戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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…2回連続で…、申し訳ないです。
そろそろ2日に1つは辛くなってきたかもしれません。



才能

「あれよ、正影」

「…なんかでかくないか、あいつ?」

 

正影たちが建物の陰から今回の討伐対象である「ブロッグニモヌス」を見ている。

見た目通り行動は遅い。

通ったところに滑った粘液がへばりつく。

 

だが、正影にとってそんなことはどうでもいい。

少し問題なのは目の前の討伐対象がでかいということだ。

30m級なのは間違いないだろう。

 

「そうね…、食べたりなんかしたりして大きくなったんじゃないかしら?」

「あの資料の画像ならそんなに大きくなかったぞ?」

「あれ、半年前の画像だもの」

 

敵を倒しに行く時、最新のできる限り完璧な情報を教えるのが普通だ。

古い情報に意味などない。

だが、今回は討伐しに行くのがロスということもあって仕事が雑になったのだろう。

いくら倒せるからといってもこの扱いはひどい。

 

「いや、そういうわけじゃないわ」

「じゃあなんでだよ?」

「私が古い資料を持ってきただけ」

「エスパーのくせに天然かよ…」

「いや、故意よ」

「(こいつ…!)」

 

言いたいことはいろいろできたが今はやめておくことにした。

目の前の敵に集中する。

 

大きさは30m級と少しめんどくさくなってしまったがやることは変わらない。

あいつをぶっ潰す。

一応不死身ということらしいがそれはあくまでも現状での話だ。

人は不死不老を求めるというが、そればオゥステムも例外ではないようだ。

もっとも、オゥステムに老いるという概念があるのかは不明だが。

 

「とりあえず俺は行ってみていいか?」

「ええ。今回はあなたの力を司令が確認するために依頼した任務だから。あなたが好きなように戦えばいいわ」

「じゃ、行ってくる」

 

正影は跳び出していく。

敵の背後に跳び出したので相手はまだ気づいていない。

とりあえず、近づいて一太刀入れてみる。

 

「ッラァ!」

 

背中から斬りつけた。

予想外なことに、ッ大した力を入れてないのに体の2分の1あたりまで刃が通る。

 

「オォォォォォォォォォォ…」

 

痛いのか叫び声というよりは悲しみが込められた声を張り上げる。

 

ここで1つ問題が発生する。

刃が刺さったまま抜けないのだ。

いや、とてつもなく抜けにくいのだ。

ネバネバの粘液のせいか、刃だけでなく足も動かしにくい。

 

「ぬぎぎぎぎ…!」

 

正影はまだ本気を出していない。

いつでも出せるのだが、できればこれは使いたくない。

後で体がひどく気だるくなり、制限時間いっぱい使えばその後しばらく身体能力も下がるからだ。

もっとも、こんなやつ相手に制限時間いっぱい本気で戦うなんてことはないと思うが、仮にもあいつは不死身と呼ばれている。

えたいが知れないのだ。

 

少しずつ刀が抜けていく中、ブロッグニモヌスの体から触手のようなものが生えはじめる。

 

「邪魔だ」

 

正影は左手で刀を抜きながらそこらへんに生えた触手を千切っては投げを繰り返す。

しかし、数が減らない。

 

「まだ…か!」

 

疑問を持ち始めたところで刀が抜けた。

ぐっちょぐちょの粘液がついていて刀の切れ味が間違いなく落ちている。

いったん離れて刀から粘液を振り払う。

 

『ロストチルドレンの力はそんなもの?』

 

通信機から明季の声がした。

間違いなく嘲笑っている。

 

「まだこれからだ」

『なぜ本気を出さないのかしら?』

「制限解除した後は気だるくなる。できれば使いたくなかったが…」

『使うのかしら?』

「状況が変わった。さっさと終わらせるため、少しは本気を出す」

 

そう言うと正影は刀を握っている手に力を込める。

そして一瞬にして敵に近づく。

敵はそのスピードについていけてない。

 

正影が刀を振り下ろす。

敵は一瞬で真っ二つになる。

しかし、その程度では相手は死なない。

1分もすれば相手は体をくっつけなおしたり、生やしたりしてすぐに立ち上がる。

 

「…ない」

 

コアの所在を確認しようとしたが断面には見当たらない。

正影はそう分かると間髪入れずに斬りつけはじめる。

 

「ない…違う。…ない」

 

斬りつけながらコアさらにいろいろなところを見るが見当たらない。

無心になって探し続けたが発見できなかった。

気づけば相手は細切れになっている。

 

「…エスパー」

『なにかしら?」

「ここから本当に再生するのか?」

『見てれば分かるわ。もっとも、だれもそこまで小さく斬ったことはないけど』

 

ならばこれでもう終わりではないのか?

