戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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こんな作品にありがたい話です。

楽しんでってください。


大切な繋がり

「呼び出し?」

「ああ。司令が呼び出してきたそうだ」

 

正影は穂香とふかふかの絨毯の上を歩いている。

この赤い絨毯とても高く見え、汚れた靴で歩いていた自分を考えると身が縮まる思いだ。

会話の内容からわかる通り、今司令のところに向かっている。

 

「休みを3日間もらったんじゃないの?」

「そのはずなんだが…、まぁ昨日休めたし俺としては文句はない」

 

もし仕事がもらえるなら早くほしいしな、と思う。

ここにきて分かったことだが、ここは何かと金を使う。

以前も使っていた分には使ったが、生活にかかわる最低限のことは全部タダだったのでそこが予想外だった。

今回は穂香のことも考えると、いろいろかかりそうなので仕事について早く教えてほしい。

だが、そんなことならわざわざ早く呼ぶことはないだろう。

嫌な予感を感じながら正影は部屋の前に着く。

 

相変わらず大きな扉。

無駄な経費がかかっているんだろうな、と思いながらノックをする。

 

「入れ」

 

返事があったので扉を開け、中に入る。

1人、ラグフィートが部屋にいた。

 

「ご用件は?」

「…3日間の休みについては文句なしか?」

「こちらもいろいろお願いしたいことがあったので」

「その件はどうなるかわからないが、では話を進める」

 

机の上にあるパソコンをラグフィートが操作する。

 

「これを見てくれ」

 

映し出されたのは見るも無残な建物の光景。

穂香たちがいたところとは全然違い、本当に倒壊している。

 

「これは?」

「これをやったオスがこいつだ」

 

1つの画像が出される。

監視カメラでとられたであろう映像は少しぶれているが、何かを確認するには十分だった。

移っているのは人の形をした何か。

体は全部光っていて目も顔も口も髪も何にもない。

 

「こいつについて知ってることは?」

「…俺が目覚めた町はこいつにやられたと聞いた」

「距離からしてラフネシムだな。あそこは一番最初にこいつが現れた場所だからな」

「こいつの名称は?」

「裏切者《プロディター》だ。言っておくがこいつについて分かっていることは少ない」

 

「残念ながらな」と付け加えながら机の上をあさる。

 

「こいつについて私から言いたいことは1つ。絶対に関わるな。見つけても戦いに行ってはならん。そしてできる限り見つかるな」

「そこまで強いんですか?」

「お前とやりあえばおそらく互角といったところだ。だが、私は勝ち負けを考えて言っているのではない」

「というと?」

「…悪いがそれは教えられん。今はな、っとあったあった」

 

探し物を見つけたのか、一枚の紙を手に取る。

紙には仕事について書かれていた。

 

「お前、一文無しだろう。仕事について私は説明するのは面倒くさい。だからそれを見ろ」

「行動が早いな」

「お前、さっきから敬語を使わず…。私は上司だぞ?」

「俺は尊敬した相手にしか敬語は使わない。使ってほしければ伊島《いしま》さんみたいになれ」

 

何か言いたげだったがラグフィートはそれを言うのをやめ、ため息をつく。

 

「…とりあえず、話は以上だ。もう下がっていい」

「いや、俺にはあるんだが」

「ものを頼むならその時くらいは敬語を使え。相手の機嫌をとることも覚えろ」

「ここに来る前、1つ集落を見つけた」

 

相手の話は無視して、自分の話を進める。

 

「そこの人たちを救出してほしい」

「…それをした場合のメリットは?」

「プロトが1人増える」

「…それだけか」

 

興味をなくし、正影から目を離す。

自分の仕事であろう書類の山に目を通し始めた。

 

「悪いがそんなことに駆り出せる人材はない」

「そんなことって!あそこの人はみんないい人なんだよ!?」

「穂香、そいつらは私の戦力になるのか?」

「…なんですって?」

「私はこのアルツェに何かしらの恩恵を与えてくれるというのならそこに救護部隊でも討伐部隊向かわせよう。だが、そこに行って後に見えるのはデメリットだ。プロトを踏まえても人が増えるというデメリットが多すぎる」

「あなた…それでも司令官なの!?」

「穂香、よせ!」

 

穂香が手を上げようとしたので正影が抑える。

今はタダの子供と何ら変わらないので簡単だ。

 

「パパ!」

「分かってる、けど暴力はだめだ。だが司令、俺も納得いかないぞ」

「そんなの知ったことか。食料が減り、場所も取られる。それで受け入れるなんて無理だ。今はそんな余裕はない」

「…よくそんなんでここの司令を任されたな」

「何とでも言え。だが、もう時間だ。青羽!」

 

