戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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2話目。
読んでくださった方々には感謝感謝です。



知ってるが知らない世界

正影は寝ている。

いや、倒れているのほうが正しい。

周りにはオゥステムの気配はなく、どこか建物の中だ。

 

「う…」

 

ようやく起きる。

まだ頭が痛いが何が起きたのかはしっかり覚えている。

 

「結…衣、大丈夫か?」

 

周りに向かって声をかけるが返事はない。

 

「ここは、どこだ?」

 

頭の痛さが抜けていきようやく視界もはっきりする。

周りにはそこにいた人たちがいかに急いでいたのかがわかるような光景が広がっている。

所々で倒れた椅子や机、書類はそこらじゅうに散乱しており、死体はないが血痕はある。

電気は通っていないらしく、どこも電気はついていない。

 

「そうだ、指輪!」

 

指輪で状況を確認しようとする、が、できなかった。

大きな衝撃が加えられたのかヒビが入り使い物にはなりそうにない。

とりあえず、外に出て状況を確認することにした。

階段を探すのも面倒なので窓をたたき割る。

埃をかぶって外が見えなかったのが見えるようになる。

昼なのか外は明るく、よく見えた。

周りに見えたのは高層ビルの山。

ほとんどがボロボロになっており、中には倒壊しているものも多数見える。

時間がたっているのか、ちらほらと雑草が生えている。

 

「…ここは?」

 

見覚えがない場所だった。

少なくとも最後の記憶にある地域Aの周辺にはこんな場所はなかった。

あるとすれば日本の首都になるはずだった地域。

首都の名前は大した問題ではなかったので覚えていない。

 

窓から飛び降り地面に降りる。

30mくらいあったのだがロスから見れば大した距離ではない。

しばらく道なりに沿って歩き回る…が全く記憶にない場所だった。

ほとんどが高層ビルに埋め尽くされており、同じ場所を回ってるのではないかと思えてくるほどだ。

ただ、ひとつ変に思うには人の気配が全くないこと。

ビルには大きな穴が開いていたリ、死体まで発見できた。

おそらくオゥステムの襲撃にあったのは間違いないだろう。

だが、こんな都市が襲撃にあったのにロスである自分に報告が上がっていない。

 

「いったいどうなってるんだ…?」

 

わからないことが多すぎる。

しかし、頼みの指輪は壊れてしまっているしそれ以外だと身に着けている服に作り出せる刀しか手持ちにはない。

これで情報を集めろというのは無理があるだろう。

 

「電気でも作り出せればな…」

 

パソコンはそこらじゅうにあった。

インターネットにはつなげなくてもパソコンが起動すれば少しは情報が入る。

だが電気が通っておらず、パソコンは使えそうにない。

と、腹の音が響く。

 

「…腹減ったな」

 

と呟くと、神様の恩恵か目の前にイノシシが現れる。

ロスである正影にとっては敵ではなく、今では食べ物でしかない。

 

「…」

 

刀を作り出し、一瞬で近づき逃げる間も与えずとどめを刺し、食べ物を手に入れた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「…うん、イノシシ肉も悪くはないな」

 

手に入れた肉を丸焼きにして食べる。

火や調味料はそこらのスーパーからかっぱらってきた。

どういうわけか数がかなり減っていたが。

できればスーパーの食べ物を食べたかったがすべてハエがたかるほど腐っていたし、缶詰はひとつ残らずなくなっていた。

このイノシシも焼いたがおそらく生焼の部分もある。

だがそれはアクリス菌や細胞によって強化された体にとってはどうということはない。

いいにおいがそこら中に広がり、食欲がわく。

 

「これなら1頭丸々…、いやそれは無理か。後で干しておくか」

 

誰か返事してくれるんじゃないかと思い呟くが返事は帰ってこない。

まるで自分以外の人類がすべていなくなってしまったかのようだ。

地球滅亡とはこのことを言うのだろう。

 

「…」

 

結衣や妹のことを考える。

結衣はあの後どうなったのか。

自分と同じ状況に陥った場合はおそらく彼女のほうが生存確率は高い。

妹のことを考える。

おそらく帰ってくるといったのに、時間が経っているのだろう。

1日か、はたまた3日目か?