そう思った正影だった。

が、ここで細切れになったオスに動きが見え始める。

 

「ん?」

 

突如、細切れになっていたオスの一部から新しい細胞が生えはじめた。

 

「!?」

 

すぐにその場を離れる。

瞬く間に細胞が大きくなっていく。

膨張する風船のごとく丸く膨らんでいく。

そこで正影が見た。

 

「あれは!?」

 

キラッと輝く水晶のような玉。

しかし、確認した直後敵の形が変わっていく。

それと同時に水晶が埋もれていった。

やがてその形は最初のブロッグニモヌスになる。

 

「…不死身、か」

 

確かに相手は再び甦った。

目の前には先ほど細切れにしたはずのオスがいる。

だが…

 

「違ったな」

 

正影が再び刀を構える。

 

「穂香、聞こえるか?」

『はい、パパ。どうしたの?』

 

通信機、マジで便利だ。

 

「さっきの俺の戦い見てたな?」

『うん、凄かったよ』

「今からもう一度同じことをする。そうしたらあいつはまた同じく再生するはずだ。その時におそらくコアが見えるはず。スナイパーで狙え」

『分かった』

「チャンスは何度でもある。緊張せずにやれよ」

 

正影が手に力をこめる。

 

「帰りはグロッキーしそうだな」

 

つぶやいた後、すぐに相手に近づく。

横に剣を滑らせる。

少し斬りにくくなっていたので、考えたのかと思ったが本気を出している正影の前では意味を成さない。

相手の体が上と下で真っ二つになる。

 

「次だ」

 

今度は上から斬りかかる。

相手に正影はほとんど見えておらず、今何が起きているのか分からない状況だろう。

 

しかし、相手も黙ってはいない。

上から斬りつけた直後、震え始めた。

少しは危ないと思う正影だったが、後のグロッキー状態を考えるとそっちのほうが面倒だ。

問答無用で斬り続ける。

 

正影がもう4、5回、斬りつけたあたりでブロッグニモヌスの攻撃が始まった。

ぶつ切りになった部分も含めてねちょねちょの粘液が凄い勢いで跳んできたのだ。

攻撃というより一時的な足止めにしかならないだろう。

 

あまりの数の多さに正影もそれに被弾する。

 

「ぐっ!」

 

そのまま跳んでいき、建物の壁に貼り付け状態になる。

ここでプロトならば他の仲間の助けが必要となる。

だが、正影はロスだ。

 

「グヌヌ…あ、ああああぁぁぁぁァ!」

 

粘液の拘束から腕力だけで逃れる。

明らかに不機嫌になっているのが分かる。

無駄に本気を出してしまったからだろう。

 

「死ねよ」

 

ブロッグニモヌスもこんなに早く拘束を解けると思っていなかったのかただ黙ってみているだけ。

そこに最後の一撃を正影が加える。

 

敵のぶつ切りがぐちょっと、音をたてながら地面に落ちてくる。

そのまま敵は動かなくなる。

 

「穂香、準備しろ」

『いつでもいいよ』

 

正影も緊張の手を緩めず、構える。

 

断片の1つが再び膨張を始める。

瞬く間に膨らんでいく。

 

「(…さっきは上のほうにあったな)」

 

建物をつたい上のほうで待機する。

 

「さっさとしろよ…デカ物」

 

長い間、本気を出し続ければその分後で来る反動が強くなる。

ロスの本気を出すというのは例えるならペットボトルの中の水を飲むことだ。

中の飲み水はロスの本気を出す燃料だ。

ペットボトルの中の水を飲むにはキャップを開けて口に含めばいい。

そして飲み終えたらキャップを閉める。

だが、ロスのペットボトルは常に下を向いている。

つまり開けたら永遠に中から水が流れ出るのだ。

正影も待ってる間キャップを閉めればいいのだが、正影はこのキャップを閉めるという行動も面倒くさいと思っていて一回開けたら飲み終わるまで閉めたくないのだ。

 

「…そろそろか?」

 