扉が開き、パタパタとあわただしく入ってくる1人の人。

 

「は、はい!」

「扉の前で待たなくてもいいと言ったはずだが?」

「で、ですが話のお邪魔になるかと思いまして…」

「まぁいい。その2人を前言ったところに連れていけ」

「分かりました。行きますよ、2人とも」

「話が終わっていない」

 

もちろん2人はそんなの納得するはずない。

メリットデメリットで切り捨てられるなんて御免だ。

 

「それについても話しますから」

「お前に話したって意味はない。権限はこいつが持ってるんだからな」

「…」

 

ため息をつく青羽。

懐から銃を取り出した。

 

「「!」」

「言うことを聞いてください。でなければ研究機関に差し出します」

「お前は俺がロスだということは知ってるんだな?」

「当然です。ですがあなたでもここまで近い銃弾は避けられない」

「やってみるか?」

「私は構いませんが」

 

緊迫した空気が漂う。

穂香もすっかりおびえてしまった。

10秒ほど睨み合った後、正影が折れた。

 

「…また来るからな」

「直談判など意味を成さん。好きにしろ」

 

正影はそれを言うとその部屋を出た。

それと同時に一緒に出た青羽も緊張の糸を解く。

 

「はぁ…、悪かったね。でもああしないと君たちは動いてくれないんじゃないかと思って」

「そうだな。動かなかったかもしれん」

「それじゃ困るんだよ。私はこれから君たちに選ばせなくちゃいけないんだから」

「何をだ?」

「…生きるか死ぬか、かな。大げさに言えば。とりあえずついてきて」

 

絨毯の上を歩き進む。

裏道を通っているのか、再び景色が豪華なものから床が網目状の鉄でできたものに変わり、周りにはパイプが見える。

 

「…説明の前に1つ。司令を許してくれないかな」

「あんなこと言われて許すなんてできるわけないでしょ!」

「穂香…だったね?君の言いたいことは分かる。でも司令だってつらいんだ」

「話した感じからすればそうは見えなかったが?」

「…司令が助けに行かない本当の理由、君は分かってるんじゃないか?」

 

正影は話を振られて黙る。

確かになんとなく予想はできていた。

 

「ペリコラム、ようはオスが大量発生する危険地帯を通らなくちゃいけなくなるからね。もちろんそこの人の命も大切だけど、ここのプロトがどうでもいいってわけじゃない」

「だが、あれは言いすぎだ」

「ああやって突き離さないとペースを持っていかれちゃうんだよ、司令は。司令自身が一番わかっている。だからああいう言い方になってしまう」

 

やがて1つの扉の前についた。

ここはカード認証らしく隣にカードを読み取るであろう装置が付いている。

カードを読み込ませるとロックが解除し、扉が開く。

 

「まぁ、その話はここまでにして…。君たちにはさっきも言った通り選択してもらう」

「どんな?」

「正影、君の場合は仲介者《メディアトール》を、穂香の場合はプロトになるか一般人になるか」

「プロトになる!」

「…もっと悩むべきじゃないかな?」

 

穂香の早い決断。

 

「君はプロトがどんだけ過酷な仕事を強いられているのか分かっているのかい?」

「そんなの私が知るわけないよ」

「…プロトっていうのは―――」

「でもそんなの関係ない」

 

穂香は青羽の説明を聞く前にそれを打ち切る。

 

「パパが戦ってる。なのに私が戦わないで見てるだけなんて嫌」

「…こちらとしては嬉しいけど、後で文句言わないでよ?」

「むしろ私を省いたら文句言うよ」

「分かった。じゃあ穂香、君はそこの人について行って。そこで始まるから」

 

穂香が部屋を移動する。

 

「じゃ正影、君の番だ」

 

近くにあった液晶画面に人の顔がいくつも映し出される。

 

「これは?」

「君はタイプAだったね?今から調べる予定だけどその間にこの中から相手を選んでおいてほしいんだ」

「…だがこれじゃ顔で選ぶのと何ら変わらないじゃないか?」

「そんなもんだよ。力に差があるのは精鋭部隊と普通のプロトがそろった時だけ。そこに移ってるのは全員普通のプロトだから大差はないよ」

「こいつらはこれでいいのか?Aはともかく、BはAが死んだら一緒に死ぬんだろ?」

「君はロスでしょ?選ばれて嫌がる人なんていないよ。ものによってはBの人が拒否することもできるしね」

 

どういう原理でつながるのかは分からない。

だが、Bにとっては悩むところだろう。

強くなれる代わりに、殺させてはいけない人が増える。

 

