戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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時間が少しできたので書きました。
まぁ、ピークは過ぎたんでこれからは3日に1話ぐらいはいけるかな。


驚異

オスはコミュニケーションをとらない。

理由は群れる必要がないからだ。

中には群れをなすものもいるが最近研究で群れを成す場合は実は意識を共有しているという成果が上がりつつあった。

どういう原理かは知らないが要は考えが1つにまとまっているらしい。

だが、彼らの中には例外が存在する。

その例外は話せる。

その例外は強い。

その例外は他のオゥステムと共闘できる。

その例外は考えることができる。

だがその例外は、今は自身の意思では動いていない。

 

「…イナ、イ」

 

破壊された建物の前でそれは呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵は地中に潜る。

なら出てきたところを斬りつければいい。

だが、相手だってそうそう簡単にはやられない。

知能があるのだから。

死という恐怖を持っているのかは不明だが、本能は間違いなく正影を警戒しているはずだ。

 

「…」

 

正影は周りに気を張り巡らせる。

悠斗は今はほぼ無防備と考えてもいい。

一応、あれくらい小さいやつになら力比べでなら張り合えるだろうが不意を突かれれば死ぬ。

正影は誰も死なせないため、ただ時を待っている。

 

音がした。

 

いち早くそちらを向く。

すぐにオスが地面から顔を出した。

横に一振りする。

だが、

 

「…!」

 

オスは地面から顔を出したけで体を出そうとしない。

口から糸を出した。

腕に絡みつく。

 

「ちっ!」

 

地上では不利と判断したのか地面に引きずり込もうとする。

見た目の割には糸の強度が強い。

なかなか引きちぎれない。

だが

 

「ふん!」

 

本気を出せば話は別だ。

糸が簡単にちぎれた。

オスはすぐに体を頭も地面の中に隠す。

 

地面の表面はコンクリート。

音が響きにくく、相手の位置を探し当てるには少し難しい。

 

「こいつは面倒だな」

「逃げるっていう選択肢はないのか?」

「悠斗さん、正直に言うとこいつはかなり危険です。おいていくわけにはいきません」

 

地中を移動するだけではなく、敵の力を自分と比べてどう戦うべきか判断できるオス。

しかも小さい。

このタイプは1回逃すと後で厄介になる。

デカければ位置が分かるだろうが、小さいと分かりにくい。

他のオスの討伐中に乱入されたら死人が出るのは間違いないだろう。

 

「だが、どうする?手の打ちようがないんじゃないのか?」

「…それは、そうだが―――」

 

地面に穴が開く音がした。

 

「「!」」

 

しかし、1つではない。

無数に穴の開いた音がした。

地面から鋭い針が付いた触手がのびてきた。

もうこれは雑魚の類ではない。

安全圏から攻撃をしてくるかなり危険な奴だ。

 

「はは…、ただのイモムシに見えたんだけどなぁ」

「悠斗さん、これはやばいぞ」

 

触手が正影と悠斗に襲い掛かる。

正影は切り落とす、悠斗は腕力で引きちぎったり殴ったりだ。

しかし、斬ったそばから、ちぎったそばから触手は生えてくる。

 

「くそ!」

「悠斗さん、そこを動くな!」

 

正影が本気を出し、一瞬ですべての触手を切り落とす。

 

「おお!」

 

しかし、感嘆してすぐ触手が生えてくる。

 

「!」

 

正影に襲い掛かったのを悠斗がさばく。

 

「すまない!」

「いや、どうってことはない。だが…どうする?」

「…本体をやるしかないと思うが」

「無理な話だな」

 

襲い掛かってくる中、すべてをさばいていくがいつまでも続くはずはない。

次第に、特に悠斗に疲れが見え始める。

 

「ぐ!」

 

触手の針が悠斗の体をかする。

 

