戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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暇は正義!
多忙は悪!

最近こんなことを思い始めた…。


辛いこの世

ボロボロになった建物がひしめき合う町。

そこにミークはいる。

体長は20m級とそこそこ。

その周りにプロトが6人、隠れる様子もなく配置に着こうと準備をしている。

いつもなら敵に見つかるなんて致命傷もいいところだがこいつはどういうわけか人を目に止めない。

こんな類のオスはミークただ1つだけだそうだ。

先ほどまではみんな、その話に半信半疑だったので隠れながら準備をしていたのだがどんなところにもバカの1人はいるらしい(今回は三姉妹のエニス)。

試しに目の前に出て手を振ったそうだ。

結果、気持ちいいほど無視をされた。

 

「みんな、準備はいいか?」

『はい』

 

全員が返事をする。

今回来ているのは穂香、美玲《みれい》、リリィ、蜂の巣三姉妹だ。

監督に正影と恭二が来ている。

 

美玲とは11歳と穂香に年の近い女子。

性格はおとなしめで穂香と話すことなんてないと思っていたのだが、穂香が一番年が近いということでグイグイ来たのでよく話すようになったお姉さん的な人だ。

彼女の武器はのこぎりのような出で立ちをした大剣。

戦い方は、まぁそのままだろう。

 

リリィは以前助け出されたプロトだ。

名前が女みたいだったので集合した時、男がいて少し驚いたがここでそんな顔をしては失礼だと我慢。

集合場所に来て最初にはいた一言が「女ばっかだな」とぼやいていたのが耳に残っている。

嬉々は「あまり好きじゃない」といい印象をもっていなかったようだがその理由がなんとなくわかった。

武器は槍、なのだが先端の攻撃する部分がものすごくでかい。

鈴の場合は先端のところは別に大きくはない。

機動性を重視したのに対し、リリィは一撃が大きくなるようにしたのだろう。

 

しかし、この人の割り振り方は2人(リリィと美玲)に負担をかけすぎではないかと思う。

穂香は超遠距離射撃をする。

そして蜂の巣三姉妹は遠距離から機関銃をぶっ放す。

相手が20mもあるので仲間にあたるようなことはないと思うが2人は敵の真ん前で攻撃を流しながら攻撃しなければならない。

もともと遠距離攻撃をする味方が半分以上いるということがおかしいのだ。

1人、多くても2人がいいだろう。

三姉妹はすでに3人いるのだがそれなら穂香を外すべきだと思う。

 

「よし、なら始めてください。戦法は問いません。倒せば昇格、負ければ…まぁ、その時はその時で」

 

「穂香…、だったな。リリィだ。準備はいいか?」

『OKだよ。よろしくね、リリィさん』

「ふん。いくぞ」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「始まったか…」

 

ミークが苦しんでいるのが分かる。

リリィと穂香が目玉を1つずつ潰したのが始まりの合図のようだ。

 

「リラックスしてください、正影さん。あとは見ているだけですから」

「…そうだな」

「どうです、クッキーでも」

「いくらなんでもリラックスしすぎじゃないか?」

 

カバンからクッキーを取り出し食し始める恭二。

今回の昇格条件はただ1つ。

ミークを倒すこと。

それさえできればたとえ攻撃を加えていない人がいたとしてもそいつも昇格することができる。

簡単であり、難しい任務でもある。

 

「まぁ、あの人たちなら問題ないでしょうし。たとえ死んだとしてもその時はその時です」

「…割り切っているんだな、案外」

「そうでもしないとこの職業はやってられませんよ」

 

無理な笑顔を作り返事をする恭二。

彼の前でどれだけ人が死んだのか、どれだけ大切な人が失われたのか、正影には分からない。

 

「そういえば正影さん、噂聞きました?」

「噂?」

「ええ、ロスに関わることなんですけどね。まず、プロディターってどうして裏切者って書くか分かります?」

「…知らないな」

 

それについては疑問に思っていた。

オスなど生まれてから1度でも味方として戦ったなど聞いたことがない。

そんな奴に裏切者。

人型だからか…、と思っていた。

 

「正影さんにはあまり気持ちのいい話じゃないんですけどね…あれはロスの成れの果てじゃないかと言われているんです」

「根拠は?」

「遺伝子の適合率です。実は個体差もありますが20~30%一致するそうです」

「…たったそれだけか?」

「正影さん、ロスの遺伝子が合致するなんてこと10パーセントでも理論上はあり得ないんですよ」

 