ココアを入れて待ってるはずの妹のことを思うと胸が痛む。

早く帰って安心させねばと思う。

 

(待ってろ…。すぐに帰るからな)

 

と、その時音がした。

何かが動く音だ。

たいていの相手なら素手で十分だがオゥステムとなれば武器が必要になる。

すぐに刀が作り出せるよう、構える。

音がしたほうから何かが現れる。

それは

 

 

 

 

 

人間だった。

 

 

 

「子供…?」

 

年は定かではないが7、8歳くらいだろうか。

ぼろぼろの服を着ていて何日も風呂に入っていないのは明白だ。

 

「…」

 

黙ったまんま、正影を見続ける。

表情を確認するには遠く、感情が分からない。

子供が警戒しながら歩いてきた。

警戒してると言ったのは、顔が見えるようになったとき目が敵対視しているのが明白だったからだ。

でも、子供は近寄ってくる。

まるで磁石にでも吸い寄せられるかのように。

やがて、正影との距離が5mとなりそこで止まった。

何が目的なのか正影にはわからない。

が、人に会えたことはうれしい。

情報を聞き出そうとする。

 

「あの…」

「ぐぅぅぅぅ~~~(腹の音)」

 

子供がなぜ近づいてきたのかわかった。

おなかが鳴ったにもかかわらず、子供は表情を変えず警戒している。

が、目はチラチラとイノシシの肉に行っている。

肉は上げてもいいのだが情報がほしい。

 

「君、このお肉がほしいの?」

「…」

「じゃあ、交換でどう?僕は情報がほしいんだけど。ここについて」

「…」

 

まったく答えない。

ここまでくると言葉が通じていないのか?と怖くなるがここは日本だ(先程スーパーで日本語をたくさん見たし、書類の文字も看板も日本語だった)。

郷に行ったら郷に従えという言葉があるように従ってもらうしかない。

英語ならできないこともないが片言なのであまり使いたくない。

 

「駄目…かな?」

「…」

 

依然黙ったまんま。

それならばこちらにも考えがあるぞ?

 

「そうか、じゃあ残念だけどこれは上げられないね」

 

その言葉にかすかに反応したのが分かった。

日本語が通じるとみて間違いないようだ。

残ったイノシシの肉を持ち上げ移動を開始する。

すると案の定子供もついてきた。

 

「…」

 

黙ったまんまだ。

おなかが減ってるのなら言えばいいのにと思うが今はそんな甘やかしてはいられない。

ちょっと残酷だが目の前で食べることにした。

立ち止まり、焼いた肉を取り出し、味付けをしておいしくいただく(あくまで非常食なのでそこを踏まえておいしいと言っている)。

 

「あ~~、おいしいなぁ!」

「…。ぐぅぅぅ~~(腹の音)」

 

再び腹の音が聞こえる。

だが黙ったまんま。

強情な子供だ。

 

「これなら全部食べれちゃいそうだなぁ…」

「…!そんな…」

「やっとしゃべったね?」

「あっ…」

 

身元が調べられたくないのかやってしまったという顔をしている。

声だけで身元が分かるなんてことはないと思うのだが。

 

「これ、食べたいんでしょ?」

「…(うなずく)」

「なら少しくらい俺の質問に答えてくれよ。俺はこの状況を知りたいんだよ」

「先に…お肉くれたら」

「ほらっ」

 

手に持ったら警戒したが、近づいて取った。

そのまますごいスピードで食べ始める。

 

「もっと…」

「まだ食べるのか。まぁいくらでもくれてやるからまず俺の質問に答えてくれ」

「…分かったわ。話して」

 

食べ物をもらえたからか、腹が多少膨れたからか、少しピリピリした感じが抜けている。

 

「まず、ここはどこだ?」

「ここは…今は『荒廃した人の楽園』と呼ばれてる」

「荒廃した、人の楽園?」

「荒廃は見たまんま、人の楽園はもともとこの場所はこの国の中で最も進んでいて守りも堅い、オゥステムが攻め込んでくるなんてありえない場所だったから」

「攻め込まれた…?」

「知らないわけないでしょ。あなたのその服、古いタイプだけど政府の制服でしょ。それを着ている人が知らないはずなんてない」

 

