もうなんか最近2、3日に1話のペースも辛くなってきました。
暇すぎるのもあれですけど大変なのも考え物ですよねぇ…。
応援要請
「よし、これで終わりだな」
「みんなお疲れ」
「5回任務の連続はぁ、さすがに辛かったけどぉ、さすが正影さん。助かったぁ」
「俺がいなくてもこれくらいなら問題ないだろうに」
「いや、今回は本当にスピーディかつエレガントだったよ!」
随分賑やかなものだと正影が苦笑する。
正影は今、任務で外に出ている。
敵はランク4のオス5体と正影からすれば物足りないところだったが嬉々の誘いとなれば断るわけにはいかない。
しかし、このパーティメンバーは個性的だなと思う。
このパーティと行動する理由ができたのは2日前。
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「正影さん、こんにちは」
「その声…リムか?」
「はい、顔を合わせるのは初めてでしたね」
任務受け付けのカウンターに男がいるのは初めて見た。
顔つきは中性なのでどちらに捉えるかは人によるだろうが制服が違うのだ。
もしやと思い声をかけてみたら案の定だった。
「で、今日は任務ですか?」
「いや、暇だからブラブラしてただけだ。そしたらお前が目に入ったもんでな」
「正影さん、あなたはロスなんですから任務はジャンジャンこなして欲しいんですけどね…。これなんてどうです?誰も手が出せないランク7の敵『ロップラップトップ』」
「なんだその変な名前のオスは?全然姿形が想像できないぞ」
ランク7の敵はよほどのことが無い限り手を出してはいけない敵。
ロスである正影でさえここで「やります」と言ってもすぐには行けない。
「でも正影さん、ランク4以下相手だと物足りないのでは?」
「それは、行っても敵見つけたらすぐに終わってしまうからな」
「今ランク5の敵はいませんし…6なら一応」
「もしかしてもう行く前提になってるのか?」
「暇は罪ですよ、正影さん」
「…」
「まぁ、僕はこの後ポテチをベッドの上で食べながら漫画読みますけど」
「そういう冗談も言えるのか、お前は」
リムが笑顔で応えた。
受け付けやオペレーターをしているだけあってなんか輝いて見えた。
営業スマイルというやつだろうか。
「で、どうします。任務」
「遠慮しとく。今は気分じゃな「あれ、正兄」」
嬉々がいた。
「嬉々か。どうした?」
「私は任務を受けに来たんだけど…、正兄最近ずっとアルツェ内にいるね」
「金はあるからな」
「正兄は向上心が無いからダメだね。なのに無駄に報酬が高い任務を受けちゃって…」
「昔と同じ習慣で生活しているだけだ」
正影は週に2、3回のみ外に出て敵を倒すのが普通だった。
昔はロスの出撃は上からの指示があって初めて動いた。
だが、今は自由。
ある意味好きな時に好きなだけ出撃できるし、自分と相性がいい敵を選べたりもして言いこと三昧だ。
だが、実力者となってくると上の人間としては出撃してほしいのだ。
「なら嬉々さん、正影さんを引っ張り出してあげてください。ランク4の任務の消化をお願いしたいんです」
「嬉々の実力があれば俺はいらないだろう?」
「一気に5つほどお願いできますか?」
「自殺志願者でもいるのか?」
「問題ないわ。正兄もいいよね?」
「…」
正影はため息をつきながら頷いた。
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来ているのは正影、嬉々、蓮、心愛《ここな》、太郎の5人だ。
穂香はもう少し、訓練に明け暮れる日々が続くそうだ。
心愛とは語尾によく「~ぁ」だったり「~ぅ」など小さい文字がついてくる女の子。
どちらかというと身長は小さく、緊張する姿は滅多に見せないらしい。
正影にとってこいつは正直どうでもいい。
嫌でも好きでもない。
だが…
「…太郎。なんでちょくちょく英語を―――」
「太郎ではない、ルイーグだ!」
こいつ。
かなり問題児だ。
こいつはキャラが濃すぎてどう接したらいいか分からない。
だいたいなんだよ、ルイーグって。
かっこいいとか思ってんのか?
