

「え?」

「このアルツェに、いつオーロワームが攻めてきても…おかしくないそうよ」

 

嬉々も美嘉もしばらくの間言葉が出なかった。

そして理解した。

この気味の悪い絵はオーロワームが進化したものだと。

いつ自分たちが死んでもおかしくない、ここは安息の地ではないと。




えっと、またやってまいりました更新が遅くなる期間!
今回はいつもの2週間に1週間プラスして3週間!
マジで最悪です、はい!

遅くなるだけで更新はできると思うけど間違いなく不定期になります。
でもその分8月は何もないと思うのでそこを楽しみに?しててください。

これからもよろしくです。

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