戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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ああ…。
大変な日々は嫌いです。
もっとも、退屈な日々も嫌いですけど。


人為強化

悠斗はプロトの中では珍しい人間だ。

いや、妻子を持つこと自体は別に珍しいことではない。

生き残るのが難しいこの時代、結婚していい年齢は下げられた。

男女ともに15歳だ。

 

悠斗が珍しいといえる理由は年齢だ。

悠斗の年齢は31歳。

プロトであるにも関わらずこの年齢まで生きていられる人は滅多にいない。

実際、日本にいる30歳以上のプロトは10人に満たない。

プロトは平均的に9歳から戦闘に参加し、平均的に19歳で死ぬ。

死人が多いのは、初めての任務か20歳を過ぎて心に余裕ができ始めたときだ。

 

それでも悠斗が生きているのはひとえに運がいいからだ。

失敗をしない人間なんて存在しない。

失敗する場所がラッキーなのと駆け引きを必要としない場所だったのだ。

 

悠斗は生きたいと同時に死にたいとも思っている。

今まで幾度となく目の前で同僚が殺されてきた。

人間の死に方がこんなにも豊富にあるのかと今では舌を巻くほどだ。

それでも死なないのは妻子をおいてはいけないから。

ここで死んではみんなに迷惑をかける。

失う辛さは分かってるつもりだ。

悠斗だって、11年前の襲撃で大切な人を失ったのだから。

今でも鮮明に思い出せる。

人々が逃げまどい、あたりには血が散乱し、子供が泣き。

後ろからはあの悪魔がたった一匹で近づいてくる。

プロトであるにも関わらず本能が逃げろと言っていた。

町の外に出た後は、オスの群れが―――

 

 

「…悠斗さん?」

 

その一言で現実に戻される。

 

「すまないな。少し考え事をしていた」

 

今いるのは白いカビや粘液で覆われた建物が並ぶ街、「ノグリテリア」。

雪崩のように逃げまどう人間も、血も、あの悪魔もいない。

 

道路に出て、対象が目の前に来るのを待っている。

いや、あと2,3分ほどで来る。

 

「…子供のことか?」

「あながち間違いじゃない。だけど少しずれてるな」

「もし…、あれなら俺だけでも」

「馬鹿言うなよ。そういう甘えは死をもたらすよ」

 

戦場に出た時点で少なくとも戦わないという選択肢はない。

逃げるという選択肢はあるが、それもせずただ戦場に突っ立っているのは死ぬのと何ら変わらない。

 

「すまない」

「だけどまぁ、正影は思ったより人想いなんだな」

「からかわないでくれ。俺は見た目通りの人間だ。効率主義なのに変わりはない」

『いえ、正影さん。あなた、実は優しい人だってすでにアルツェ内では有名ですよ?』

 

リムが話に入ってきた。

オペレーターは選べるらしいのだが、正影は初めの任務を担当してくれたリムを担当にしている。

オペレーターの中ではこのアルツェではただ1人の男子だ。

 

「なんでそんなことに?」

『正影さんはすでに何人かの人と任務に同行していますし。その人たちからの情報と嬉々さんからの情報ですね。娘、妹想いのいい人だと思われてますよ』

「それだけか?」

『といいますと?』

「悪い噂はないか?」

『…ロリコン、と』

「……あぁ」

 

今まで嬉々が言っていたのもあるのだろう。

妹想いのロリコンとでも言ったのだろう。

そこに小さな女の子を連れてきたし、結構過保護に見えたのだろう。

 

『だって正影さん、女性に対して一切の興味を示さないじゃないですか?アプローチすべてさらっと断ってるんですよね?』

「…同じ娘想いの父親だと思っていたのに」

「この任務が終わったらしばらくは誤解を解くのに使うしかないな」

『なら必ず生きて帰ってきてください。そろそろ対象が視界に入るはずです』

 

静かではあるが確かに音がする。

すいすいと進んでいても今は水の上ではなく、コンクリートの上。

どうしても多少は音が出てしまうのだろう。

 

『それでは正影さん、悠斗さん。ご武運を』

「ああ」

 

通信が切れる。

ここからは本当の戦闘だ。

笑いなんて存在しない。

楽しみなんて存在しない。

死を覚悟しなければならない戦闘。

 

「…あれだな」

 

先ほど確認したアメンボ型のオスが視界に入る。

足は細く、とても頼りない。

体の部分に至っても決して大きくはなく、ただ普通のアメンボと違い目が2つ縦についている。

生物は出来る限り広い範囲が見れるように目が横についている。

草食動物なんかはそのおかげで視界が広い。

だがこいつは縦に目が2つ。

 

「準備はいいか?」

「当たり前だ。足止め頼むぜ?」

「ああ。あれならすぐにでも出来そうだ」

 

軽快な足取り?で相手は近づいてくる。

こちらに気づいていない。

 

「…3,2,1―――」

 

敵が真横を通り抜けようとした瞬間、正影が動く。

近くの足2本を切り落とした。

細い足だったので切り落とすのは何ということはない。

突然の出来事に対応できずオスがバランスを崩し倒れこむ。

 

「サンキュー、正影」

 

バランスを崩したオスに向かって腕についている四角い何かを向ける。

小さな穴から何かが飛び出す。

出てきた何かがオスに突き刺さる。

 

「ワイヤー?」

 

足を切り落とした後オスを傍観していた正影が疑問を持つ。

これのために足止めをしろと言っていた?