肉塊が大きくなり、膨張を止めた。

この一瞬しか、どういうわけか分からないがコアが確認できない。

同じ場所に再び顔を出してくれればいいが…

 

「…チッ!」

 

そううまくはいかなかった。

キラッと光った部分は下のほうに見えた。

知能があるのか、或いはランダムなのかは分からないがこれでは面倒にもほどがある。

 

下のほうに跳んだがすでにほとんどが埋まりかけ。

すぐに間に合わないと判断した正影はすぐに再び切り倒す準備をする。

 

「穂香、今のは確『バン!』!?」

 

通信機から銃声がした。

正影は銃など使うことは滅多にないのでなれない音が耳元でなったため、顔をしかめた。

そしてすぐに下のほうでペキン…と音が鳴る。

気づけば音をたてながら形を整えていたオスの動きが止まっている。

 

「…」

 

コアに銃弾が当たっていた。

 

「…大したやつだな、穂香」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、これで任務完了です」

「ああ…」

 

無事任務を終え、帰還するためのヘリを待っている。

 

「やけにテンション低いですね?」

「本気出しすぎた…かなり疲れたし気分悪い」

 

最後の最後まで本気を出せば意識を失うとかしてこういう気分の悪さは出ないのだが、中途半端に使うとこうなる。

別になんでもない風にできないこともないがだるいときはだるい。

無理にやせ我慢するのは初対面の奴の前だけでいい。

 

「ロスも大変ですね」

「パパ、大丈夫?」

「大丈夫…だ。死ぬわけじゃない」

 

と、穂香と話してて気づいた。

嬉々がいない。

 

「嬉々はどうした?」

「あれ」

 

指を指したほうを見ると嬉々が縮こまっていた。

よく見るとなんか濡れた感じだ。

 

「さっきの跳んできた粘液が見事に当たっておニューの服が台無しだって」

「…あの距離の粘液が当たったのか」

 

300mは離れてたはずだ。

災難だなと思うが正影にはどうしようもない。

 

「はい。はい。…では」

 

明季が報告を終え、正影たちのほうに向きなおる。

 

「正影、お疲れ様。今、ヘリが向かってるんだけど…穂香」

「なに?」

「司令があなたの射的の腕を褒めてたわ。もちろん私も同意見」

「パパは?」

「凄かった、としか言いようがないな。あの小さな的をよく当てたな」

「えへへ…」

 

穂香が照れる。

穂香にとって司令や明季が褒めてくれたことも少しは嬉しかったが、何よりも嬉しいのは正影が褒めてくれたことだ。

 

「しかし、俺は上の方で待機していたし俺はお前にどこを狙えとも言ってなかったのにどうしてコアの場所が分かった?」

「私の役目はパパを手助けすること。パパの手が回らない部分を狙えば役目を達成されると思ったの」

「…今日のMVPは穂香だな」

「M…なに?」

「MVP。最も活躍した人ってことだ」

 

それを聞いて嬉しかったのか喜ぶ。

今回は確かにほとんど穂香のおかげといっても過言ではないだろう。

 

「…穂香は体の身体能力を上げるよりも射的の腕をより一層鍛えた方がいいかもね」

「そんな部隊でもあるのか?」

「いえ、後方支援を主にする立場になったらどうって話よ。プロトになっても建物をよじ登るとかは辛いだろうからそれくらいは訓練させるけど、後はすべて射撃の腕を鍛えるのにまわせばさらにすごくなるわ」

 

正影としてそちらのほうが穂香の危険も減るから有りがたい。

 

「俺としては賛成だが…」

「穂香は?」

「…それはパパの役に立てる?」

「もちろんだ」

「なら…、私そうする!」

「決まりね。後でする訓練のプラン変更しておかないと」

 

ちょうど話が終わったところでヘリの音がした。

 

「さっ、帰るか。嬉々、いつまでそうしてるんだ?」

「これ、洗濯しても絶対落ちないよ…。はぁ…」

「ならここに残るか?」

「正兄ぃ…、少しは慰めてよぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

討伐対象「ブロッグニモヌス」

作戦参加者 5人

帰還者 5人

 

作戦成功




読んでくれてる方々どうもです。
前書きでも書きましたがこれからは少しずつ更新が遅くなっていくかもしれません。

4月からいつかはこうなるのではないかと思っていました。
それでも更新は終わるまで続けるのでこれからもよろしくです。

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