ロストチルドレンの遺伝子は正直言って異常だ。

人という器を残しながらも中身を化け物に変えてしまう。

この変化っぷりはもはや突然変異のレベルの話で済ませることは出来ないらしい。

プロトは言うなれば元に改良を加えたようなもの。

しかし、ロスは外面はプロトと何ら変わらないが内面は改良の域を超えて独自の技術を加えているようなものだ。

 

「だが…」

「まぁそこの信じる信じないは正影さんの勝手です。でも今から言う噂話はそれを踏まえたうえでお願いします」

「ああ」

「幼虫…なんだそうです」

 

「?」を浮かべながら話を聞く正影。

 

「今現在、正式に確認されたプロディターの数は2体。一部では3体ともいわれてますがそれは確証がありません。でも俺は3体で正しいと思っています。そうすればいろいろ合うので」

「死体が発見されていないロストチルドレンの数とか?」

「はい」

 

死体が発見されたのは4人。

発見されていないのは3人(正影はカウントに入らないため)。

幸か不幸かその死体の中に結衣は入っていなかった。

 

「何らかの条件を満たして3人がプロディターとなった。そう考えるのが一番簡単なんですよ」

「…否定はしない。俺たちの体なんてどうなってるか自分自身でさえ分かっていなかったからな」

「プロディターは地球から人間を消し、オゥステムの世界を実現させる…出来ると思います?」

「無理だな」

 

即答だった。

正影は考えることなく反射的にその答えを出した。

 

「何故?」

「正直に言うなら…弱い」

「傷を負わされた人が言うセリフですか?」

「言い訳をするつもりじゃないがあれはダメージのうちに入らない。すでに完治もしている」

 

正影の負わされた大きな傷はすでに跡形もなく消えていた。

ロスの驚異的な体だからこそできることだ。

プロトなら外からの手助けが必要となる。

 

「でも相手は3体いるんですよ?」

「確かに同時に相手は無理だが…あいつらは多少の知能があっても所詮は獣だ。いくらでも戦い方はある」

「しかも不死身」

「そんなのは存在しない」

 

適当な感じで受け答えしていたのに突然正影の声がどこか強くなる。

恭二もクッキーを食べる口を少し止める。

 

「不死身なんているわけがない。どんな生物にも終わりがある、オゥステムといえども生物だ」

「あれは生物といえるでしょうか?」

「考えてた、動いていた、しゃべっていた。生きているのに間違いはない。生きているのなら生物の枠組みに入る」

「…強いですね」

 

会話が止まり爆音が聞こえる。

しかし、5秒ほどで恭二が口を開く。

 

「俺はよく思うんですよ、疲れたって」

 

少し離れたところではまだ爆音が聞こえる。

そんな中、ここにも音は響いているはずなのに不思議と静かに感じた。

 

「俺、まだ17なんですよ。正影さんよりは確かに年上ですけどそれも正影さんがタイムスリップしたからであって本来なら貴方の方が年上です。でも…、17年なんかじゃなくてすでに30…、50年は生きた気がします」

「…」

「これでも昔は人が死ぬことに対して全く耐性がなくって母が死んだときは5日間、泣き通しました。そのあとは弟が、でまあそのあとに父が。でも、人間ってすごいですよね。繰り返すていると不思議と耐性がついてくるみたいなんです。だんだん泣かなくなり、気持ちの整理も早くなりました」

 

自嘲するかのように笑った。

 

「決定的なのがプロディターの出現でした。周りで知り合いも赤の他人も平等に死んでいく。その時に俺のねじはどこか外れたんだと思います。でもこれが嫌な外れ方をしたらしくてね…疲れはするんです、精神的に」

「…」

「いっそのこと、完璧に壊れてしまってれば―――」

「それは違うだろう」

 

正影が発した言葉に反応する恭二。

さっきまでずっと話していた恭二の口が嘘のように止まる。

しかし、正影はそれ以降口を開こうとしない。

恭二が口を開く。

 

「違うと思うのなら…なんで答えを提示してくれないんですか?」

「知っている答えを提示されても嫌なだけだろう」

「…知っている?」

「まぁどうしても教えてほしいというのなら…、聞くか?」

 