プロトは理論上ならば20、30m級のオスなら余裕で倒せる。

しかし、現実では勝ててない。

理由は疲労だ。

疲労は人から力を奪っていく。

もちろんロスにも疲労はあるが、その前に大抵の敵は倒せるしプロトよりも体力もある。

同じ環境下におかれれば先に疲れてくるのは必然的にプロトである悠斗だ。

 

正影が悠斗が傷ついたのを見るとすぐに本気を出す。

周りの敵が再び一瞬にして消し飛ぶ。

 

「悠斗さん、逃げるぞ!」

「お、おう!」

 

ここで逃がすと確実に後が面倒にはなるが、目の前で人が死ぬのを良しとするはずもない。

悠斗を犠牲にしても勝てるとは思えない以上、逃げるのが得策と判断する。

全力で逃げたいところだが悠斗に速度を合わせるしかない。

本気で走れば悠斗は置いてけぼりを食らう。

だが…

 

「うおっ!?」

 

それではすぐに例の触手に追いつかれる。

再生しているのか、或いはあの小さな体中から無数に生えているのかは不明だがこれではキリがない。

 

「悠斗さん走れ!俺はこいつらを切り倒しながら進む!」

「頼む!おい、リム!」

『はい!』

「ヘリはどこに着く?」

『すでに待機中です!そこから直線に距離、約1km』

「遠いな!?」

『もともと蜂型のオスがいると想定して配置していたので』

 

悠斗が直線に走り続ける。

触手が2人に襲い掛かり続ける。

これを斬りながら正影は疑問を感じていた。

触手が的確に自分たちの位置を当てているのだ。

見た感じでは触手に眼は見当たらない。

音で判断していると考えてもそれならもっと大雑把になってもいい。

 

「(いったいどうやって…!)」

 

『悠斗さん、残り600mです』

 

リムがしゃべると同時にヘリが見え始める。

そして銃を構える人の影も。

 

「正影、増援だ!」

 

プロトの中では見ない顔。

おそらくプロトではない非常時用の戦闘要員だ。

武器はプロトの使うものと同じくらい強いものを扱える。

ただ、戦場の真ん中に放り込まれたら生きては帰ってこれない。

 

「少しは楽になるな」

『正影さんもあまり悠斗さんから離れないでください。ヘリが囲まれると厄介です』

「わかっ―――」

 

敵を斬りつけながら返事をしようとして異変に気付く。

敵の触手に刃が通らない。

突き飛ばされる。

 

「硬い…!」

 

少しの間に進化した。

異常な速度だ。

だが、正影が驚いたのはそこではない。

自分の本気の刃を受け止めた。

いや、実際切り傷は入っているが1回で斬りおとせなかった。

 

すぐにもう一撃加えてみる。

しかし、同じ場所に的確に刃を通すなど無理な話だ。

斬りおとせない。

 

「くそ…!」

『正影さん、急いでください!悠斗さんとの距離が離れています』

「…わかってる」

『悠斗さん、残り100mです。前に見える建物の屋上までお願いします』

「了解!正影!」

「ちっ!分かっ―――」

 

正影も諦めてヘリのもとへ逃げることに専念する。

だが返事をして悠斗の方を見た正影の眼に映ったのは

 

「悠斗さん!前だ!」

「!」

 

建物の中から出てくるさっきの5,6mのオス。

距離が離れすぎていてとても間に合わない。

オスの口が開き悠斗を確実にとらえている。

悠斗も正影に呼びかけていたところだったので気づくのが遅かった。

 

 

 

 

しかし

 

 

悠斗はツイているらしい。

オスの口が悠斗をくわえることはなかった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…、折角来たのに」

 

1人、ヘリの座席でため息をつく者がいた。

 

「嬢ちゃん、残念だったな。いや、ラッキーというべきか?」

「全然ラッキーじゃないよ!久しぶりにい―――」

 

警報が鳴る。

すぐに新たな敵が正影たちに襲い掛かってることを知らされる。

 

「私、行ってくる!」

「でも嬢ちゃん、相手はただのチビ1体だぜ?ロスがいる以上そんな必要は―――」

「もしものために行ってきまーす!」

 