「でもやっぱり辛いな、5回連続ってのは」
「まだ元気そうじゃん。6回目いっとく?」
「嬉々ぃ、私あとは正影さんに全部お願いしちゃいそうだよぉ…」
「へばって情けない。僕はノープログレムだよ!」
十人十色とやらを初めて実感したような気がした正影だった。
「正兄は?」
「俺も疲れた。さっさと帰るぞ」
「棒読みで言っても説得力ありませんよ?」
『みんな、迎えのヘリが到着するわよ』
今日のオペレーターはリムではない。
真理奈とかいう、嬉々の友達らしい。
まぁ、今日の声の感じを聞く限り悪い人ではないらしい。
「さっ、帰るか」
「正兄、明日は―――」
「空いてない」
「何かあるの?」
「ポテチをベッドの上で食べながら漫画読む」
「誰との会話をパクったの?」
「リムだ」
到着したヘリにみんなが乗り込んでいく。
『正影さん、アルツェ到着後ラグフィート指令が呼び出しをしておりますのでお願いします』
「要件は?」
『そこまでは話されていません。ただ呼び出せということでした』
「分かった」
正影の通信が切れると嬉々がにやにやした顔で正影を見ているのに気づく。
「なんだ?」
「正兄、何かやらかしたの?」
「もしかしてぇ、穂香ちゃんに手ぇだしたぁ?」
「嬉々、お前の目が届く範囲くらい何とかしておけと言っただろう」
「事実だもん」
女性陣はこういう話題が好きらしい。
正影も何度もいろんな人に言っているのだが、未だに誤解している人もいる。
大半は面白半分になりつつあるが。
「嬉々、そんなこと言うんじゃない。正影さんはロリコンなんかじゃないだろ」
「でも蓮、正兄いじるにはこの会話しかないのよ。それに私ぐらいの女子に一切興味を示さないし」
「でも穂香は今年で10歳だろ?ここには12歳もいるんだぜ?」
「私はぁ、ナイスボディだよぉ?」
「心愛よ、それをナイスボディとは言わ「黙れ」オフ!?」
太郎の喉にラリアットが入りぐったりとする。
いつもなら揺さぶったりするがこいつは寝ていてもらったほうがいい。
「ともかく頼むぞ。お前が焚き付けたようなものだからな」
「本当なのに…」
正影が反論しようとしたとき、変わった音が聞こえた。
ヘリに内蔵されている音。
「これは…応援要請?」
嬉々がすぐに気分を切り替え、操縦席のほうに向かう。
正影もあとに続いた。
「どこからの応援要請ですか?」
「ここから距離約10キロ」
「10キロ?遠すぎじゃないか」
「場所は?」
「エリア22の…アルツェ付近です」
ヘリの操縦席にいる人たちの間に緊張が走る。
応援要請。
これが来るということはこれを発信している人がピンチだということ。
だが、これは基本2、3キロ先の誰かに助けを求めるもので、10キロ先なんて聞いたことが無い。
2、3キロ先でも間に合うかどうか分からないのに10キロ先なんてありえないのだ。
それでも出したということは…
「またプロディターか?」
「おそらく…」
「どうする、嬉々」
「……」
今回のパーティのリーダーは嬉々だ。
実力でリーダーは決まらない。
討伐部隊の明季のように特別な部隊は話が別だが多くのプロトに部隊など存在しない。
「…今エリア22のアルツェに一番近いのは?」
「このヘリです。ほかのヘリだと一番近いものでも15キロほどあるかと」
「どうせ後でほかのヘリが行くのよね…」
「いかがいたしましょう?」
「…進路変更。エリア22のアルツェに向かって頂戴」
「分かりました」
「連絡は私からしておくから急いで」
嬉々が指示を終えるとすぐにみんなのところへ戻る。
正影はこの時は嬉々が嬉々に見えなかったという。
「おう、嬉々。どうだったんだ?」
「進路変更したわ。行く先はエリア22のアルツェ」
「…嘘だろ?」
蓮が顔を引きつらせる。
意味を理解したようだ。