耳につけていたスピーカーをとってみせる正影。

意図を理解して恭二が表情を変えず、少し顔を赤くする。

 

「壊れたらこいつを守れないだろ。それともお前だけ楽になってあいつを苦しめるのか?」

「…ずるいですよ。正影さんに置き換えたら穂香ちゃんや嬉々を守りたいからと言ってるのと何ら変わらない」

「俺が生きてる理由なんてそれくらいだ」

 

「え?」という代わりに正影を見る。

正影はなんでもない顔をしながらスピーカーを耳に付け直す。

 

「俺の楽しみは穂香と嬉々の成長を見ることくらいだからな。自分で言うのもあれだが、穂香には過保護(美嘉に対して特に)だし、嬉々も本当にかわいい。もちろん、妹としてな」

「自分でしたいこととかは?」

「ないな。2人がいないければ俺は今頃どこかでのたれ死んでるか、ベッドの上で解剖され中だ」

 

恭二は知らなかったらしいから隠した。

別に言うほどのことでもないし、確かに少し恥ずかしい。

結衣を探すと言うのも。

 

はぁ、とため息をつく恭二。

自分の言い分では正影を言い負かせられないとすでに気づいたようだ。

 

「やっぱり年上は違いますね」

「お前は俺を試したんだろ?理由は知らないがさっきの疑問の答え位、気づけないほど馬鹿な人間じゃないはずだ、お前は」

「半分正解で半分不正解です」

 

自分が心に思っていた答えとまったく同じことを言われたのであえてそう答えた。

別に深い意味なんてなく、たぶん恭二から見ればほぼ正解。

だが、あまりにも正解に近すぎたのでなんか悔しくって言ったのだ。

 

「なんだそ『パパ、終わったよ!』」

 

なんで不正解なのかと聞こうとして終了の合図が鳴る。

戦闘があったところを見ると力尽きたミークが倒れ、遠距離で戦っていたはずの穂香も近くにいた。

手にはショットガンがあり、スナイパーでは20m級にはあまり効果がないと思ったのか近くで戦っていたようだ。

正影が見ていたらハラハラドキドキで心臓に悪かったに違いない。

 

「分かった。ご苦労だったなみんな。そっちに確認しに行くから警戒を怠らないように」

『はい』

 

「さ、行くぞ」

「ですね。隊長たちの方も終わりましたかね?」

「あっちの方にはあまり知ってる人がいないからな…。分からん」

「報告ついでに聞いてみますね」

 

監督とか言っておきながら結局くさい話をするにとどまった。

 

正影はやはり自分は来なくてもよかったなと少しうなだれる。

 

穂香の戦闘だって最初以外ほとんど見なかった。

 

任務もぽんぽんと進んでいたらしく問題なかった。

 

 

「(今日は帰ったら穂香に何か―――)」

「正影さん、緊急です」

 

隣で普通にしていた恭二が少し真剣な顔になる。

 

「どうした?」

「第3班と連絡が取れません。異常です」

「戦闘中だからじゃないのか?」

「監督は基本、任務遂行中のメンバーが死んでもリタイアしない限り手を出しません。そして今回の敵は監督がいれば余裕になるような敵を割り振っています。それでも連絡がないとなると…」

「行きたくないんだがな…。どうせ俺たちが一番近いんだろ?」

「はい。リリィさんがなんて言うか…」

 

めんどくさいと正影と同じことを言うのは間違いないだろう。

 

「まぁ、いい。どうせ行くならさっさとするぞ。こっちは穂香の昇格パーティでもやりたいんでな」

「次が最後ですから、次をクリアしてからすべきだと思いますけど…。分かりました、じゃあさっさと行きましょう」

 




ここのスペースは今回から人物紹介でもしたいと思います。
まぁ、本文に書いたこと以外はほとんど載らないと思いますけど。



正影
2031年現在では唯一1人のロストチルドレンと言われている(3人詳細不明なものがいる)。
武器は刀。
場所をとらないので2mないくらいの刀を使う。
プロトと比べると本気を出せば遥かに身体能力が上がり、数で押すにも10や20ではおそらく足りない。
女性に対して興味がないわけではないのだが、少なくとも今いるアルツェには彼にとって魅力的な女性はいない。
さらに突っかかってくるのがいじろうとしたり、穂香に危害を加えようとする輩(美嘉)なので言葉が少し辛辣になることがある。
今のところ本当にロリコンではない。

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