 

「終了」

 

腕についている箱を悠斗が引っ張ったかと思うと呟く。

次の瞬間、オスから無数の針が飛び出してきた。

再生しかけてた足も再生速度が遅くなり始める。

必死に体を動かそうとしているようだがそれは叶わない。

オスがハリセンボンのような外見になり、動きを止める。

 

思わず正影も口笛を鳴らした。

 

オスを確実に殺すにはコアを狙えばいい。

ダメージを与えるという手ももちろん間違いではない。

だが、中にはものすごい再生速度を誇るものもいるし体を真っ二つにしても死なないのがオゥステムだ。

もちろん、40m級といえども体を8等分やそれ以上に切り刻めば大抵のものは死ぬ。

しかし、例外もあるものの大きさ=強さなのがオゥステム。

40m級を8等分に出来るのは今では正影ぐらいだ。

 

だがそれでも結局は体に傷をつけるのがオスを倒す主流になっている。

理由はコアを探し当てるのが一苦労だからだ。

それだったら外皮から攻撃を続け倒したほうがコアも回収できて一石二鳥なのだ。

 

「正影、お疲れさん」

「いや、特に疲れなかったぞ。一太刀加えただけだったからな」

 

しかし、その常識をぶち壊すのがこの武器だ。

内面に何かしらをぶち込みそこから無数の針を突き出す。

どのくらい針が伸びるのかは知らないがこれならかなりの戦闘時間の短縮になる。

 

「でもあれがなきゃこいつは使えなかった」

「なぜ?」

「一回きりなんだよ、これは。一回使うとあとは一度持ち帰ってから、しまってもらうしかない。だから外すわけにはいかないんだ」

 

確かにあれだけ便利な武器。

量産できればかなり戦闘も楽になりそうだが出来ないのだろう。

 

「さっ、それより早く帰ろう。プレゼント選びにも時間はかかるからね」

「そうだな。俺もたまには穂香になにか買ってやるかな…」

 

ヘリに通信を入れ立ち去ろうとする。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「おい、フラテッド」

『なんだ?』

「あのオス、簡単に死んだぞ?かなりあっけなかったな」

 

離れたところから和人が状況を報告する。

双眼鏡で正影たちを確認する限り、すでに終わった後だ。

今から走ればおそらく追いつくがあの状態のロスにたった1人で挑むなど自殺願望があるのかと言われても反論は出来ない。

 

『お前はそこで待機してろ』

「何馬鹿言ってんだよ。お前は見てないからわからないかもしれないがあいつは死んだ。死んだオスは生き返らない。いや、死んだ生物は生き返らない。ここに俺が残っても何も意味をなさないぞ?」

『お前はあのオスの力を知っているのか?』

 

ああ?と少しイラついた口調でしゃべる。

死んだ奴の話なんて意味はない。

 

「知らねぇよ。強くなったとかそういうことだろ?」

『違うな』

「だったらなんだっていうんだよ?死んだ奴の話なんて―――」

『お前にはあいつが死んだように映っているのか?』

「…なに?」

 

改めて確認する。

オスは体の内側から無数の針によって殺されている。

ピクリとも動かない。

これを死んでいるという以外どう表現すればよいのだろうか?

 

『おおかた、内側から針が出てきているのだろう?悠斗がいるからな』

「そうだが」

『なら生きてる。というか対象はダメージ1つ受けていないな』

 

和人にはわけがわからない。

同じ組織でほとんど変わらない立場にいるのに相手だけ知っているというのは腹が立つ。

 

「一体どういうことだよ!?説明しろ!」

『すぐにわかる。そろそろ視界に入るのではないか?』

 

そう言われてあたりを確認する。

しかし、周りには何も見えない。

建物の中にいるので屋上に上がり確認しようとして何かの音に気付いた。

ブブブッ!と蠅の羽音のような音が鳴り響く。

屋上に上がるのをやめ、建物の窓から顔を少しだし外を見る。

 

刹那、建物に影ができ暗くなる。

そのあと通って行ったのは、体が黄色く、お尻の方に針がある生物。

 

「蜂か!?」

 

思わず叫ぶ。

小さな声だが。

 

『ああ。少し改良を加えたのはこいつだ。あの雑魚ではない』

「もはや強化した対象から違ったというわけか。だが…、蜂がなぜ他のオスがやられた時に出てくるんだ?」

『殺されたのが赤の他人ではないからだ』

 

正影たちがオスに気づいたのか再び臨戦態勢に入っている。

 

「あのオスと繋がりがあるのか?」

『大抵の親は子供が殺されたらキレるはずだ』

「あのアメンボ型のオスが、蜂と親子?」

『正確にはあのアメンボ型のオスの中にいたオスが、蜂と親子だった』

「中に?」

『あの蜂に卵を埋め込まれていたんだ。あの蜂は体の中で自分の分身を作り殻に閉じ込める。あとは針を使って産み付ける』

「寄生型…か」

 

今までにもそういうタイプはいたがただそれだけだった。

他のオスに寄生して共存する。

別に親はいないし、子孫を残したりもしない。

自然発生という形でどこからともなく発生する。

というか、子孫を残そうとするオゥステム自体かなり珍しいのだ。

 

「面白い物を作ったもんだな」

『私たちも予期していたわけじゃないがな。さぁ、これからが仕事だ』

「ああ。楽しませてもらおうか」

 




え~…、私用が一週間延びました。

マジあり得ません。
本当に皆さんには申し訳ないです。
ですがこれからもよろしくです。

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