女の子はヘリを降りて建物の屋上をひょいひょいと越えて行く。

訓練の成果だろう。

すぐに正影たちを見つけたがその時には悠斗が逃げに徹し、正影が敵を切り倒しているところだった。

建物に入り、様子をうかがう。

 

「…いない」

 

本体が見当たらない。

折角相手が気づいていないのだ。

後ろから刺すのが一番いい方法だろう。

そう思い構える。

 

客観的に見ていて気付いたことが1つ。

正影と悠斗に対する触手の量が違いすぎる。

あれだけ的確に狙えるのだからおそらく2人の位置はわれているはず。

それなのに正影に対して触手が行き過ぎている。

 

焦点を悠斗に絞る。

 

「パパの穴は私が埋める」

 

案の定、敵が悠斗に向かって飛び出してきた。

建物の中からとはちょっと予想外だったが焦らない。

時間はオスが飛び出てから2秒と経ってないはずだったのにスナイパーの焦点に捉えられる。

すぐに引き金が引かれた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

銃声が響き、オスの軌道がずれる。

悠斗は生きていた。

だが、あまりのことに体が動かない。

 

正影にも何が起きたかは分からない。

増援として来ていた人たちからは確実に死角になっていた場所だった。

誰が撃ったのかと疑問に思うが今はこのチャンスを逃すわけにはいかない。

オスの方を向いた正影の視界に奇妙な光景が広がっていた。

 

敵が頭を地面に突き刺したまま動かない。

かみつくの失敗したとみてオスもすぐに地中に潜ろうと思ったのだろう。

だが地中に入っているのは頭だけ。

お尻の方には触手の根本と思われる長細い形をしたものがいくつも飛び出ている。

体を右に左に動かしてはいるが力はなく、だんだん弱っているように見える。

 

ここで正影も狙撃した人を理解する。

 

『悠斗さん、正影さん、無事ですか?』

「ああ。助けられた」

『青羽さんからの命令です。そのオスのコアを回収してこいとのことです』

「分かった。あの状態のオスなら、きれいにコアを取り出して帰ろう」

『帰りをお待ちしています』

 

通信が切れ、正影が力なくぐったりしているオスの前までくる。

まさに頭隠して尻隠さず状態だ。

悠斗もようやく体が動くようになったのか、座り込み息を荒くしている。

 

「助かったぞ、穂香」

 

オスの解体作業を始めた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「…どうする?」

『そこで出て行って勝算はあるのか?』

「あるならお前に訊いてねぇよ」

 

和人がフラテッドと通信をしている。

悠斗がやられ次第、正影の狙撃に移ろうと思っていたが増援が来た。

さらにオスもやられた。

こんな状況で狙撃をしたって自分の存在を知らせるだけ。

間違いなく、殺されるか捕まる。

 

『なら俺の考えも変わらん。さっさと退却しろ』

「はぁ…、さっさとあいつを送り込めばいいのに」

『無理言うな。あれは簡単な命令しか処理できない。気まぐれなのだから待つしかないだろう』

 

和人は武器を片付け始める。

 

「にしてもあのオス、思ったよりすごかったな」

『ちゃんと撮影はしてるだろうな?後で確認させてもらう』

「してるよ。はぁ、結局オスの実験結果を見るだけになっちまったな」

『後につながる。決して無駄ではない』

「それは分かってるけどよぉ」

 

折角少しは楽しめると思って出てきたのだ。

それなのに結果は残念。

結局劣悪環境な場所にオスの実験を見に来ただけとなってしまった。

 

「次はもっといい仕事回してくれよ」

『…善処しよう』

 

 




数少ない読んでくれている方々、お久しぶりです。

長らくお待たせしました。
久しぶりの更新です。

中途半端な感じで放置していたものをやっと解決できました。
せめてここまで更新しておくべきでしたね…。

これからもよろしくです!

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