「そうか」

「じゃ、血液検査するから腕出してくれる?」

「ああ」

 

腕を出す。

すぐに注射が刺さりちょっとした痛みがした。

 

「青羽といったな?」

「なに?」

「これを見せてもらってすぐで悪いんだが…実はもう決まっている。メディアトールは」

「…穂香だね?」

「ああ」

 

正影は約束していた。

レアと穂香を守るという。

はっきりとそういったわけではない。

だが、今の彼は少なくともそう取っている。

 

「彼女もプロトになる意思があるようだから構わないけど…、訓練すらしていない以上あまり最初は強さは望めないよ?」

「かまわない。俺はロスだ。俺は自分が強くなりたいわけじゃない。あの子を守りたい」

「かっこいいね~。嬉々が君に惚れている理由がわかるよ」

「嬉々を知っているのか?」

「面白い子だからね、私的には。それに、あの前向きな笑顔は力をくれるよ」

 

いつ死ぬかわからないこの時代。

笑顔が力をくれるとはよほどのことだ。

家族でも、小さい子供でもないのにそんな立場に立てる。

 

「さて、これで終わり」

 

採血が終わり注射が抜かれる。

 

「穂香を少し待っててあげてよ。終わり次第すぐにメディアトールにしてあげるから」

「そんな急ぐことか?」

「君がロスだということはおそらく広まってるよ。そんな人がまだ1人身なんて聞かれたらどうなると思う?」

 

間違いなく、他の奴がお願いに来るだろう。

しかもさっき見た感じだとかなり数が多い。

 

青羽が血を機械に注入し、調べ物をし始める。

 

「メディアトールは1人が限度なのか?」

「大抵はね。まれに2,3人いける人がいるよ。ただ、普通はAの体が耐え切れず出血死するね」

「そうか。ならこと「パパぁ!」」

 

穂香が戻ってきた。

めっちゃ泣いている。

 

「どうした?」

「注射、5回も打たれたぁ!」

「両腕、両足、背中。5回必要だからね。むしろかなり楽になったと感謝してもいいんだけどなぁ」

「地獄の痛みだったよ!」

「昔は細胞の強化は薬を直接埋め込むから手術しなくちゃいけなかったし、25%の確率で死んでたんだけど?」

「ほら、よしよし」

 

とりあえず背中を撫でてあげる。

ようやく泣き止んできた。

 

調べるのが終わったのか機械から長い紙が出てくる。

その結果を見て青羽は満足そうな顔をした。

 

「じゃ、次はメディアトールとして繋げたいんだけど…どのコースがいい?」

「コースがあるのか?」

 

そう言って思い出した。

レアのメモ帳にはいろいろ書かれていた。

 

「痛くないのがいい!」

「となると…こんな感じ?」

 

1薬品を使用した後性交。

2なし

 

「これだけか?」

「痛くないのはこれだけだね。だって普段の生活では切れることがない繋がりだよ?キスや血を交換したくらいじゃ無理だよ」

「パパ、私痛くないなら構わないよ?」

「俺がだめだ。娘相手にそんなことする親がどこにいる?」

 

青羽が「養子だよね?」と聞いてくるがそこは無視。

養子だから、血がつながってないからとかそういう問題じゃない。

 

「一番主流なのは細胞の交換だよ」

「どのくらい痛いんだ?」

「寝てる間にやるから実際は痛くない。ただ明日までぐっすり寝てもらうけど」

 

穂香を見ると頷いている。

痛くなければなんでもいいようだ。

 

「じゃあそれで頼む」

「分かった。じゃこっちの部屋に入って台に寝てもらえる?」

 

部屋に入るとある2つの台。

周りにはほかに何も見当たらない。

ほのかに配慮しているのだろうか。

 

「じゃあこれ飲んでもらうけどその前に1つ」

「?」

「目覚めたらおそらく明日。そして君たちは君たちの部屋のベッドに寝てると思う。11時にむかえがいくからそれまで部屋からは出ないでね?」

「何の用でくるんだ?」

「司令が働いてもらうだってさ。おそらく何かの討伐任務だと思うよ」

「分かった」

 

渡された錠剤をのむ。

麻酔は注射や点滴が主流だったのではと思う。

 

「それじゃ、おや―――」

 

最後まで聞き取ることなく意識が落ちた。




いよいよ、次は戦闘が書ける…と思います。
いえ、その予定ですよ?
ただ何かしらの不測の事態はあり得るかもしれないので一応。


これからもよろしくでーす!
あと、感想やアドバイス等も待ってまーす!


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