必死に記憶をたどる。

が、全く記憶にはない。

この子供の言う通り、こんなデカい都市が攻め込まれてロスである自分に何も情報がないなんておかしい。

 

「…今日は?」

「えっ?」

「今日は何日だ?」

「6月、25日だけど」

 

彼が司令に呼び出され、地点Aに行ったのは8月3日。

さっきまで1,2日しか経ってないと思っていたが、この子が言っていることが正しければ10ヵ月は寝ていたことになる。

いくらアクリス細胞によって強化された体とはいえ、そんな長い期間食べ物を少しも食べなければ死んでしまうのは当然だ。

 

「今何年だ?」

「…知らない」

「ふざけたこと言ってると肉は上げないぞ」

「ほ、本当なの!私達は生まれてからずっとここで生活してきたからカレンダーなんて意味を持たなかったし…」

「私達?他にもいるのか?」

「あっ…」

「答えろ。でないとこれは…」

「私一人でこの世界は生き残れない。レアさんと、お友達と一緒に住んでるの」

 

レアさん、おそらく保護者的な存在と見ていいだろう。

それならその人に会うのが情報を手に入れるには一番手っ取り早いはず。

 

「ならその人に会わせろ」

「私達の家までくるっていうの?それはダメ、みんなそう言ってるから」

「ならこの肉の話は無しだな」

「そんな…!話が違うじゃない!」

「子ども相手に俺も胸糞悪いが俺も必死だ。俺はある戦闘で意識を失って気づけば知らない場所。少しでも情報がほしいんだ。何ならそのレアとかいう人をここに連れてくるでも構わない」

「それは、無理。レア先生は忙しいから外に出ている暇はないの」

「ならお前のところの家に案内してもらうしかないな」

「でも…」

「見たところかなり腹が減ってるようだな?」

 

肌には子供なのにつやがほとんどなく、痩せている。

おそらくアクリス細胞が体になければ動くことはできないだろう。

 

「お前が案内してくれればこの肉すべてやる。状況によってはお前らの助けになってやる。お前らの邪魔になるようなことはしない」

「…」

「頼む」

「…とりあえず、近くまで案内する。その後は、みんなの意見を聞くわ。まずついてきてもらえる?」

「分かった。ならさっと行こう」

「その前に…」

 

肉を見る女の子。

よほど腹が減っているのか焼いた肉は袋の中で見えていないはずなのに、生肉を見てよだれを垂らしている。

 

「はいはい。ほら、案内してくれるお礼だ」

 

肉を差し出すと、笑顔で取りに来た。

警戒心は微塵も見えない。

笑顔でおいしそうに食べる。

 

「もう警戒しなくていいのか?」

「してないことも、ないわよ。でもあなたはさっき確かにお肉をくれたし少しは信じられるから」

「安い信頼だな」

「ここにお金っていう概念はないの。物々交換が主流。そしてお肉はとても高級な食材なの。それを形はどうであれくれたなら誰でも少しは信頼するわ」

「そうか、ところでお前名前は?」

「私は穂香《ほのか》っていうよ。お兄さんは?」

「正影だ」

「よろしくね。じゃあ行きましょ」

 

2、3歩、歩いたところで穂香が何か思い出したかのように止まる。

 

「正影さん、さっき言ってたよね?今何年かって」

「言ったな」

「今の年は知らないけど、少なくとも2023年は過ぎてるよ」

「…えっ?」

「ここがこうなっちゃったのは2023年だってレアさん言ってたもん」

 

信じられない言葉に困惑する。

正影が生きていた時代は2020年。

そしてここがオゥステムに攻め込まれたのが2023年。

最低でも3年、寝ていたということになる。

なんの科学技術の助けもなしに。

普通なら不可能だ。

 

「…いったい何が起こってるんだ?」

「正影さーーん!何やってるんですか?早く行きますよ~?」

 

正影は意味が分からないこの世界を穂香の後に続き歩き続けた。




素人作品を読んでくださりありがとうございます。
いろいろ不備があったら申し訳ありません。
これからも読んでくれたらありがたいです。

今舞台は日本ですけどできる限りもともとある地名は避けて通りたいと思うのでそこはよろしくお願いします。

感想等もよろしくです。

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