「じょ、冗談でしょぉ?嬉々」
「冗談じゃないわ。応援要請を受けた以上、向かうのは当たり前」
「それは司令が許可したのか?」
「今から訊くとこ♪真理奈」
『絶対無理!アンタ馬鹿でしょ?正影さんいるんだよ!?』
「尚更OKじゃない?」
『逆よ!他に知られちゃいけないのよ、正影さんの存在は!それにプロディターは正影さんを狙ってる可能性があるのよ!今すぐ帰還しな―――』
「後はよろしくー」
嬉々は真理奈の話を聞かず、そこで通信を切る。
しかし、正影がいるアルツェだって他とかかわりがないわけではない。
情報が洩れていないのはラグフィートの情報操作のおかげだろう。
どんな手を使ってるのかは不明だ。
もしかすると美嘉は知っているのかもしれないが、聞きたくもない。
裏の話は表に出すものではない(できる限り)。
「後で懲罰房行きだなお前」
「あんたもメディアトールである私が罰を受けるんだから連帯責任が課されるわよ」
「3日ぐらいあの冷たい部屋で生活かぁ…」
「涼しくていいじゃない」
「とりあえず連帯責任取らされたら胸もませてもらうぞ」
「な、何言ってんのよ!殺すわよ?」
「そしたらお前も死ぬぜ」
「正兄が黙ってないわよ。ねぇ正兄?」
「別にいいんじゃないか?」
予想外の返答に嬉々が固まる。
「おぉ?」と蓮も予想外の返答に少し驚く。
「身内が結婚して嫌なことは無いだろう」
「そこまで見据えて!?私たち付き合ってるわけじゃないのよ!?」
「形から入ればいい」
「穂香ちゃんと私に対する扱い高低差ありすぎじゃない!?もしかしてロリコンに対しるうっぷん晴らし!?」
「穂香に変な意味で近寄ってくる輩は今のところ美嘉のみだ。あいつに対して警戒心を抱くのは保護者として当然だろう」
「じゃ、正影さんの許可も下りたということで。懲罰房楽しみだな」
「…」
蓮は嬉々が好きだ。
確かに触りたいとは思うが嫌われるようなことはしたくない。
冗談で言ったつもりだったのだが、嬉々はマジで受け止めていた。
エリア22のアルツェにつくまで嬉々はずっと顔を真っ赤にしたまま俯いていたという。
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「何馬鹿なことやってんだ、お前はぁ!!」
罵声と同時に机を叩く音がする。
ラグフィートがブチぎれていた。
青羽は正影達がエリア22のアルツェに向かったことを報告した瞬間、今まで聞いたことのないような罵声で怒鳴られた。
「わ、私たちも説得しようとしたのですが…それっきり通信が―――」
「そうじゃない!さっさとヘリを向かわせろ!連れ戻せ!私に対する報告は吉報のみにしろ!」
「は、はい!」
何も言い返せず、パタパタと焦りながら青羽が部屋を後にする。
青羽が出ていくと、気持ちを落ち着けながら椅子に座る。
「(プロディターとの接触…、それもかなりまずいがまだそれだけで済めばいい。もし、生き残りに正影の力を知られたら…)」
ラグフィートの情報操作が水の泡になる。
ウソの情報を流すということは必ずどこかに穴があるということ。
その穴は小さいが確かに存在する。
もし、正影の存在が噂という形だとしても知られることになれば、必ず調べる輩が現れる。
そうすれば穴が発見されるかもしれない。
すべてがおしまいだ。
「ここで、終わるわけにはいかない…!」
「…?」
感じた。
いや、感じている。
あちらから近づいてきている。
「ウ…アァァ…?」
化け物は進行方向を変える。
隣に見える壁を力づくで壊した。
周りで騒がしい人の声などしない。
聞こえるのはがれきの崩れる音と、バチバチという漏電している音。
「ロス…ト、チルドレ、ン。ロスト、チ、ルド、レン。ロス―――」
化け物は歩き始めた。